ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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今回は文字数少な目です。
骨休め回のつもりで書きました。


第20話「ステージ・フォー・スマイル!〜文化祭ミッション〜」

 

「……というわけで、今年の雄英文化祭は開催する。詳細はプリントを配るが、例年通り、クラス単位の出し物が基本だ」

 

教室に鳴り響いたのは、いつもの無駄のない相澤先生の低音。けれどその言葉が、教室内に一瞬、爆発にも似たざわめきを生んだ。

 

「やったあああ!文化祭だ文化祭だーっ!!」

「まじ!?中止になってない!?事件あったのに!?」

「っていうか、あの八斎會と阿賀月のあとで!?雄英、本気ぃ!?」

 

爆発の中心はやはり―――芦戸三奈。彼女のエネルギーが教室のテンションを一段、いや二段ほど押し上げた。

 

だが、その喧騒から距離を置いた場所。職員室近くの廊下の窓際で、たったひとり座り込んでノートをめくっていたのが、私――型形作身だった。

 

秋の風が校舎を包む頃、雄英高校では文化祭の準備が始まっている。ファンファーレが鳴るようにざわめく校内の中、私は「たった一人の2年生」として胸を高鳴らせていた。

 

「相澤先生、文化祭、楽しみです!」

 

A組の教室から教員室へ向かう相澤先生に伝える

「はいはい、今年も期待しているよ」

 

そんな中、私は決意を胸にノートを開く。ここから“アイドルヒーローショー”を作り上げる――夢みたいな、自分だけのステージだ。そして隣に浮かぶのが、私の個性「カタチ」。

カタチは膝下サイズの、ぬいぐるみのようなマスコットだが、知性と意志と個性がある。

 

「今日はまずテーマを固めよう!」

ふわりと浮いて、カタチが元気に声をかける。

「そうね…“アイドルヒーロー”って響きに合う派手な演出したいなぁ!」

カタチはウインクひとつで同意を示す。

「まずは“笑顔”を届けるショーにしよう。特に、壊理ちゃんみたいな子に、ヒーローの笑顔を届けたいんだ」

 

緑谷くんとミリオ先輩が助けた白髪で小柄な壊理ちゃん。八斎會事件で傷ついた少女を見たとき、私の胸は痛かった。その心を私のショーで少しでも温められたらと思う。

 

 

1年A組のクラス会議

 

ある日の昼休み、ふと…気になって1年A組の教室を覗いた。

爆豪が焼きそばパン案をぶち上げ、麗日がダンスショーを提案すると、教室は大騒ぎしていた。

 

「型形先輩、何やってるんですか?」

耳郎が近づいてくる。

「あ、耳郎ちゃん、A組の皆は何するのかなって思ってさー」

 

「あはは…皆自分の意見ばっかり出すから全然決まんなくて困ってます」

と頬をぽりぽり掻いて視線が泳いでいる

 

「えぇー、そんな感じになるのも良いなぁ!私は1人だから『コレ』って決めれる強みはあるけど、そうやって皆でって感じないから羨ましいなぁ〜」

 

「あ、すいません!…あの、先輩も一緒にどうですか!?」

と誘ってくれるが私は私でやりたい事があるからと丁重にお断りさせてもらった。

「誘ってくれてありがとう!でもごめんね、実はやりたい事が決まっててさ、皆にも楽しんでほしいから内緒で進めてるんだ!…それに謝んなくていいよ、ごめんね、気を使わせて」

 

「あ!そうだったんですね、そんな!こちらこそ、すいません」

 

「いえいえ、こちらこそ!」

 

「「いえいえ!」」

と、2人して相手にブンブンと手を振って恐縮し合うやり取りも、そこそこに…皆に挨拶して軽く話して1年A組を後にした

 

 

放課後、私は校舎の片隅の空き教室に“立てこもって”いた。

名付けて《アイドルショー準備室》。

室内はもう、軽い災害現場だ。仮設スピーカーのコードが床を這い、LEDライトの山、ダンボール製のミラーボールは半分崩壊している。手作りのステージマットは巻かれたまま隅に置かれ、まるで臨戦態勢の秘密基地。

 

「テスト…ワン、ツー…」

カメラに向かって歌い、即興のステップを踏む。

「うわっ、ターン速すぎっ」

ターンの勢いでカメラ三脚ががったーんと倒れ、私は慌てて飛びついた。

「うっ…大丈夫かなこれ……あ、また録画止まってるし……!」

 

その時、背後でふわりと浮かぶ気配。

「あー!作身、また一人で勝手にリハやってましたね~」

「まったく、機材の扱いが素人!」

「記録用カメラはもっと大事に!」

 

――そう。

私の個性〈カタチ〉は、私から生まれた“マスコット”

そしてカタチの個性は増殖、この準備室には十体近い〈カタチ〉がひしめいている。

 

しかも全員喋る。

 

「ミラーボール班、進捗どう?」

私が訊ねると、工具を持った作業用カタチ(ゴーグル付き)が誇らしげにポーズを決める。

「回転テスト成功!ただし耐久3分!」

「短いなぁ!」

「パーティ感は出てるよ~」

「でも回しすぎると火花出ましたな」

「こわっ!ダンボールだよね、それ!?」

 

その横で衣装班のカタチたちは、カラフルな布を並べながら話し合っている。

「白とピンクを基調に、銀色ラインでキラキラ感演出!」

「イヤモニは流星型でどう…思う?」

「サイリウムマフラー、夜でも反射バッチリ!」

 

「おーけい。じゃあステージ班、照明の連動は――」

私がそう言いかけた時、天井付近に設置された試験用LEDが急にパッと点滅し、ピカピカ点滅が始まった。

「わあっ、タイミングまだ早い!」

「すまぬー、トリガー間違えたー!」

 

ステージ中央にいる司会者風カタチがピンと背筋を伸ばし、棒読みで宣言する。

「リハーサル第27回!ただいまをもちまして、再開いたしまーす!」

「いやまだ回収してないのよ!スモーク出すなぁぁ!」

 

煙の装置を持ち出した演出担当カタチが、にこにこしながら煙のスイッチを入れる。

ぶおぉぉぉん……

「うっわ、これ視界ゼロ!」

「演出効果“霧中のマスコーダー”狙いです」

「今は準備中ぅぅ!!」

 

――私の個性“カタチ”は、知能と自律行動力が高い。

そして全員が自由すぎる。

「だめだこれ、指揮系統ひとつにまとめないとカオスになる…!」

 

私は咳き込みながらホワイトボードに手を伸ばし、即席で指揮系統図を描きはじめた。

「衣装班、音響班、照明班、演出班、機材管理班、食事班、癒し班は保留…」

「癒し班!?必要なの?」

「心の栄養は重要ですよ!」

「みかんゼリーを用意しました!」

「好き!」

 

笑い声と、どこかカチャカチャという音が混ざる準備室。

個性で生まれた“分身”たちと過ごすこの時間が、私はなんだか楽しくてたまらない。

 

「ねぇ、カタチ――」

「なんだい?」

「ありがとう。私、一人じゃこの準備、ここまでできなかった」

「ふふふ。全部、作身の“やってみたい”が僕らの原動力だからねー」

 

私は天井を見上げた。ぶら下がった手作りのミラーボールがゆっくり揺れて、光がちらちらと教室に降り注いでいた。

「――よし、いける。アイドルヒーロー・マスコーダー!きっと本番で輝ける」

「もちろんだよ!僕たちが照らしてあげる!」

 

スモークがうっすら漂う準備室で、私は拳をぐっと握った。

たくさんの“カタチ”に囲まれながら、心はひとつ。

 

 

そんな風に練習と準備が進んで数日、ふとした瞬間に小さな喧騒が広がる。その日はA組の出し物用のステージ作成の依頼があってお手伝いに行っていた。

「壊理ちゃんが…居住艦から来てくれるって」

誰かがつぶやいた。

 

詳しく聞くと居住艦エグゾダスに住む被災者の少年少女たちが観に来るという。

 

その言葉に一瞬、胸がキュッと苦しくなる。

 

「カタチ…私…ここで笑顔を作ろうと思っていたのに」

涙がぽろりこぼれた。

カタチがそっと私の手に寄ってきて、そっと囁く。

「作身、いいんだよ。君のショーは、“届けたい”っていうやさしさと覚悟でできてるから」

その言葉を胸に、私は改めて拳を握った。

「そうだね…私は壊理ちゃんに“ヒーローは笑顔で守る存在なんだ”って伝えたい」

 

 

文化祭当日―開演前

 

文化祭当日。校庭ステージにフルセットが組まれて、観客席には1年A組の生徒や外部来場者、有名なプロヒーローや報道陣が詰めかけている。

 

私の前の1年A組の出し物は凄かった。ダンス+バンド+照明演出+“個性”による舞台効果を組み合わせた、総合エンタメライブ。

クラスメイトの心を支えるため、また学校全体の雰囲気を明るくするために計画したらしい

 

耳郎響香のボーカル

爆豪勝己のドラム

八百万百のキーボード

上鳴電気のギター

常闇踏陰のベースを中心に

 

個性を活かした演出が満載で『Hero too』そのものが神曲ながら、皆のダンスと何故かちょっと傷付いている緑谷くんと青山くんのレーザー演出は圧巻だった。

 

 

…………

 

 

「マスコーダー!準備OK?」

声援が遠くから聞こえ、私はステージ袖で深呼吸する。

カタチが隣で落ち着かせるように微笑む。

 

正直気圧された。自信無くなりそう…

 

「うーー!緊張してきた!って言うかA組の皆、凄すぎだよ!!」

 

でも

 

「すごく感動しちゃった!!あの曲CD出たら絶対買うわ!すっごく楽しかった。うん…私もA組の皆に負けてらんないね“心”で届けてくる」

小さくうなずいたカタチは、ふわりと光をまとった。

 

照明が落ちた体育館に、かすかなスモークが立ち込める。

 

その薄煙の向こう、ピンクと銀の光が点滅を始める。

やがて、ふわりふわりと空中を舞う複数の“カタチ”たちが、ステージの周囲を優しく彩った。

 

「みんな〜!こんにちはっ!」

 

明るい声が響く。場内がざわりと揺れる。

 

さっきまで1年A組のバンドパフォーマンスで熱狂していた会場に、新たな熱がじんわりと注ぎ込まれる。

 

「わたしの名前は……今日の…私はアイドルヒーロー・マスコーダー!

ほんのすこし、みんなの心に寄り添わせてねっ!」

 

アップテンポな音楽が始まり、LEDのきらめきが空間にリズムを刻む。

天井から吊るされた手作りミラーボールがダンボールとは思えない反射を放ち、ステージの隅々まで幻想的に照らし出す。

 

ステージ幕が上がる。歓声のなか、私は歌い出す。

 

「私達を見て!私達の歌を聞いて!私達の曲

『Hero Within My Light(光の中のヒーロー)』」

 

「We want to help you find your way (私達はあなたが自分の道を見つける助けをしたいの)

To guard your light—so let us stay!(守るの!守らせて!)

Your smile, your voice, they give us might (あなたの笑顔が力になるの)

 

リズムと歌に合わせて空中を舞う“カタチ”たちは、私の想いに応えるように、演出と演技でステージを盛り上げていく。

そして私は、アイドルヒーロー・マスコーダーとして、歌って踊って、ただ全力で笑っていた。

 

ほんの数分前まで、控室で緊張しすぎて水をがぶ飲みしていた私。

その私が今、ステージ中央で堂々とウィンクし、華麗にターンを決めているなんて。

 

We dream of futures bathed in light(皆が照らされる未来が見たいの!)

 

“カタチ”たちが音にあわせてピカーッと輝き、客席からどっと歓声が上がった。

 

So let us see that world with you…(一緒に見ようよ…)

 

 

まだまだ終わらない

 

私は私の言葉を紡ぐ

Because…I’ll go ahead—so you’ll make it through!(だって!私が行くから大丈夫!)

 

 

「これが、わたし!!

みんなと一緒に笑顔になれるヒーロー――『マスコーダー』!」

 

 

誰が何を言おうと関係ない!今日のステージは大成功だ!

 

 

 

 

「……すごい」

 

客席の最前列。ミリオの隣で座っていた壊理が、席を立ってキラキラした目でミリオに話しかける

 

「いっぱいキラキラしてる。お兄さん達のすっごい楽しかった!目の前が明るくなったの!そしたらお姉さんのはもっともっと頑張れるって思えたの。走り出しそうになっちゃった!ねぇ、おにぃさん!ヒーローって凄いね」

 

「うん…うん!そうだね!人ってすごいんだよ、優しいんだよ。もっともっと輝けるんだよ!壊理ちゃん!」

ミリオが本当に嬉しそうにまた泣き笑う

 

ピンクと銀の光をまとった“カタチ”の一体が、宙をふわりと飛んできて、壊理の膝の上にそっと降りた。

まるでぬいぐるみのように柔らかく、ほんのりあたたかく、ちょっとだけくすぐったい。

 

「こんにちは、壊理ちゃん」

 

「……!」

 

「ボクたちは、“やさしい気持ち”でうごくんだ。

だからね、怖くないよ。びっくりさせちゃったら、ごめんね」

 

壊理は目を見開いたまま、ゆっくりとその小さな存在を両手で包み込む。

 

「ヒーローって…あんなに楽しそうで、やさしくて……安心する人たちなんだね!」

 

ミリオがにっこり笑って、頷く。

 

「でしょ? あれが“マスコーダー”

僕の知ってる、最高のヒーローの一人なんだ」

 

 

終盤に差し掛かり音楽が盛り上がる。ステージ上では“カタチ”たちが次々にフォーメーションを変えながら、光と音を連動させていく。

 

「笑ってくれるなら、どんなステージにだって飛び込むよ!」

 

サビに合わせてジャンプ。私は体育館の天井ギリギリまで舞い上がり、

くるりと空中ターンして、ウィンクとともにハート型のスモークを描いた。

 

「これが――ヒーロー・マスコーダーっ!」

 

どっと湧き上がる拍手と歓声。

体育館の天井には、まだハートのスモークがゆらゆらと漂っていた。

 

 

ショーが終わると、スタンディングオベーションが巻き起こった。私は息を切らしながら、カタチと肩を並べて深く礼をする。

 

客席からは壊理ちゃんが立ち上がり、大きく手を振る。私は胸がいっぱいになった。

 

 

ステージ裏ではA組だけじゃなくB組の皆も集まっていた。

 

芦戸が笑顔で言った。

「型形先輩最高だったよ!」

上鳴も目を輝かせていた。

「マジで感動したっす!」

 

耳郎ちゃんが常闇くんが緑谷くんが青山くんが…

皆…みんなステージを褒めてくれた。

 

「皆…ありがとう!!」

カタチはふわっと手を伸ばすと、私の肩に寄り添った。

 

「これで壊理ちゃん達にも笑顔が届けられたはずだよ」

私はカタチを抱き寄せる。

「うん。ありがとう」

 

もう、ありがとうがいっぱいだった。

こんなに嬉しい事はなかった。

 

 

 

 

 

その夜、寮での打ち上げ

 

 

「じゃあ、文化祭お疲れ様でしたー! かんぱーい!!」

 

乾杯の音頭とともに、紙コップが鳴り合う。教室から戻ったA組メンバーに加え、B組の何人か、サポート科の子、後夜祭だけ来た一般科の友人たちも混ざって、いつもの寮の食堂が、まるで夏祭りのような賑わいになっていた。

 

「すげえな、今日だけで三回目の打ち上げじゃねえ?」

「いや、もういっそ明日から文化祭四日目でよくね?」

 

「ヤバッ! 上鳴のテンション、今日ずっとMAXじゃね?」

 

「てか上鳴、それおかわり何杯目?」

 

「ヒーローの胃袋ナメんなよ?」

 

「飲み物だろうが」

 

──喧騒の中心にいるのは、やっぱりいつものメンツだ。

 

上鳴がタコさんウインナーを串ごとくわえながら、爆豪に「キモい食い方すんな!」と突っ込まれ、芦戸と瀬呂が横から「焼きそばー!」「唐揚げ追加くださーい!」と叫んでいる。耳郎は自作のスピーカーで音楽を流しながら、「あら、素敵な音楽ですわね!もう少しボリューム調整されればもっと良いですわね」と八百万に柔らかく制され、飯田はいつものように注意をしてはスルーされる。

 

でも共通している事があった。

それは皆の顔には“やりきった”っていう達成感があったこと。

 

「おつかれっしたー! いやあB組の演劇、マジでよかったすよ!」

「あっちも大成功だったよね!」

 

B組の拳藤と鉄哲が到着して、賑やかさはさらに二倍。拳藤は拳をぶつけ合うノリで上鳴と再会の握手をし、鉄哲は「B組も負けてられねえからな!」とドリンクバーで三杯目のりんごジュースを飲み干していた。

 

「いやいや、ほんと今日はA組と型形先輩に持ってかれたわ〜!」

「あのライブ、反則だよ!」

「型形先輩のアイドルショー本当に最高でした!」

 

いつの間にかB組女子も集まっていて、特に演出好きな骨抜や小森が、ステージについて熱心に語っていた。

 

「ありがとー実は凝ってる部分があって……おーい?──」

と小さく挙手しようとした型形の声は、ザワついた空間にかき消されたが、隣にいた麗日がすっと背中をポンと押してくれた。

 

「作身先輩もっと大声張らんとあかんわ」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

照れくさそうに笑いながら、型形はそっとドリンクに口をつけた。

 

その肩のあたりで、カタチたちが勝手に踊り出す。

 

「カタチ’sナイトショー、はじまるよ〜〜!」

「おかわりまだ〜? 唐揚げ10カタチ分〜!」

 

「うるさいっつってんだろーが!」

爆豪が湯呑を片手に投げてきたが、カタチはするりとそれを避けてテーブルの上でソーラン節を踊っていた。

 

──わちゃわちゃしてる。

でも、誰もが笑ってた。

 

 

 

…もっと注意深く周りを見るとそれぞれが本当に楽しそうにしている姿が見えた

 

緑谷出久 × 麗日お茶子

 

「あっ、出久くん! おかわり行くなら、私のも──」

 

「あ、う、うん、任せて! 麦茶と、あったかいココア……だったよね!」

 

「わっ、覚えててくれたん!?」

 

カップを両手で受け取るお茶子の顔が、ふわっと緩んだ。

 

「ライブも、ショーも……すごくよかったよね」

 

「うん……ほんとに。皆でやり切れたって感じがするよ」

 

目線の先には、まだ賑わいの中心でじゃれあってる仲間たちの姿があった。爆豪と上鳴がわちゃわちゃやっていて、耳郎が苦笑いしながら音量を下げている。

 

「作身先輩も、ほんまにすごかったなあ……」

 

「うん。あの笑顔、壊理ちゃんに届いてたよ」

 

一拍の沈黙のあと、麗日がふと、ちょっとだけ恥ずかしそうに視線を逸らしてつぶやいた。

 

「私も、もっと……人を笑顔にできるヒーローになりたいなって、ちょっと思った」

 

「お茶子さんは、もうなれてると思うよ。僕、あの日、体育祭で助けられたから……」

 

「えっ……!」

 

お互い、ちょっと赤くなって、気まずく笑う。

 

「──あ、あの、そろそろ戻ろっか!? みんな待ってるかもだし!」

 

「う、うんっ!」

 

慌てて歩き出す二人。その背中越しに、カタチが何匹か浮かんでいた。

 

「青春〜〜〜〜〜〜!!」

「麦茶こぼしても気にしない二人ぃ〜〜〜〜!」

 

「「わあああああもうやめてええええ!!!」」(※両名の叫び)

 

 

峰田実 × 八百万百

 

「いや〜〜〜今日の文化祭、マジで眼福でしたわ! あっちもこっちも女子のコスプレ最高!」

 

「……峰田さん?」

 

「お、おおお八百万嬢!? おれべつにやましいこととかじゃなくてですね!? 芸術鑑賞的な!? フォーマルなっ! ハイセンスなっ!!」

 

言い訳が長すぎてすでにアウトだった。

 

八百万は、ため息をつきながらも、手にした紙皿の唐揚げを差し出す。

 

「まぁ……文化祭を盛り上げる気持ちは、否定しませんわ。貴方なりのテンションで貢献していたのは、確かですから」

 

「えっ……!?」

 

「ただし、度が過ぎたら……」

 

手のひらから現れたのは、巨大なハリセン。

 

「即・粛清、ですわよ?」

 

「ひぃぃぃぃ!! ありがたくもこわいぃぃ!!」

 

「フフ、少しは反省なさったようで何よりですわ」

 

意外とノリノリな八百万。その横で、峰田はぐったりしながらも唐揚げを握りしめていた。

 

「でも、今日のアイドルショー……なんか、泣きそうになっちまってさ……」

 

「え……峰田さんが?」

 

「……壊理ちゃん、笑ってたじゃん。なんかさ、そういうの、ズルいわ……」

 

その言葉に、八百万はちょっとだけ驚いて──そして、ふわりと笑った。

 

「峰田さん、たまには……いいことを仰いますのね」

 

「い、今の! 今の録音して誰かに証人に──」

 

「やっぱり消しますわね」

 

「ぎゃああああ!!」

 

 

誰かが笑い、誰かが騒ぎ、誰かが少しだけ本音をこぼして。

その全部が、“ヒーロー”になるまでの、かけがえのない日々だった。

 

 

爆豪勝己 × 轟焦凍

 

寮の屋上に出ると、爆豪が手すりにもたれて夜空を見ていた。

轟はその隣に立つ。何も言わず、しばらく沈黙。

 

「……うるせえな、中」

 

と、爆豪がぽつりと言う。

 

「賑わってるな。まあ、いいことだけど」

 

「お前も逃げてきた口か?」

 

「別に。風が気持ちよかったから」

 

「ふん」

 

また沈黙。

 

「……楽しかったな」

 

「あん?」

 

「文化祭。こういうの、悪くないと思っただけだ」

 

爆豪は鼻を鳴らす。

 

「楽しんでたようには見えなかったけどな」

 

「表に出すのが下手なんだよ、俺は」

 

「知っとるわ!!だから仮免試験ん時ケンカになったんじゃねぇか」

 

「あぁ…まさか阿賀月事件で誤解が解けるとは思わなかった」

 

「ふん、あんだけ一緒戦ってりゃ分かるわ、クソ不器用が!!」

 

 

小さな間。

 

「お前、いい顔してたよ。ステージの時」

 

「……見てんじゃねえよ、気持ち悪ィ」

 

「素直じゃないな」

 

「ち!お前に言われたかねぇんだよ」

 

小さく、吹き出すような音がした。どちらのものかはわからない。

だが、空気はどこか穏やかだった。

 

 

──文化祭の夜は、まだまだ終わらない。




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