夜明け前の空は、まだ眠っているみたいに静かだった。
救助活動が終わった現場には、燃えた建物と瓦礫の匂いだけが残っている。
遠ざかるヘリの音を背に、私は──マスコーダーこと型形作身は、へたりとその場に座り込んだ。
「ふぅ……終わった……よね?」
言い聞かせるように、小さく呟く。けど、心の奥はまだざわついていた。
ヒーローたちは、負傷者の搬送や被害状況の確認に動き回っていたけど、その動きは驚くほどスムーズで、無駄がなかった。
さすが、プロ。というか、プロすぎる。
──そんな中で、私は車の中。窓の外をぼんやりと見つめる。
捕まえた脳無。取り逃がしたもう一体。そして、死柄木葬華との戦い。
……それから、救った人たち。
全部が鮮烈すぎて、全部が夢みたいで、現実味がない。
でも、確かに私はそこにいた。戦った。救った。……負けなかった。
「……私は、ヒーローとしてちゃんと動けてたのかな」
問いかけに、返事はない。
膝の上にちょこんと座ったカタチが、無言で私の指をつかむ。
その手のぬくもりが、少しだけ胸を軽くしてくれた。
──で。翌日。
「型形、よく無事に帰ってきた」
開口一番、教室で迎えたのは相澤先生。
その顔にはほんの少しだけ、安堵の色がにじんでいた……気がする。
「……だが、学校をズル休みして事件現場に単独で向かった件については、厳重注意だ」
「はい、すみませんでした!」
「ただし――」
背後から、あの人が歩いてくる。
「多くの市民を救った君の行動、それ自体は、立派なヒーローのものだったと、私は思うぞ。……立場上、大声では言えんがな」
言うまでもなく、オールマイトである。
すかさず相澤先生がため息。
「オールマイト、甘やかさないでください。命を救ったのは事実だが、それとこれは別の話です……それから、安心材料としての情報だ。仮免のお前がヒーロー活動した事は法令で定められた条件下だったため罰則はない」
「は、はい……」
「話はそれだけじゃない。聞かねばならないことが、山ほどある。――校長室に来てもらう」
「校長室ですか!?」
(私、他に何か悪い事したかな?……昨日、あーアレのことかな)
今まで“お偉い方”のところに呼ばれた経験がなく、緊張を隠せない作身。
相澤先生とオールマイトの背中が、こんなに怖く感じたのは初めてだった。
⸻
校長室には根津校長はもちろん、相澤先生、オールマイト、さらにパワーローダー、プレゼント・マイク、ミッドナイト、リカバリーガールまでもが顔を揃えていた。話の重要性を物語っている。
(ひえぇぇ……)
「やあ、型形さん。よく来てくれたね。昨日の話は聞いているよ。よくやってくれた。とても誇らしいよ! ……今後はズル休みしないでくれるともっと良いね! おっと、そんなに緊張しなくても大丈夫。今日は確認したいことが多いというだけだからね」
――と言うが、緊張するなというほうが無理だ。
「相変わらず無駄に広いわね、この部屋。緊張しちゃって可哀想に。立ち話もなんだから、さあ皆、座って。お茶でも出すわよ。どこかにお茶菓子でもないかしら」
リカバリーガールが勝手知ったる手つきでお茶を準備する。緊張をほぐそうとしてくれているのが伝わるだけでも、心が少し楽になる。
「それなら、ここに良いお菓子が入ってますよ」
とミッドナイト。
「なんで知ってるのかな?」
とガタガタ震える校長。
ホームドラマみたいなやりとり。……空気が、少し軽くなった。
(はっ!? いつのまにか落ち着けてる。すごい! これが“大人の対応”ってやつか!!)
温かいお茶と美味しいお菓子。ひと口食べて、ひと息つけた。
――さあ、本題だ。
⸻
「さて、お前の“個性”――マスコットについてだが」
(ん?カタチのこと?)
相澤先生が椅子に座り、真剣な眼差しで口を開いた。
「今までは、カタチが作ったアイテムを“お前が使用している”と我々は理解していた。カタチが“増殖”個性持ちであることも、特殊な例として処理していた」
「はい」
「……だが、昨日使用された“装備”――いや、“兵器群”については、我々は知らない。あれは何だ? 何を隠している?」
空気がピリリと変わる。皆が真剣な目で、作身を見つめていた。
「今までは、カタチが作るサポートアイテムだと処理してたけど……今回の装備はもう、支給品の域を超えてるんだよな」
専門家であるパワーローダーの言葉に、重みが宿る。
「……そのことかぁ」
思わず口に出てしまう。
カタチが現れ、
「いや、これしかないでしょ!? 本気で気づかなかったの?」
素で驚いている。
「すいません! でも、嘘は言ってないんです!」
「そうだな。これは俺たちの側にも聞く責任があった。“どんな規模で”そして“どうやって”それを実現していたのか、情報提供してもらいたい。戦力の把握だけでなく、今後の指導方針にも関わる」
「それについては、ボクから説明した方が早いね。では、ザックリとだけど……ごほん!」
「頼む」
と相澤先生。
⸻
「ボクは作身と同時に生まれてから約1年で、世界中の主要な情報を収集した。その結果、この世界があまりに危険であると理解した。だから、宇宙開発、資源調達、エネルギー自給、ナノマシンの生成、人工知能の開発と自己最適化を進めて……3年前、月の裏側に生産基地“レギオン”を建設した」
(……前半しか知らない! 情報量多くない!?)
「その後、兵器開発区画、救助車両・資材の倉庫、保存食の自動製造ライン、衛星兵器の試験施設、気候観測用AIネットワークを整備し、現在は医療用ナノマシンも試作段階にある」
(知らないこと増えてるぅぅ……)
「現在、月面施設群“レギオン”は東京ドーム相当の稼働ドームが32基。稼働AI数はおよそ4,600体。セキュリティは国際宇宙軍標準に準拠し、兵装演算速度は0.002秒未満に最適化済み。主な資金源は、地球圏での特許収入および資産運用による」
(レギオン……名前が中二病すぎる……というか何を言ってるか分かんない)
「なお、資産は匿名の小規模ビジネス……素材販売、技術提供、仮想通貨マイニング、AIによる投資運用などで収益化。現時点の純資産評価はおよそ27兆円。なお、課税は未対応です」
(ざっくりって……その言葉の意味を分かって使ってる?)
……お茶菓子食べよう。
⸻
「未対応、て……」
根津校長が額を押さえ、
相澤先生がこめかみを抑えている。
(大変だなあ……お疲れ様です)
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「これは、我々の想定を遥かに超えている。もはや“個性の拡張”や“サポートアイテム”の域ではない。“もう一つの文明圏”に近い」
さらに各先生が口々に、
「AIの分散処理ノードと演算能力だけで、国家級シンクタンク並ね」
「自己最適化型ナノマシン……倫理的リスクを無視すれば兵器転用も可能だな」
「衛星兵器の精密射出……軍事境界を越えてるわ」
「医療用ナノマシンでも自己複製型は生体適合性も投与プロトコルも確立していない。不確定要素が多すぎる」
……という議論が飛び交う。
(この人たちも何言ってるのか分かんない……)
オールマイト先生だけが「むむぅ」と汗をかいている。
――どうやら、私の気持ちを分かってくれるのはオールマイト先生だけみたい!
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「根津校長。提案があります。今後の防衛システムについて、協議の場を設けていただけませんか?」
「なぜだい?」
「雄英バリアも堅牢ですが、衛星軌道上からの支援迎撃網と連携すれば、より広域の防衛が可能です。敵ヴィランの侵攻を感知した時点で、衛星レーザーで牽制し、地上のヒーロー部隊と連動を取るといった運用が想定されます」
「やり過ぎじゃない?」と言うが
「生徒を守るのに、“過剰”はないと思うんだ」
カタチはきっぱりと言い切った。
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「ふむ、そういう話なら――今年入ったウチの発目も連れてこよう。きっと役に立つ」
とパワーローダー。
(……高校1年でこの話についていけるって、どういうこと……?)
その後、発目さんも参加してよりカオスな状況になった。
そして私とオールマイト先生は…そっと校長室を退室した。
「「無理」」
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「ところで、型形女史」
「はい?」
「ここに呼ばれた理由を、カタチくんの件以外で何だと思っていたんだい?」
「そりゃ、直接戦った死柄木葬華の感想だと思いました。私の情報とオールマイトの見解を統合して、今後の傾向と対策を練るのかと」
「それも、確かにすっごく大切なことだね」
「ですよね? うーん、こんな展開になるなんて予想外でした。いろんな視点が大事って、こういうことなんですね」
そうして、私とオールマイト先生だけで傾向と対策を話し合い、後で先生方に共有することにした。
充実した話ができました!
役割分担って、大事だよね。