NTR嫌いの私だけど、前々からNTR系作品で抱く疑問を形にした作品
これをNTRと思うかは知らんけど、こういう主人公が居ても良いんじゃねという話
個人的には、これってNTRなのか……というアレ


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なんか知らない間に、僕が悲劇の人になっている……?

 

 

 ──あれ、僕ってば転生してない? 

 

 

 

 己に前世の記憶がある事を知ったのは、4歳の春。

 

 と、同時に、これまで認識していても理解しきれていなかった事がフワッと理解できた。

 

 自宅は世間一般から見れば、ありふれた村の一角にあって、そこで両親と一緒に暮らしている。

 

 

 父は、ほとんど声を荒げる姿を見たことがない、優しい人だ。

 

 少なくとも、それが危険だと分からず近付いてしまい、叱られた時ぐらい。

 

 口数も、けして多い人ではない。しかし、その一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)には確かに家族に対する深い愛情がこもっていて、僕は好きだ。

 

 

 母は、恰幅が良く声が遠くまで届く、元気な人。

 

 前世に比べて比較的美形の割合が多いこの世界の基準だと、けして良い方の顔立ちではないし、おしとやか……という言葉とは遠い位置にいる人でもある。

 

 けれども、その言葉にはいつも確かな愛情が込められていて、口では文句を言いつつも、父に負けず劣らず家族を愛し、己の成長を見守ってくれている。

 

 

 僕は、父にも負けないぐらい、母が好きだ。

 

 

 そして、そんな二人の間に生まれた僕は……自分で言うのもなんだが、けっこうな美形に生まれたのかもしれない。

 

 なんというか、二人の顔のパーツが奇跡的に良い具合に収まってくれて、美形に見える……というやつだろうか。

 

 一見すると両親とも似ていないように見えるが、注意深く観察すると、僕の顔立ちは良心からそれぞれ受け継いでいるのがよく分かった。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 話を戻すが、そんな僕の頭に前世の記憶がニョキニョキと生えてきたのは、4歳の春。

 

 ベッドに入ってすぐに、ウトウトし始めていた……そんな時であった。

 

 その瞬間の感覚は……こう、月並みな言い方だが、頭の中でぼかんと爆発したかのような、そんな感覚だった。

 

 幸運なことに、痛みも苦しみもなかった。

 

 ただ、パーッと、意識が広がり、視界が広がり、ものすごい勢いで知識が内から、そのまた内から湧いてくるのを、止めることもできなかった。

 

 

『──あ、ファンタジー的な世界に転生したのか』

 

 

 そして、すぐに僕は、今の僕になった。

 

 だが、勘違いをしてはいけない。それまでの、4歳の僕が消えたわけではない。

 

 タメになる映画(具体的には、前世の記憶)を見て、一つ賢くなった……その程度の感覚でしかなかった。

 

 そう、ただ、少しばかり物事を深く考えられるようになっただけであり、自分の事ではあるけれども、所詮は他人の記憶でもあった。

 

 少しは変わったかもしれないが、別にいきなり前世の分だけ精神的に年月を経たわけではない。

 

 なので、母に甘えることが恥ずかしいとも思わないし、父親に肩車してもらうのは本当に嬉しいし、結局のところ、ただそれだけでしか……ああ、いや、違うか。

 

 己が転生した事を思い出したことによって、いくつか得した事というか、ニョキニョキっと生えてきた能力がある。

 

 その内の一つが、『魔法』や『スキル』に関することへの理解が深まり、習得しやすくなった……つまり、『魔法&スキル習得率UP』といった感じのアレだ。

 

 転生したこの世界には、前世では『魔法』や『スキル』と称された不思議な現象というか、そういうモノがあった。

 

 そして、前世の記憶を思い出すまで、僕は魔法やスキルというモノをよく分かっていなかった。

 

 どうしてかって、この世界では魔法やスキルを使える者はちゃんといたけど、その割合は少なく。

 

 それらの存在は知っていても、実際に魔法やスキルを見た者はそう多くはなく、知り合いにそれらが使えるという者はもっと少なく。

 

 城や貴族の屋敷がある都市部ならともかく、僕が暮らしている辺境の村などでは、一度もそれらを目撃した事がないというのが当たり前なぐらいに、珍しい存在であった。

 

 

 ……だが、実際は違う。

 

 

 本当は珍しくなど、ないのだ。ただ、扱い方や鍛え方が分からないから、珍しく見えるだけ。

 

 例えるなら、ウホウホやっている原始人の前に車を置いて、それを『車』だと理解できるかどうか……という話である。

 

 僕とて、『前世の記憶』が無かったら、まったく気付けなかった事だ。

 

 記憶だけで……と思うだろうが、バカにしてはいけない。

 

 たった一つの冴えた閃き、それまでとは異なる考え方一つ、それで長年停滞していた問題が動き出す……というのは、別に珍しいことではない。

 

 だからこそ、なのだろう。

 

 そもそもの二つからそうだけど、それらを行使するために必要な燃料……人々の内より湧き出す『力』の鍛え方が分かっていなかった。

 

 いや、それも少し違うな。

 

 正確には、『魔法』や『スキル』というモノがあるこの世界でも、それらの鍛え方というか、成長のさせ方というか、そういう考えが根本から無かった。

 

 なんでかって、どちらも『血統』とか、『生まれ持っての資質』とか、『神の祝福』だとか、『精霊の加護』だとか、そういうモノだと常識になっていたからだ。

 

 これはもう、良いとか悪いとか、そんな話じゃない。

 

 もう、そういうモノなのだと受け入れるしかないぐらいに、それがこの世界における二つの全てであった。

 

 ──で、そんな世界だからこそ、だ。

 

 唐突に出てきた『前世の記憶』は、僕にとっては金貨何百枚、何千枚、それでも足りないぐらいの価値であった。

 

 

 

 

 

 ……さて、そんな感じで、考え事をしている間にぐっすり寝入ってしまい、翌日の朝。

 

 

 前世の記憶が湧いて出た僕は、さっそくコツコツと……まあ、いきなり自転車を乗りこなせないように、いきなり魔法やスキルが生えてくるわけではない。

 

 特に、魔法の方は、極めれば無敵だ。文字通り、叶わないモノは何も無い……というレベルにまで至ることが可能である。

 

 夢が広がる……とにかく、コツコツと、だ。

 

 何回も転んで乗り方を身体に覚えさせるように、僕は筋トレ(正確には魔法トレ? スキルトレ?)を……いや、身体も大事だけど、とにかく始めた。

 

 傍目から見れば、ボケーッと立っているように見えるが、実際は違う。

 

 これもまあイメージ的というか、自分自身上手く説明できないことだが、とにかく、積み重ねが大事なので、頑張る事にした。

 

 

「お~い、手伝ってくれ」

「あい、あい」

 

 

 もちろん、4歳とはいえファンタジー世界。

 

 重い鍬を使っての作業はさすがに無理(鍬に引っ張られてこける)だが、畑に散らばっている小石や雑草などを除去するといった仕事は僕の仕事。

 

 

「お、今日はヤル気十分だな」

「あいあい」

 

 

 以前までの僕ならば、ちょっとばかり嫌だな~なんて雰囲気を醸し出していたが、今日からは違う。

 

 何故ならば、前世の記憶が生えた事で、僕はあらゆる経験値を別の経験値に置き換えるという、反則的な能力を得たのだ。

 

 分かりやすく言うと、草むしりを10分やって1ポイントの草むしり経験値を得るところを、その1ポイントを魔法習得へと変換するようなもの……え、それだと永遠に草むしり上手くならないのではって? 

 

 

 要は、アレだ。

 

 

 レベル1からレベル5になるまでの必要経験値が1000だとして、レベル95からレベル100に上げる間での必要経験値が何百万とか必要になる……という、アレ。

 

 この世界はファンタジー要素たっぷりだが、生き物は生き物の限界というものがあって、レベルが上がっても途中からは微々たる変化しかしない場合がある。

 

 たとえば、今しがた僕がやっている小石拾いなんてのが、その最たる例だろう。

 

 そりゃあ初めてやった時より小石を拾う速度や、見付ける速度が速まっているのは実感するが、かといって、音よりも速く動いて回収できるかといえば、そんなわけがない。

 

 やっぱり、ある程度は人間としての限界があるようで、あとは身体の成長に合わせてちょっとずつ速くなるぐらいの変化しかないわけだ。

 

 レベル20では、小石100個集めるのに5分掛かる。それを、レベル100なら3分で終わらせられる……ぶっちゃけ、その程度の変化が限界である。

 

 なので、実質的には無駄に終わるしかない経験値を他所に割り振ることで、効率良く魔法などを習得できるようになった……というわけである。

 

 加えて、そうやってポイントを変換しつつ、魔法的なアレで小石除去を行うと、倍率ドン。グングンと、自分の中の魔法とかスキルとか、そういうレベルが上がっている感覚がする。

 

 ……考え出すと、教科書すら触っていないのに、近所の草むしりしていたら英語を完璧に話せるようになった……ぐらいの意味不明な話だが、そういうものだと割り切るしかない。

 

 前世の記憶便利過ぎないと言われたらそれまでだが、できてしまうのだから、しょうがないのだ。

 

 なにせ、この世界には魔物と呼ばれるモンスターがいるし、山賊に盗賊が出たなんて話はけして珍しいことでもないし、なんなら超巨大モンスターに襲われて町が壊滅したなんて話も0ではない。

 

 そんな細かい事をいちいち気にしていたら、あっという間に全滅である。記憶が生えてくる前からも『世知辛いね、この世界』って思っていたぐらいに、けっこうシビア。

 

 なので、使えるから使える、その程度の認識で良いのだ。

 

 

「──クレイ、遊びに来たわよ!」

 

 

 クレイ、それは僕の名前。

 

 

「いらっさい」

 

 

 そうしてしばしの間、えっほ、えっほ、一生懸命に小石除去に精を出していると、幼馴染のアリスがやってきた。

 

 アリスは、それこそ物心付いた(去年ぐらい)時からの付き合いである、幼馴染(まだ4歳だけど)の間柄にある女の子である。

 

 まあ、やってきたとは言っても、すぐ近くだ。だって、同じ村だし。

 

 光の加減でうっすらと赤色が見て取れる髪色が特徴的で、将来は美人さんになるんじゃないかなと噂されている……友達である。

 

 

「なにしているの?」

「小石と雑草を取っているの、やる?」

「いや!」

「じゃあ、見ていてよ」

「うん!」

 

 

 可愛く笑っているアリスだが、僕は知っている。

 

 その笑みの意味は、僕がやっている事を見たいのではなく、僕といると、嫌いな裁縫のお勉強をサボれるからだ。

 

 なんでも、一緒に勉強する内の1人と仲が悪いらしく、意地悪をしてくるから……らしい。

 

 普通なら、めたくそに怒られて連れ戻されるところだ。

 

 でも、僕の傍にいると、『まだ小さいし、好きな男の子の傍に居たいのでしょう』といった微笑ましい感じに思われるらしく、今のところはけっこう見逃してくれている……といった感じだ。

 

 まあ、僕としても、みんなの中で2番目に可愛いアリスが傍に居てくれるのは嬉しいから、構わないのだけど。

 

 ちなみに、1番はエマちゃんである。

 

 太陽のように明るい金色の髪に、空のように青い瞳の子だ。ちょっと背が高く、みんなの人気者……といった感じである。

 

 

「よいしょ、うんしょ、どっこいしょ」

「…………」

「よいしょ、うんしょ、どっこいしょ」

「…………」

「よいしょ、うんしょ……退屈なら、手伝う?」

「退屈だけど、いや!」

「あ、そう……」

 

 

 さて、そんな感じで何時ものようにアリスに見守られながら、見える範囲の小石や雑草を取り除いていると、明らかに『私、退屈です!』と視線で訴えてくるアリスの視線が気になってくる。

 

 そんな目で見られても、今の僕は小石と雑草の除去を頑張らなければならない。

 

 なので、一緒にやらないと誘ってみたのだが、満面の笑みで拒否されてしまった。

 

 どうやら、そんな事に精を出すぐらいなら、退屈しながらボケーッと僕を見ている方がマシだと判断したようだ。

 

 いったい何が楽しいのか……まあ、アリスがそれで良いなら……と、思いながらも、わっせ、わっせ、と根気よく作業を続けていると。

 

 

「──クレイくん!」

 

 

 今度はなんと、エマまでやってきた。

 

 まさか、エマまでもサボったのか……と思っていると、「終わったんだ」アリスはそう言ってチラリとエマを……あ、なんだ、今日の裁縫の勉強が終わっただけか。

 

 

「何しているの?」

「畑の小石を取っているの、やってみる?」

「う~ん、嫌かな」

 

 

 エマにも拒否されてしまった、まあいいけど。

 

 

(う~ん、やっぱりエマは別格だな……)

 

 

 それはそれとして、やっぱりエマは可愛いなあと思う。

 

 アリスも可愛いけど、周りはエマの方が可愛いという感じ。僕としては、どっちも可愛いと思うけど。

 

 とりあえず、見物客が2人に増えただけだと諦めた僕は、なんか遠くからチラチラこっちを見ている父の視線も背中に受けながら、せっせと作業を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 ──さて、そんなこんなで僕は15歳になった。

 

 

 なんかいきなり時間が進んだよねとか言われそうだけど、あまり細かい事に目を向けるのはどうかと思う。

 

 だって、やっている事なんて、仕事のお手伝いとか、友達と一緒に勉強したりとか、遊んだりとか、お手伝いしたりとか、それの繰り返しだもの。

 

 せいぜい話す事としたら、僕の両親が流行り病であっという間に亡くなってしまい、今は僕1人で暮らしている……ぐらいだろうか。

 

 今でも寂しさはあるけれど、もう慣れた。

 

 不幸中の幸いにも、コツコツと積み上げた魔法やスキルによって、猟師のフリをして肉を狩って、それで村での居場所と生計を立てているから、今のところは安定した生活を送れているけど。

 

 で、話を戻すけど、僕は15歳になった。

 

 15歳というのは、この世界での成人年齢である。

 

 15歳になった子供は、村の協会に行って『祝福』を受けることを区切りとする……という決まりになっている。

 

 15歳になるまで大きくなれたのと、これからも我らを見守りください……みたいな事を神様に伝え、感謝の祈りを捧げる儀式らしい。

 

 あまり詳しくは知らないけど……いや、知らなかったのは、悪戯目的で入ったりすると神父様からガチで怒られてしまうからで、下手すると大人たちからも怒られるから。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 なんでわざわざそんな儀式があるのかって、どうも、稀にではあるけど、本当に神様から『祝福』を授けてもらえる人がいるらしい。

 

 この『祝福』というのは、特にコレと決まっているわけじゃないらしい。

 

 ある時は『剣』だったり、ある時は『魔法』だったり、ある時は『スキル』だったり……神父様曰く、『予言』だった事もあったのだとか。

 

 基本的には何も授からないのが当たり前であり、神父様でも実際に儀式に立ち会って祝福を授けてもらえた人を見たのは、3人だけだとか。

 

 

 ……僕が見た限り、神父様は60代ぐらいに見える。

 

 

 神父様はいろいろな村や町に通って祝福を行ったりしているらしいけど、そんな神父様ですら3人……なんだろう、宝くじの1等を当てるぐらい確率が低いのかもしれない。

 

 ちなみに、この祝福の儀式に関しては、村でも数少ない、親が様子を見に来る行事である。

 

 なにせ、とんでもねえ低確率とはいえ、『祝福』を得られる可能性がある。有用な祝福だったなら、そのまま貴族に雇われる……なんてのも、夢物語ではないのだ。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな儀式なので、当日はみんなの両親や、あるいは、手が空いている者が見物に来ている。

 

 

 でも、静かなモノだ。

 

 

 まあ、神様の前だし、騒ぐのは不敬というやつか……1人、また1人、神父様の前で膝をついて、祝福の祈りを受けて……はい、お次、である。

 

 さすがに、この日ばかりは僕たちの中でも乱暴者と言われているジェイクも、とてもおとなしい。

 

 ジェイクは、村の子供たちの中ではひと際身体が大きい。

 

 乱暴者と言われるだけあってやる事なす事暴力的で、言い掛かりを付けられて殴られたなんて子も珍しくない。

 

 でも、ジェイクって女子連中にけっこうモテる。

 

 なんでかって、ジェイクの暴力は女子には向かわないから。つまり、自分より弱い男にしか拳を向けないのだ。

 

 僕たちとしては『あのさぁ……(白けた眼差し)』みたいな感じだけど、女子たちからすれば、殴られる弱い男子たちが悪いのだろう。

 

 正直、前世の記憶があるせいか、僕としても、そんな女子たちとは仲良くなりたいとは思わないから、お互いにそれで良いかなって。

 

 ちなみに、僕もなんか因縁を付けられて殴られた事がある。あまりに突然過ぎて避けられず、けっこう派手に顔が腫れて鼻血も出た。

 

 なんか、『アリスとエマにちょっかいをかけるんじゃねえ!』って感じだったけど、理不尽過ぎる。

 

 正直、因縁の付け方にも程があるだろうと思った僕は、率直に二人に聞いた。

 

 本当に二人がジェイクと仲が良くて、ジェイクが嫉妬したのであれば、今後の付き合い方を考えなければならないと思ったから。

 

 2人があのジェイクと仲が良いとなれば複雑だけど、横恋慕(よこれんぼ)するつもりはないし、仲を引き裂きたくもないし……でも、そうじゃなかった。

 

 

『──ジェイク? あんなやつ、嫌いに決まっているでしょ。自分より強い相手には腰の低い男よ』

 アリスからは、それはもう心底怒り心頭と言わんばかりに、吐き捨てるように言われ。

 

『──ジェイクくん? 私は、その、正直嫌いかな。あの人が優しいのは女の人だけだし』

 エマからは、しばし言葉を選んだ後で、ある意味ではアリスよりも酷い評価を下した。

 

 

 2人がそう評価するなら、僕からは何もない。僕が2人に気を使う必要も、自分が我慢する必要もない。

 

 なので、その夜、これまで練習してきた魔法を使ってジェイクの部屋に岩石を叩き込み、壁ごと腕を骨折させた。

 

 

 そりゃあもう、大騒ぎになった。

 

 

 今でも未解決事件として囁かれ、一時期村の空気がギクシャクしていたが……神父様より、『ジェイクくんの素行の悪さを、神が戒めたのでしょう』と言われ、それも治まった。

 

 どうも、ジェイクの素行の悪さは大人たちの間でもしばしば話題に出ていたらしく、あまり蒸し返すと、そこを周りから突っ込まれて……話が逸れたので、戻そう。

 

 

「では、ジェイク──ここに膝をついて、神に祈りを捧げてください」

「はい」

 

 

 儀式は続き、ジェイクの番が来た。

 

 祈りの沈黙の時間はそこまで長くはない。せいぜい、5秒ぐらいで……頭を上げたジェイクの顔は、どこか不満そうであった。

 

 まあ、宝くじ1等ぐらいの低確率だし(実際のところは知らんけど)……とはいえ、だ。

 

 その時の、どこかホッとした空気が室内に流れたのは、当然と言えば、当然だろう。

 

 あの乱暴者のジェイクが、万が一にも『祝福』を得ていたら……今でさえ、一部の大人に対しては下に見る様な態度を取って問題視されているのだ。

 

 最悪、村が二つに割れてしまうかも……という話も出始めていたぐらいだから、とりあえず、今すぐどうこうなるわけじゃない……ってだけでも、一安心だろう。

 

 それから、アリスとエマも儀式を終える。

 

 2人とも、他の女子たちとは別格の美貌になった。

 

 アリスは勝気な印象、エマは優しげな印象。ともにスタイルも良く、年頃の男たちはみな、2人に視線を向けていた。

 

 ある意味、ジェイクを入れたこの3人がどうなるかを見るために来た人たちも多く、見届けたらさっさと帰る者もいた。

 

 ……そんな流れで、僕の番が来た時にはもう、見物客はいなくなっていて、室内は先ほどとは別の意味で、本当に静かになっていた。

 

 

「では、クレイ──ここに膝をついて、祈りを──」

「はい」

 

 

 まあ、こうなるのは分かっていたので、特に気になる事もなかった僕は、促されるがまま指示に従って、祈りを──

 

 

『おっ、久しぶりにちゃんとした祈りを捧げた者がいたね』

『良いよね、そうそう、祈る内容を間違えている人多いよ』

『全てに命があること、空気があること、太陽があること、この世界が存在しているということ』

『そういうのに感謝して、全ての事が、ここにある。断じて、自分が生きていることへの感謝ってのは大間違い』

『だから、久しぶりに嬉しかったから、君には祝福を授けよう』

『さあ、これを引いて……ん、ガシャポンっぽいって? そう、知っているよ、君は別の世界の記憶を持つ転生者だろう?』

『たまに、そういう人がいるんだよ。でもまあ、それだけさ』

『……はい、出たね。そう、それが君への祝福。今回は、スキルのようだね、自由に使うと良いよ』

『使えば使うほど、そのスキルは成長する。別に、気にせず使ったらいいから……あっ、そうだ』

『せっかくだし、アレの掃除を頼むよ。アレ、チマチマと片付けるのが面倒でさ、集め易いようにしておいたから』

『じゃあ、また命を終えるその時まで』

 

 

 ──捧げた途端……僕は、無言のまま儀式をやり過ごせた自分を褒め称えたかった。

 

 なにせ、下手に不自然な反応を見せたら『まさか……!?』と思われてしまうし、その後で変に誤魔化そうものなら、『紛らわしい事をするな!』と怒られていたところだし。

 

 圧倒的な存在感ゆえに、その姿は記憶できていないけど、『神様』ってのはあのような存在なのか……と、自宅に戻った後も、しばらく心臓が激しく鼓動して治まらなかった。

 

 なんというか、絶対的な存在ってのは、あのような存在を言うのだろう……そう、心から思い知った瞬間であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、この時得たスキルは、『通販』である。

 

 

 なんか、頭の片隅が疼いてしまいそうな能力だが、このスキル……率直に言って、ぶっ壊れ性能というやつだ。

 

 なにせ、このスキル……その名の通り、あるいはご想像の通り、使用する際には画面が眼前に表示され、1タッチ2タッチ3タッチで通販を行い、物品などを購入できるスキルだが……買える商品の範囲がとんでもない。

 

 この世界の物を始めとして、明らかにこの世界……いや、もしかしたら、遠い宇宙の彼方に存在しているのかもしれないが、とにかく、とんでもなく幅広い。

 

 このファンタジー世界で戦車が買えるし、宇宙船だって買えるし、内部が拡張され、水や食料や電気が永久的に補給される設置型テント(?)とかいう、魔法を超えた超常的なモノすらも買える。

 

 ただし、購入には専用通貨が必要……なのだが、それも問題ではない。

 

 どうも、この『通販』には買い取りというモノがあり、『おススメは魔物石!』と大きく表示されているだけあって、かなりレートが良いみたいなのだ。

 

 この、『魔物石』というのは、この世界に存在するモンスターの体内より獲れる素材である。

 

 様々な触媒や肥料に使え、中には薬の原料としても使える物もあり、これを目当てにした職業もあるぐらいにありふれたモノだ。

 

 

(へえ、魔物石って、世界の不純物というか、排泄物みたいなものなんだ……)

 

 

 なんだか嫌な事を知ったが、それはそれとして、実はけっこうな量を僕は所有していた。

 

 というのも、食肉用として狩りを行う際、けっこうな頻度でモンスターとも遭遇し、戦うことがけっこうある。

 

 食えないモンスターは多いけど、食えるモンスターも多い。

 

 ただ、食えるモンスターはだいたい強いので、必要に迫られない限りは弱いモンスターしか狙わないけど。

 

 その際、食える食えないに関係なく、仕留めたモンスターの体内(だいたい、心臓に当たる臓器のそば)より魔物石を取り除く処置を行う。

 

 

 理由は単純に、売れるからだ。

 

 

 とはいえ、僕が普段相手にするようなモンスター(低リスク)から獲れる魔物石なんて、そこまで大した価値はない。

 

 例えるなら、猪1頭の体内より、1000円分の魔物石が一個手に入る……といった感じだ。

 

 塵も積もればなんとやらというやつで、押入れの奥にコソッと隠しておいたソレを、僕はさっそく『通販』の画面へとソレを片っ端から流し入れる。

 

 それはまるで、水の中に沈んでいく石ころのように、画面に波紋が広がっては魔物石は呑みこまれていき……後には、『3000万オーム』という専用通貨の結果が残った。

 

 

「……ヨシ、明日には旅に出よう!」

 

 

 この村にはもう、両親という僕を引き留める人はいない。幸いにも恋人なんてのもいないし、良い人もいない。

 

 良くしてくれた人はいたけど、それに関しては優先的にこっそり良い部位のお肉を融通したりしていたので、それでチャラだろう。

 

 家を出て村の外へ働きに出なければならない4男とか5男とか毎年居るし、下手に勘ぐられて引き留められると面倒だ。

 

 いや、というか、下手しなくとも、引き留められる可能性はけっこう高い。

 

 自慢じゃないけど、けっこう前から、『クレイくん……きみ、本当はジェイクなんて指先一つでダウンさせられるぐらい強いよね?』みたいな目で村長から見られるようになっていたし。

 

 でも、さすがにそこまで村のために生きろと言われる筋合いはない。実際、余っている男は引き留めずにそのままにしているわけだし。

 

 だからこそ、素早く『通販画面』を見やり、何が買えるのかをパパッと確認してから……スパッと決断を下したのであった。

 

 

 

 

 

 ──で、翌日。

 

 

 早朝、鶏が鳴き始めた頃合いに、ずっと引きこもって家の中を整理していた僕は、リュックを背負って外へ出る。

 

 整理するとは言っても、両親が死んでから、少しずつ気持ちの整理を付けるために行っていた事なので、大して時間は掛かっていない。

 

 置いてある物は自由に使って良いし、なんなら誰かが住み付いても良い……そんな書置きも、残しておいた。

 

 その足で、僕はまず村長宅へと向かう。

 

 非常識とは分かっていたが、下手に時間を掛けるとあの手この手で引き留められそうなので、ここは電光石火で仕掛けるしかない。

 

 

「──クレイくん、君ねえ……そういうのは、もっと事前にだよ」

「でも村長、それで小細工使って僕を引き留めようとかしますよね?」

「…………」

「その沈黙が答えっす。もちろん、無礼で非常識な事だなとは思いますけど、役に立つから行くな、余っているから出て行けっていう中で、残れと言われて僕が喜ぶと思いますか?」

「…………それを言われると、何も言えないねえ」

 

 

 案の定、寝間着のまま出迎えた村長夫妻は、引き留めない事を否定しなかった。あまりに想像通りで、ちょっと笑いそうになった。

 

 

「色々と良くしてくれてありがとうございます。これからは、自分の足で、この世界を歩いてみたいので」

「……アリスちゃんと、エマちゃんはどうするんだい?」

「え? なんであの2人が?」

「いや、だって、あの2人はほら、クレイくんを好いているじゃないか」

「……はい? 村長、そういう冗談は嫌いですし、分かって言っているなら、かなり怒りますよ」

 

 

 ただ、そこでアリスとエマの事を出された僕は、けっこう困惑した。

 

 

「あの2人、ジェイクと既によろしくやっているじゃないですか。それも無理やりとかじゃなくて、自分たちからも」

「──っ!」

「僕が何も知らないと思って、それで引き留められると思っていましたか? そういうやり方は嫌いですよ」

「……し、知っていたのかい?」

 

 

 そう尋ねてきた村長の声は震えていて、奥様に至っては『あっ、これ駄目だわ』といった様子で、もう諦めモードに入っていた。

 

 

「モンスター相手に切った張ったは伊達ではないです」

「……いつから?」

「けっこう前から。ジェイクに変な難癖を付けられるのも嫌ですし、あの3人は成るように成っただけかと」

 

 

 ああコレは駄目だな……そんな顔で、村長も諦めモードに入った。それを見て、僕は椅子から腰を上げた。

 

 

「そうそう、村の外にある森の中でこっそり……というのは、それとなく注意してあげてください、さすがに見なかった事にしてそのままモンスターに襲われるとか、笑い話にもなりませんし」

「その言い草だと、もしかして……?」

「終わるまで見張っていました。なんか覗いていたとか言われたら堪らないので黙っていましたけど……あの場所でそういう事をされると、肉の美味いやつが来なくなりますから、本当に注意はしておいてくださいよ」

「……はあ、分かった。でも、引き留めないけど、最後に一言挨拶だけはしていってほしい」

「え?」

「君の思いはどうあれ、生まれ育った村だ。君の事は赤ん坊の時から見知っている人は多い……最後に、別れの挨拶ぐらいはしておくものだろう」

「……そうですね、すみません」

 

 

 村長のその言葉に、僕は納得してから頭を下げると……村の人達に挨拶をするために、急いで村長宅を飛び出したのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

「……惜しいやつが旅立って行くな」

「仕方ありませんよ。無理やり結婚させようとしても、どのみちあの子は嫌がったでしょうから」

「しかし、まさか知っているとは思わなかったよ」

「そうですか? けっこう前からあの子は分かっていたと思いますよ」

「え? そんな素振りは見られなかったが……」

「思い返せば、ある頃からそんな……まあ、終わった事です」

「それもそうだな。はあ、しかし、ジェイクはなあ……」

 

 

 …………。

 

 ……。

 

 ……。

 

 

 

 

 

 順々に挨拶をしていくわけだが、どうしても時間が掛かる。

 

 どの家も、予告もなく早朝の訪問に面食らい、時間を考えろとちょっと起こったけど、僕が村を出て行くという話をすれば、誰もが目を瞬かせた後に『そうか、頑張れよ』と応援してくれた。

 

 継ぐ家のない4男とか5男に対する扱いなんぞ、こんなものだ。ましてや、天涯孤独みたいな立場の男なんぞ、余計に。

 

 確かに早朝の訪問は非常識だが、下手すればこれが今生の別れになる。それを分かっているからこそ、どの家の人も、最後には僕の背中を押してくれた。

 

 ただ、兎にも角にも時間だけは掛かる。

 

 一つの家を訪問、諸々の説明をしてお別れの挨拶などをして……となると、最低でも5分~10分ぐらい掛かる。

 

 中には僕と同じく、準備ができたら村を出て行くか、ずっと部屋住みで生きていくかを迫られている顔見知りから相談されたりするので、余計に時間が掛かる。

 

 

「──む、村を出て行くって、そんなの聞いてないわよ!」

「そりゃあ、言っていなかったし」

「なんで、なんでよ! なんでそんなの決めたのよ!」

「いや、機会はけっこう考えていたよ。ただ、今が巡り巡った機会だっただけで」

 

 

 なので、アリスの家へ挨拶を伺った時にはもう、どの家も朝食を終えた後で、既にアリスは寝間着から普段着に着替え終わっていた。

 

 

「とにかく、僕はもう決めたの。別に今生の別れになるわけでもないし、機会に恵まれたら会えるよ」

「そんな……じゃ、じゃあ、私も連れて行ってよ!」

「え、なんで?」

「なんでって……わ、私、クレイの事が子供の頃からずっと好きだったからよ! 悪い!? 好きな人と一緒にいたいと思っては!!」

「えぇ……い、いきなりだね」

「ばか! あんたがニブイだけよ! それじゃあ、準備するからちょっと待ってて!」

「いや、待って待って、なんで連れて行く話になんの? 連れて行かないよ」

「──っ!? な、なんでよ……私の事、嫌いなの? 嬉しくないの?」

「嬉しいとか嫌いとか、それ以前の話っすよ。困惑のあまり、僕はアリスの事が余計に分からなくなったよ」

「え?」

「だって、子供の頃から僕が好きなのに、その僕じゃなくてジェイクに何度も自分から股を開いている人から愛の告白をされたんだよ? 困惑して当たり前でしょ」

「  え っ ?  」

「だから、好きって言われても、嬉しいとか嫌いとか以前に、まるで意味が分からないぞ……っという感じにしかならなくて」

「……ち、違うの、クレイ、話を聞いて」

「そういうわけだから、じゃあね」

「ま、待って、おねが、足が震え……待って、ねえ、クレイ、待ってよ……」

 

 

 そして、どういうわけか、アリスが変な事を言い出したおかげで、余計に時間を食ってしまい。

 

 

「──そ、そんな、クレイくん、いきなり……」

「ごめんね、ビックリさせちゃったね。でも、もう決めた事だから」

「なんで、そんなの、どうして……」

「成人を迎えたわけだし、自分の足で歩いてみようかなって。それじゃあ、エマも元気で」

「──ま、待って! クレイくん、私を、一緒に行くよ!」

「えぇ? エマもそんな事を言うの?」

「え? 私もって……他にも、同じ事を言った人が?」

「アリスもね、同じ事を言ったんだよ。なんか、僕の事が好きだから一緒に行きたいって」

「──わ、私も! 私もクレイくんの事が好きなの! ずっとずっと、子供の頃から、ずっと好き──」

「えぇ……なんでエマもアリスと同じ事を言うの? それ、女子たちの間で流行っているの?」

「──、……どういう事ですか? どういう意味ですか?」

「いや、だから、アリスにも同じ事を言ったけど、子供の頃から僕が好きなのに、その僕じゃなくてジェイクに股を開き続けている人から愛の告白をされても、困惑しかないよ、僕は」

「      」

「それに、その好きな僕を殴った後にも股を開いていたじゃん。なので、好きとか嫌いとか以前の話で、何を考えているのか意味不明過ぎかなあ……っていう話」

「 あっ そっ ちがっ 」

「何も違わないでしょ。別に責めているわけじゃないから。ただ、別に恋人でもなんでもない人と一緒に行く理由が僕にはないし、2人と一緒に行きたいって考えもないだけだから」

「 ち、ちが 話を 話をきい 」

「じゃあ、また何時か。機会が巡り合えたら、積もる話でもしようね」

 

 

 エマの家に挨拶に行った時にはもう、10時を回っていた。

 

 おかげで、もうそろそろ全部回ったかなと思った時にはもうお昼を回った頃で、やれやれ、初っ端から大変だぞと僕は前途多難というやつを噛み締めていた。

 

 

「──おい、クレイ!!」

 

 

 そんな時に、また変な絡まれ方をしたら嫌だなと意図的に飛ばしていたジェイク宅の……ジェイクが、村の正門前で待ち構えていた。

 

 

(うわっ、出たよコイツ……)

 

 

 これには、さすがに僕も顔を歪ませた。

 

 だって、冷静に考えてみてほしい。

 

 いきなり話も聞かず一方的に殴ってくるような男だ。

 

 しかも、後で謝罪に来るかと思ったら、『なんで俺が謝らなきゃならねえんだ?』と本気で首を傾げるような男でもある。

 

 僕としては、なんでわざわざ来たのかな……という認識しかなくて、もう見えないフリして行ってしまおうかな……と、思っていると。

 

 

「──へっ、いいのか? アリスとエマを置いて行ってよ。昔から、あいつらはおまえに夢中だっただろ?」

 

 

 これまた、どういうわけか、ジェイクからもそんな事を言われた。なんかこう、ニヤニヤというか、ニチャニチャっとした笑みを浮かべながら。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………????? 

 

 

 いや、もう、本当に、意味が分からない。

 

 村長もそうだったけど、どうしてジェイクも僕があの二人とそういう仲というか、好き合っているみたいな認識でいるのだろうか。

 

 そりゃあ、事あるごとにあの2人は僕のもとに来ていたし、なんなら僕の家に泊まろうとする事だってあったし、なんかやけに薄着で来た事もあった。

 

 でも、こう言ってはなんだけど……僕は、他所の女を奪おうって気持ちが薄いというか、なんかもう、その時点でそういう目では見ることができないのだ。

 

 

「??? 置いて行くも何も、なんで僕が連れて行くみたいな考えになってんの?」

「へっ! そんなんだから、おまえはあいつらの尻一つ揉めねえんだよ!」

「お願い、人の話を聞いてね? 誰もそんな話をしていないからね?」

「残念だったな、ふにゃちん君。まあ、そうやってシコシコ惨めに言い訳しながら生きていけよ」

「どうしよう、本当に会話が通じないよ……」

 

 

 もうね、会話が通じなさ過ぎて恐怖すら覚えてくる。

 

 なにゆえ、僕があの2人の尻を揉んでいる(あるいは、揉んでいない)という話になるのだろうか。

 

 僕としては、ジェイクは別として、アリスとエマは子供の頃からけっこう友達として仲良くやってきたと思っていた。

 

 その2人からもだが、こうまで僕と周りの人たちとの間に齟齬(そご)が生じるとは……なんだろう、もしかしたら、僕らってあんまり仲が良くなかったのかもしれない。

 

 いや、もうこれは、仲良くなかったのだろ。

 

 3人がどういうキッカケや流れでそういう関係になったのかは知らないけど、そういう意味でのショックはあって……思わず、僕はため息を吐くと。

 

 

「あのさ、周りの人達もなんか誤解しているというか、勘違いしている人がいるっぽいから、もうハッキリ言うね」

 

 

 喧嘩でも始まると思ったのか、チラホラと集まって来ている周囲の人たち……村のみんなも含めて、これが最後だと思ってジェイクに説明した。

 

 

「あのね、ジェイク。あんたがどういう勘違いをしているかは知らないけどね、あの2人は、あんたの事が好きなんだよ」

「──はぁ?」

 

 

 ぽかん、と呆けた様子のジェイクに、「はぁ? じゃないよ」さすがにイラッと来た僕は声を低くした。

 

 

「あのね、2人はあんたが好きだから、あんたに抱かれたの。あの2人は始めからあんたしか見ていないのだから、何時までも変な勘違いをして僕に絡んでくるのは止めてくれる?」

「え、いや、それは……」

「嫉妬するなとは言わないけど、何時までも僕に絡んでくるのは失礼だよ。でないと、あの2人は心から好きな人がいるのに、別の人に平気な顔で股を開ける女ってことになるじゃん」

「お、おう……」

「そうなるでしょ? 他の男に自分から抱かれたその日に素知らぬ顔で、その相手を愛しているって言えるような女になっちゃうじゃん。そんなの、失礼にも程があるでしょ」

「…………」

「まったく、いいかげんしつこいよ、もう……周りのみんなも、ちゃんと聞いたね? もうこういう勘違いは止めてよね、本当に勘弁だよ……」

 

 

 ようやく、勘違いが解かれたのか、ジェイクは……呆然とした様子で僕を見つめていた。

 

 やれやれ、本当に長かった。でも、まだマシかなとも思った。

 

 ジェイクの勘違いは大概だが、まだ理解は出来る。

 

 でも、僕としては、アリスとエマの考えの方が意味分からなさ過ぎて、恐怖すら覚えた。女とは、そういうものなのだろうか。

 

 正直なところ、うん、これはもう本当に僕の本音だけど。

 

 なら、なんで僕じゃなくてジェイクに抱かれたん……それも、一度や二度じゃなくて何度も……という疑問しか出て来ないのだ。

 

 いっそのこと、『男が大好き、クレイも私を抱いて!』っていう方がまだ理解できる。好きになるかどうかは別として、そっちの方が僕としてはよほど分かりやすい。

 

 

 ……だいたい、だ。

 

 

 僕の見た目は、御世辞にも男らしいとは言えない。

 

 今でこそ成人したが、去年も女子たちから『女の子みたい』と言われたぐらいには、僕は男らしい姿をしていない。

 

 ジェイクより背は低いし、ジェイクより肩幅は無いし、ジェイクより見た目は弱弱しく、そもそも、顔立ちからして、そうなのだ。

 

 だから、あの2人がジェイクを選んで抱かれたという事を知った時、そりゃあそうだよなあ……という納得しか僕にはなかった。

 

 収まるところに収まっただけの話であり、だからこそ、だ。

 

 なんでこいつら、収まって全部終わった後によく分からない事をゴチャゴチャと……という感じしかなくて、僕としてはもう最初から最後まで、よく分からない話でしかなかった。

 

 

「言いたい事はそれだけなら、もう行くから」

 

 

 兎にも角にも、ジェイクとの会話は疲れるだけで不毛過ぎる。

 

 ジェイクとだけは、機会に恵まれても会いたいとは思わないなあ……そう思いながら、僕はさっさとジェイクの横を通って、村の外へと──

 

 

「……ケッ、腰抜けが。親が貧弱だったなら、息子は腰が貧弱だったってか」

 

 

 ──行こうとしたけど、そうは行かなくなった。

 

 

「おい」

「あっ?」

「いま、なんつった?」

「はっ? なんだよ」

「とぼけるな、聞こえてんだよ。いま、僕の両親を貶しただろ」

「……はぁ? だからどうした? 文句あるんならや──」

 

 

 ニヤリ、と。

 

 僕よりも一回り大きい拳を構えたジェイク──が、その時にはもう、接近した僕の蹴りが、ジェイクの足をボキリとへし折っていた。

 

 

「んの──っ!?」

 

 

 苦痛信号が脳へと向かい、それをジェイクが認識するよりも前に──腹部へ、正拳突きを放つ。

 

 ぼぐん、と。

 

 たぶん、自分の身に何が起こったのか理解出来ていないのだと思う。衝撃で下がった顎(なんかすごい顔になっていた)へ、僕はハイキックをそっとかすらせた。

 

 ──所要時間、0.012秒。

 

 その後にはもう、完全に意識を立たれたジェイクは、ドシャッとその場に崩れ落ちた。

 

 

「……みんなも聞こえていたと思うけど、文句があるなら言っていいよ。捕まえようと思うなら、それでもいいよ。全力で抵抗するから」

 

 

 一泊遅れて騒ぎ出した周りの人たちに、僕は睨みつけて言い聞かせる。

 

 さすがに、周りも触れてはならない部分に触れて怒らせたと分かっているのか、僕を責める者は1人もいなかった。

 

 

 ……4歳の頃より、鍛えに鍛え続けた結果だ。魔法によって底上げされた僕の身体能力は、ドラゴンすらも退けさせる。

 

 

 そんな僕の攻撃をまともに受けて、平気でいられる人はそう多くはいないだろう。少なくとも、持って生まれた肉体に胡坐を掻いているようでは、僕にはまず勝てない。

 

 そして、ジェイクに対して欠片の罪悪感も抱かなかった僕は……今度こそ、村を後にした。

 

 

 結局のところは、だ。

 

 

 この日の騒動は、あの3人のよく分からない恋愛模様に巻き込まれて無駄に疲れた……ただ、それだけの話であった。

 

 

 




特に続く予定はない

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