ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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後悔している!!!
事前に戦闘メンバーを書いたことに_:(´ཀ`」 ∠):


第33話「それぞれの勝敗」

 バシャァァッ!!

 海面を割り、マスキュラーが突進してくる。

その巨体は筋肉を積み重ねすぎ、もはやギガントマキア級。

情報では、かつてベストジーニストを追い詰めた時と同じ形態だ。

 

──それでもセルドライバーは未使用。

 

その事実を共有していた面々は身震いするが、当然、策は用意していた。

 

切り札は峰田の《グレープジュース・スカッシュ》。

 

癒着するモギモギを破裂させて飛び散る液体には“剥離”効果がある。

 

顔すら筋肉に覆われたマスキュラーの姿は、水底の闇から引き上げられた獣そのもの。

鎧のように肥大した筋肉の隙間には、撒かれていたモギモギがびっしり付着していた。

 

巨人と化したマスキュラーが両腕を振りかぶり、メガフロートを叩き潰そうとする。

 

「何でだ!?…けど、選択肢がねぇ……嫌な感じだ……オイラがやるしかねぇ!!」

疑問を抱きながらも、作戦通りに峰田が指をパチンと弾く。

 

次々と弾け飛ぶモギモギ。

グレープジュース・スカッシュがマスキュラーを覆い、重なった筋肉が剥離して縮みはじめる。

巨体はそのまま再び海中へ沈んでいった。

 

「よくやった、峰田くん!」

シェルムが称える。だが峰田はすぐさま叫んだ。

 

「待ってくれ!!オイラ、ちょっと前も同じようにコイツの筋肉を解除したんだ…それなのに、全く同じ展開……『同じ流れにさせられた』のかもしれねぇ!!警戒しろーーッ!」

 

皆の背筋が強張り、視線が海面へと集中する。

 

──そして。

 

「……行かねぇのかよ」

 

メガフロートの一角から、ゆっくりとマスキュラーが歩み出る。

「「「「なっ!?」」」」

「やっぱり……」

 

峰田以外、誰もが驚愕に息を呑む。

 

「ネタバレしてやる。“アレ”はただの筋肉の塊だ。本体の俺は中から抜けられる。筋肉は俺のもんだから、遠隔でも好きに動かせるんだよ」

 

「何という個性……」

 

「鍛え方が違ぇんだよ。舐めんな、ガキ共もガイジン共も!」

甲板を踏み鳴らした瞬間、メガフロート全体が轟音と共に揺れた。

 

「なんという脚力……!」

シェルムが戦慄に身を震わせる。

 

「安心しろ。オモチャはもう使わねぇ。まぁまぁ楽しめたが、それだけだった」

そう言い、無造作に義眼を嵌め込む。

 

「だがよォ……オモチャが無ぇから弱いなんて思うなよォ!!!」

 

咆哮と同時に、メガフロートが大きく揺さぶられる。

 

「何が起きてる!?」

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

警報がけたたましく鳴り響き、立っていることすら困難な振動が襲い掛かる。

 

「あわわっ、皆!テープに掴まって!」

瀬呂がテープを縦横無尽に伸ばし、コヨリのようにして全員が掴める場所を作る。

 

「ナイス瀬呂!!これなら行ける…

《化猿三鎖(ばけざるさんさ)》!!」

 

メキメキ……

尾白の体が二尾の猿へ完全変化し、一回り巨大化する。

そして四つ這いの独特の構えを取った。

 

「《廻猿(みざる)》!」

揺れをものともせず、テープや鉄骨を巧みに使い、獣じみた機動で回り込み接敵。

 

「速ぇ……しかも読めねぇ動き!!」

 

「《気化猿(きかざる)》!!」

急激な緩急で空気を殴った錯覚を生ませ、反撃を空振りさせる。

 

「ちっ!当たらねぇ……どんなマジックだ!!」

 

「《威把猿(いわざる)》!!!」

両拳を二指拳に固め、顔面と鳩尾へ同時に叩き込む必殺の山突き。

 

狙い通り、マスキュラーは顔面をガード──だが本命の鳩尾に二指拳がめり込む。

 

ズドン!!

メギィ……ッ

 

「あ、がぁ!?!?

がはぁ……とんでもねぇ……ことしやがって……クソガキがぁ……!」

 

血を吐き、膝が崩れ落ちかけるマスキュラー。

 

「油断するなぁ!早く離れろおぉ!!」

 

峰田は必死にテープを握りしめ、声を張り上げる。

 

だが──

 

「抜けない!?」

 

「ぐはぁっ……!」

 

血を吐きながらも、マスキュラーのギラついた目は尾白を決して離さなかった。

 

「まずは一匹……」

 

「くっ、《兎尾蹴り》ッ!!」

 

ドガァッ!

 

尾白の拳は筋肉に絡め取られて動かせない。殴られると悟った瞬間、彼は腕を防御に回し、脚を攻撃に振り切った。

──ミルコ直伝の蹴り技。その一撃がマスキュラーの顔面を撃ち抜き、衝撃で絡め取られた腕を無理やり引き抜く。

皮膚が裂けても構ってはいられない。

 

しかし、両腕で防御してなお、過剰な筋肉に包まれた一撃をまともに受けた尾白は──

 

バキッ! ボギンッ!

 

「……がっ!」

 

何かが折れる音とともに吹き飛ばされる。

 

「尾白ーーーーーッ!!」

峰田と瀬呂が絶叫。

 

バシャァッ……

 

落下した尾白をシェルムが水化で受け止める。縦横無尽に張られた瀬呂のテープを利用し、揺れる中でも冷静に救助してみせた。

 

「なんということだ……。あの一瞬で回避だけでなく反撃まで仕掛けるとは! 日本の学生は化け物揃いだ……。だが、そのダメージではもう戦えまい。あとは任せろ──《アクアケージ》ッ!」

 

海水が渦を巻き、マスキュラーを檻のように包み込む。

 

だが──

 

「いけない!」

 

突如、物間がワープで現れ、シェルムを甲板へ強制移動させた。

 

「何を──!?」

 

「アレを見てください!」

 

「……は?」

「マ、マジかよ…!」

「戦力が足りねぇ……」

「う、嘘だろ……」

 

順番に、シェルム、瀬呂、峰田、そして尾白自身までが絶句する。

 

尾白の両腕は変色し、骨が露出するほどの出血。胸骨まで陥没している。

それでも意識を保っているのが不思議なほどの重症だ。

 

すぐに病院へ運ばねばならない──だが、一瞬だけ誰もが目を奪われた。

 

巨大なメガフロート全体が筋肉に覆われ、蠢いていたからだ。

それは峰田が剥離させたはずの筋肉が、再び融合していた。

 

「クソが……内臓やられたか。骨折のほうがマシな痛みだぜ……。最後の蹴りがなけりゃ、殺れてたのによ……!」

 

マスキュラーは血を吐きながらも不敵に笑う。

 

「物間くん! 早く尾白を病院へ!」

「分かっています!」

 

即座に尾白をワープで療養所へ転送。

 

だが戦況は悪化する一方。

メガフロートそのものが“マスキュラー”と化していた。

 

「……こんなの想定外にも程がある……」

「この量の筋肉を剥離させるなら……さっきの三倍のモギモギが必要だ……オイラ達でやれるか……?」

 

誰もが一瞬、絶望を覚えたその時──

 

「フィクサァァァァァァァァ!!」

 

物間が叫ぶと黒霧のワープが開く。

 

「私の可愛い弟子を殺しかけやがって……テメェはブチ殺すしかねぇなああぁ!!」

 

全ての血管を浮かせ、鬼神の如き形相でミルコが現れる。

 

「尾白くんをあんな目に……許さへん!」

麗日は涙の跡を残し、歯を食いしばる。

 

「ケロロ……仲間をあんなに傷つけるなんて……絶対に許さない!」

蛙吹も怒りを隠さない。

 

「ノコノコー! アンタのターンはここまでよ!」

小森がキノコを広げながら吠える。

 

「武術を語れる友を……あのように……許すまじ!」

鱗飛龍は顔を真っ赤にし、怒りを露わにする。

 

学生ヒーローたちは皆、尾白の重傷を目にしていた。

 

「…すごいじゃねーか、物間!これなら、いけるかも!」

峰田がモギモギを握り直す。

「うし!縛り上げてやる!」瀬呂は強化テープを構える。

 

シェルムは叫ぶ。

「《タイタン》ッ!!」

 

海水の巨人が形成され、メガフロートを押さえ込む。

「長くは保たん! 本体を頼んだぞ!」

 

戦場は、学生ヒーローとプロの総力戦へと突入していった──。

 

 

「抑えたから勝てると思ってんのかぁ!? あぁん!?」

 

バキバキバキッ!!

 

マスキュラーの筋肉がさらに膨張し、うねりを増す。

水しぶきが飛ぶ中、峰田のモギモギが雨のように降り注ぎ、砕けた瓦礫や滑走路の破片を巻き込みながら即席の障壁を形成。動きを制限していく。

 

「こっちも行くぞ!」

瀬呂が鉄球付きのコヨリテープを振り回し、遠心力をつけて投げ放つ。複雑に絡み合ったテープは、予測不能な軌道を描くはずだった。

 

──だが。

 

「この作り……5秒後に25メートル南南東に着弾だな? そんな見え透いた誘いに引っかかるかよ、馬鹿がァ!!」

 

「えぇ!? そんなの分かるのおかしいでしょ!」

「筋肉バカなら頭もバカでいてくれよ!」

 

罠を見抜かれ、瀬呂と峰田が絶叫する。

 

シェルムが必死に抑えてはいるものの、全ての筋肉を封じ込められてはいない。

滑走路、壁、支柱──まるでメガフロート全体が一つの肉体と化し、軋みを上げてうねるたび、海には大波が立ち上がった。

 

「ガッハッハッ! ここはもう俺の身体だ! 沈めたきゃ、俺ごとやってみろォ!」

マスキュラーの咆哮とともに、筋肉のケーブルが四方八方へ奔る。

 

「散開ッ!」

物間の指示と同時に、コピーしたワープで仲間たちを転送。

直後、肉槍が地を割って突き上がる。

 

「なら──壊すだけだ!」

ミルコが跳躍。ルナ・アーツ《兎久蹴鞠》が炸裂し、迫る肉塊を粉砕する。

しかし飛び散った繊維が再び絡みつき、足首を掴んだ。

 

「ミルコさん!」

蛙吹が舌を伸ばし引き寄せる。

麗日が即座に筋肉を無重力化し、絡みつきの動きを奪った。

 

「おらぁッ!」

瀬呂が軌道を変えた鉄球テープを叩き込み、峰田がその上から粘着玉で固める。

「はい、粘着地獄コーティング完了!」

 

「まだ動くわよ!」

蛙吹の蹴りで塊は海へ沈む──が、筋肉は分裂し再び潜り込む。

 

メガフロートが傾き、支柱ごと軋む。

「クソ……海中からか!」

 

その波間を突き破って飛び出す影。

「ここからは私の番だ!」

鱗飛龍が硬化した体で体当たりし、支柱を覆う筋肉を切り裂いた。

 

「ナイスだ、鱗!」

物間が《水化》を発動。シェルムと共に渦を生み、筋肉を洗い流していく。

 

「ぐおッ……まだァ!!」

マスキュラーが絶叫。地面が隆起し、ビル大の筋肉柱が迫り出す。

 

「みんな、上だ!」

物間がワープでミルコと麗日を空へ飛ばす。

「ウラビティ、重さを!」

「任せて!」

 

無重力化で加速したミルコが空中で脚をしならせ──

新技《ルナティアストンプ》!

麗日の荷重が重なり、衝撃が柱の根元を粉砕。

 

「次はあたし!」

蛙吹が峰田の粘着で封じられた束を蹴り落とす。

さらに──

「緑谷ちゃんがいなくても……できる!」

彼女の舌が矢のように伸び、絶技《絶・伸》がマスキュラーの鳩尾を貫いた。

 

「ぐはっ……!」

尾白が残した傷に重ねての一撃。マスキュラーが悶絶する。

 

「ノコノコノコー! とどめはキノコ!」

小森の胞子が肉塊を覆い、視界と呼吸を奪う。

 

「ぬぐッ……!」

その隙を逃さず鱗が斬り込み、シェルムの水拳が叩き落とす。

 

「沈めぇッ!」

 

轟音──そして。

 

「最後は私や!」

ミルコが兎踵蹴を叩き下ろす。

その技は尾白の一撃を思わせた。

 

ドゴォン!!

 

ついにマスキュラーの膝が折れ、鉄骨とともに海へ転落する。

 

「じゃあな……もう死んどけ」

ミルコが親指を下に向け

 

「ぐ……テメェらが……死ねよ、ヒーローども……!」

中指を突き立て、海へ没するマスキュラー

 

数秒の静寂。泡が上がり、血が滲む。

──浮かび上がることはなかった。

 

崩れゆくメガフロート。

張り付いていた筋肉が死に、骨組みが音を立てて沈んでいく。

 

浮遊しながら眺めるヒーロー達

 

麗日の“浮遊”の跡があるテープを峰田に貼り、

メガフロートが崩れても生き残れるように皆にモギモギを付けて“浮遊”させていたのだ。

 

「終わった……のか?」

峰田が肩で息をする。

 

「……いや、まだ油断するな、だが…ここは任せて我々は次に行かねばならん」

シェルムが全員を引き締める。

 

「分かってる」

ミルコは視線を海から外し、次の戦場へ向ける。

 

「「「はい!」」」

 

ワープで後方へと戻り、束の間の休息と戦況把握へ向かった。

 

 

 

対 Mr.コンプレス

ビッグ・レッド・ドット

グラントリノ

口田甲司

葉隠透

庄田二連撃(B組)

 

 

 

「おじさん、こういうのは困っちゃうなぁ!?」

Mr.コンプレスの声が鬱蒼とした森に響いた。

 

戦場は都心から離れた山奥の森林──緑林ヶ原樹海。

昼間だというのに木々の葉が光を遮り、地面に届く陽光はほとんどない。木々はどれも高さ10mを超え、草木すら人の背丈を優に超えていた。

 

「うむむっ……動きにくすぎる! ていうか、ここどこだよ!?」

自身の場所すら把握できない事に顔をしかめる。

 

その時──

 

ギャンッ! ギャギャンッ!

空を切る音とともに、グラントリノが滑空してきた。小柄な体を活かし、樹海の上空を縦横無尽に舞う。

 

「どうして僕の居場所がわかるのかなぁ? 教えてよ、お爺さん!」

「捕まったらな」

 

ギュアン! と鋭い蹴りが迫る。だがコンプレスはひらりとかわす。

「後方支援かと思ったけど……意外と厄介じゃないか」

「爺さんヒーローに褒められるなんて光栄だね!……でも見逃してくれたらもっと嬉しいんだけど?」

「んなわけあるかい」

 

そこへ──

 

ギャァ! ギャァ!

口田が呼び寄せたカラスやトンビ、リス、猿、猪、シカが次々と襲いかかる。

 

さらにバシュウゥゥッ!!

ビッグ・レッド・ドットの流水砲が横合いから飛来。直撃すれば一撃で戦闘不能だ。

 

「はあぁっ! 二撃・空打ァ!!」

庄田の両拳が唸り、音速の衝撃波が見えない拳となって迫る。

 

グラントリノが上空から畳みかけ、ビッグ・レッド・ドットの濁流が再び森を揺らす。

 

「皆!力を貸して!!」

口田の角が光を帯び、樹海の生物たちと強く共鳴する。

 

──これは彼の領域。

進化した個性によって、繋がった動物の中には“個性発動”まで可能な者すらいた。

 

狐の鳴き声で草木が蠢き、

狸が熱湯の沼を作り、

雀が砂を操り、

鼠が巨大化して電撃を放つ。

亀が二足歩行で口から放水砲を吐き、

蜥蜴が背に咲かせた花から鞭のような蔓をしならせる。

 

──この環境、この戦場で、口田たちに勝てぬ道理はない。

 

「これで終わりだ!!」

 

しかし。

 

コンプレスは表情一つ変えず、掌を上空に掲げた。

そして──静かに握る。

 

「うわぁ……動物の個性持ちまで? そりゃ反則級だよねぇ……仕方ない。僕も嫌な手を使うしかないか。

……《圧縮・限界突破(リミット・ブレイク)》」

 

低く呟いた瞬間、空気がねじれた。

 

「な……っ!?」

庄田が踏み出した足元の大地が歪む。木々が悲鳴を上げて軋む。

 

「原理は単純さ」コンプレスは口元を吊り上げる。

「“触れているもの”が連なってさえいれば……僕は最大半径50メートルを、一つの球に凝縮できる。空気すらね」

 

直後──世界そのものが押し潰された。

樹海ごと。

グラントリノも、庄田も、口田も。

動物たちも、ビッグ・レッド・ドットの巨体すらも。

 

すべて光の粒となり、コンプレスの掌でひとつの小さな球体に収まっていく。

 

「ば、馬鹿なッ! そんな……!」

ビッグ・レッド・ドットの流水は途切れ、庄田の拳も空を切る。

 

「出来るんだよ。だから“限界突破”って言っただろ?」

 

そして──彼らは圧縮の闇に飲まれた。

 

 

 

 

無事なのは、ただ一人、葉隠のみ

彼女は地面にへたり込み、震える手で口を押さえる。

 

何故、自分だけが助かったのか。

 

「はぁ……はぁ……関節が痛ぇ……便利だけど反動がツラいんだよね、これ」

コンプレスは息を整えながら、ポケットから圧縮玉を取り出し、地面に転がす。

 

光が弾け、小型脳無《ワープ君》が現れる。

 

「さて……皆は無事かな。まずは後方で戦況確認だ。

……ワープ君、Dr.殻木の所へ繋げてくれ」

 

ズズズ……黒い闇が広がり、コンプレスは消えた。

森に残ったのは透明な少女の荒い息だけ。

 

鼓動が耳を打ち、やがて震える声がインカムに流れた。

 

『……こ、こちら葉隠。樹海戦域での……コンプレス戦は……完敗。全員やられました……私だけ……私だけが……うわあああん!!』

 

泣き崩れる報告。それでも事実は変わらない。

 

深き森の奥、仲間たちの姿は完全に消え去った。

 

 

その時──ズズズ……と別のワープゲートが開く。

 

「物間くん! 来てくれたの!? ごめん……負けちゃった。でも圧縮されただけ! まだ生きてるはず! 助けに行けるよね!?」

 

必死に縋る声に、返ってきたのは絶望的な言葉だった。

 

「落ち着いて聞け。……負けたのはここだけじゃない。君が無傷で残っただけ、ここはまだマシなんだ。戦況は……どちらに傾くか分からない」

 

「う……うそ……」

青ざめる葉隠。

 

「荼毘が現れたんだ」

物間の顔もまた苦虫を噛み潰したように強張っていた。

 

「まずはオペレーター室に戻る。残った戦力で戦況を立て直すしかない。……どんな状況でも、僕たちは諦めちゃいけないんだ」

 

言葉に従い、葉隠はワープへと身を沈めた。

 

──更なる絶望の報せを聞くために。

 

 

 

対 睡魔

エッジショット

ミッドナイト

芦戸三奈

八百万百

 

 

──雄英高校・擬似工業地帯──

 

工場の轟音と蒸気が渦巻く、迷路のような空間。

絡み合ったパイプの間を、ヒーローたちはガスマスクを装着して戦闘を行っていた。

 

しかし──その防護にも限界はある。

 

唯一、支給されていない睡魔だけが圧倒的に不利。

 

「ガスマスクの効果は数時間が限度……吸収缶がなければ濃度次第でさらに短くなります。この環境なら──もって1時間ほどですわ!」

八百万百は仲間の陣形を整えつつ、予備のガスマスクを次々と生成していく。

 

工業地帯は本来、排気機能が徹底されておりガスの充満とは相性が悪い。

だが今回はその排気機構を強制停止。それでも水蒸気や他の気体は次々と生成され、戦闘前から視界を覆っていた。

 

「むーっ! 何このガス、前も見えないし、めっちゃ意地悪じゃん!」

睡魔が不満を漏らす。

 

ヒーロー側は通信機とサーモグラフィーで位置を把握し、八百万の生成する吸収缶でガスマスクを維持できる。

つまり狙いはただ一つ──睡魔の時間切れ。

 

ちなみに、彼女と共に転送された多数のヴィランはすでに気絶済みだった。

 

 

「子供とはいえ油断も容赦もするな! 人を殺した数は灰濁の中でも上位だ!」

エッジショットが刃付きワイヤーを構え、蒸気の迷路を滑るように前進する。

 

「ねーむれ、ねーむれ……あ? 来た!」

睡魔がセルドライバーを操作し、ガスを一時的に吹き飛ばす。

 

その右手には──脳無型セルドライバー【スナイパーライフル】。

 

バン、バン、バン、バン──!!

 

「うっ!?」「ぐっ……!」

 

瞬きほどの間に四発。

エッジショットとミッドナイトは脇腹を、芦戸と八百万は足を撃ち抜かれた。

 

「馬鹿な……あの一瞬で正確に……?」

「信じられない……あのライフル、まさか……」

 

二人の脳裏に浮かぶのは最悪の可能性。

 

睡魔は笑みを浮かべ、白煙に身を隠しながら叫んだ。

「おっかしいなぁ。人から作った“脳無型セルドライバー”もらったんだよねぇ。素材がさ──元ヒーローのレディ・ナガン! 知ってる?」

 

あまりにも恐ろしい事を宣った後に白色の濃い霧の様なガスに隠れて睡魔の姿が消える

 

 

グラつくヒーロー達

 

「バカな!!

彼女はタルタロスに収監されていたハズだ…ホークスで大幅な減刑による釈放が予定されていたのに!!」

 

「なんという非道…ヒトを道具に作り変えるなんて!!」

 

「何それ…なんでそんなこと出来んの!?

なんでそんなもん使えるんだよ!?」

 

「…なんて恐ろしい悪意…あ、足の震えが止まりませんわ」

 

さらに睡魔が追い打ちをかける。

「これのすごいとこはね、個性だけじゃなく経験や技術まで引き継げるの! だから練習いらず! ヒーローはどんどん死んで、私たちは強くなる! 最高でしょ!!」

 

バン──!

 

「ぐっ……!」

エッジショットの耳が弾け飛ぶ。

 

「わっ、当たった? 私、意外と才能あるかも!」

 

彼女は空間固定のセルドライバーを使用していた経験から空間把握を“音”で把握する術を身につけある程度の位置を割り出せるようになっていた。

そこにナガンの経験と技量が合わさったことで、視界を奪われても狙撃が成立してしまう。

 

 

本人も今、知った。

 

「なんだよ!それならバンバン打てば良かった!私のおバカ」

 

脅威度は跳ね上がるがプロは諦めずに対応策を考える

 

「なめないで!つまり中途半端な状態!排気機構を起動させてガスの貯留を無くして!空気の流れを作ることで僅かでも命中率を下げるわよ!」

 

ミッドナイトは脇腹の処置を終わらせて個性“眠り香”を発動させる。

 

 

「そーれ!!」

 

ヴォヴォン!!!

 

そして持っていた2つの鉄扇で眠り香とガスを吹き飛ばし撒き散らす

 

「げ!?なに、あのおばさんの扇子デカ過ぎるでしょ!………ん!??

あれ、もしかして鉄じゃね?」

 

睡魔は戦慄する

 

鉄扇は自身の身長ほどの大きく広がれば当然、取り回しがより困難となるハズだが…

 

それを片手に1本ずつ持ち軽々しく自在に操っているミッドナイトは果たして……ボディビルコンテストの女子フィジーク部門とフィットネスビキニ部門で上位入賞し、女性腕相撲大会では優勝を飾った経験があるムチムキの戦闘用肉体美を誇っている。

 

 

「恐怖に…負けるなぁ!」

ミッドナイトは自分にも仲間にも言い聞かせる様に声を張る

 

更にミッドナイトが鉄扇の持ち手に付属されている長い紐の端を持ち振り回す。そして睡魔の行動を制限するために工場を壊し、ワザと音を立て、土煙を上げた

 

ガス・眠り香に土煙に轟音に強い空気の流れを作ることで狙撃を防ぐ

 

バン…

 

バン…

 

と打つが

雑音が響き、目視出来ず動き回るターゲットを強風が渦巻く中で撃ち抜くことは流石に出来なかった

 

 

「このムチムチおばさん、メチャクチャだ!!」

 

「一応、あなたは生かして捕まえるつもりだったのだけど…でも…そう言ってられなくなったわ。危険過ぎるわ」

 

ミッドナイトは同じように片手で柄の紐部分を持ち鉄扇を振り回し工業地帯を破壊

もう片手で鉄扇を広げて濃度を高めた“眠り香”と土煙を風に乗せて睡魔に仰ぐ

 

狙いは睡魔のガスマスクの効果時間を、減らすことなのは変わらない。だが、その過程で命を失う可能性の高い戦闘方法をミッドナイトは選んだ。

 

「流石ミッドナイトナイトだ、これなら容易に気配を消せる。私はこれから“忍びらしく”行かせてもらう」

 

スゥ…

と、その姿と気配を消す

 

「…芦戸さん…八百万さん、今この時からエッジショットが助けてくれるなんて、もう思わないでね。彼が“忍びらしく”なんて言ったら、味方を犠牲にしても殺すって意味よ。これは覚えておきなさい…エッジショットは1番ヴィランを殺しているヒーローよ」

 

「「…は、はい」」

あの厳しくも優しいエッジショットの知らない面を知り驚く2人

 

そして

 

「…そして私達は囮よ。できる?」

 

「……いけますわ。動けなくとも、やれることはまだあります!」

八百万は足を引きずりながらも、次々と鉄板や煙幕弾を生成し、即席の遮蔽物を構築していく。狙撃から仲間を守り、睡魔の視界をさらに奪うためだ。

 

「わ、私もっ!」

芦戸も必死に立ち上がる。足の傷は痛みで感覚が鈍いが、それでも彼女の酸は健在だ。

「狙ってるフリだけならできるっしょ!」

酸の弾を壁や床に撃ち、わざと派手に蒸発音と火花を散らす。狙撃手にとっては“敵の位置を錯覚させるノイズ”となる。

 

「……なるほど、悪くはない」

エッジショットの声が低く響く。煙とガス、眠り香、そして酸の蒸気が混ざり合い、視界も感覚も乱れる。忍びにとっては好機。

 

「──助かるぞ、3人とも」

 

エッジショットの身体は薄く細く長く睡魔の死角へと消えた。

 

「いやいや、歩けないほど足痛いなら帰りなさいよ。やっぱりヒーローおかしいわ」

狙撃を続ける睡魔の視線が、一瞬八百万と芦戸に引かれる。その瞬間に背後の鉄扇が“ブン”と風を裂いた。

 

「見つけたわよ──」

ミッドナイトの鉄扇が唸り、睡魔を狙った突風がガスをはぎ取る。

 

「──そこだ」

エッジショットの糸刃が、睡魔の腕の隙間へと突き込まれた。

 

「うっ……!?」

脳無型セルドライバー[スナイパーライフル・“ナガン”]が弾かれ、火花を散らす。

睡魔の血液が舞う

「囮を軽んじたな。足を奪われようと、心は折れていない」

エッジショットの冷酷な声が、ガスの迷路に響き渡った。

 

芦戸と八百万は息を荒げながら、互いに肩を支え合う。

「ふふっ、役に……立てた……よね?」

「ええ……私たちの動きが、先輩方に繋がりましたわ……!」

 

睡魔は血をにじませながらも笑う。

(くっそー…これは詰んだかな?なら、せめて嫌がらせと悪あがきして死んでやろーっと)

 

勝敗は付いている。

 

だが──戦いは、まだ終わってはいなかった。

彼女は死ぬまで殺し続けるからだ。

 

 

 

 

「子供相手に大人げが無いんじゃない?」

エッジショットが鋭い眼光を突きつける。

 

「お前は眠っている人間の喉に詰め物をして窒息死させてきた……しかも一人や二人じゃない。残酷極まりない。容赦など、あるはずがない」

 

睡魔の個性が濃く、重く広がる。

全身が鉛のように沈み込む感覚──いや、実際に重くなっていた。

 

最初に異変を察知したのは、酸個性で敏感な皮膚を持つ芦戸だった。

 

「これ……ただのガスじゃない! 酸と毒が混ざってる!? みんな!! このガス、皮膚からも吸収されるタイプ! もう赤くなってきてる……ひっ!? 発疹に水膨れまで……逃げないと!!」

 

「へぇ、気付くやついたんだ。分かりにくくしてあるのに……まあ、二人殺せたし十分かなぁ」

 

睡魔の足元には、じわりと血溜まりが広がっていた。

 

「二人? 何を言ってますの……! 皆さん、早く!」

八百万の声に答えたのは──芦戸だけだった。

 

「……え?」

 

振り返った瞬間、彼女らは絶望を見る。

糸状から人型に戻ろうとした途中で動きを止めたエッジショット。

そして全身を焼けただれ、地に伏したミッドナイト。

 

「……これが、私の毒。強さを追求した“分かりにくいガス”さ。死んでも気付かない……はずなんだけどねぇ」

 

「そんな……」

「嘘よ……嘘でしょ……」

 

言葉を失う二人の前で、ミッドナイトが最期の力を振り絞る。

 

「“迂闊”じゃ……済まないわね……二人とも……最後の命令よ……逃げなさい……睡魔も……おんなじ……ごほっ……」

 

言い切る前に、その命の灯火は消えた。

 

「ミッナイ先生ぇーーっ!! 嘘だ! 嫌だぁぁ!!」

駆け寄ろうとする芦戸を、八百万が泣きながら引き止める。

 

「あぁ……くっ……芦戸さん、これを!」

八百万は必死に二人分の防護服を生成し、芦戸と共に着込む。

 

振り返れば、もはや人の形を失いかけた二人の亡骸。

その姿を心に刻みつけ、涙を流しながら工業地帯を後にする。

 

「……ごほっ……嫌がらせと悪あがき……終了かな。ざまぁみろ……」

 

ばしゃぁ……

自らの血溜まりに沈む睡魔。

 

(……あーぁ。なんで私の毒って、五歳以上年齢差がないと効きにくいんだろ……我ながら、意味わかんない制限つきだよねぇ……確かそのせいで林間合宿の時も負けたなぁ…うわ、嫌な事思い出しちゃった)

 

すでに呼吸すら困難。

個性に身体が耐えきれず、睡魔は崩れ落ちていく。

 

じゃり……じゃり……

 

その毒ガスが充満する中

 

死にゆく彼女に近づく影があった。

 

『あ゛ぁ゛〜ぁ゛あ゛』

 

──薪骸となった荼毘だった

 

(あ、荼毘じゃん。私と同じぐらい死にそうで笑える……でもアンタの方が長生きしそう。ねぇ、荼毘。私、負けたわ。だから仇取ってよ。殺して……このまま死ぬの、やっぱムカつく!)

 

『あ゛ぁ゛……』

 

(……通じてる? マジかぁ……やるじゃん。やっとアンタのこと好きになれたよ……他人のいいとこ探すの、結構大変だったなぁ……)

 

睡魔は原型を失いながら、そう思考を途切れさせた。

 

しかし──

 

『あ゛ぁ゛!!』

 

荼毘の蒼炎が彼女の遺体を焼き尽くす。

 

むくり……

薪骸として立ち上がろうとした睡魔の肉体は──

 

ぼろっ……ぼろっ……

 

骨すら保てず、崩壊した。

彼女の最後の毒が、骨すら蝕んでいたから…

 

睡魔は薪骸となることすらなく、ただ灰となって宙を舞った。

 

掴もうとして、届かない灰。

掌を見つめる荼毘。

 

彼は弔いを知らない。

仲間を失う術を知らない。

ただ、焚べる以外を知らない。

 

今そこに意識や意志があるのかは定かでない。

だが──確かに叫んだ。

 

『あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!』

 

ボオォォオオオォォ!!

 

工業地帯は蒼炎に呑まれ、

一面に咲くは瑞花。

 

そこは蒼き原野──蒼原(そうげん)と化した。




勝手に言葉作ってます(笑)
ムキムチ!とか
蒼原(そうげん)とか!

キラキラネームじゃぁあ!←(違
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