ヒーローは、空想ではない。
個性の出現により、世界は大きく変わった。
人々は力を手にし、混乱と秩序の間を彷徨い――そして、英雄(ヒーロー)が現れた。
“力を持つこと”が当たり前となったこの世界で、
“その力をどう使うか”が、問われ続けている。
雄英高校ヒーロー科。
英雄を育てる、日本最高峰の学び舎。
そして、そこに入学した僕たち1年A組は――
「……え? 2年生? 1人だけ?」
ホームルームの冒頭。眠そうに寝袋から這い出た相澤先生の一言で、教室はざわついた。
「紹介しておく。ヒーロー科2年A組──型形 作身(かたがた つくみ)」
ガラリ、と教室の扉が開く。
入ってきたのは、明るい笑顔を浮かべた女の子。制服の袖を軽くまくり、元気よく手を振った。
「はじめましてっ! 型形 作身、ヒーロー科2年です!よろしくお願いします!」
その足元には、ふわふわ浮かぶ謎の存在。
「こんにちは!カタチです!」
小さなぬいぐるみのような見た目。サイズは膝下程度、動く、喋る、自己紹介もできる。
教室内に一瞬、「かわいい……」という空気が流れる。
が、それも一瞬だった。
「ちょ、待って……あれって“例の”人じゃない?」耳郎が声を潜める。
「都市伝説だと思ってたわよ。2年生全滅って……マジだったんだ……」芦戸が目を丸くする。
「相澤先生が“合理的じゃない奴は落とす”っつって全員消し飛ばしたって話……」上鳴がぼそっと。
「ヒーロー科……1人だけ残ったってことか……?」爆豪の眉がピクリと動いた。
ノートを取り出した僕は、早速記録を始める。
型形 作身(かたがた つくみ)/個性:マスコット
ヒーロー科2年A組 唯一の生存者
「緊張してますけど、1年生の皆さんと仲良くできたらうれしいです!」
とびきり明るく、無邪気な笑顔。
だが、その後ろに浮かぶマスコット“カタチ”は……教室を一周するように視線を動かしていた。
まるで、脅威のスキャンでもしているかのように。
僕は気づかない。
誰も、まだ知らない。
この“可愛いマスコット”が――
裏では、月面に兵器工場を持っていることなど。
「えっと、じゃあ質問してもいいですか?」
お茶子が手を挙げる。
「その、カタチくん? それってサポートアイテムじゃないんですか?」
「違いまーす!」作身が元気に即答。
「カタチは私の個性で生まれた存在なんです。個性名はそのまま、“マスコット”!」
「はいっ!ボクは作身の味方で、相棒で、サポーターで、アドバイザーで、将来的には兵器開発と戦術指揮も担当して──」
「お、おーいカタチ!その辺はまだ秘密!」
「あ、そっか!」
教室に笑いが起きた。
でも僕は、そのやり取りに妙な引っかかりを覚えていた。
あの“カタチ”という存在。
ただのマスコットにしては……目が、妙に澄んでいた。
言葉の裏に、何か“本質”を隠しているような――
「……さて。型形、次のインターンまでの準備はもう終わっているんだろ?必要なカリキュラムは終わってるし、今は1年A組の補助に回れ」
「はいっ!任せてください!」
相澤先生の投げやりな言葉に、元気よく頷く作身。
こうして、僕たちのクラスに時々“もうひとり”の仲間が加わることになる。
彼女は明るくて、人懐っこくて、ちょっと不思議で――
でも、どこか“何か”が違っていた。
それはきっと、時間が経てばわかるだろう。
ヒーローとは何か?
“力”を持つ者が、それをどう使うか――
それが、この物語のはじまりだ。