注意:百合カップリング小説ではありません!男オリ主が出てくるノンケ小説です!
↑以上が地雷の方は絶対に見ないでください
「ねえ」
「ん?」
「会って話したいことがあるんだけど」
そよからそんなメッセージが届いたのが昨夜。
その簡潔すぎる文面は、どこか不穏さを感じさせる。
真意を確かめようとギャグっぽいスタンプを送ってみたが、ものの見事に既読スルーされてしまった。
そよとはもう長い付き合いになる。俺は既に察していた。
あ、これ怒ってるやつだ、と。
俺ー九条ハルは、どこにでもいる高校生の男。
学校も終わり家に帰るだけの俺は今、カフェで1人座りながら人を待っていた。
時計の針は4を指している。そろそろ待ち合わせの時間だ。
落ち着かない気持ちを誤魔化すように、先に注文しておいたアールグレイに口をつける。
ここのカフェは紅茶が有名ということもあって、いつ飲んでも香り高くて美味しい。
ただ、今日ばかりはいつもより味を感じなかった。
俺の頭を占めるのは昨夜そよから送られてきたメッセージ。会って話したいとのことだが、その話したい内容というのは分かっていない。唯一確かなのは、どうやらそよは怒ってるらしいということ。
より詳しい内容を知りたい、と電話をかけてみたものの応答はなし。
待ち合わせ場所としてここのカフェが指定されたっきりだ。
そよが来るまでの間、俺は必死になってそよの怒りの原因を考えてみる。なにか怒らせることをしてしまっただろうか?だが、まるで思い当たる節がない。
しばらく頭を悩ませていると、カフェのドアが開く音が聞こえた。
ドアの方に目をやると、そこに立っていたのは1人の女の子だった。
ブラウンのロングヘアーに垂れ目がちな薄青い目。近くにある有名なお嬢様学校の月ノ森女子学園のセーラー服に身を包んでいる。
俺の待ち合わせ相手であり、
そよは店内を見渡して俺の姿を見つけると、むすっとした表情で近づいて来る。
……やっぱり怒ってるよ。
俺の座るテーブルに着くと、そよはカバンを下ろし対面の席に座った。
「お待たせ」
「今来たとこだから」
「……」
「この前のライブ、すげー良かったよ」
「そう」
よそ行きのお嬢様らしい高い声とは違う、低い声で一言だけポツリと呟く。
この空気をなんとかしようと、つい一昨日あったMyGO!!!!!のライブの話題を出してみるも、効果はなかった。
いつもはMyGO!!!!!の話になると、嬉しそうに色々話してくれるのに。
そよは怒ったような、それでいて思い詰めたような表情で黙りこくっている。
場には重たい沈黙が流れた。
このままでは埒が明かない。
こうなれば俺から本題を切り出すしかないか。
「それで、話って?」
「……」
それに対する返答は、言葉ではなかった。
そよはスマホを取り出して無言で画面を見せてきた。そこには2人の男女がカフェで楽しげに談笑している様子を切り取った写真が表示されている。背景からして、RiNGに併設されたカフェにいたところを撮られたんだろう。
その写真を見て、思わず目を見開いた。
なにを隠そう、そこに写っている男の方は俺だったのだから。
「これ、ハルくんだよね。隣にいる子、誰?」
外面を意識した高い声でも、素の落ち着いた穏やかな声でもない。
怒っているような、それでいてどこか悲しげな声で、意を決したように問いかけてきた。
俺はこのとき、ようやく全てを察した。
そよはどうやら致命的な勘違いをしてるらしい、と。
「浮気なんて……ひどいよ」
俯いて、噛み締めるように呟く。
まさか、そよの話したいことが俺の浮気のことだったなんて。
思い詰めたような表情を浮かべるそよを前にして、やましいことなんてないはずなのに、思わず口ごもってしまう。
「いや、それは……「ねえ、どうして?私のこと、もう飽きちゃったの?」」
「へ?」
「最近あんまり会ってくれなかったよね。電話だって私からかけてばっかりで」
「ごめん。俺もライブが近かったから忙しくて」
とにかく、まずは誤解を解かなければ。
弁明のために口を開こうとする俺を遮るようにして、顔を上げ言葉を重ねた。
そよは俺の浮気を疑ってる。
さらに、その原因は自分のことに飽きてしまったからだ、とさらに勘違いを加速させる。
訂正するのも忘れて、俺は思わず呆気にとられてしまった。
そよの目に浮かぶ涙を見て、情けなく言い訳じみた言葉を漏らす。
「言い訳なんて聞きたくない!」
そよはカフェ中に響く声を上げ、勢いよく立ち上がった。
周りの客や店員からの視線が痛いほど刺さる。
「待ってくれ」
「私がつらいとき、ハルくんはいつもそばにいてくれた。この人ならどんな私でも認めてくれる、捨てたりしないって思ってたのに」
「……そよ」
「お願い……捨てないで」
とうとう涙が溢れ、頬を伝う。
もう周りの声は聞こえなくなってるのか、俺が静止する声も届かずに、そよは俺への想いを爆発させる。
縋りつくように。
必死になって。
ああ、もう限界だ。勘違いで、これ以上そよを悲しませたくない。
俺はひときわ大きな声で呼び止めた。
「そよ、話を聞いてくれ!」
ようやく声が届いたのか、そよは口をつぐんで静かに俺の目を見つめる。
俺は件の写真の真相を口にした。
「その女の子は俺のいとこの子なんだ」
「それで、こっちに遊びに来てたいとこの子をRiNGへ案内してただけ、ってこと?」
「ああ。俺がバンドやってるって言ったら、ライブハウスに行ってみたいって頼まれたんだ」
「……それなら」
「そよを捨てて浮気なんてするわけない」
「……」
修羅場から一転。
そよは席に座って、気の抜けたような表情で話を聞いていた。
俺たちの間には気まずい雰囲気が漂う。
そう、あの写真の相手は俺のいとこ。あの日たまたまこっちに遊びに来ていて、暇してた俺がその相手を押し付けられたのが真相だった。
重たい沈黙が支配する中、そよはポツリと呟く。
「ごめんなさい。勝手に疑って、ハルくんの言うことも聞かずに決めつけて」
「いや、いいんだ。誤解が解けてよかったよ」
「ううん。彼女失格だよね、私」
写真に関する誤解は解け、万事解決。
そよの顔も晴れるかと思いきや、その顔は再び曇っていた。
落ちつかない様子で爪を弄る。
おそらく責めているんだろう。俺のことを信じられなかった自分自身を。
この状態のそよを放置していたら、またひとりで病んでしまう。
俺はそよの両手を優しく握り、宥めるようにして声をかけた。
「こっちこそごめん。寂しい思いさせたよな」
「……うん、寂しかった」
「ライブ終わってだいぶ余裕できたし、これからはもっと一緒にいよう」
「うん」
そよは俺の言葉を静かに受け止めてくれた。
曇っていた表情が多少は和らいだ。目から涙は消え、代わりにのぼせたような熱っぽさが浮かんでいる。
頬はうっすら赤みを帯びている。
俺たちは少しの間見つめ合っていた。
「ずっと一緒にいようね」
「ああ」
念押しするようにして呟く。
そよは両親が離婚した経験から、人から嫌われることを異常に恐れるようになってしまった。その根底にあるのは、捨てられたくないという気持ち。
だからこそ、その「ずっと」という言葉には、その場の盛り上がりだけではない、文字通りの本気の想いが込められていた。
惚れた弱みだろうか。
そよのそんな一面も、可愛いと思ってしまう。
俺は素直に頷いた。
◇◇◇
「ねえ、そよりん」
「そよりんはやめてって言ってるよね」
「え~。可愛いし、いいじゃん」
「はぁ……それで、どうしたの?」
「あの写真のこと、どうだったのかなって。そよりん、九条くんが浮気してるって疑ってたし」
「あれは……」
「あれは?」
「私の勘違い。相手の子はハルくんのいとこなんだって」
「……プッ」
「喧嘩売ってるの?」
「わー!ごめんって!でもよかったじゃん。そよりん、めっちゃ心配そうにしてたし」
「ハイハイ、そうだね」
「ほんと、そよりんって九条くんのこと好きだよね」
「愛音ちゃん、うるさい」
「照れないでいいのに」
「照れてない!」