ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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…やっぱりダークヒーローは必要!
だけどデクじゃない!


第29話「ライト&ダーク≠ヴィラン&ヒーロー」

──《崩壊後の世界》

 

ヒーロー社会の終焉は、静かに──だが確実に訪れた。

 

かつて空を悠々と駆けていた要塞戦艦《バスティオン》と居住艦《エグゾダス》。だが、超高密度のエネルギー干渉により制御を失った両艦は、そのまま市街地の遠方へと墜落する。

 

天を貫いた巨大な火柱。それはまるで、世界の終わりを告げる狼煙のようだった。

 

──人を守るために存在していたはずの艦が、もっとも多くの人の住処を奪うなんて……誰が、そんな皮肉を予想できただろうか。

 

都市の輪郭は、もはや「街」と呼べるものではなかった。

ひび割れたアスファルト、断線した電線、崩れ落ちた住宅。空は黒煙に染まり、すべてが音もなく崩れていく。

 

この全方位的な崩壊は、もう誰にも止められなかった。

 

政府はようやく《艦の使用を禁ずる緊急命令》を発令したが──

家を失った人々にとって、そんなものは何の意味も持たなかった。

 

「ここにいれば……また何かあっても、助かるかもしれない」

 

そう信じるしかない。祈りにも似た希望だけが、人々を動かしていた。

 

──しかし、追い打ちのように届く絶望的な報せ。

 

No.1ヒーロー、エンデヴァーの歪な家庭。

その長男・荼毘が凶悪なヴィランだったこと。

そして、末っ子であるショート……轟焦凍が、かつて虐待にも等しい訓練を受けていたこと。

 

……さらには。

 

今回の大爆発──その原因が、この三人によるものだという事実。

 

瓦礫の中から、轟焦凍は辛うじて救出された。

だが、荼毘とエンデヴァーは未だ行方知れず──生死すら不明のまま。

 

No.2ヒーロー・ホークスも重傷を負い、ヒーロー業を引退。

 

オールマイトの引退に続き、現在のNo.1とNo.2までが姿を消したことで、ヒーロー社会はかつてない不安に包まれる。

 

──旧トップ3の喪失。それは、この短期間でのあまりにも衝撃が大きすぎる出来事だった。

 

もはや人々は、ヒーローという存在を信じることができなくなった。

 

瓦礫を踏み越え、煙をかき分け、残骸となった艦へと向かう避難民たち。その流れは、避難所として指定された雄英高校や士傑高校にも押し寄せ──

 

校門の前では、今にも暴動が始まりそうな、ピリついた空気が渦巻いていた。

 

──雄英高校。

 

本来広大なグラウンドは、いまやテントが幾重にも並び、生徒用の教室はすべて避難民の居住スペースに。体育館は臨時の医療エリアに変わり果てていた。

 

残された教職員と生徒たちは、医療ボランティアや炊き出し支援として動き回る日々。

 

「水は一人一日2リットルまでって……!」「もう三日も風呂に入ってないんだぞ!」「子どもが高熱なんだ、薬を……!」「こんな食事、飢えるよりマシって言いたいのか!」「不安で、もう眠れてないんだ!」

 

──列をなす叫び声。怒号と嗚咽。もはやそこにあるのは、緊張よりも“疑心”。

 

──ヒーローはまた、私たちを見捨てるんじゃないか。

 

そんな思いが、人々の心を静かに、しかし確実に蝕んでいく。

 

校門の前に立ち、警備を続けるのは、雄英に残された数名の1年A組の生徒たちだった。

 

──彼らも、もはや“ヒーロー候補生”ではない。

 

「……ひとまず、ここまでは抑えてるけど……」

 

フェンスの向こう。今にも暴動に転じそうな群衆を見つめながら、麗日お茶子が眉をひそめた。

彼女の“無重力”個性は、災害救助で酷使され、腕には包帯が巻かれている。

 

その後方では、切島、芦戸、砂藤、発目たちが、破損した資材でバリケードの修復作業に追われていた。

 

「こんなの……いつまでも続けられるわけない……この先、どうなっちまうんだよ……」

 

──誰かの、思わず漏れた独り言。

 

その言葉が空気を裂き、沈黙をもたらす──

 

「開けろォォッ!!自分たちだけ、悠々と過ごしてんじゃねぇ!!人間扱いしろよ!!」

 

「助ける側だからって、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

「もう味方なんていねぇよ!!皆、敵じゃねーか!!」

 

怒号が爆ぜる。その直後、バリケードに重たい何かが叩きつけられる。

 

暴徒と化した男が瓦礫を振り回し、門を突破しようとする──!

 

「待ってくださいッ!!」

 

そこに飛び出したのは耳郎響香。

 

彼女はマイクジャックを広げ、低周波を地面に響かせて暴徒の足をすくわせる。

 

「私たちは敵じゃない!……同じ人間です!どうか落ち着いて……行動を……!!」

 

震える声。しかしそれは恐怖ではなかった。

 

──目の前の、絶望しきった人々を見捨てたくない。ただその一心だった。

 

そんな、喧騒の中でも

 

──やがて夜が訪れる。

 

暴れるにも体力はいる。そして、明日──また、何が起こるのか。

 

 

 

寮のロビーには1年A組が揃っている

 

今日、夕方に検査が終わり轟が寮に戻ってきたのだ。

 

「謝って済む問題じゃないのは分かってる…けど、他に何言ったら良いのか分からねない…すまねぇ…皆…オレ達“轟家”の問題に日本を巻き込んだ…」

開口一番に謝罪する。

 

こと今回の大爆発の原因の一端と噂され、事実であると受け止めている様子だった

 

「そんな!!轟君が謝ることなんてない!お兄さんの事を言って申し訳ないけど…悪いのは荼毘だ!それを止めようとしたんじゃないか」

 

「そうだよ!必死に止めようとしてたの私達見てるよ!」

 

「根暗馬鹿が発動しやがったなぁぁ!テメェらだけでこの状況になったと思ってんじゃねぇ!?何様じゃコラァ!!この実力者気取りがああぁ!」

 

「おーい、爆豪…言い方ぁ…」

 

思い思いに轟を慰めるA組

 

「……ぐすッ……みんな、ありがとう………すまねぇ…」

 

その想いが伝わり涙を浮かべる轟

 

 

…………

 

少し時間が経ち、空気が落ち着いたところで、場を仕切ったのは八百万。

 

「……はい、それでは。落ち着いたところで、現状の整理と今後について話し合いましょう。今分かっている情報――学校、先生方、ヒーロー、公安、それらを踏まえて今後の方向性をまとめていきます」

 

「「「「はーい!!」」」」

 

まず口を開いたのは緑谷だった。

 

「今は……あの大爆発から5日が経過していて、その被害者の一部が雄英に避難してきてるよね。でも、実は空間的な問題はある程度クリアできてるらしい。理由は“地下居住区”があるから。カタチさんが提案して根津校長が了承したらしい…それから地下の拡張が進められてたみたいで……」

 

「“地下型居住大地”だっけ?雄英から士傑まで繋がってる広大な地下システム。電車や飛行機や車での移動も普通に可能で人工太陽とか天候操作とか出来るらしいね。未来型の2つめの日本を目指すとかいってたっけ?よー分からんけど、もはやファンタジー世界よね。資金…億とか兆じゃさまなさそー…でも、最近ようやく稼働始めたばっかみたいで、今は制限かけながら小規模な生活圏を維持するようにしてる、って話だったよね」

 

麗日が補足を入れると、轟が口を開く。

 

「え?……それって金かけてどうにかなる話なのか?」

轟が純粋な疑問を投げかける

 

「それは考えたって分かんねーよ。つか、だったら外で待ってる人達、さっさと中に入れてやれよ。テントもパンパンだし、不安で仕方ねーだろ」

 

上鳴の提案に、障子が真剣な表情で答える。

 

「……市民の中にヴィランの潜伏がある可能性が高い。ここは“最終防衛線”なんだ。ここが破られたら……もう、何も守れない」

 

「先生たちは、ダツゴクの捕縛を主軸にしつつ、外で救助・支援活動もしてるよね。一部のヒーローが亡くなったり辞めちゃったのは……すごく悲しいけど」

 

明るく話そうとした芦戸だったが、沈んでしまう。

 

「それだけじゃねー。ダツゴクの相手もしなきゃならねぇし、人手は全然足りてねぇ。俺らも出動するべきじゃねーか?」

 

峰田の身体はまだ包帯だらけ。

それでも、動こうとする強い意志があった。

 

「けど、ここを守る戦力は落としたくないんだろ?障子の言う通り、ここが最後の砦なんだからよ」

「AFOやヴェットもタルタロスから脱獄したんだろ?……死柄木や灰濁もいる。少人数でどうにかなる相手じゃない」

 

切島と佐藤が腕を組んで唸る。

 

「まとめて全部片付けられたら最高なんだけど……現実は甘くないわよね」

葉隠が楽観的観測をこぼす

 

「ケロロ……罠に嵌ってくれる相手なら、苦労しないわ」

蛙吹が天井を見上げる。

 

「我らができるのは、“現状維持”と訓練による“戦力増強”思いつくことは公安も先生もとっくに考えてるだろう。“時間”が我々に与えられるかも不明なのだ……アヤシイゾ」

常闇の正論に、皆が一瞬黙る。

 

「結局、今は踏ん張るしかないってことかぁ……でも、昼間みたいなのをずっとやるのって、しんどいな……」

耳郎が項垂れると、

 

「だったら担当を分けよう!1日か2日交代で担当区域をローテーションするんだ!視点が変われば見えるものも変わるかもしれない!」

飯田の提案に、一同が頷く。

 

「……あ、でも、僕はずっと郊外の“索敵班”をやらせて欲しい……。僕の個性、索敵に向いてると思うし……ヴェットを放っておくと、また動物たちが犠牲になっちゃう……。新しいセルドライバーが作られるかもしれないし……」

控えめに手を挙げた口田だったが、言っていることは過激だ。

 

「待て。外に出続けるってことは、ヴィランと出会う可能性も高いし、理不尽な市民に罵られるかもしれないんだぞ。……お前は優しすぎる。耐えられるのか?」

尾白の言葉に、

 

「ありがとう尾白君……でも、大丈夫。僕にはこれしか出来ないから……」

 

そう返す―

 

が、ここで横から声が掛かる

 

「ちッ……おい、口田ァ……」

 

「ひッ!?ば、爆豪君!?な、なにかな!?」

 

ビビる口田に、爆豪がドスの効いた声で告げる。

 

「ザックリ言って……てめェに13点の指摘がある!!」

 

「「「「「「13点!?!?」」」」」」

 

A組の皆が余りの指摘の多さにビビり総ツッコミしてしまう

 

「まずは、だなぁ……!!」

 

以下、口田への指摘

1:「これしかできない」という自己限定的な発想

→ 他の選択肢や役割の模索を放棄しており、成長の余地を自ら潰している、ヒーローとしてあり得ない。

2:優しさや使命感に突き動かされすぎている

→ 善意が判断を鈍らせ、冷静なリスク分析や仲間との連携を軽視している。

3:長期間・高負荷な任務に対する理解が不足している

→ 継続的に外に出続けることで精神的にも肉体的にも消耗し、最終的に折れる可能性が高い。

4:「自分がやらなきゃ」という責任感が裏目に出ている

→ その姿勢が、逆に他の仲間や避難民への信頼や協調性を欠く行動になる。

5:ローテーション制による負担分散を無視し、自分だけ特別扱いを希望している

→ チームプレイを軽視しており、結果的に孤立と失敗を招きかねない。

6:任務を個人で抱え込む姿勢が、全体の戦略から逸脱している

→ 全体最適を考えるべき状況で、“自分の役目”だけを優先している。

7:万一、索敵中に倒れた際の引き継ぎ・救助手段が想定されていない

→ 現場でのトラブル発生時に、二次被害や人員ロスを招く。

8:「索敵個性があるから」という理由だけで、単独行動を正当化しようとしている

→ 個性の有用性と、状況判断・任務適性は別問題。

9:ダツゴク(脱獄犯)たちの動向が未確定である状況を軽視している

→ 特にVetやAFO、黒霧など、動きが予測不能なため同じ人物の視点だけでの情報獲得と考察は危険。

10:新型セルドライバーの拡散リスクと索敵中の怪我リスクを総合したリスク&リターンマネジメントを考えていない。そもそも、もう拡散されているかもしれない

→ 現状の情報戦・技術戦における戦力不足を理解していない。

11:今後、ヴィランが索敵者を逆に“狩る”フェーズに入る可能性を想定していない

→ 索敵者は“早期警戒網”であると同時に、“標的”にもなる。

12:ヴィランや市民が敵対的行動に出る場合、自分が対処できると過信している

→ 理不尽な怒りや暴力に対して無防備すぎる。

13:索敵行為そのものがヴィランへの“接触トリガー”になる可能性を考慮していない

→ 自分の行動が結果的に敵を誘発・刺激してしまう危険性。

 

「以上だ!!…分かったかコラァ!!!」

 

 

「「「「「「「………マジで13個あったわ」」」」」」」」

 

プッシューー………

 

と口田は爆豪の“鬼講義”を受け、寮のロビーで白煙を吹いて倒れていた

 

「か、かっちゃんは……口田君のことが心配で……だからつい言いすぎて……!」

 

「そ、そうだぞ!それだけ大事だから、あんなに熱くなったんだ。落ち込まなくていい!」

 

緑谷と尾白が慌ててフォローし、爆豪が口田に言葉を投げる。

 

「てめぇが潰れたら、次は別の誰かが無茶しようとすんだよ。……誰かの“限界”と“犠牲”の上で成り立つ集団に、未来なんかあるわけねぇだろ」

 

「ぐぅ……」

 

ぐうの音しか出ない口田。

 

(((((((((可哀想に……)))))))))

この瞬間、1年A組の心は完全に一つになった。

 

──……

 

そして、皆の言葉で立ち直った口田。

話し合いも終盤に差し掛かったころ。

 

その場に、不気味な震え声が響いた。

 

ブルブルと震え、涙を流し、両腕で自分を抱き込む青山。

 

「えっ!?青山君!?どうしたの……?」

 

葉隠が近寄ろうとしたが、青山は手で制止する。

 

そして……震える声で“爆弾”を投下した。

 

「み、みんな……ごめん……。仮免ヒーローの皮を被った……最低最悪な“ヴィラン”の話を聞いて欲しいんだ……今日を逃したら……ぼ、ぼくは、恐怖に負けて、また逃げてしまうから……!」

 

「……おい、落ち着け青山。テメェ、自分が何言ってんのか分かってて言ってんだろうな……?」

 

爆豪の目が鋭く光る。しかし、その声は怒りではなかった。

“聞く準備”をした声だった。

 

「ふ、ふふ……優しいじゃないか、爆豪君……。ぼ、ぼくは……っ、グッ……」

 

 

 

 

 

「“AFOのスパイ”なんだ!!!!」

 

青山の悲痛な叫びが、寮の空気を凍らせた。

 

「な、なにをしたって償えない罪を背負ってる……轟君じゃない、原因はぼくなんだ……!!」

 

うわああああと泣き崩れる青山。

 

パパン、ママン、ごめん、と涙にくれる彼の声に――

 

「「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」」

 

その衝撃発言は、誰の脳も追いつかないほど強烈だった――

 

 

 

────────

 

 

 

《死柄木葬華という“ヴィラン”が、人を助けていた》

 

「……はあ…なにがダークヒーローだよ……マジで意味わかんないわぁ」

 

死柄木葬華は、大きな大きな瓦礫の山に腰を下ろし、鬱陶しげに空を仰いだ。

ボロボロになった男物のスーツシャツの上に着ている黒いパーカーはところどころ裂け、左腕は無く、左目は血の滲んだ包帯で覆われていた。

紛う事なきヴィランであり、元SVP社の代表取締役、灰濁メンバーのリーダーである彼女は、今やヒーローの手が届かない所に手が届く“ダークヒーロー”のように人々の目に映っていた。

 

そんな彼女の隣に並んでいたのは、スピナー、Mr.コンプレス、そして睡魔(スイちゃん)。

いずれも、“灰濁”として、かつて日本を揺るがしたヴィランたち。

それが今、瓦礫…いや…堕ちた居住艦エグゾダスの甲板に並んで座っていた。

 

「葬華ちゃん、ヒーロー扱いされてんじゃん?

SNSでバズってるよ?“神出鬼没の隻腕包帯の女性、子供を瓦礫から救出し食料を配っている”ってね」

帽子を指先でくるくると回しながら、Mr.コンプレスが軽口を叩く。

 

「皮肉なもんだな……昔の俺なら憧れたかもしれねぇな…ダークヒーローか……」

スピナーは壊れた刀型のセルドライバーの残骸を眺めながら呟く。

 

「やかましい。私はただ“仲間”を探してるだけだ。助けてるつもりなんかない。結果的にそうなっただけだっつーの」

葬華の口調はあくまで投げやりだったが、その視線の奥には確かに焦りが宿っていた。

 

生死不明・行方不明の荼毘・トガヒミコ・トゥワイス・マスキュラー・ケンドー・黒霧・ギガントマキア

確かに“どこかにいる”と信じて探していた

 

その過程で

 

彼女は、襲ってきた“ダツゴク”──脱獄犯たちを潰しながら、必死にその痕跡を追っていた。

 

結果的に人を助け、命を守ることになっていたとしても──それは目的ではなかった。

 

「ったく……マジで意味わかんないわねぇ…バッカみたい…」

 

「いやいや。“いつか私が世界をぶっ壊すから、それまで生きてろ”って言いながらガキにお菓子とか缶詰渡してたじゃん?」

 

「上げたわけじゃないからね!?

崩し殺すまでの“貸し”を作ったのよ!あのガキを崩して良いのは私だけって事よ…それが缶詰ですむなら安いもんでしょ?…それか将来仲間になってくれれば良いかなって思ってね。つか、それ見て寄って来た大人は崩してるし、イーブンじゃない?」

 

「光源氏物語みたいなことしてんね…まぁ将来ヴィランになりそうな腐った“目”をした子供だったから、アリって言えば、ありなのかも?でもガキだったしなぁ…」

スイちゃんが手をパチパチさせ

 

「いや…睡魔も14歳ぐらいだろ?あんまり変わらないから、ガキって言わないほうが良いぞ。葬華も…それってつまり、マイナスイメージに繋がる輩を排除しているから相対的に評価上がるんじゃないか?」

スピナーがおそらく正解を引き当てる

 

「スピナー…強い正論は意見が会話に発展するための接続障害になりやすいらしいよ?…つまりね……わざわざ年齢言わなくても良いじゃん!」

プリプリと怒るスイちゃん

「す、すまん」

 

 

「な、なるほど…死んだ人間は何も言えないもんね…そりゃそうか…うわぁ…そうか、そう言う事かぁ」

ガックリと落ち込む葬華

 

 

「まぁまぁ甘い物でも食べて、次の作戦を練ろうじゃないか」

パチン!

 

と圧縮玉からお菓子が入っている大容量包装紙を取り出す

 

そして、彼らは…ついでにエグゾダスという瓦礫の山の麓に集まっている多くの人間達に僅かな水分と食料を投げ与える

 

その僅かな食料を奪い合うために暴力を振るう人間の様子を見て『あっはっは!』と笑う灰濁メンバー。

彼女・彼らは誤解されている。

間違いないく心の底からヴィランでありどのような状況でも決して他者の救済を意識しない者達である。

 

更に言えば、何故ここまで余裕を持って当初からの理念、悪意で成り立つヴィラン活動が行えているのか。

 

それはMr.コンプレスは異空間圧縮の個性によって、水や食料や嗜好品を大量に蓄えていた。彼の帽子型セルドライバーは内側が異空間に繋がっており10kgまでの物を無重力・無時間で保存特殊設計。圧縮玉など、一つはg単位、どれだけ貯めてもそうそう10kgには至らない。

 

爆発前にそれを圧縮保護した彼の判断は、まさに英断だった。

 

結果、彼らは飢えに苦しむこともなく、生き延び、嗜好品を楽しみ他者に物資を配ることすら可能であった。

 

それはかつて“奪ったもの”

今は、それは良くない方向に“還元されていた”

 

そしてお菓子を好きなだけ食べて…

 

葬華はつい、こぼす…

「皆が集まり終わってさ…こんな感じで毎日気に食わないヤツ崩し続けて、腐った大人で遊んで、新しい未来を崩すために、ガキにちょ〜っと施してやるだけなら楽しいんだけどねぇ〜…」と“仲間がいない”以外は危機感を持っていない葬華は、まったりと今以上の“日本”崩壊後の景色を夢見ていた。

 

 

 

 

──その頃、もう一方のSNSでは“正義”が暴走していた。

 

SNSのタイムラインは、まるで大嵐。

《マスコーダーが戦艦を二隻も墜としたせいで被害が拡大した!》

《あんな戦力、今まで隠してたの?信用できるわけない》

《最初から全力出せば早く終わったんじゃ?》

《あの力でこの結果って…才能の無駄使いすぎ》

《責任、取れるの?信じられない被害だよ》

 

……拡散、拡散、拡散。

 

誰かが投げた言葉が切り取られ、肥大し、尾ひれをつけ、独り歩きしていく。

ドローンが撮った、戦艦から落下するマスコーダーの映像。地面に膝をつく姿。

それらが過剰に加工され、“劇場型ヒーロー”として、嘲笑とともに拡散されていく。

 

《まだヒーロー気取り?仮免のくせに》

 

まるで胸元の仮免プレートが“勘違い”の象徴かのように晒され、踏みにじられる。

彼女の名は、いま、世界中の指先で、簡単に傷つけられていた。

 

──だが。

 

「おかあさん……っ……どこ……? いたいよぉ……」

 

その小さな声が、すべてを塗り替えた。

 

「──ここにいるよ!」

 

バチンと感情のスイッチが切り替わる。

砕けたアスファルトを踏みしめ、瓦礫をかき分けて──マスコーダーはその腕で、小さな命を抱きしめた。

 

「もう、大丈夫……。もう、ひとりじゃないよ……!」

 

泥だらけの顔。血に染まった袖。裂けた腕。

それでも──声は確かに、あたたかかった。

 

「次は……あの建物の裏。カタチ、お願い!」

 

「うん、任せて!」

 

──《君は、まだ進むのかい?》

 

無線越しの声。かつてのNo.1ヒーロー、“オールマイト”。

いまやマッスルフォームは使えず、車椅子生活を送っていた彼は、それでもオペレーターとして前線復帰してくれた。彼女のために。

 

──「やれることがまだあった」

そう言って、あのとき彼は……泣くように、笑ったのだ。

 

ごめんなさい。寂しい思い、させてたんですね。

 

──それはそれとして。

 

「……はい。私は、“ありがとう”って声に応えるために、ヒーローになったんです!」

 

使用可能エネルギー:6.2%

戦闘機能:制限中

武器:小太刀と脇差のみ

 

──それでも、彼女の目に灯る光は、かつてよりも遥かに強く、確かだった。

 

その腕の中、助け出した少女の手には、折り鶴が一つ。

泥にまみれていたはずのそれは、布の端切れで作られた、マスコーダー特製の“約束の印”だった。

 

「行こう……誰かが待ってる。誰かが、助けを──!」

 

声は震えていた。身体は限界寸前。

でも、それでも──彼女は走り続ける。

 

SNSで罵られようと、世間に背を向けられようと。

 

救える命がある限り、彼女は止まらない。

 

ヒーローは、承認されるためにそこに立つんじゃない。

“誰か”のために立ち続けるのだ。

 

──灯はまだ、消えていない。

 

「……まだ終わってない……! 助けを求める声が、まだある……!」

 

しかし──

 

「待って! 休まなきゃ倒れちゃうよ!!」

 

《カタチ君の言う通りだ。君が倒れたら、元も子もないよ。今は休みたまえ》

 

彼女は──限界だった。

 

「でも……逃げたダツゴク、まだ捕まえてない……助けられる命、まだ……!」

 

その時。

瓦礫の向こうに、影がひとつ現れる。

 

「……まずは休みやがれ。死んじまうぞ?」

 

現れたのは、クサナギ。

 

浅黒い肌、紅い瞳、ボロボロのスカジャン。

その青年は、明らかに“ただ者じゃない”気配を纏っていた。

 

彼は“シン脳無”と呼ばれる新世代改造脳無

設計はAFOと柄木球大。

蛇腔病院でミズチと共に解放された彼は遺伝子レベルの因縁により死闘を開始した。

その戦いを見ることは叶わなかったが途中で街を壊す原因となった爆発にミズチが直撃、その影にいたクサナギが命を拾ったという経緯があった。とは言え、巻き込まれて無事なはずもなく命を落としかけていたとき、初期の救援活動中のマスコーダーに救われたという経緯があった。

 

「命の借りは命で返す。それがスジだろ?」

 

彼の“個性”は“ツルギ”。身体能力を強化し、右手から刀を生み出す能力。

かつては“三種の神器”とも呼ばれる能力を持っていたが、爆発の影響で予知の“マガタマ”と反射の“カガミ”を喪失したという。

 

間違いなく敵に回さなくてよかったレベルである。

 

この情報はすべて公安に共有済み。

新公安トップのホークスは、こう返してきた。

 

「戦力としては充分。味方か敵か──もうその境界線なんて曖昧だからね。使える者は、すべて使う。それが“今の正義”さ」

 

──そう、今の世界には“綺麗な正義”なんて残っていない。

 

「きゃああああ!誰か!助けて!」

 

助けを求める声。

その瞬間、マスコーダーはまた走り出す。

 

「今行くよっ!」

 

「……はぁ。マジで潰れるぞ、アイツ……」

 

クサナギは頭を抱え、オールマイトもため息を吐く。

彼女を止めようにも、止めれば通信を遮断し、独断で突っ走る。すでに公安との通信は絶たれていた。

 

──自己犠牲による他者救済。それは、オールマイトのような男にしか背負えない十字架。

 

マスコーダーはまだ、その重さを背負いきれていない。

体力だけじゃない。エネルギー残量も僅か。でも彼女は、言うのだ。

 

「少ししかないなら、今、助けるために使う」と。

 

彼女を止められる者など、いない。

そもそも、この国に──もう、余裕なんて残っていないのだ。

 

死んでいった多くのヒーロー。去っていった者たち。

──だからこそ、彼女は止まらない。止まれない。

 

──せめて、目に映る命だけでも、救いたくて。

 

 

 

そんな彼女を、探す者たちがいた。

 

──灰色の空を背に、4つの影が空を駆ける。

 

緑谷出久、飯田天哉、麗日お茶子、常闇踏陰──“空中偵察班”。

災害状況を調査し、即応するために現地へと赴いていた。

 

「……あそこ!」

 

麗日が指差したのは、崩れた交差点。その中央に、焼け焦げた白と青のロングコートが、ひときわ異質な存在感を放っていた。

 

「マスコーダー……!」

 

「何してるんですか、先輩!避難民の誘導は別班がやってます、早く戻ってください!」

 

飯田の声は、厳しくも、どこか懇願めいていた。

 

緑谷が地に降り立ち、彼女を見つめて──静かに告げる。

 

「今、あなたが倒れたら……次は、誰も立てなくなるかもしれない。だから、お願いです。少しでも……休んでください」

 

だが──

 

「……今は、まだ戻れない」

 

マスコーダーは、振り返りながら、首を横に振った。

 

その顔は、血と泥と煤にまみれていた。

だが、視線だけは、曇っていなかった。

 

「確かに……このまま動けば、壊れるかもしれない。止まるかもしれない」

 

「だったら──!」

 

「……でも、たった今、どこかで……誰かが手を伸ばしてるかもしれない。泣いてるかもしれない」

 

その拳に、静かに力がこもる。

 

「そんな“今”を、見て見ぬふりなんて……したくないんだ」

 

沈黙──空気が張りつめる。

 

そのとき、緑谷が一歩踏み出し、口を開いた。

 

「……僕も、皆を助けたい。見て見ぬふりはできません。でも──今、AFOとヴェットを同時におびき出す作戦があります。オールマイトにも、その作戦に参加してほしいんです」

 

「……え?」

 

『……何だって?』

 

クサナギの紅い瞳が細められる。何かを見透かすように。

だが──彼は、何も言わず、ただそこに立ち続けていた。

 

 

……………………………………

 

 

 

「何してるんだい?」

 

その声は、まるで旧友にでも話しかけるように穏やかだった。

けれども、背筋を刺すような圧は、皮膚の内側からじわじわと這い上がり、葬華の背を撫でる。

 

──オール・フォー・ワン。

 

破壊の起源にして、すべての元凶。

かつて、彼女に“教え”を授け、育てた存在。

 

今のAFOは、背に生命維持装置を背負い、酸素マスクなしでは生きられない身体になっていた。

 

「中途半端なヒーローみたいだね。そんな育て方、した覚えはないけど?」

 

「……ま、教えられたことは全然別物でしたけど。感謝はしてますよ、一応。今はそこから“自分らしさ”を見つけただけって話です。“守・破・離”って言葉、知ってます?」

 

葬華はわざと鼻を鳴らして返した。

……その指先に微かな震えがあるのを、本人だけが知っていた。

だが彼女は、背を向けずに言い返す。

 

「継続的に破壊を楽しむには、“ちょっとの我慢”も必要ですから。ね?」

 

AFOはゆるやかに笑う。

 

「違うよ、葬華」

 

その声はあくまで穏やかで──だがその裏にあるのは、疑いようのない確信。

 

「破壊とは、本質に従うべきだ。憎しみ、怒り、嫉妬──そういった“負の感情”は、決して嘘をつかない。

ヒーローはそれを否定する。抑圧する。でも僕らは……そうじゃない」

 

ゆっくりと両手を広げながら、彼は続ける。

 

「ヴィランとは、人の裏側を肯定する者たちだ。欲望も怒りも、自我も──そのまま、貫き通す。だからこそ、本当の意味で壊せる。変えられる」

 

「守る?助ける? そんなの、自分をごまかすための“逃げ”に過ぎない。

──君は、そんなことをするために力を得たんじゃない。違うかい?」

 

静まり返る地下駅構内。

心臓の鼓動だけが、やけに大きく聞こえていた。

 

葬華は俯き、歯を食いしばる。

 

“違うのか?”

 

──誰よりも、その問いの答えを知っているのは自分自身だ。

 

低く、重い声が、魂に杭を打ち込むように響いていた。

 

「さあ、どうする? 僕の“教え”に戻ってくるかい?

それとも……“偽りの救済ごっこ”を続けるか?」

 

葬華はゆっくりと顔を上げる。

その右目に、うっすらと光が灯っていた。

 

「んー……継続的な救済、なんて高尚なもんじゃないですよ? 壊したいから造る。壊す過程も楽しみたいってだけ。……自分で作ったもんを壊すって、面白いでしょ?」

 

その笑みに、AFOはわずかに眉をひそめた。

 

「……結局は壊すんだね。救うフリをして、何のためにそんな手間を?」

 

「結果だけ見てもツマラナイでしょ。やろうと思えば“全部”崩せるんですよ。

でも、壊すものが何もない世界って……退屈じゃないですか?」

 

「ふふ……“全て”か。大きく出たね」

 

「崩壊の伝播と視認崩壊、合わせれば、“全部”壊すのに大した手間はないですよ。

結局死ぬんだから今死んでも同じ、って考えと、どうせ死ぬなら楽しもうって考えの違いじゃないですか?」

 

「なるほど……ずいぶん多様性に満ちた思想だ」

 

AFOが小さく呟いた、そのとき──

 

「ちょっと通るね〜」

 

軽やかな声が割り込んできた。

 

白衣のような医療用コートに身を包み、ポケットに手を突っ込んで現れたのは──

 

「……ヴェット?」

 

「やっほー葬華ちゃん。久しぶり。まだ猫アレルギー治してないの? まったくもう〜」

 

現れたのは、死柄木葬華の唯一の“友達”、Vet(ヴェット)。

動物病院の院長にして、異能工学の天才。

セルドライバーの創造者にして、AFOと共に“阿賀月事件”を引き起こしたタルタロス帰りの問題人物。

 

「ふふ……すごい世の中になったね〜、まさに終末。あ、AFOさん、どうもどうも」

 

ヴェットは軽く会釈し、AFOも頷いて応じた。

 

「久しぶりだね、ヴェット。……会いに行けなくてすまなかった。尊厳も何もない状態だったものでね」

 

「ほんとよねー!せめて檻の中くらい快適にして欲しいもんよ。人権はどこ行ったのかしら?」

 

AFOは声を上げて笑う。背中の装置がカタカタと揺れた。

 

「アンタ……何しに来たの?」

 

「心配だったから、に決まってるじゃん。友達でしょ?」

 

にこっと笑うヴェット。その笑顔は、相変わらず“底が見えない”。

 

「第8研究室に向かう途中だったんだけど、せっかくだから顔見ていこうかなーって思って」

 

「……まだ、研究室残ってたの?」

 

「葬華が全部ぶっ壊してくれたから、そこだけねー」

 

「あちゃー……ごめん」

 

「いいよ、いいよ」

 

本当に“それだけ”で許されるような会話。

けれどどこか、これが最後の挨拶になるかもしれないという空気が漂っていた。

 

「じゃ、そゆことでー」

 

あっさりと手を振って去ろうとするヴェット。

 

「バイバイ」

 

「じゃ」

 

互いに手を振り、あっさりと別れを告げる。

 

 

 

「さて……僕の話に戻してもいいかな?」

 

「うん、どうぞ」

 

葬華が頷くと、AFOはまた静かに語り始めた。

 

「葬華……君の“遊び”は面白い。でも、物足りないんだ」

 

「ほー?割と頑張ってるつもりですけど?お菓子騒動起こしたり、気に食わないヤツ壊したり」

 

「だが、それは“点”でしかない。君の才覚をもってすれば、“世界”を変えることができるはずだよ。だからこそ……もう一度、手を組まないか?」

 

AFOはしゃがみ込み、目線を葬華に合わせて言う。

 

「破壊し尽くすだけじゃなく、新たな“形”を作ってみないか? 君たち自身の手で」

 

「卒業生が教師を助けることもあるってやつですか?今どきの教育は随分熱血ね」

 

Mr.コンプレスが「ほぉ」と口笛を吹き、スピナーが目を丸くする。

睡魔は「えぇ……」とドン引きしていた。

 

「100%乗るわけじゃないですよ? ただ勝手に並走するだけ。そっちが潰れたら捨てるし、気に食わなければ崩す。それだけ」

 

「ふふ……それで十分。いや、それがいい」

 

AFOは満足そうに笑みを浮かべる。

 

「“お友達”の協力のおかげで、次の準備が整いつつある。3日後、東京エリア南端のゲートに08:00集合だ。……そこで“次の世界”を始めよう」

 

「はいはい」

 

「楽しみにしているよ、葬華。……あ、そうそう。他の灰濁メンバーは、僕のところで“預かってる”からね」

 

「え、それ先に言いなさいよ、先生!!」

 

すでに消えた空間へ向かって怒鳴る葬華。

 

「前に助けてもらったけど……やっぱあの人、性格悪いよね」

睡魔が顔を引きつらせる。

 

「交渉材料がないのに来るわけないと思ってたけど……拒否してたらどうなってたかね」

Mr.コンプレスが真顔で呟く。

 

「操られて捨てられてたな。……マジで気をつけよ」

スピナーが刀を納刀しながら銃を構える。

 

「ってかその刀と銃、いつ手に入れたん?」

 

「さっきヴェットがくれたよ。新しいやつ一本」

 

「なんで私にはないの!?」

 

「え、くれたじゃん?私も新しいガスマスクもらったし」

 

「おじさんももらったよ!このステキな“ステッキ”!」

 

よく見ると、スーツケースが壁際に乱雑に置かれていた。

 

《葬華用》

 

とラベルが貼られており、他のメンバー用の新型セルドライバーも並んでいる。

 

「挨拶だけ」と言いながら、完璧すぎる準備。

 

──普通なら感動するところだが。

 

「サプライズとかいらん。普通に渡せや。……無駄にイラついたわ」

 

葬華はただ、ぷいっと顔を背けたのだった。

 

勝負は3日後。

この物語は──いよいよ最終局面に突入する。

 

 

………………

 

ちなみにMr.コンプレスのダジャレは最後まで誰にも突っ込まれなかった。




次は最終局面の導入!!!
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