ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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もっとシャープに書いて更新速度を早める予定だったんです。なのに…

予定通り行かないもんですね(泣


第16話「Villain連盟の活動報告」

死穢八斎會の正面玄関。その外門には、数十人規模の構成員たちが陣取り、警戒の目を光らせていた。

 

中に入れば、さらにその何倍の兵が待ち構えている。

ここは、表も裏も締め上げる“要塞”だ。

 

だが——。

 

 

 

……ガガガガッ。

 

 

 

「……なぁ、今なんか聞こえなかったか?」

 

暇を持て余したひとりの門番が、あくび交じりに仲間へ話しかけた。

 

「工事かなんかだろ。最近うるせぇんだよなぁ、あっちこっちで」

 

「まじで勘弁してほしいわ……」

 

 

 

……ガガガガガッ!!

 

 

 

地鳴りのような音に、ふと周囲の空気が張りつめる。

 

「なぁ、これ……近づいてきてねぇか?」

 

「はァ? この死穢八斎會に突っ込んでくるバカがいるかよ」

 

「どの道、治崎さんがいりゃ一瞬で終わりだろ。めんどくせぇ……」

 

 

 

 

 

ガガガガガガガガガ!!!

 

 

 

そのときだった。

 

地響きを伴って、正面の路地を土煙が覆い尽くし

轟音とともに、“何か”がこちらへ一直線に突き進んでくる。

 

 

 

「お、おい!マジでヤバいってこれ! もうすぐそこまで来てるぞ!」

 

「どこのイカれたバカだよ!? 街ごとぶっ壊して突進してやがる!!」

 

「クソッ!幹部を呼べ!!」

 

 

 

そして。

 

 

 

ガガガガガガガガガガガァァァァァアアア!!!

 

 

 

視界の奥から、ついに“それ”が姿を現す。巨大な塊。黒く脈動し、すべてを吹き飛ばす圧をまとった破壊の化身。

 

「「「うわああああああああ!!?」」」

 

誰かが悲鳴を上げたときには、もう遅かった。

 

 

 

「——ハッハッハ!危機的状況ってやつだなァ!? 面白ぇ!!テメーら、力よこせやぁ!!」

 

 

 

突如、土煙を突き破って飛び出したのは、偶然その場に居合わせた幹部の一人。活瓶 力也。

 

「「「活瓶さん!!」」」

 

巨躯をもって正面から立ちはだかり、暴走する“それ”を受け止めた。

 

 

 

ドゴォォォオオオオオン!!!

 

 

 

「——ぬんっ!!ぐぅおおおおお!!」

 

爆音とともに、門が貫かれる。活瓶の足元が削れ、地を抉り、玄関手前まで轍ができる。

 

 

 

「……止まった?」

 

誰かがぽつりと呟いた。

 

だが——

 

 

 

「なァに止めてんだよ。お前、もしかしてちょっとはやる奴か?」

 

 

 

“それ”の中から、地を這うような声が響く。

 

外殻がひび割れ、皮膚のような外皮がバリバリと剥がれ落ちていく。

 

 

 

現れたのは——

 

黒く脈動する義眼を持つ巨漢。

 

異常発達した筋繊維に覆われた、暴力の化身。

 

 

 

 

マスキュラー。

 

 

 

「死ねよォ!!」

 

 

 

活瓶が地面へ叩きつけようとした瞬間、マスキュラーは逆に膝を曲げ、巨体を蹴り飛ばす!

 

 

 

「テメェがなッッ!!!」

 

 

 

——蹴一閃。

 

分厚い筋肉から繰り出された蹴撃が、幹部を正面玄関ごと吹き飛ばした。

 

 

 

文字通り“吹き飛んだ”

 

 

 

数秒での決着。門番たちが驚愕する暇もない。

 

 

 

「やっべぇぞ! 撃て!撃ちまくれ!!」

 

銃火器が一斉に火を噴く——が、

 

 

 

無意味だった。

 

次々と突入してくる敵の集団。連盟メンバーたちの姿。

 

 

 

誰もが弾丸を避け、跳ね除けて接近してくる。

 

 

 

特に——灰色の長髪をなびかせる女。

一瞬目を離した隙に仲間が次々と消えていく。

 

あれは何だ? 増強系? 加速? 瞬間移動?

 

いや、違う。触れただけで“消した”んだ。

 

 

 

「無理だ……。こんな奴らに、守りなんて……!」

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

正面を守っていた数十人の構成員。銃も個性も持っていた。だが——

 

一人の犠牲者も出すことなく、連盟は正面を制圧した。

 

 

 

 

 

「どう? 新しいおもちゃの使い心地は」

 

崩壊の女、葬華(そうか)が不気味に笑いながら問いかける。

 

 

 

マスキュラーは義眼を指で撫でると、

それに反応するように、赤黒い装甲が筋肉を覆い始める。

 

「——悪くねェ……」

 

 

 

それは、彼に新たに与えられた力。

《義眼型》セルドライバー——“筋繊維の硬質化”と“脚力強化”。

 

まさに暴力の化身

 

 

 

——

 

 

 

「フザけんなァァァアアアア!!!」

 

 

 

瓦礫をぶち破り、猛然と再登場する活瓶。

 

薬の過剰摂取か。姿が先ほどとはまるで別物。

肥大化した肉体が膨張し、眼の焦点は狂気に染まっていた。

 

 

 

「ああぁぁ!……これで終わりだと思ってんじゃねェぞオオ!!」

 

 

 

そのまま、超巨体が葬華へ拳を叩きつける!

 

 

 

死の一撃。

 

誰もがそう思った。だが——

 

 

 

「——はいはい」

 

 

 

葬華が指先をそっと当てる。

 

次の瞬間、

 

活瓶の体がバラバラに崩れ、灰と化して舞い上がった。

 

その灰は葬華の背後で、ただの塵となって風に溶けていく。

 

 

 

 

 

「ウワサには聞いてたよ。個性強化の薬ってやつでしょ?

……でもVet曰く、“用法と用量が確立されてない劇薬”なんだって」

 

 

 

「ま、俺らには関係ねぇな」

「それね」

 

 

 

葬華が前を向いたまま、冷たく笑う。

 

 

 

「さて、ここからが本番。

みんな、侵入開始。好きに暴れて——

オーバーホールは早い者勝ちだよ?」

 

 

 

一斉に頷き、それぞれが別のルートから中枢へ突入していく。

 

 

 

残ったのは、葬華・黒霧・そして睡魔。

 

 

 

「ソウカちゃん」

 

「ん? 何、スイ?」

 

 

 

「ドクターへのお土産……忘れてないよね?」

 

 

 

「……あっ。やべ、忘れてた。でもまぁ、いっか。他にもいい個性持ちは中にいるでしょ」

 

 

 

「いつもお世話になってるドクターが待ってるんだ。面白いやつ、見つけなきゃね」

 

 

 

「ん。行こ。楽しい楽しい復讐は、ここからだよ」

 

 

 

 

 

——復讐の狼煙は、今、上がったばかりだった。

 

 

 

中庭へと回り込んだ一人の男がいた。

狂気の筋肉──マスキュラー。

 

正面突破とは逆のルート。だが、それでも中庭には護りが敷かれていた。

待ち受けるのは、全身を覆う仮面の巨漢。

 

「……おう。お出迎えかよ」

 

「派手に突っ込んできてくれたじゃねぇか、筋肉野郎」

 

 

マスキュラー vs 乱波肩動

──開戦。

 

無骨な石畳の中庭。

二人の怪物が、まるで示し合わせたかのように拳を振るった。

 

「へぇ……腕、太ぇな。筋肉の張りも良いじゃねぇか」

 

「そっちも。肉体が語ってる。これはもう──殴り合いしかねぇな?」

 

ドッッバァンッ!!!

 

空気が爆ぜた。

ぶつかった拳同士、ただの打撃とは思えぬ重さと速さ。

破裂した空間に石垣が崩れ、盆栽が吹き飛ぶ。

 

お互いに数歩後退。

互いを測るように睨む視線。だが──次の瞬間。

 

「もっと見せてやるよォ!!」

 

マスキュラーの両腕が、内側から破裂するように肥大する。

膨れ上がった筋繊維が装甲のように幾重にも巻きつき、義腕のような異形へと変貌した。

 

「じゃあ、こっちも──!」

乱波が地面を踏み抜く。重力を殺したような拳が、マスキュラーの腹を抉った。

 

──ドゴンッ!!

 

しかし、沈んだはずの腹部から返ってきたのは、笑い声だった。

 

「痛ェなあ……っ!いいねぇ、その感じ!!」

 

──歪んだ笑み。肉を裂く痛みにすら歓喜する化け物。

筋肉の暴食者──マスキュラーは、むしろ興奮していた。

 

「痛ぇのは、お互い様だろうがよ……!」

乱波もまた笑う。

仮面を剥ぎ取ったその素顔。目の奥が、炎に似た欲望で燃えていた。

 

「この感覚だ!これだよォ!! こうでなきゃ戦ってる意味がねぇぇぇええッ!!」

 

「じゃあ潰れてろよォォォオオ!!!」

 

拳と拳、膝と肘、肩と肩、全身の全てをぶつけ合いながら、二人の巨獣が中庭を壊し尽くす。

一撃一撃が地震のような衝撃を撒き散らし、周囲の建造物が音を立てて崩れ落ちていく。

 

「「うおらああああああああああああああああああああ!!!」」

 

それはもはや一つの災害だった──

 

 

その頃──

 

死穢八斎會・正面玄関から進入したのはトガヒミコとトゥワイスのコンビだった。

 

「オーバーホール、ねぇ……早い者勝ちで殺っちゃいましょう。血を抜いてカッラカラにしてあげますね」

 

赤い舌を出し、甘い笑顔で喉元を裂く。

愛おしい相手──の血を奪う殺人鬼。

 

「俺の番だァ!!怖い、逃げよう!オレがやる!いやオレが出す!」

 

トゥワイスが叫びながら、仲間のコピーを量産。

マスキュラー、トガ、葬華、荼毘──増援が爆発的に現れ、構成員たちを蹂躙していく。

 

 

分岐路を曲がったのは、Mr.コンプレスと荼毘。

 

「さあ、観客諸君……ショータイムだ」

 

パチンと指を鳴らし、構成員を圧縮。

空間に投げた小さな玉の中には、人ひとり分の命が込められていた。

 

「……燃してぇな。くせぇヤツばっかだ」

 

荼毘がゆらりと歩き出す。

足元を滑るたびに、青い焔が蛇のように走る。

 

肌を焼き、骨を断つ。最後の一人が黒焦げになった瞬間、

彼はその死体を面倒そうに蹴り飛ばした。

 

「チッ、やっぱ狭いと不便だな」

 

 

西側から侵入したのは、スピナーとムーンフィッシュ。

 

「歯ァーッ!!ここ、隠し扉になってる!俺の歯が告げている!!歯ァー!」

 

「なあ……お前、狂い方のベクトル間違ってねぇ?」

 

「怒ってるからだ!!」

 

「そうっすか……」

 

血の匂いが立ち込める。

彼らが通過した後には、肉片と歯、赤黒い床。

それらを「死体」と呼べる者は、いなかった。

 

 

そして──

 

治崎廻(オーバーホール)は、研究室で報告を受けていた。

 

「……舐めた真似を。弱小組織がごときが」

 

静かに呟いたその声音には、怒気と殺意が滲んでいた。

 

──ここからが本番。

 

死穢八斎會は、残る全幹部戦力を持って、ヴィラン連盟を迎え撃つ。

 

それは、正面突破という名の復讐劇。

 

そして、極悪非道のヴィランたちによる、“血の饗宴”の幕開けだった──

 

 

マスキュラー vs 乱波肩動 ──決着──

 

拳と拳が、何度も何度も空気を裂き、地を砕いた。

その衝撃はまるで地鳴り。館全体が、幾度も大きく揺れ動く。

戦場と化した中庭は、もはや“ただの家”の姿をしていなかった。

 

荒れ果てた土煙の中、対峙する二人の巨体。

 

「ッハァ……ハァ……」

血まみれの拳を下ろす乱波肩動。

両腕には裂けた皮膚、割れた骨。肩は外れ、呼吸一つにすら苦悶が滲んでいた。

 

それでも、獣のように立ち続ける。

生存本能と、ただ一つの信念を武器に。

 

「やるな……随分タフじゃねぇか……」

マスキュラーが笑った。口元から血が垂れ、身体の至る所から筋繊維がはみ出ている。

だが──その筋肉こそが、彼の生命線。彼の武器。

 

「……こりゃ、長引きそうだなァ」

 

そう言いながら、彼はゆっくりと右手を自らの顔へ。

──義眼に、指先が触れた。

 

カチリ。

小さな起動音が、まるで運命のスイッチを押すように響く。

 

直後、彼の全身を赤黒い脈動が駆け巡った。

ドクン、と異物の鼓動。

まるで自分の心臓じゃないものが、内側で叫んでいるかのように。

 

その筋繊維が一斉に膨張。

腕を包むは黒い硬質の殻──まるで装甲。まるで砲弾。

 

「てめぇ!? それ──」

 

「見せてやるよ、俺の“走り”をなァ!!」

 

マスキュラーの脚が、地面を──砕いた。

初速、その一歩目で中庭に巨大なクレーターが生まれる。

瞬間的な脚力の爆発、加えて“筋繊維硬質化”による装甲突撃──

 

防御も、加速も、攻撃も。

そのすべてを、暴力に振った獣の走り。

 

ドゴオオオオォォォォッッ!!!

 

重力を無視した突進が、乱波肩動へ向かって一直線。

それはもはや戦いではない。破壊だ。

 

「──来いよ、バケモンがッ!!」

 

咆哮と共に、乱波の拳がうなる。

渾身のフック。空気を裂き、空間ごと叩き割る一撃が、真正面からマスキュラーに叩きつけられる。

 

だが──

 

「──がッ……!!?」

 

止まらない。

弾かれたのは、乱波の拳だった。

折れ、撓み、砕ける骨。

刹那、暴走する塊が彼の身体を正面から“轢いた”。

 

ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!

 

中庭の奥。壁。建物。

すべてを──突き破る。

轟音と共に二人の巨体が壁にめり込み、瓦礫と煙が辺りを包んだ。

 

──沈黙。

 

崩れた壁から、石くれと煙がパラパラと落ちる。

その中で、倒れているのは乱波肩動。意識はなく、両腕は折れ、胸部には激しい内出血が広がっていた。

 

だが、なおも──その顔に浮かぶのは、僅かな笑みだった。

 

「…はぁ……はぁ……ふん、俺の勝ちだ…」

 

血を吐きながら、マスキュラーが立ち上がる。

肩で息をしながらも、まだ戦えるとばかりに拳を握ったまま。

 

周囲を見渡すと、中庭は既に原型を留めていない。

 

「……ちっ、やり過ぎたか……」

 

彼の全身を包んでいた筋肉の外殻が、バキバキと音を立てて剥がれていく。

 

「あーー、しんど。ここまで暴れたら、スッキリしちまった……わりぃな、マグネ。仇は……他の奴が取るだろうよ」

 

ポスン、と仰向けに倒れ込むマスキュラー。

誰のためでもない。己の衝動のままに、暴れ、吠えて、倒れる。

 

その生き様に、誰かの笑い混じりの呆れ声が、どこか遠くで聞こえた気がした。

 

──あんたらしいわね、と。

 

 

屋敷内──混戦開始

 

その頃、屋敷内部では──

入中の“個性”により空間が迷路のように歪められ、侵入者たちはバラバラに分断されていた。

 

 

トゥワイス vs 玄野針(クロノスタシス)

 

「……ちぇー!トガちゃんと分断されちまったな! まぁ良いか!良くないだろ!心配だ!いやでもトガちゃん俺より強いし!そういう問題じゃない!いや、そういう問題だ!!トガちゃーん!おじさん寂しいぞぉ!」

 

──プスッ。

 

その瞬間、背後から静かに──玄野の髪が槍状に伸び、トゥワイスの身体を差し動きを“止める”。

 

「我々の拠点を襲っておいて……少数精鋭?それにしては隙だらけですね。まあ、死んでもらいましょうか」

 

サッとナイフを抜き、トゥワイスの首筋を──

 

──ザクリ、と切る。

 

──しかし。

 

「……なに?」

 

トゥワイスの体が、泥のように崩れ落ちた。

 

「そりゃ!」

 

バキン!!

 

「がァ!?!?」

 

直後、金的。容赦など存在しない。

 

さらに、変身した“マスキュラー”の姿で背後からチョークスリーパー。

絞め上げられ、玄野は数秒足掻いたのち、泡を吐いて気絶した。

 

──地味に勝利。

 

「やったね。余裕の勝利。……いやいや、ドライバーなかったら死んでた! 大丈夫だったさ! あー、怖かった……!」

 

腕時計型セルドライバー“個性:泥状化”

斬撃・打撃といった物理ダメージを自動で回避する反応型個性。さらに、手動発動で任意のタイミングでも発動が可能。

 

個性「二倍」との複合使用で、戦術の幅は爆発的に増大──の、はずだが、彼はまだ“自分自身”を複製できていない。

心の傷。トラウマ。

その殻を破れるのは、まだ先の話だ。

 

 

Mr.コンプレス vs 宝生・窃野・多部

 

「さぁ皆様、お待たせしました! 本日の目玉公演は──三馬鹿退場ショーとなっております!」

 

「はァ!? なにふざけてやがる!!」

「てめぇ! 舐めんなよ!!」

「喰い散らかしてやるッ!!」

 

帽子型セルドライバー「異空間」

無機物限定だが10kgまでなら入り口に入る大きさの物ならなんでも入る。

その分の重さは感じない

 

帽子の裏──そこから現れる無数のビー玉。

それが床を転がったと思えば、次の瞬間──

 

ドドドドドドドドドドド!!!

 

“重量制限ギリギリ”の巨大な岩が、続々と召喚され、戦場を埋め尽くす!

 

「ぎゃああ!?」

「う、動けねぇ!?」

「……た、食え……ん……!!」

 

連携も、技巧も、武器も─

質量の暴力の前では、何も意味をなさない。

 

「以上! 三名まとめて、圧殺でございます! ……はぁ。俺ももっとこう、爆発的な個性とか、欲しかったなぁ……」

 

呟くMr.コンプレス。

その手腕と戦術は超一級、しかし演出家としてのやや不満足気な様子で、カーテンコールを静かに迎えた。

 

……………

 

死穢八斎會本部・中層通路

 

荼毘(ベルト型セルドライバー:個性アセチレン生成+炎操作)vs 入中常衣(ミミック)

 

石畳の床を軋ませるのは、複数の足音。

空気は湿り、空間は沈黙の闇に包まれていた。

まるで、この通路そのものが──誰かを喰らう準備を整えているような雰囲気だった。

 

「よくもまぁ……ズカズカと入り込んできやがったな……!」

 

歪んだ声と同時に、通路の壁がぐにゃりと波打つ。

《個性・ミミック》。入中の手でこの空間そのものが“生きている”かのように変貌する。

壁、床、天井……そこらじゅうの石から、異形の人形兵が、ヌルリとにじみ出るように姿を現す。

 

──だが、その異形の“歓迎”に、応じるのは業火だった。

 

「へぇー。面白ぇ個性だな……」

 

蒼い瞳が細められ、笑みが閃く。

炎の男──荼毘が、静かにベルトのバックルへと指をかける。

 

カチリ──。

 

セルドライバー、起動。

途端、彼の身体から吹き上がった炎は、もはや“青い炎”などという常識の範疇には収まらない。

 

藍より青く、群青より深く、ただひたすらに蒼く。

 

「……あれは……!?」

 

入中が凍りつく。

ミミックの空間を操る直感が告げていた。これは、ただの炎じゃない。

 

「うちの本部を!てめェの焚火で汚させるかァ!!」

 

怒号と共に、壁一面から鋭利な石の槍が雨のように放たれる。だが。

 

「“焚火”?クク……これを見てもそう言えるか?」

 

荼毘の笑みが獣じみて歪む。

 

「この炎は……酸素なんざ関係ねぇ。“燃やしたいものだけ”を燃やす火だ」

 

──《個性:アセチレン生成》。

生み出した気体は、通常の燃焼とは桁違いの火力と温度を生む。

そしてその炎は、槍を一瞬で黒炭に変え、空間そのものを気化させていった。

 

「ちっ……そんな炎があるのかよ……これが……脳無し装備の力かよ……ッ!?」

 

恐怖を滲ませ、ミミックの本体が壁と一体化して逃げようとする──が、遅い。

 

「…時代遅れだな…今は、“セルドライバー”って言うんだぜ?」

 

天井から──荼毘の炎が滝のように降り注ぐ。

熱波に包まれ、入中の本体が炙り出される。

 

「──あ……あァ……ッ!!」

 

呼吸すら地獄。吸った空気が肺を焼き、内臓を焦がす。

焼ける悲鳴と共に、壁から彼の身体がズルズルと崩れ落ちた。

 

瞬殺。

 

「温度、燃費、持続性、操作性……どれを取っても不足なし」

 

荼毘は、焼け爛れた人形兵を背後に、ゆっくりと背を向けた。

 

「──これが、“高性能”ってやつだ」

 

蒼炎だけがなおも唸りをあげ、残骸を飲み込み続けていた。

 

……………

 

ムーンフェイス vs 天蓋 壁慈

 

(匕首型セルドライバー《個性:枝刃+成長促進》 )

 

 

 

「歯ぁーッ!! ……肉の感触じゃねェッ!! 邪魔すんなよ……歯ァーーーーッ!!」

鋭く甲高い金属音と共に、男は吠える。異様な包帯姿に、異様な声。まさに“異常”の化身。

 

「……うるさいヤツだな」

 

静かに言い放つのは、鉄壁の守護者・天蓋壁慈。

個性“バリア”――球体状の空間に形成された絶対防壁は、ムーンフェイスの“歯刃(しじん)”をことごとく弾き返し、削ることすら許さない。

 

物理を無効化し、砲撃さえも通さない。

空間を捩じ曲げるかのような密度と重厚感――まさしく“防御の完成形”だ。

 

だが、その完全性は同時に“機動”を捨てることと同義だった。

 

(攻められねぇ……)

 

銃を握る手が揺れる。だが、一瞬でもバリアを解けば……その瞬間、奴の刃に貫かれるのは明白だ。

 

「……厄介な」

「……厄介、だねェ」

 

超攻撃特化と完全防御――真逆の個性同士のにらみ合い。

 

均衡。沈黙。膠着。

 

……かと思われた、その刹那。

 

 

 

「あん?……」

ムーンフェイスの上半身を覆っていた包帯が、音を立ててほどける。

現れたのは、意外なほどに引き締まった肉体。筋繊維が刻まれた腹筋。

そして、彼の右手には黒く艶めくナイフ――いや、匕首。それは、セルドライバーによって生まれた“個性の塊”。

 

(……匕首?何を……?)

 

天蓋が訝しむその前で、

 

キキキ……キキキキキキィィィン!

 

匕首を自らの“歯刃”で切り刻む。刃を砕き、床に散らす。

 

「……何を……してる?」

 

「枝ッ枝ッ枝ッッ……歯ァァァ!!歯ッ!!歯ァッ!!歯ァァァァァッ!!!」

 

狂気の咆哮と共に――床に散らばった刃の欠片たちが、一斉に蠢き始めた。

 

無数の破片が芽を吹く。伸びる。枝分かれする。

まるで生物。まるで植物。

“成長促進”によって、破片の全てが“刃”となって増殖を始める。

 

「似たような手を……無駄だ!」

 

天蓋は再びバリアを張る。枝刃がぶつかり、折れ、散る。

 

……が。

 

「!?……増えて……る?」

 

折れた“刃”からさらに“刃”が分かれ、そこからまた刃が生え――

 

木々のように、血脈のように、金属の枝が爆発的に育ち続ける。

 

歯刃と枝刃、二種の個性が融合した多重攻撃が、隙間などないはずの球体防壁を徐々に食い破り始めた。

 

「グ……チィッ、これは……!?……てめェッ……!」

 

そして、

 

ピキ……ピキ……

 

鉄壁に、ヒビ。

 

「ま、待て……やめろ!!」

 

ピキピキピキピキ……!

 

──パキィンッ!!!

 

無数の刃が、バリアを突き破った。

 

その刹那、天蓋の肉体が、枝状の刃に貫かれていた。

 

既に意識は途絶えていた。

 

だが、ムーンフェイスは止まらない。

何度も、何度も、何度も……鋼鉄の枝を振るい、突き刺し続ける。

 

狂気の勝者が叫ぶ。

 

「枝(シ)ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいィィ……歯(ハ)ぁぁぁぁあああああアアアァァァァァァアアアアアァァッッ!!!!」

 

咆哮が地下に響き渡る―。

 

 

トガヒミコ vs 音本真&酒木泥泥

 

(左手袋型セルドライバー《個性:翔爪+吸血糸生成》 vs 音響&泥酔)

 

 

 

「お前の個性は……何だ!」

 

「血を吸った人に、変身できますっ」

 

刹那の問答。音本の問いに、トガは即答。

 

左手に装着された血管のように浮かぶ赤黒い手袋――その指先には、鋭利な五本の爪。

 

「つまり、その怪しい手袋でも血が吸えるってわけか……ウッ……飲みすぎた……」

 

「ふふ、フラフラしてるですぅ。ねぇ、いいなぁ……お酒、アタシも好きになったんだよ……だけどさぁ……」

 

次の瞬間。トガの笑顔が消える。

「不味くしたお前らの血は…飲んでやらないのです」

 

まるで黒い仮面。いや、顔全体に黒いペンキを塗りたくったかのような異様な変化。

 

2人がギョッとした次の瞬間には、腹部に爪が突き刺さっていた。

 

「ぐッ……!? な、いつの間に!」

 

“ミスディレクション”。

それは個性ではない――技術。

人間の“意識”を操り、敵の視線と警戒心を逸らす戦術。

 

「痛ッ……抜けねぇ!? おい、この爪……なんなんだよッ!!」

 

気付けば、トガの左手から伸びる赤黒い“糸”が、二人の腹と繋がっていた。

 

「このまま血を吸って、私に供給されるのです、普通は…ですけど」

 

その声が聞こえた方角に、2人は顔を向ける――が、誰もいない。

 

「ふざけんなぁ!さっさと外しやがれ」

 

トクントクンと血が吸われ続ける

 

「嫌です、私は飲まないので、垂れ流し続けて死んでください」

 

再び繰り返される行動。

すでに彼らは、トガの掌の上だった。

 

「クソッ……バカにしやがってッ……!」

 

怒りで酔いが醒める。だが冷静さを取り戻した時には――もう、遅い。

 

音本が叫ぶ

「テメェ何なんだ!どこにいやがる!」

 

 

「アタシ、トガヒミコ。今、あなた達の後ろにいるの…」

 

その言葉と共に、突如、腹の爪が引かれる。

 

身体が後ろに仰け反る。

 

首がさらけ出される形に――

 

「あッ……!!」

 

“その瞬間”を待っていた。

 

トガは二人の首に仕込んでおいた“糸”を、ただ――軽く、引いた。

 

ピンッと音を立てて、

 

スパン。

 

あまりにも軽く、簡単に。

その首は宙を舞った。

 

耐久力・重力・摩擦力・抵抗力・張力・垂直抗力、世の中には力が溢れている。“糸”で“人”を切るために人間の力はほとんど必要ない。

 

弄んでいたわけじゃない。

“最短距離で、最大の結果”を得るために。

完璧な計算と精密な殺意によって、二人は絡め取られ斬られた。

 

それだけだった。

 

命の灯が消えるその瞬間、視界の端に――三日月のように笑う少女の口元が見えた。

 

「ねぇ……アタシ……かあいい?」

 

――2人が聴いた最期の言葉

 

 

 

………………

 

――最奥、対峙の刻。

 

死柄木葬華 vs 治崎廻(オーバーホール)

 

 

広大な地下空間の扉が開かれる。

 

黒いコートがひらりと舞う。そこに立つのは、葬華。

 

「……でかい部屋。逃げ場が多そうで嫌いだわ」

 

その先にいたのは、スーツにフード付きのジャケットを着ているマスクが特徴的な男、治崎廻――オーバーホール。

そしてその傍らには、男たちが五名。いずれも武装を整え、今まさにどこかへと向かおうとしていた。

 

治崎は、振り返る。静かに、面倒そうにため息をつく。

 

「……こんな所まで追ってくるとはな。はた迷惑なヤツめ」

 

部下たちは揃って視線を向け、口々に下卑た笑みを浮かべた。

 

「若、あの女が襲撃者のリーダーですかい? 目つき悪ィっすね、性格も悪そうだ」

「肌が真っ白でヒビ入り……病人みてぇだ、気色悪ィ」

「髪がなァ……中途半端にウェーブしててよ、グレー。ダセェ」

「服装はキレイめだが、あのコートはねぇわ。センスがない」

「姿勢も悪ィな。猫背ってだけで、3割は減点だ」

 

言いたい放題の外見評価タイム。

 

葬華は片眉だけを上げ、口角をほんの少し吊り上げた。

 

「……あなたにお礼を言いたくて来たのよ、オーバーホール」

 

言葉の内容に似つかわしくない、軽やかな口調。

 

「ありがとう。あなたがマグ姉を殺してくれたおかげで、皆の絆が強くなった。やっぱり、共通の敵ってのはいいわよね。……っていうかさ」

 

言葉が切り替わる。

 

「部下の教育、どうなってんの?あんた、指導者として失格じゃない?」

 

殺気と毒がにじむ笑顔。

 

治崎の眉がわずかに動く。

 

「仇撃ちに、感謝……? ……頭がおかしいな、お前は。いや、そうでなければ俺の目が節穴だったってことになる。残念ながら、合っていたようだ。お前は“ダメ”だ。生きてれば、仲間たちは俺が使ってやる……」

 

「仲間よ。“部下”じゃない」

 

鋭く切り返す。声のトーンが、明確に変わる。

 

「ひとつ、お前の外見評価は俺も思う所がある。コイツらの評価は順当だ」

 

「……ったく、ふざけたこと言ってくれるじゃない。気ィ使ってこの程度で済ませてるんだけど?」

 

「つまり、“元”が悪い」

 

嘲るように睨み笑う治崎。

 

葬華の顔がぴくりと引きつる。

 

「……」

 

静寂。

 

ほんの一瞬。

 

「てめぇら――」

 

怒気が空間を切り裂く。

 

「許さん!!!!」

 

瞬間、闇が広がるよりも速く――

 

彼女の体が、低空すれすれをすり抜けて突撃した。

 

「お前らは下がっていろ」

 

「「「「「へい!」」」」」」

 

命じる治崎に、部下たちは忠実に従い下がる。

 

直後――

 

空間が閃く。

 

葬華の超低空ダッシュ。まるで羽ばたく刃だ。殺気と共に肉薄し、治崎の懐に潜り込む。

 

しかし――

 

「チッ……」

 

治崎は驚きもせず、五指に決して触れさせないように葬華の手を捌く。触れれば即死。その前提が、この戦いの緊張感をさらに高める。

 

だが葬華も負けていない。死角からの攻撃に対して肘で捌き、触れない絶妙な間合いを保ちながら反撃を入れる。

 

蹴り、投石、体術――そして再び、接近。

 

「ふーん、流石に強いね」

 

「ちッ……」

 

彼女の声が挑発と共に熱を帯びる。

 

治崎の額に汗。経験からくる焦燥が滲む。

 

一方の葬華は、心の中で考えていた。

 

(……戦い慣れてる。触れるだけで決まる勝負だ。なのに、それ以上に気になる“何か”がある。そこを突ければいいけど……)

 

呼吸を整え、髪留めを外す。

 

子供の手の形をしたアクセサリーが、カチャリと落ちる。

 

「――ジィジ、パパ、ママ、テンちゃん……使うね」

 

その瞬間、粒子が宙を舞う。

 

セルドライバー起動――

 

移植性死手《しで》型セルドライバー

 

葬華に付いていた8つの手が赤黒い粒子となり身体を覆い、8つの個性が展開される。

個性:

 

滞空

伸縮

形状変化

耐久性強化

自動修復

大翼一対

小翼一対

槍尻尾

 

変貌した姿は、死の化身。

 

黒い女性用のスーツとズボンに入っていない黒Yシャツに赤ネクタイ、腰に巻いたジャケットがスカートのように翻る。不気味に煌めく翼と槍の尻尾が、空間を支配する。

 

「テメェら来やがれ! 俺に命を預けろ!」

 

「「「「「へい! 喜んで!」」」」」

 

構成員たちは何の迷いもなく治崎の手に自らを差し出す。

 

「……何して……」

 

分解。再構築。

 

現れたのは――ケンタウルスのような化け物だった。

 

三対の脚、二対の長大な腕、その一対は弓と矢、もう一対は双剣。

声が六重に響く。

 

「ぐおおおぉぉぉぉお!!」

 

「うるさい」

 

――ズドン!!

 

轟音と共に、突進。

 

「でかいくせに速いわね」

 

バサァ!

 

翼を広げて急上昇。だが天井は低い。移動には限界がある。

 

矢が飛ぶ。地面を分解し、再構築して矢を生む。無尽蔵。

 

(あー……嫌いな奴、思い出すなァ)

 

接近戦では、相手の腕が4本。

 

刀を崩す――でも、残りの手で分解されれば終わりだ。

 

「さて、どうするか……」

 

空間を“握る”。

 

崩壊の個性が炸裂し、空間がざらざらと削れ轍となる。

 

床スレスレの飛行から急旋回!

 

トップスピードで斜めから突っ込む。

 

一刀は崩し、もう一対は間に合わない。

 

両者の手が――触れる。

 

「……!」

 

爆裂する崩壊と分解。

 

左腕を肘前まで、失う。

 

「痛ぅ……やるじゃない」

 

治崎の右腕は、肩からごっそり消えていた。

 

「ぐぅ……ッ!」

 

(ふふ……自動修復で衣装は直るけど、腕は……ね)

 

思わず、自分の姿に苦笑する。

 

(ちょっと中二病っぽいかも)

 

だが治崎はまだ、終わらない。

 

「舐めるなあああ!!」

 

大地に四つの手をつき、広範囲再構成。

 

鋭利な円錐が雨のように降る。

 

対する葬華は、三次元起動。

 

翼で跳ね、槍尻尾で旋回し、右手で空間を裂く。

 

が、決定打が届かない――

 

その時。

 

――ズバァッ!!!

 

「葬華…手を貸すぞ、極刀・十天・粲」

 

「「は?」」

 

2人の声が重なる。まさかのタイミングで。

 

治崎の首が、胴から滑り落ちる。

 

頭と身体、それぞれに刀痕。完璧な両断。

 

――決着。

 

やったのは、遠く200メートル先。

 

静かに2刀を納める、スピナー。

 

葬華はふわりと近寄った。

 

「礼はいらん、仲間だからな。……だが、すまんな、横入りした。仇は俺が取らせてもらった」

 

「……ふふ、言わないよ、他に言いたいことがあるし」

 

小さく微笑み、けれど口にしたのは別の言葉だった。

 

「なんだ?」

「……その間合い。もう刀じゃなくない?」

 

■睡魔と壊理ちゃん

 

指定されたポイントに、睡魔――すいちゃんはふわりと降り立つ。

 

彼女の瞳がふと思い返すのは、先ほどすれ違った、

小さくて震えるようにしていた女の子の姿だった。

 

「あの子出れたかなー」

 

名前は壊理って言ってた

 

治崎って男に、何度も何度も、血を抜かれたって。

その目に浮かんでいたのは、悲しみか、恐怖か――いや、諦めだったかもしれない。

 

「ターゲット、同じだし? どうせなら一緒に殺そっか?」

冗談半分、本気半分でそう誘ってみたけれど――

 

「嫌いだから殺すって、違うと思うの。私は……嫌な思いはしたくないけど、他の人にも、してほしくないの」

 

―― なにそれ?意味わかんない。

 

分かり合えない、そう思った。

むしろ、足手まとい。下手したら邪魔にすらなるタイプだ。

 

でも、年下っぽかったし。今はまあ、許してやる。

 

「私が来たの、あっちだから。まっすぐ行けば、出口あると思うよ」

 

指差した先、壊理は小さく頷いた。

 

「……ありがとう。あの、一緒に行かない?」

 

「はぁ? …言ったでしょ。私は“こっち”から来たの。目的が違う。一人で行って」

 

「うん、そう…だよね……ごめんね」

 

壊理は小さく、ほんとうに小さく頭を下げて、

ちょこちょこと歩き去っていった。

 

トテトテ……と、軽い足音が遠ざかる。

 

――振り返らなかった。

きっともう、二度と会うことはないし

 

「……変な子だったな」

 

そんな言葉を、ぽつりと吐き出して。

 

睡は、ゆっくりと両手を上げる。

 

「さて……そろそろ、放出しよっかな」

 

眠りの霧を、戦場へと解き放たんとしたその時。

 

スマホが震える。

 

「もしもし…… 終わった? ……ふーん、そっか。じゃあアジトで」

 

通信終了。

 

目的は、もう果たされたらしい。

 

「……はぁ、結局また何もできなかった。全っ然、スッキリしない……!」

 

バイバイ、マグ姉。

スピナーとソウカちゃんが、ちゃんと仇を取ってくれたって。

 

「……私も、死んだら誰か仇とってくれたり……するのかな」

 

そんな思考が浮かびかけた瞬間、

――自分で自分を殴るように、心が吠えた。

 

「いやいやいや! 何考えてんだ私!? ……クソッ、イライラしてきた」

 

次の瞬間にはガスマスクを外し、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……帰りに適当な家、寄ってくかぁ。発散、発散〜」

 

「寝寝(ねんねん)、殺(ころ)リ、なんてね」

 

………………

 

 

――壊理のその後。

 

迷子の帰り道。

 

「はー……はー……」

 

息を切らして、ただ歩く。

すいちゃんに教えてもらった出口の方向に向かっていた、はずだった。

 

だけど、道がねじ曲がっている。

知っているはずの場所なのに、知らない場所のようだった。

 

「……どうしよう」

 

俯いたその時――ふいに、声がかけられた。

 

「おや? ツノ持ちですか。こんにちわ、可愛らしい小鬼のお嬢さん。どうされました?」

 

「え……えぇと……あの……」

 

「ああ、私は黒霧と申します。もしかして、外に出たいのでしょうか? よろしければ、お連れしましょうか?」

 

「……はい。……外に……出たいです、お願いします」

 

とペコリと頭を下げる

 

「ふふ、素直で良い子ですね。……虫唾が走ります。…おっと、失礼致しました。では、ご機嫌よう」

 

「え……?」

 

その言葉を最後に、彼女は黒い霧に包まれた。

 

ズズズ……

 

気がつけば、ビルの細い隙間、路地裏にいた。

 

真っ直ぐ進んだ先には光が見える。

 

 

逃げれた事が分かった。

「やった!!」

しかし安心感は一瞬だけ。

 

「……でも……どこに行けばいいんだろう」

 

ふと考える

“あの人達”からは逃げられた。でも私はあそこしか知らない

 

まるで暗闇に引き戻されそうな感覚

出口の光が怖い、知らない所へ行く事への不安が募る

 

胸が痛くて、苦しくて、息が詰まりそうになった。

 

嫌なことばかり思い出す

 

どうして……怖いことをするの?

どうして……痛いことをするの?

どうして……酷いことをするの?

 

さっきの黒い人も、お姉さんも、あの人も――

みんな、みんな、言葉は優しくても、目が笑ってなかった。

 

言葉の端っこに刃があった。

 

笑いながら刺される。血を抜かれる。

 

クラクラしたら手を頭に置かれて真っ暗になる。

元に戻ったらまた針を刺される。

 

それに、みんな――どこかで、誰かを傷つけることを当たり前みたいに話していた。

 

『一緒に殺そうか?』

『虫唾が走ります』

 

壊理にはわからなかった。

 

なんで、誰かを“壊すこと”ばかり考えるの?

どうして“嫌な言葉”を選べるの?

なんで、痛いことが“当たり前”みたいにされてるの?

 

「……うぅ……うぅ……」

 

涙が止まらない。

声を出したくないのに、出る。

 

唇を噛んで、指で口をふさいでも、漏れてくる嗚咽。

 

叫んだらまた――

あの人みたいに、口を塞がれる。声を奪われる。

 

誰かに聞かれたら、また“お仕置き”される。

 

もう、無理。

膝の力が抜けて立っていられない

 

 

…お膝が痛い。

 

……このまま、いっそ消えてしまいたい

 

 

そんな言葉が形になりかけたとき――

 

「ねぇキミ、どうしたの? 大丈夫?」

 

――声がした。

 

 

濁っていなかった。

冷たくなかった。

歪んでいなかった。

 

ただただ優しかった。

 

壊理は、おそるおそる顔を上げて――

自然と、手が伸びていた。

 

出口から差し込む二つの光。緑の人と赤いマントの人

狭くて遠くて、行けないと思ってたら光から手が差し伸べられた

 

知らない“優しさ”が、――彼女に、向けられていた。

 

 

ドクターへのお土産話

 

転送が終わり、黒霧は静かに頭を下げた。

 

「ドクター。これが……お土産です」

 

モニターの奥から、渋い声。

 

『……まーた没個性ばっかりじゃのう。』

 

呆れ顔の殻木球大。

 

その手元に転送されたのは、血を流し、意識を失った複数の構成員たち。

 

「ですが、こちらはトゥワイス様から直接頂きました」

 

黒霧が少しだけ誇らしげに示す。

そこには――“クロノスタシス”、玄野針。

 

「……んー? おぉ!? これは有用な個性じゃ!保存状態も極めて良好じゃ!!」

 

顔を上げたドクターは、明らかに目を輝かせていた。

 

「……まともなのは、彼だけかー……」

 

黒霧はその後、こう回想する。

 

――肩を落とした殻木の姿は、その時ばかりは年齢相応に見えた、と。

 

 

■被害報告

 

◯月✖️日

 

死穢八斎會――壊滅。

 

もはや、その名を冠する意味すら失われた。

 

構成員は全員、消息を絶った。

確認できた遺体、残骸、熱に焼かれ、崩れ落ちた骨の断片――その全てを数えても、実際の被害には遠く及ばない。

 

駅から続く一本道。

拠点へと繋がるそのルート上に存在した家屋は、例外なく破壊されていた。

 

それはまるで――何かが通った“跡”のように。

 

到着したヒーロー、警察、消防は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

この惨状をどう受け止めればいいのか。誰も答えを持たず、ただ瓦礫の山から助けを求める声に応じるだけだった。

 

――戦いは、彼らが現れる“前”に終わっていた。

 

後に浮かび上がったのは、ただひとつの証言。

“ヴィラン連合による襲撃”という、あまりに漠然とした事実のみ。

 

その明らかになっている“事実”は三つのみ

 

一つ、反社会組織・死穢八斎會の壊滅。

二つ、地下で監禁・実験されていた少女の救出。

三つ――

 

……それだけなら、むしろ「良いことをしたのでは?」と誰かが口にしても不思議ではなかったかもしれない。

 

だが。

 

“周辺地域の破壊”と“無関係な市民への甚大な被害”は、あまりにも異常だった。

しかも、それがまるで――「意図的に被害を広げた」かのようにすら見える。

 

動機は不明。

その行動は支離滅裂で、まるで破滅を望むかのよう。

 

ただ一つ、確かに増えた“言葉”がある。

 

ヒーロー社会は、彼らをこう呼んだ。

その目的も、正義も、悪意すら曖昧で、ただ混沌を撒き散らす者たち――

 

――「灰濁(はいだく)」と。




書き終わってから思ったんだけど、
ふざけすぎたかな?(汗
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