ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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やっと書けました。


第23話「抜ける羽根・堕ちない翼」

どれだけ羽ばたいても、届かない空がある。

 

仮面をかぶった時、俺の羽は抜け始めた。

 

公安の室内。冷たい蛍光灯の下で、俺は“ヒーロー”を一度、脱いだ。

 

「お前にしかできない任務だ、ホークス、全勢力を騙せ。ヴィラン連盟に食い込み崩壊させろ」

 

任務だった

それがどれだけ“心”を削るかは分かっているつもりだ

俺は速い。だから、泥も血も、先にかぶる役目

 

 

潜入の入り口は“荼毘”

焼けるような視線、警戒心むき出しの殺意、その火をくぐり抜けた

 

俺は笑う

明るく、軽薄でバカみたいに“良い悪人”を装って、敵の心に潜る

 

「やっぱ死柄木さんって、カリスマあるよね。マジで世界変えるつもりなんでしょ?着いていきたいなぁ」

 

内心では、声を殺して吐きそうになる

――羽を抜くように、少しずつ、心を削っていく

 

公安に報告する情報は、言葉一つ選び間違えたら死ぬ緊張の連続だ

 

「なぁホークス。お前、本当にこっち側か?」

荼毘は直接的に疑ってきた

 

「おいおい、疑うのか?疑うべきだろ!情報いっぱいくれたぜ!?渡しても問題ないヤツだったんじゃね?助かった事もいっぱいあったさ!信用を得るためだ!」

トゥワイスは信用しているのか、していないのか…

 

「好きにすれば?裏切ったら崩すだけだよ」

死柄木は方向性を決めている…覚悟とも言える…やっぱりコイツが1番厄介だ

 

「裏切らないさ、本当にこっち側だよ。だから信用を得たいんだよね。俺はね…ヒーローなんて信用してないのさ」

嘘を吐き慣れていてよかった。

そう思った時、俺は初めて、自分の“翼”が少しずつ重くなっていることに気づいた。

 

……………

 

 

大きな戦いがあった

 

敵組織は異能解放軍

泥花市での戦闘に強制参加。なるべく早く終わらせて被害を抑制しようと思っていた…なのに…この規模の“戦争”にしては恐ろしく早く終わった

 

灰濁メンバーは誰も彼もヤバすぎる。最初は死柄木葬華を始末すればなんとかなるかと思った。でも違った、一人ひとりが強すぎる。しかもどこから手に入れたのか200人以上の連盟メンバーを集めただけでなくセルドライバーも渡していた。しかもまだ余っているときた…

 

戦争後は目を覆いたくなるような被害の大きさだった。11万人いた泥花市の人口は9万まで減っていた…こんな短時間で2万人が死亡?ふざけるな!!しかもMr.コンプレスが連れて来た“思想家”や“主義者”は全滅…一人も残っていない…そんな事があるのか?と疑いたくなる。

新ヴィラン連盟の加入者は180名程生き残ったそうだ…恐ろしく死亡率が低い。やはりセルドライバーの恩恵は大きい

 

更に事態を悪くさせたことがある。ギガントマキアが合流した事だ。

彼がいなかったのに、この被害……今後、どうなるのか想像もつかない

 

この戦いで実力を示した死柄木にリ・デストロは膝を折り、“ヴィラン連盟”は新たな姿――SVP社へと進化した。

 

よくみてほしい…こんなのただの暴力だ…けれど、そんな彼らを――「救済者」と見る連中が、世にはごまんといる。

 

―もう…これは―ただの“潜入”じゃない。

国家の存続と、ヒーローという虚像の終わりが懸かった、地獄への片道切符だ。

 

「ヒーロー…と言うか、社会は崩れるよ。私達が好きな事やってれば自然とね」

 

その通りだと思う

 

死柄木の言葉は静かだ。

そこに怯えも、憤りも、迷いもなく…それが何より、怖かった。

 

 

羽は、少しずつ抜け落ちる。

でも、俺はそれ飛ぶ。飛び続ける。

 

「この戦争、勝たなきゃいけない。どれだけ傷ついても」

公安に情報を届ける瞬間まで――

 

たとえ、世界中を騙しても。

たとえ、自分自身を信じられなくなっても

 

その呟きだけが、今も心の奥に刺さってる。

 

 

翼はまだ…ある

俺は信じたい。

 

こんな曇天にも――

“ヒーロー”はいるってことを

 

追い討ちを掛けるかのように

 

暗いニュースは、唐突に始まる

 

「速報です。先日発生した泥花市での戦闘において、ヴィラン連盟と見られる武装集団と異能解放軍が激突。地獄絵図と化した現地の映像が入っております」

 

ワイドショーの画面に、鮮明な映像が映し出された。

 

爆煙と瓦礫、空を裂く咆哮。巨大な氷塊と火柱。信じられない規模の破壊の中に――赤い羽根が、あった。

 

《映像内:赤い翼の男が、死柄木葬華や荼毘と共に突撃している様子。躊躇いなく解放軍兵士を攻撃しているように見える。》

 

「えっ……これ、ホークスじゃないか?」

「嘘でしょ……?あのホークスが……ヴィラン側?」

「どうして……あんな……」

 

ネットは即座に炎上した。

 

《#ホークス裏切り #ヒーローはヴィランだった #偽善の翼》

 

「彼はヒーローを騙っていた裏切り者だった」

「信用してたのに……最低だ」

「こんな奴が子供の憧れだったなんて……信じられない」

 

感情は、事実よりも早く世界を駆けた。

 

ホークスの元に届いたのは、ニュースではなく――社会そのものの拒絶だった。

 

 

 

「やられた!…これで俺はもう…ヒーローじゃない」

 

公安の一室で、ホークスはモニター越しに自分の姿を見る。

ヴィランのように、笑って戦っている自分。冷酷に敵を斬っているように映るその一瞬を、編集された報道が何度も何度も繰り返していた。

 

「これも……計算のうち、か?」

 

彼は、誰にともなく呟き

 

ドサっと

 

力なくソファーに座る。

予想してた事が現実になっただけ

だが、苦味は拭えない。

 

任務のために“信頼”を切り捨てた。

そのツケが、今、燃える羽のように全身を焦がしている。

 

「ホークス。状況は把握しているな」

 

公安の男が無機質に言う。

 

「世論は激しく君を非難している。“処分”の声もある。ただし、潜入の継続は必要不可欠と上層部は判断している」

 

「つまり、俺は“表では最低最悪なヴィラン”として“裏でスパイ”を続けろってことか」

 

「そういうことだ。“表の英雄”はここで終わる。君には、“裏の英雄”として動いてもらう」

 

ヒーローの名前が、焼かれていく。

 

“ホークス”はもう、子供たちの憧れではない。

社会の敵、嘘つき、裏切り者――

 

それが、今の俺の“顔”。

 

だけど。

 

「……いいよ、それでも」

 

「………すまない、“ヒーロー・ホークス”…君に心からの謝罪と…感謝を」

公安の男は頭を下げ、拳から血が出るほど握りしめていた。

無機質な男は職務をこなすため“無機質”になるしかなかったのだろう

 

(お互い…辛い立場っすよね)

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

「俺以外にもヒーローは沢山いる。渡す情報を上手く使って下さい。今こそ“本物ヒーロー”が必要なんですから」

 

炎上も、罵倒も、信用の崩壊も。

 

全部、羽に背負ってみせる。

 

「この翼は……まだ、飛べる」

 

覚悟を決めた。それだけなのに何故だろう、不思議と軽い気持ちになった。誰も知らない翼でもいい。

 

 

その果てに

 

 

「“ヒーローが暇になる時代”が来るのなら…」

 

それが、たった一つの――

 

俺の望みだ。

 

 

 

そして…ホークスはファイバーヒーローのベストジーニストを殺害し、その骸をヴィラン連盟に差し出したと報道され、収集がつかないほど炎上。

 

だが、その犠牲により彼は貴重な情報を入手できる立場となる

 

SVP社の主要拠点が「群訝山荘」にあると突き止め、数千人規模の戦闘員が一斉蜂起する“行動日”の予定を把握し、公安に情報提供を行う。それより前に奇襲をかける作戦が練られた。

 

更にSVP社の科学顧問・殻木球大の存在と「シン脳無強化改造計画」の存在を突き止める。どうやら死柄木葬華の強化も予定していたが、自力で個性強化に成功した為、不要となったとの情報も受けた。

これにより、第二の拠点が“蛇腔病院”であると公安・ヒーロー側が察知でき、この2件を早急かつ同時に対策を立てる事を決定した。

 

 

 

群訝山荘(ぐんがさんそう)襲撃チーム

 

群訝山荘跡地・早朝

 

――空気が、異様に澄み、山あいに広がる霧の谷。その一角、群訝山荘跡地の前――。

 

静かに、しかし確かな殺気をまとったヒーローたちが、数十名以上集結していた。

 

指揮:エッジショット(No.4ヒーロー)

 

この作戦には、

雄英高校1年A組全員と、その担任の相澤…いやイレイザーヘッドをはじめ、シンリンカムイ、Mt.レディ、リューキュウ、ウワバミ、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ……など多数のヒーローが参加する。

 

いくら雄英高校とはいえ、学生がいることに疑問を感じるプロもいたが、実力は折り紙つきであることと、クラス担任が付き添うこと、命令には絶対に従う事を条件に参加している。

 

「……これが最終戦になるといいな」

マンダレイが呟いた声は、冷えた朝靄に吸い込まれていく。

 

エッジショットは、木々の上から全体を見下ろしていた。黒装束が朝の青空に溶け込む。

 

「……敵の主力、“SVP社”の幹部と行動部隊、およそ千数百人。見張り以外は全員、中にいる。数は向こうが上だ…幹部の他にセルドライバー持ちもいると聞く、当然だが油断はするな」

 

彼の口調はあくまで淡々としていたが、その目は冷ややかな鋭さを宿していた。

 

すべては、ホークスが持ち帰った情報をもとに立てられた作戦だった。

SPV社の「決起日」より数日早く、敵の拠点へ奇襲を仕掛ける。

それが公安とヒーロー側が出した最適解。

 

ここでなら、とエッジショットが現地のヒーローに――ホークスの真意を伝える

 

「彼は……スパイだった…公安直属のな」

エッジショットが、短く告げたその一言で、全員の空気が変わった。

緑谷や爆豪・轟も一瞬で状況を把握し悔しそうに顔を伏せる。

 

「あの情報……群訝山荘、蛇腔病院、敵の幹部構成……全部、ホークスが運んできたってのか」

シンリンカムイが帽子を目深にかぶりなおす。

 

「…そんな…あんなに非難されて…それでも、この為に…ずっと?…信じてやれなかった」

リューキュウが苦しげに唇を噛む。

 

「俺たちは…あの翼が背負っていものに気づかなかった…くそ…」

相澤が目を閉じると、他のヒーローたちも次々と視線を伏せた。

軽薄に見えたその背中が、どれだけの泥を背負っていたか。

 

恥ずかしかった。

あの笑顔に、偽りの意味しか見出せなかった自分たちが――。

 

「……やるしかねえよな」

マンダレイの声が、張り詰めた空気を裂いた。

 

「ホークスの命を懸けた情報だ。ここで倒れたら、全部が無駄になる」

「後悔を清算するには、勝つしかないんだよ。あいつに『おかえり』『信じれなくてごめんな』って言わなきゃな」

 

「この奇襲が成功すれば、死柄木葬華をはじめとする“核”の芽を摘める。蛇腔病院側と連携して、同時に制圧する」

エッジショットの言葉に、全ヒーローが無言で頷いた。

 

だが――誰もが理解していた。

これは“戦争”だ。これまでの“ヴィラン退治”ではない。

 

「私たちはもう、進むしかない」

口元に手をやったMt.レディが、ぼそりと呟く。彼女はまだ笑おうとしていたが、震えを隠せてはいなかった。

 

そのすぐそば、低く身構えたミッドナイトが仲間の背に手を添える。

「……何人かは、戻ってこれないかもしれない。それでも、行くのよ」

 

風が吹いた。

小枝が舞う音とともに、森の奥から、獣のような気配が迫ってくる。

 

「……時間だ」

エッジショットが印を結んだ。

 

同時に、指令が全体に響く。

 

「奇襲開始――!」

 

全ヒーローが一斉に、群訝山荘へと雪崩れ込んだ。

今――「ヒーローとヴィランの全面戦争」が、幕を開ける。

 

ヒーローたちの目に、揺るぎない光が宿る。

もう、迷いはない。

 

「「「「おう!」」」」

「群訝山荘に、全力で攻め込む!」

 

静かな空を破って、ヒーローたちが走り出す。

 

 

 

 

 

 

群訝山荘内部にて、その時ホークスは

「やっぱり……バレました?」

 

ホークスは、背筋を凍らせながら、仮面のような笑顔を保っていた。

対面にいるのは――トガ、トゥワイス、荼毘、ムーンフィッシュ、そして死柄木葬華

 

「どこが“こっち側”だよ、羽モヤシが」

荼毘が、ゆらりと指先を炎で染める。

 

「ふーん…ふふ…裏切りかぁ…『クネクネ』しちゃう」

トガヒミコが両腕で身体を抱きしめながら震えて笑う。

 

「俺を騙した……信じてるっ言ったのに!……くそ、まだ信じられねぇ…」

トゥワイスの握った拳が震えている。

 

「歯っ歯っ歯!裏切りはヴィランあるあるだ。何を驚く?」

ムーンフィッシュはそう言いながら匕首を逆手に構える

 

「度胸は買うって感じかな」

死柄木葬華は姿勢良く腕を組み睨んできた

 

ホークスは逃げ道を探す。だが完全に包囲されている

時間稼ぎは、もう限界

 

(ここまでか……)

 

そう思った刹那――山荘が、爆音と共に揺れる

 

――ズドォォォン!!!

 

突入だ。

ヒーローたちが動いた。予定より一刻早いタイミング。

 

(エッジショット……やってくれたか!)

 

混乱に乗じて、ホークスは全力で翼を広げて上空へ跳躍。火炎と風圧の中、辛うじてその場を離脱する。

 

「逃がすかァァアッ!!」

荼毘の蒼炎が背後から襲いかかるが、ホークスは焼けた翼の一部を捨て、強引に離脱。

 

「まだだ……まだ飛べる……!」

 

更に枝刃が恐ろしいスピードで刺し迫り自分の高さまで来たかと思えば糸で枝刃を絡めながらトガヒミコが3次元起動で跳んできた

 

(なんだ!コイツら……)

 

必死に糸と爪を避けるが傷を負い出血する

 

瞬間

コクンと飲み込む音がした

 

 

「嘘だろ………そんな馬鹿な事があるのかよ……ふざけんなぁ!!」

叫ぶ、ホークス

 

傷付けられただけで、トガヒミコは“ホークス”になった

 

本来は形だけの変身だ。なのに剛翼を使って飛んでいた。

 

…彼女はキュリオス戦以来、心が病んだ。

自分を否定される言葉がリフレインし眠れない夜を過ごした

 

ある日、耐える事が出来なくなった

 

限界を超えた彼女は個性も含めて他者に変身出来るようになった

 

彼女は想ったのだ、皆を好きになれば…その人の血を飲めば

…『否定される私じゃ無くなる』…本気で…心の底から…他者を求めた。

変身している間だけ温もりを感じられたから…それがアイだと思いたかった

 

アタシ…ハ…ワタシ…ノ…ママデ…ダレニデモ…ナレル

 

彼女は自分じゃなくなる事で自我を保つという歪な存在へと変化していた

 

 

………

 

 

ホークスは自分の顔が知らない笑顔で迫ってくる恐怖に怯えた

…こんなに恐ろしい事があるのか

 

状況は更にホークスを追い詰める

 

「どうよ?『2人』の自分に襲われる気分は…?」

もう一人の自分が迫り来る

 

…トゥワイスだ。

ホークスといる時間が連盟の中で1番長いメンバーだった。だから自前の個性で変身して増える事が出来たのかとも思ったが…計測はさせてない……

 

「なんで変身できるか不思議って顔だな?俺はな、『泥状化』で同じ泥を被ったら直感で計測できるんだよ」

 

異能解放軍との戦闘時に一度トゥワイスの泥を被って奇襲を仕掛けた。

おそらくその時に…

 

「なんだよ、それ…もう…手が付けられないじゃないか」

 

空中戦はホークスに分がある。だが羽の数が段違いだ。

自分の剛翼は傷付いて少ない、対して2人とも無傷な状態。多くの羽を仕向けてくる。羽の扱いに慣れていないから、何とか対応出来ているが…詰むのは時間の問題だ。

 

ボロボロになりながら、彼は空へ舞い上がった。

 

(まだ届ける情報がある…ヒーローたちへ。この作戦を、成功へ導くために……そして何より、あの空の向こうに……“本物のヒーロー”の未来があると、証明するために)

 

ズバァ!

 

「くそ、なんで裏切ったんだ。友達だって思ってたのに……まぁ、そうだと思ってたけどなぁ!じゃあなホークス」

トゥワイスのウィングブレードと斬り合い

 

ドス…ドス…

「堕ちてよ」

トガの羽に刺される

 

「くそぉ…」

ここまでやったのに…なり振り構わず…みんなの為に頑張ったのに、ここで終わるのか?

 

「ちょっとだけ訂正。度胸『だけ』買うよ」

スーツを着崩している悪魔が更に上空から4枚の翼を広げて『空間に崩壊の轍』を作りながらやってくる…彼女は死柄木葬華

 

(…負けるのものか!)

「負ける……ものかぁ!!」

 

避けず逃げず全力で迎え撃つ

 

「へぇ…」

葬華は感心する

 

が…

こちらの攻撃は槍のような尻尾でいなされ、伸びてくる左手指と右手に触れられ、ホークスの片翼と両腕が崩壊する。

 

残った羽で崩壊前の肉を躊躇なく斬り全身の崩壊を防いだ。

 

だが…それだけだ

 

「うぅ……クソォ……」

後は落ちて死ぬだけの彼に他の手は思い浮かばなかった。

絶望感が身を包む

 

さっきまで戦っていた3人は遠巻きでホークスを見ている。

 

しかしホークスが見たのは自分を追い詰めた3人ではなかった。視界に入ったのは裏切ったはずの自分を信じてこの場に来てくれたヒーロー達の奮闘だった。しかも学生まで……阿賀月事件で一緒だった常闇・爆豪・轟・芦戸・尾白までいる。ホークスを見て驚いた顔をしている。空を飛べる個性持ちは俺なんかを助けようと手を伸ばして向かって来てくれる。

 

その光が…とても眩しくて…力強くて……身体が震えた。

(俺はここまで…っすかね、後は任せても…)

 

ふと、諦めそうになる

 

だが、ホークスを追い詰めた3人は標的を彼らに変える。

 

ゾッとした。

ヒーローとは言え仮免だ。彼らはここで死んで良いのか?いや…死んでいい筈がない。未来はあの子達のためにあるのだから、守るためなら…俺は……

 

(何を諦めていたんだ!!俺はぁ!!!Puls ultraだろ!!)

 

体の底の…更に底から力を汲み上げる

 

今まで出したことのない大きな声で、冷静さを取っ払って、恥も外聞もなく、心から声を出した。

「俺はぁ!!!!まだ………生きてるぞ!!!こっちだああああぁ!」

 

ビキ…ビキビキビキ!

 

体の中から聞いたことのない音が聞こえる。守る為…個性と共に『彼』も進化を果たす、奇跡どころではない変化が起きた

 

底を破って得た力はある意味では自分の力ではなかった。

産まれてから共に生きて歩んできた「個性」と言われる付随された力、その根源に触れた彼は“進化”や“深化”とは違う“変化”をもたらした。

 

 

無くした両手から翼が生え、脚には鉤爪が生え、顔には嘴が形成され羽毛は全身に生える。身体の形が大きく変わり果てた後、その大空を舞ったのはあまりにも雄大………誰もが見上げるほど巨大で美しい朱色の鷹だった。

 

「Kreeeeeeeeeee!」

 

其の鳴き声は威嚇ではない。

獲物は逃さないという大空の絶対強者の宣言に聞こえた。

 

 

…………………

 

蛇腔病院(じゃくうびょういん)襲撃チーム

 

指揮官はNo.1ヒーロー・エンデヴァー。この作戦には雄英高校1年B組の生徒全員とその担任ブラドキング、そしてプロヒーローのミルコ、クラスト、プレゼント・マイク、ロックロック、シールド、エクスレス、ヨロイ武者、マスコーダーらが集結している。

 

マスコーダーはエンデヴァーと共に“シン脳無”への対応実績があるため、最前線を任されていた。

 

カタチは険しい表情のまま作身に声をかける。

 

「作身……この作戦、想像以上にデカい。軽々しく“省エネで”なんて言えない。でも、忘れないで。その意味は……」

 

作身は静かに頷く。

 

「分かってるよ。もし今回、全力で戦えば……残りの全力活動はあと一回になる。もし、その“一回”を使ったら、来年まで本気のヒーロー活動はできなくなるんだ」

 

「……分かってるなら、それでいいんだ」

 

「ありがとう」

 

――突入直前、クラストが無線で報告する。

 

「建物内、異常なし。外見も中も、普段通り……患者、医者、職員、誰も異変に気付いてない」

 

ロックロックが渋い顔で呟いた。

 

「包囲されてることに、まだ気づいてねぇ。今が突入の好機だ」

 

エンデヴァーは無言で頷き、その眼光に鋭さが増す。

 

「強行突破は避ける。避難誘導班を先行させろ。民間人の安全が、最優先だ」

 

「了解!」

 

ヒーローたちは静かに配置に就き、看護師に扮した協力者が「ガス漏れによる避難」という偽の非常事態を告げて回る。

 

騒ぎを最小限に抑えるよう、患者たちは一人ずつ静かに地上へと運ばれていった。

 

――その沈黙の中を、音もなく跳ねる白兎が一匹。

 

「さてと、先に蹴り込ませてもらうぜ」

 

ミルコはすでに病院地下の中枢部に到達していた。

 

───

 

扉を一蹴で蹴り飛ばす。白く滑る床、無機質に並ぶロッカー。そして奥には、モニターが壁を埋め尽くす司令室。

 

その中央に、あの老人がいた。

 

「ほうほう、何事かと思えば──っひぃいい!!?」

 

ちぢこまった小男、殻木球大

 

「な、なんでここに!?避難完了前に!?ヒーローがもう、ここにっ!?」

 

「クッセェ悪の匂い……てめぇを、この手で捕まえる!無事にとはいかねぇけどなァ!!!」

 

ミルコは獰猛に笑い、試験管や機器を粉砕しながら殻木へ突進する。

 

「……や、やめてぇ〜〜〜〜!!」

 

殻木の情けない悲鳴が響く。

 

「ここにはまだ!未完成で繊細な!被験体がっ……!」

 

「ありがとな!丁寧に壊しがいがあるって事だな!お誂え向きだぜッ!」

 

「ぐぬぬぬぬ……! も、もう仕方ないっ!」

 

殻木は手を震わせながら、背後の端末を叩いた。

 

「くそぅ……緊急起動!目覚めろ、“シン脳無”どもッ!!」

 

――ブゥゥゥン……

 

低い振動音と共に、床がうっすら光を放ち始める。

 

奥のラボ区画。そこに並ぶ5基の巨大試験管。

 

中には……変異した人型と獣型の脳無が、泡の中で蠢いていた。

 

「復活前に、まとめてブチ壊す!!」

 

「むはははは!無理じゃ無理じゃぁあ!」

 

ミルコが跳躍した、その瞬間──ラボの天井が崩落する。

 

「――ミルコ!」

 

燃えるマントのNo.1、エンデヴァーが舞い降りた。その背にはクラスト。続いて次々と現れるヒーローたち。

 

「うっそーーーーん……!」

 

殻木が絶望したように叫ぶ。

 

「合流が早いさすがじゃねぇかNo.1っ!」

 

「……ドクター。ついに貴様の尻尾を掴んだぞ」

 

「おのれぇぇぇ!!チープで時代錯誤なヒーローどもめ!」

 

怒号と共に、エンデヴァーたちが試験管に一斉に攻撃を叩き込む。

 

「赫灼熱拳──ヘルカイスラ!!!」

 

「ルナ・アーツ──兎兎蹴鞠ッ!!」

 

「熱盾・圧撃──クラッシュ・フォールディング!!」

 

爆発音。白煙。そして、響き渡る咆哮──

 

……が、一拍早く“シン脳無”が目を覚まし、試験管を突き破って飛び出してくる。

 

その中に――エンデヴァーの脳裏に焼き付いた存在。

 

灰白髪、浅黒い肌、極限まで鍛え上げられた肉体。

 

「――セキ……ッ!?貴様……まさか、蘇ったのか!?」

 

「違うな……お前に“4回”殺された。命の残機は、あと1つになった。……会いたかったぞエンデヴァー。俺を先に逝かせなかった事、後悔させてやる!」

 

マスコーダーがセキを見て叫ぶ。

 

「嘘でしょ!?前、苦労してやっと倒したのに……また!?」

 

エンデヴァーは拳を握り、吠える。

 

「いいタイミングだ!よく来てくれた!こいつらは“本物”だ!決して1人で挑むな!連携して叩け!」

 

クラストがミルコの背に飛び込み、盾を展開。

 

「ここで止める!」

 

「止めるんじゃねぇ、叩き潰すんだよッ!!」

 

「ひょーっほっほっほ!!不完全とはいえ、貴様らに勝てるかな!?」

 

殻木はまるで芸術家のように、満足げに“作品”を紹介し始める。

 

「黒いのは“セキ”。原始の“石”をモチーフにした硬質体!再生能力も、空中機動も備えた逸品じゃ!最悪な事に……エンデヴァーに焼かれて、命のストックは残り一個。こやつは一世代前の脳無じゃが、質は段違い!」

 

その後も、殻木は嬉々として紹介を続ける。

 

『ミズチ』:真っ白な人型、瞳は青く、9つの個性を保持(発光・反重力・自動回復・先読み・光屈折・光操作・質量追加・ヤマタノオロチ・人型)。“復活”を追加予定だったが、襲撃のせいで未搭載。

 

『クサナギ』:黒髪・紅瞳の青年型。草薙剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉を粉砕・吸収した人工神器。個性は「カガミ(智)」「マガタマ(徳)」「ツルギ(武)」。一種の“神化型”。

 

『虎武龍』(とらぶりゅう):黒虎体に白雷龍の文様。バチバチと雷をまとい、滴る涎は腐食性を持つ。百雷と蝕龍の融合体。

 

『玄謐凰』(げんひつおう):亀型に蛇の尾、黒炎の翼を持ち空を舞う。蛇甲羅と極炎鳥の融合体。

 

明らかにヤバすぎる5体が、眼前に並ぶ。

 

誰の目にも分かる、“格”の違い。圧倒的な威圧感。何人ものヒーローが無意識に後退し、「ヒッ…」と声を漏らした。

 

だが、それを責める者はいない。それほどの“力”の差を、全員が感じていた。

 

「ひゃーっひゃっひゃ!!さあシン脳無ちゃん達!遊んでおいでぇぇ!」

 

殻木が指を差した瞬間──

 

「…ねぇ…君、神器だよね?まだ現存してたなんて、面倒だな。邪魔立てな存在になる前に、母なる土に還してあげるよ」

 

「はァ!?何ぬかしてやがる!蛇野郎、皮剥いで塩漬けにしてやろうかァ!?あぁん?

 

ミズチとクサナギが、殻木の命令も聞かず言い争いを始める。

それどころか個性を使い本気で戦い始める。

 

2人の戦いは異次元だった。

 

ミズチが光の塊を形成し操作、またはレーザーのような物を無動作で撃ったり剣の様にしている。その速さはまるで本物の光の速度。

対するクサナギは恐ろしい身体能力で近づき未来でも見えているかのように光を避け、接近で殴打・蹴撃を繰り出す。

ミズチは余裕をもって躱しているが次々に切り傷が出来ている。かと思えば瞬きの間に治癒し、全周囲に光を放ちクサナギは距離をとる。

 

「ここは狭いな」

「喋んな!逃げんな!動くな!そのまま死ね!」

 

理解が追いつかない戦い…この2人には、いったいどのように勝てば良いのか想像すらできない。

 

そして──2人は、躊躇いなく天井を破壊し…消えた。

 

高く舞い上がる粉塵。空気を裂くような轟音。

まるで「ここに用はない」と言わんばかりの、潔い退場だった。

 

……

………

…………

 

残った敵は──『セキ』そして『虎武龍』『玄謐凰』。

 

数が減ったことで状況が好転することもなく、戦場の空気は重く、鋭いままだ。

ピリピリと張り詰める沈黙の中、最初に動いたのは殻木。

 

「さらばじゃ!」

 

自分が置かれている状況を理解していないのか、それとも分かった上で逃げているのか。

殻木はひょこひょこと小走りで、戦場から離れようとした──が、

 

「いやいや、逃がすわけないでしょ」

マスコーダーが一瞬で距離を詰め、片手で殻木を拘束する。

 

「ノォォォーーーッ!タシケテーーー!!」

 

抵抗も虚しく、大型ドローンのワイヤーに接続され、

情けない悲鳴を上げたまま空へと運ばれていく。

 

── ひとつの雑音が消えた。

 

静かになった戦場に、もう一度、セキの笑い声が響いた。

 

「あっはっはっはっはっは……!なんだこれは。くくく…安っぽい三文芝居のようで面白かったぞ?」

 

セキは満足げに喉を鳴らし、牙のような笑みを浮かべていた。

 

その両隣──『虎武龍』『玄謐凰』は微動だにせず、

まるで「主の命を待つ獣」のように、沈黙している。

 

「正直、あの2人は戦闘力は高いのだが、扱いが面倒でな……

 いなくなって、清々したよ」

 

肩をすくめて、セキが笑う。続けて、指先で隣の2体を示す。

 

「この2体もな、俺と同等……いや、それ以上の力がある。

 だが“動物型”だからな。俺の言うことは絶対だ。

 ……殻木が仕込んだんだ。“従属”の個性をな」

 

そして、ふっと視線をそらす。

 

「あぁ、奴には……情は無い。俺を創ったというだけの存在。

 壊されようが、捨てられようが──どうでもいい」

 

セキの声音は静かで、冷たい。

 

だがその冷たさは、狂気ではない。理性すら感じるほどの、“合理的な残酷さ”だった。

 

ヒーローたちが警戒する中、無線が入る。

 

「──避難完了」

 

その言葉に、一斉に空気が変わる。

硬直していた空気が、動き出す。

 

セキがその気配を感じ取り、ニヤリと笑う。

 

「……終わったようだな。ならば、始めるとしようか」

 

彼は真正面から、エンデヴァーを見据える。

 

「エンデヴァー。貴様の相手は、この俺だ。

 他の雑魚どもは、この2体が引き受ける。好きに暴れてもらおう」

 

まるで、それを伝えるためだけに、ここまでじっと待っていたような口ぶりだった。

 

場がざわつく。なぜここでそんな宣言を?何の得がある?

だがセキは、そんな動揺などお構いなしに、さらりと言ってのける。

 

「ん?人間というのは、“礼を尽くす者”にはそれ相応の敬意を払うと聞いたが? 俺は、待ったぞ?……この時を、ずっとな」

 

エンデヴァーはセキの意図を悟り、目を細める。

 

「……なるほど。そういうことか。

 ここまで戦わずにいたのは、“俺”と戦うため……それだけのために待っていたと?」

 

「フン、分かっているではないか。貴様の力…素晴らしい物だった!貴様に勝てば…俺はもっと強くなれる!」

 

「……その昂り、隠すつもりもない…か。断ってもどうせ、手当たり次第に暴れる気だろう」

 

「そうだ。話が早いな。邪魔さえしなければ、俺は満足だ」

 

エンデヴァーが頷き、振り返る。

 

「──引き受けた。

 他の者は、あの2体を頼む。どちらも常識では測れん強さだ。

 早く決着をつけて、“あの2人”の行方も追わねばならん……頼んだぞ」

 

エンデヴァーは炎で

セキは大翼で

空を飛ぶ

 

 

──ドン!!!

 

一瞬で、2人の姿が空へ

 

直後、激しい空中戦が始まった。

音速を超える衝撃がいくつも交差し、エンデヴァーの赫炎が、青空をさらに明るく染め上げていく。

 

残された『虎武龍』と『玄謐凰』は、空を見上げていた。

 

だが、それもほんの数秒。

 

すぐに臨戦態勢を取り直し、ヒーローたちを鋭く睨み据える。

 

その瞳に宿るのは、ただ「戦い」だけ。

無駄な感情も、言葉も、策略すらもない。

 

真正面から、力と力でぶつかる覚悟だけが──そこにあった。

 

ヴィランでありながら、戦う姿勢は誠実だった。

近年、あまりにも多くの“醜さ”と“裏切り”を見てきたヒーローたちにとって、この戦い方は清々しさを感じさせた。

 

セキもそうだった。

たとえ改造されようと“戦うこと”にだけ誠実な者たち。

 

──そんな異質さが、今この瞬間の空気を支配していた。

 

マスコーダーが、一歩前に出る。

大きく息を吸い込む。

 

「ふぅ!……マス・デバイス起動… コードカウント:ギア・EX(イクス)… 戦闘用ユニット《MAS-XX09》展開」

 

静かに抜かれる近接武器

「デュアル・N(ニュートリノ)・ブレード。

別名:月の脇差し・宵小太刀」

 

 

 

その光が、閉塞感に満ちた空気を切り裂いた。

 

他のヒーローたちも、無言のまま戦闘態勢を整える。

 

呼吸を合わせ、意志を統一し──

 

 

 

真正面から、全力で。

 

生き残るために、力を尽くす。

 

ここは戦場だ。

命を賭して立つ者だけが、生きて帰れる場所なのだ。




1話で終わりたかったけど………無理でしたーー
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