中学生のころ、私はカタチと並んで座っていた。
自室のベッドの上。ポスッと座ったぬいぐるみが、こっちを見上げてくる。
「……月面に基地って……どういうこと?」
私は恐る恐る聞いた。
カタチは、ぬいぐるみのくせに妙に偉そうに咳払いを一つして――
「ふむ、よい質問ですね、作身」
と、小さな胸を張って言った。
「まず第一に。ボクは“君の個性”から生まれた存在ですが、それだけではありません。誕生から24時間後には、世界の全ネットワークにアクセスして、1年以内に戦争史・テクノロジー・兵器の全データを解析しました」
「……お、おう?」
「そして、“この先、何が起きても君を守れるように”と思い立ち、宇宙開発、資源調達、エネルギー自給、ナノマシンの生成、人工知能の自己最適化まで……全てを、月面に移設・構築しました」
「移したって……え、どうやってよ?」
「超小型自己複製型探査機を三機、ボクの衛星から軌道投下しました。その後は現地で自己増殖。10年かけて月面都市化に成功、現在は人口ゼロのAI管理体制です」
「意味不明だし、てか10年って何!? いつの間にそんなことしてたの!?」
「地球じゃこうはいきません。重力が1/6ですから、建設スピードが段違いです」
「……え、ちょっと待って。それって……私が知らない間に、世界征服できるレベルのことしてない……?」
「いやいや、それは無理です。“個性”というシステムが、あまりにも予測不能なので。未来視、現実改変、概念操作系など、理屈が通じない能力も存在し得ますし」
「う、うん……たしかにその辺は、神さまの領域って感じする……。でも、ちなみに、ちなみにだけど? 世界征服しようとしたら、勝率どのくらい?」
「3.254割です」
「3パーじゃなくて3割!? ヤバいじゃんそれ!!」
私は思わず立ち上がって叫びかけたが、カタチはきょとんとした顔で、ただ首を傾げていた。
……しばらく考えてみる。けど、あんまり深くは考えない。
「うーん……でもさ。困ってる人、助けたいし。戦うときに便利なら……いっか!」
「その通りです!」
「悪いことするつもりないし、カタチも勝手にしないし……いいよね?」
「はい。作身が“正義”を信じる限り、ボクもそれを信じますよ」
そう言ってカタチは、にこりと笑った。
ほんとにぬいぐるみみたいな、無垢で優しい笑顔だった。
――たぶん、普通のヒーロー志望の人なら、ここで背筋が凍るのかもしれない。
でも私は、別に怖くなかった。
だって、カタチは味方だし。
ヒーローになるんだし。
「よーし、じゃあ雄英受験に向けてがんばろー!」
「承知。ダウンロード開始します!」
その声と同時に、空間がキラキラと光り出す。
次の瞬間、何もなかったはずの空間から、“兵器”が現れた。
「そんなこともできるの!?」
驚きと笑顔がまざった声が、部屋に響く。
そしてこの時はまだ――
“その強さ”が、どれほどの意味を持つのかなんて。
私もカタチも、少しも分かっていなかった