ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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第27話「To have hope」

「やばい!!麗日さん!……さ・せ・る・かあぁぁぁーーーーーー!!!」

 

マスコーダーが叫びながら、『ディアッカ』を構えて照準を合わせ、発射準備を整える。

 

「30mmプラズマエネルギー収束弾装填!

ミクスチャーバランス・クリア!

ダブルアビリティ・エンゲージ!

センサー・インジケーター・ディスプレイ、オープン!

シグナルカラー、オールグリーン!

……作身!!行けるよ!!」

 

「サンキュー、カタチ!!」

 

──そして。

 

「………吹き飛べぇ!!!

ニュートリノ・ガン・ブラスタァァァーーー!!」

 

次の瞬間──

 

ギイィィーーィィイン!!

 

空を裂くように、太く力強い蒼白の光が奔った。

音の壁を砕き、規格外の巨体すらも飲み込んでいく。

 

「──こ、れ…は……!?!?……しゅ…よ…──」

 

マキアの巨体が吹き飛び、周囲のヴィラン数人を巻き込んで、遥か後方──浮遊する群訝山の端をも越えていった。

 

「んなぁ!?ちょ!?!?……嘘でしょ…マキアーー!」

「うげぇええ!マジ!?なにあのビーム!」

「うわぉ…おじさん最近の武器についていけない…」

 

死柄木、睡魔、Mr.コンプレスたちは、口々に驚愕の声を上げる。

 

 

とあるヒーローは、こう言った。

 

「非殺傷なら何をしてもいいわけじゃないと思う」

 

──と。

 

 

その頃、後輩2人は。

 

「ありがとうございます、作身先輩!!(ひえぇ……やり過ぎと違うかなぁ)」

 

「さすがです!型形先輩!!(え?あれ、本当に非殺傷なのかな!?)」

 

お礼を言いながらも、冷や汗を浮かべていた。

 

だが、戦場の時間は止まらない。

一難去ってまた一難──焦点は、別の方向へ移りつつあった。

 

 

「……とんでもないことしてくれるねぇ。

まさかマキアが、あんなに吹き飛ぶとは……」

 

Mr.コンプレスが黒色のシルクハットを軽く傾け、くるくると指を回す。

 

その手元から、“ビー玉”があふれ出し、上空の気球から次々と降ってくる。

数十、いや──数百……!

 

「さぁさぁ、お立ち合い! 何度も同じ属性で悪いが、こいつら全員“思想家”と“主義者”達さ。今の社会のガン共だよ!

まったく、どれだけ回収しても居なくならない……。現世の罪深さがよく分かるってもんだ。

どうせ死ぬんだ、我々の役に立てるだけ、有り難く思ってもらおうか!!」

 

バキンッ──!

 

全ての圧縮玉が割れた。

 

「「「「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」」」」

 

空から人が降ってくる。

 

「ああぁぁ!? あの人、何してんの!?!?」

 

誰かが叫ぶ。

あまりにも常識外れな行為──

 

人を、躊躇なく「死ぬ高さ」から落としているのだ。

 

 

さらに空間が裂ける。

 

「──さぁ!ダメ押しは黒霧くんとのコラボレーション!」

 

Mr.コンプレスの合図で、煙が渦を巻くように立ち上る。

その中心から、長身の影──黒霧が現れた。

 

「了解しました、コンプレスさん……では、“倉庫”に繋げます」

 

彼の体を中心に、幾重にもワープゲートが広がる。

そこからまたしても、無数のビー玉が雪崩のように飛び出した。

 

中から現れたのは──やはり“人”。

 

次々と、浮遊する群訝山に、“人の雨”が降り注ぐ。

 

浮遊している地面に落ちる者、地上へと落ちていく者……

浮遊の伝播に影響されれば助かるが、そうでない者は…………

 

 

「そんな!! あかんやろ! 何考えとるん!?

落ちたら死んでしまうんやよ!!」

 

麗日お茶子は、自らも浮遊しながら、次々と人々に触れ、浮かせていく。

だが、あまりの非道な光景に、顔は青ざめ、涙が止まらない。

 

「くぅ!! なんでこんな酷いことができるんだよ!

やめろよ……お願いだから!!やめてくれええぇぇえ!!……」

 

緑谷出久も同じく、青ざめた顔で救助に走っていた。

やがて彼の体から緑色の光が強く放たれる──

 

空中での動きが、急に速くなる。

目で追うのがやっとで、黒鞭の数も増え、救助できる人数が一気に増えていく。

 

──これは、他のOFA継承者の力が発現したのだろうか。

 

 

だが、感心している暇などない。

 

「あんたらぁぁ!!! いくら何でも命を軽く見すぎだ!

やり過ぎだろう!! くっそおおおぉぁぁ!!

全フラクタ起動! 救助ドローン全展開だ!!!!」

 

麗日、緑谷、マスコーダーは、持てる力以上の力を振り絞って救助を試みる。

だが、それでも助けきれない者の方が多く──

 

地上に“赤い花”が、次々に咲いていく。

 

 

なんとか救助が間に合った者たちは、泥まみれで虚ろな目をしていた。

老若男女関係なく、ただ「そこにいるだけ」の生者──

 

助けはした。

けれど……正直、何もしない者がこれほどまでに「邪魔だ」と思ったのは初めてだった。

 

──その数は。

 

「まだまだ行くよ!!

たぶん、1万人ぐらいかな。異能解放軍に勝った時の“戦利品”さ!!」

 

『……嘘だろ……あれ、全部……人……?』

 

通信の向こう側から、誰かのかすれた声が漏れる。

 

 

マスコーダーが叫ぶ。

 

「あんたたちは……何がしたいんだ!!

こんなに人を……何も思わないのかよ!?!?」

 

「ふむ……。

数が揃うだけでも、存外役に立つのだと感じております。

この方々は“泥花市”の住民たちです。ご安心を。まだ8〜9万人はおりますよ。

そして、我々の目的ですが……決まっています。あなた達を困らせたいのです。効果的でしょう?」

 

黒霧は、事務的な口調で返答する。

 

その言葉を聞いて、マスコーダーは確信した。

 

──こいつらは、野放しにしてはいけない存在だ。

 

学生を含む、他の浮遊系の個性を持つヒーローたちが、終わることのない“人の雨”を懸命に受け止めている。その絶望感の中、通信が入る。

 

『群訝山荘の突入班と合流! エッジショットとイレイザーヘッドを筆頭に、他のヒーローたちと雄英の学生たちも、みんな無事です!!』

 

混迷する状況の中だったが、その内容は明るいものだった。

 

さらに、続報が入る。

 

『突入班は戦闘に勝利したとのこと。捕縛されたのは、灰濁メンバーの1人・スピナー! 意識不明で重傷ですが、生きています。このまま警察に引き渡します。優先的にバスティオンへの転送をお願いします。』

 

『他にも多くのSVP社員と、元・異能解放戦線の幹部・トランペットを捕縛しています。ですが……この絶望的な状況は、重々承知しています。彼らの扱いについては、上と相談のうえ判断をお願いします。すみません。』

 

『こちらエッジショットだ。救援、非常に助かった。そして、この浮遊伝播がなければ、我々は敗れていただろう……学生たちの話では、麗日という女史の個性ではないかと聞いた。後々、改めて感謝を伝えたい。…そちらの状況も聞いている。今、全力で“人の雨”に向かっている。…どうか無事でいてくれ……』

 

『 お茶子ちゃん、 本当に助かったわ、ありがとう!私たちもそっちに向かっているわ!!お願い無茶しないで!』

 

『こちらの状況が見えているかのような、絶妙なタイミングの浮遊だった。……言わせてほしい、ありがとう!緑谷!麗日を頼むぞ、我らも全力で向かっている』

 

通信がここで一度切れる。──が、追加通信が入る

 

『浮遊効果……もうしばらく継続できるか? すまないが、もう少しだけ時間をくれないだろうか……』

 

「──我がデニムの申し子たちを解放する時だ!!」

 

そう叫びながら、通信状態を越えて周囲に響く生声と共に姿を現したのは、ファイバーヒーロー・ベストジーニストだった。

 

彼は一度、ホークスに殺されたと報道され、その遺体はSVP社に引き渡されたとされていた。だが、それは敵の内部に潜り込むための罠であり、今、彼はこうして再び戦場に立っている。

 

その彼と、彼が操る繊維が何百重にも巻かれた「H型のボビン」と「筒状のスプール」が増殖し形成されたミニマム戦闘機“リトル・カスタム”の背面に乗り、各地に散らばっていた。

 

「SVP社……私はお前たちを許さない。前代未聞の悪行に悪業……悪の権化と言うに一切の戸惑いもない! だが、だからこそ我々は負けない! 魅よ……これが我が愛するデニム繊維だ! デニムが世を救うのだ! ……私が……私たちが、デニムだ!!」

 

正直、言っていることは高尚すぎて理解しがたく、できれば一緒にしないでほしい……だが、その実力は本物だった。

 

浮遊効果を宿した繊維がさらに解け、無数に広がっていく。その細さと本数は数えきれない。だがベストジーニストはそのすべてを制御し、落ち続ける人々に触れていく。

 

それだけでよかった。なぜなら、すべての繊維に“浮遊伝播”の効果が付与されていたからだ。

 

次々と落ちる人々に繊維が触れ、絡み、編まれていく。1本の糸は弱くても、撚り合わせれば強靭な繊維になる。さらに編み込むことで「意味」を持ち始める。

 

彼の救出劇は、まるで堕ちる曇天を包み支える青空のような、ひとつの芸術──デニムとなっていた。

 

「これが!!!フォール・オン・ザ・青空デニムだぁ!!」

 

「「「「…………」」」」

 

死柄木、睡魔、Mr.コンプレス、黒霧──誰も何も言わなかった。いや、言えなかった。その圧倒的なデニムの存在感に、ただ圧倒されている…はずだ。

 

彼の編んだデニムは、ミニマム戦闘機へと広く接続されている。Mr.コンプレスが降らせる“人の雨”の範囲に、デニムによるロープマットが張られ、それを無効化していた。

 

まさに“人を掬い、救う”デニム。

 

この戦場で、彼は最も注目を集めていた。

 

──麗日お茶子は、あまりにも多くの“生”が“死”に堕ちていく光景を目の前で見た。ぐしゃぐしゃに泣き崩れていた。

 

仲間の声は聞こえていた。でも、体が動かないほどの脱力感に襲われていた。

 

それでも、少しだけ前を向くことができた。その時、さらに声が聞こえた。誰かが、大きな声で何かを叫んでいる──顔を上げると、そこには死んだと思っていたトップヒーローの、堂々たる救助活動の姿があった。

 

その活動の一端に、自分の力が使われている──その事実が、心に火を灯した。

 

なぜあの人は、変なことを言ってまで敵も味方も含めて、みんなの視線を引こうとしているんだろう。

 

見上げる。彼は空にいて、まだ叫び続けている。

 

視線が……私に向いている気がする。

 

麗日は、惨い現実から目を背けるように、下を向いていた。

 

でも、友達の声と、ヒーローの声が、前を向く力をくれた。

 

声の出所を探して上を見たら、自分の個性“浮遊”の力を使って、自分が諦めかけた命を救っているヒーローがいた。

 

分かっている。前を向くとか上を向くとか、そういうのは物理的なことじゃなくて、「心の持ちよう」なんだ。

 

勘違いかもしれない。考えすぎかもしれない。

 

でも──ああ、まるで、こう言われたような気がしたんだ。

 

トガヒミコに言ったあの言葉が、自分に返ってきた気がした。

 

「大丈夫、君は1人じゃない」

 

握った拳に、再び力が宿る。

 

「うぅ……まだ……私は……みんなと、ヒーローの役に立てるんや!!」

 

その隣に、緑谷が並び立つ。

 

「うん、麗日さん。僕もベストジーニストの声、聞こえたよ。……ちょっと言ってることは難しかったけど。でも、僕たちもあそこに行こう」

 

「うん! デク君、行こう。……ごめんね、弱くて。でも、もう大丈夫だよ!」

 

さらにその横に、マスコーダーこと型形作身と、カタチが並ぶ。

 

「え? 何言ってるのかわかんないの? デニムがすごいってことじゃん!!」

 

「違うよ、作身……そういうことじゃないと思う……」

 

相変わらずの2人のやりとりに、

 

「あはは……」と、控えめに微笑む麗日と緑谷。

 

心は、まだ完全には晴れていない。

 

でも──動ける。

 

ならば、助けに行こう。

 

なぜなら──彼と、彼女たちは、

 

ヒーローだから。

 

「2人とも! 行くよ!」

 

「「はいっ!!」」

 

マスコーダーの声に応える2人。

 

そして──

 

「「「私(僕)たちが行くから、大丈夫!!」」」

 

3人のヒーローは、“助ける”ために、空を駆けた。




すいません、今回ちょっと短いです
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