まだ書きたいのに…ちょっとだるい!←ただの風邪
オペレーター室
立て続けに入る報告が、空気を押し潰すように重くなっていく。
ホークスの声が途絶え、ほんの一瞬の沈黙が訪れた直後――
各地のオペレーションルームから、次々と無慈悲な現実が突きつけられた。
「……エッジショット、ミッドナイト……睡魔の自滅用ガスに巻き込まれ……死亡です」
重く、冷たい声が室内を突き刺す。
覚悟していたはずの事実。それでも胸を抉る痛みは、誰一人避けられなかった。
続く通信。
「芦戸三奈、八百万百──睡魔自滅後に荼毘が出現。蒼炎の被害で全身火傷……命は助かりましたが、戦線離脱!」
「Mr.コンプレスに対し、ビッグ・レッド・ドット、グラントリノ、口田甲司、庄田二連撃が敗北し圧縮拉致されました。葉隠透からの証言によれば……右掌の半径50m、“空気”に触れても圧縮されると」
「ギガントマキア戦線でもMr.コンプレス出現。Mt.レディ、フェイ・ロン、虎、常闇踏陰、障子目蔵、角取ポニーが圧縮、拉致されています。まだ生存していると予測されますが……脳無やセルドライバーの“材料”になる危険が……」
「トゥワイスは死亡と推定。しかし残された“モノ”が膨張を続け……安家洞の崩壊は目前です!」
「別の工場地点でも荼毘が出現、エンデヴァーが操られているとの報告……ワープ個性を付属されている脳無の存在が確定となりました。コンプレスも同様の移動方法と思われます。バーニンを含めた炎のサイドキッカーズと他ヒーロー事務所のサイドキック達、更に救援に駆けつけた外国ヒーロー達が炎に巻き込まれました…全員、消息不明です。おそらく……」
一つ一つの報告が、刃のように人の心を削り取る。
ヒーロー達の奮戦は確かにあった。だが結果は、敗北、離脱、圧縮、崩壊。
そして極めつけの報告。
「AFOが……二人に分かれました。若いAFOと、現在のAFO……その両者が同時に現存しています」
その場の誰もが言葉を失った。
オールマイトですら映像を前に取り乱し、沈黙を願い出たほどの絶望的現実。
鷹見の拳が震えた。
犠牲は止まらない。
だが、時間は残酷に進み続ける。
散乱する資料。明滅する警告灯。
通信機から絶え間なく流れ込む悲鳴と爆音。
中央に座る元No.3ヒーロー──鷹見啓悟は、血の気を失った指でマイクを掴んだ。
確かに勝ちを手にした戦いもある。だが、こちらの被害が大きすぎた。
モニターに映る光景は、もはや「戦い」と呼べない地獄そのものだ。
「……これ以上は……」
血が滲むほど唇を噛みしめ、彼は呟いた。
⸻
「全員、聞いてください」
掠れた声に、通信網が静まり返る。
彼は震える喉を押し開き、告げた。
「作戦を……確定します。
若AFO、老AFO、灰濁の残党、SVP、そして危険度の高いダツゴク……
全てを、“月面基地”へ強制転送します」
一拍。
息を呑む音が、各地から重なった。
「月面基地は……まだ収容設備が“建設中”です。空気も水も熱も不安定。
多くが滞在すれば、やがて崩壊するでしょう。……これは“処罰”ではありません。追放です」
声が震える。止められない。視界が揺れ、目頭が熱くなる。
「ですが……現状はもう、選んでいられません。
このままでは、個性黎明期を越える地獄が、世界を呑み込む。
だから……我々は、ヴィランたちを“地球”から排除します」
彼は続ける。
「条件は……マスコーダーの個性“カタチさん”が触れること。
彼が触れれば正確な転送が可能となる。だが、彼に戦闘力はない。
増えることはできても、衝撃で消えてしまう。
だからこそ……命懸けで彼を守り、“触れさせる”必要があります」
「犠牲は、出ます。……ですが今の戦局を鑑みると、このままでは勝機はありません
これは命令ではありません。希望を繋ぐ覚悟のある方だけ、参加してください」
血の滲む手でマイクを握りしめ、絞り出す。
「意地悪ですよね……本当に。……どうか私を、許さないでください」
沈黙。
返答はない。だが、その沈黙こそが最も重い「承諾」だった。
隣に座るオールマイトは、力なく嗚咽を漏らしていた。
無力さを呪うように、握った拳から血すら出ないほどに。
──しかし、その沈黙を嘲笑うように、新たな報告が飛び込む。
「大変です! 消息不明だったムーンフィッシュが出現! 場所は……公安本部! 職員に犠牲者多数! このオペレーター室に向かってきています!」
「馬鹿な……!? この場所は秘匿のはずだ! 警備が薄いとはいえ、単独でここに……!」
「……ここは、私が行こう」
「ブラドキング!?」
「いくらガタが来ているとは言え、もう、ここで戦闘できるのは私だけだろう?制限はあるが……時間稼ぎぐらいはできるさ」
「ワタシも!!」
「ありがとう、八木教諭……だが、気持ちだけで十分だ」
「ぐっ……!」
その声は突き放すようでありながら、誰にも追わせない決意の響き。
ブラドキングは死地へと歩み出した。
「これが……無力…の、痛み……」
オールマイト…いや、八木の心は押しつぶされる。
──崩壊への歩みは、止まらない。
黒霧の護衛任務(中央病院・続)
轟音と振動に包まれる中央病院特別区画。
崩れた壁や床の隙間から、ヴィランの群れが途切れることなく押し寄せてくる。
──その中、後方通路から駆けつける新たな影。
麗日お茶子
蛙吹梅雨
小森希乃子
鱗飛龍
その他数十名のヒーローと警備隊が到着する
「遅れてすみませんっ!」
麗日お茶子が肩で息をしながら到着する。その背後には蛙吹梅雨、小森希乃子、そして鱗飛龍の姿。
「お茶子ちゃん、梅雨ちゃん!」
耳郎の声に、拳藤が安堵したように頷く。
「おまえら来てくれたか! こっちはずっと火の車でよ!」
梅雨はすぐさま跳躍し、敵の頭上から強烈な蹴りを浴びせる。
「ケロッ……間に合ってよかったわね。さあ、手伝うわ!」
小森希乃子はすでに両手を広げ、きのこの胞子を霧の用に大量に発生させていた。視界を遮り、呼吸を奪う胞子の壁が、通路の進軍速度を確実に落とす。
「きのこ霧の突破は簡単じゃないノコー」
鱗飛龍は大きく息を吐き、地龍へ変化して全身の鱗を硬質化させる。
「ここで倒れるわけにはいかないな。仲間が命を懸けて守っているんだ!」
その雄叫びと共に、分厚い盾のような身体で前線に突入。
――ナイトアイは鋭い眼光を彼らに向け、静かに頷いた。
「よく来てくれた。君たちのおかげで、さらに時間を稼げる」
「助かる……本当に」
マンダレイの念話が全員の脳裏に届く。
《これで前線が維持できるわ! 心強い援軍よ!》
「お前たちの参戦で、罠の運用にも余裕ができる!」
ピクシーボブが興奮気味に声を張る。
耳郎も笑みを見せる。
「ほんと、命拾いした気分。私たちだけじゃ……正直きつかったから」
拳藤は両手を打ち合わせ、さらに巨大化させた拳を振り下ろす。
「よっしゃ! これで押し返せるぞ!」
──だが、戦況は甘くはなかった。
通路奥から、先ほどまでの雑兵とは明らかに格の違うヴィランが混ざりはじめる。硬質化、発火、巨大化──それぞれが一撃で戦況を変えかねない力を持つ。
お茶子が浮かせた瓦礫が一瞬で吹き飛ばされ、梅雨の舌が焼けつくような熱風に弾かれる。
「っ、なにコレ……!?」
「ケロッ……この圧、ただの雑魚じゃないわ」
小森の胞子も、高熱で焼き払われ、鱗飛龍の盾を叩く拳圧で床ごと沈む。
「ぐっ……!? な、なんて力だ!」
小森の胞子を焼き払う高熱、鱗飛龍の盾を軋ませる衝撃波。
戦況は一瞬で均衡を失いかけていた。
麗日は必死に両手を伸ばし、ヴィランたちへ「浮遊」を伝播させようとする。
しかし──。
「……っ、なんで……できないの!?」
焦りで喉が詰まる。個性が繋がらない。頭の奥で、あの光景がよぎる。
(……ミルコさん……! あの時、ヒミコちゃんの頭を……迷いなく、踏んだ…、骨が折れた音がしてた)
その衝撃が抜けきっていない。自分の掌に残る震えが、仲間を浮かせる感覚を奪っていく。
「お願い!!浮遊の伝播…出来てよ!!」
心が乱れて微細な個性操作が出来ない。どれだけ個性使用が精神に左右されるかが分かる一時だ。
麗日は唇を噛み、額に汗を滲ませながら何度も試みるが、結果は同じ。
「危ないわ!!!」
梅雨がすぐに駆け寄り、鋭い視線で迫るヴィランを蹴り飛ばした後、短く囁いた。
「ケロッ……お茶子ちゃん、無理はしないで」
その言葉に、麗日は胸を締めつけられる。
(……私、また……みんなの足を引っ張ってる……? でも……!)
伝播が使えない焦りと、心に残る迷い。
それでも、隣には仲間がいて、まだ踏みとどまれている。
戦場の緊迫感は全く軽減しない。
ナイトアイは未来視でそれをすでに見ていた。
(……未来よりは状況は悪くない…だが、それでも…このままでは負ける…守るだけではダメだ、戦力が増えた今が攻め時か)
胸の奥を冷たい汗が伝う。しかし表情は一切崩さない。
「気を緩めるな、今からが本当の防衛戦だ!蛙吹梅雨、鱗飛龍を含めた20名はここに来てくれ!!別作戦を伝える」
――激化する戦闘。
黒霧を狙うヴィランの波は、ただの数ではなく“質”を伴って押し寄せてきていた。
だが、誰一人、諦めてはいない
⸻
対AFO ――二重の戦場
同時刻。
主戦場は二つに割れていた。「若AFO」と「老AFO」――二重の魔王が同じ舞台に並び立ち、戦線を分断している。
若AFOに挑むのは、緑谷出久・爆豪勝己・青山優雅。
「デク! オレとお前で近距離と中距離をローテだ! 交互に叩き込んで、引いて、また叩く! 若返っても中身は同じだ、動きのクセも思考も変わらねぇ! ただ回転が速くなってんだよ! 連携を読まれるな、バカやろう!」
「かっちゃん……分かってる! 今までの戦闘データは絶対に無駄じゃない。思考の糸を途切れさせちゃいけないんだ。ここで必ず仕留める! 青山くん、援護射撃を頼む!」
爆豪とデクの息の合った叫びに、青山は一瞬だけ胃の奥を掻き乱されるような吐き気を覚えた。震える足を叱咤し、腰を据えて立つ。
「……ウィ! 僕が決めたって、文句は言わせないよ!? ――“キラメキ・リミット・白い三連光射〜君を乗り越えて〜”!」
それはもはや技名なのか、深夜アニメの主題歌なのか判別不能だった。
だが次の瞬間――
ビム! ビヴ! ビジィッ!
三重の光束が奔り出す。
許されざる罪を幾重にも背負いながらも、それでも人のために光を撃ち続ける。青山優雅の矜持は、もはや限界を超えていた。
キュイィン……!
ドォン! ドォン! ドォォン!!
地に撃ち込めば大地は裂け、光の柱が天へ伸びる。空へ放てば雲を断ち切り、霧散させる。
若AFOですら、無視できない威力だ。
「…なに!?」
驚愕の声を上げたのは敵であるはずのAFO。そして、当の本人が一番驚いていた。
だが青山はすぐに顔を上げる。胸に宿った実感――自分も戦力になれる、仲間を守れる。
「えぇぇ!?青山くん、すごすぎるよ!」
「チッ、クソやるじゃねぇか! 今度タイマン張ろうぜ!」
瞬間移動しているのか?と疑問を思わせる高速移動と緩急をつけ過ぎて残像を数えきれないほど作り出す2人、緑谷と爆豪が同時に声を飛ばす。
涙が滲む。心臓が熱くなる。
(僕は……もう、足手まといなんかじゃない!)
三人は同時に前へと踏み出す。積極的に、獲物を仕留める狩人のように。
「「「行くぜ(よ)!!!」」」
緑谷も、爆豪も、そして青山も。
死戦の中で、個性と魂そのものを研ぎ澄ませ、進化していた。だが彼ら自身は気づいていない。
みんなを守りたい。AFOを止めたい。誰一人失わせない。受け継いだものを壊させない――その多くの想いを胸に抱き必死に前を向いていたから。
実力差だの、勝算だの、もはや頭の片隅にもなかった。
その成長を最も敏感に察したのは、皮肉にも敵側。
……若AFOだった。
「……いいね。来なよ」
闇色の光を纏い、堂々と構える。
その姿はまさに、勇者を迎え撃つ魔王。
高みに立つ者の誇りを背負った怪物が、三人の若き英雄を手招きしていた。
⸻
老AFOを前にしているのは、スターアンドストライプ、通形ミリオ、そしてベストジーニスト。
三人は命を削りながら攻め続けていた。
「オールマイトが守った未来を、ここで潰させはしない!」
ミリオの拳が虚空を貫き、何度も、何度も老AFOの動きを牽制する。
ジーニストの繊維が奔る。捕縛ではない。生死を問わぬ必殺の殺線。
「籠目維──糸刻繊ッ!」
血色を帯びた繊維が操られた戦闘機群を次々と細切れにし、鉄屑へと変える。
直撃こそ叶わないものの、その威力は老AFOの動きを大きく縛った。
「避けてる! つまり再生はできても、“復活”は無限じゃない! 回数が限られてるか、あるいはもう余裕がないってことだ!!」
スターの声が戦場を揺らす。
残存する戦闘機たちは距離を取り、必死に戦況を見守り続けていた。
無駄な射撃は味方を邪魔するだけ。突撃など論外。死ねば次は敵の駒にされる。
彼らにできることは――観測と報告。それが唯一、ヒーローたちを支える事になる
そして、その報告が確かに戦況を変えていた。
──隙が生まれる。
スターとルミリオンが作り出した一瞬。
その狭間を狙い、ジーニストの「糸刻繊」がついに老AFOを穿った。
血に濡れた繊維が魔王の肉体を細切れに裂く。
「今だ! 続け! サイモン、リンダ!!」
スターが叫び、戦闘機に飛び乗る。リンダ機の背後、サイモンの護衛に身を任せ――個性を発動する。
「“この半径十メートルは空気が無くなる”!」
瞬間、周囲が真空と化す。
続けざまにもう一撃。
「“真空は固まり続ける”!」
空気を失わせた場を固める。敵を窒息へと追い込む必殺の封印。
だが代償は、あまりに大きすぎた。
復活直後――スターを庇ったサイモン機が真っ先に撃墜され、爆炎に呑まれる。
「サイモ!?……くっ!」
リンダ機も抵抗むなしく撃ち抜かれ、爆散。
そして――スターアンドストライプの上半身が吹き飛んだ。
下半身と、個性の効果だけが残る。
「「「スターーーーー!!!」」」
仲間たちの絶叫が響く。
落ちゆく命のかけらに、老AFOは――笑った。
「おのれ!!……その犠牲、決して無駄には……!」
ジーニストが叫ぶも、返ってきたのは冷酷な現実だった。
「無駄だよ」
糸刻繊で裂かれた肉体が、不気味に再生する。
スターの命を賭けた封印は、ほんの瞬きの間に解けていた。
「何とかなると思っていたのなら――あまりにも滑稽だね」
「馬鹿なッ!?」
「条件付きだけど、これは“個性効果無効化”さ」
嗤いながら老AFOが指を鳴らす。
「さて……僕の番だ。まずは《空気押出》」
大気が炸裂。圧縮された衝撃が奔る。
「《膂力強化》を重ねる」
衝撃は倍加し、地を抉る。
「《炎熱噴出》を混ぜて」
爆炎が轟き、戦場を紅蓮に染める。
「《振動》も上乗せ」
空間そのものが揺らぎ、視界が歪む。
「……最後に、《多重投射》」
無数の必殺技が雨のように降り注ぐ。
「くっ!?」「ぐぅ……!!」
透過の個性を誇るミリオすら、広域かつ分散された攻撃には抗えない。
彼の防御は無力化されていた。
「そんな……! もう対策を……!?」
「君たち、僕に工夫を強いた。それだけは誇ってもいいんじゃないかな?」
逃げ場は、ない。
そう思った瞬間――空間が裂けた。
ズズズズズ……!
老AFOの攻撃がワープゲートに吸い込まれ、次の瞬間、出口から逆流して彼自身を撃ち抜いた。
「また復活を使ってしまった……これは、反射よりタチが悪いなぁ」
老AFOが嘲る間にも、新たなゲートが開き、援軍が姿を現す。
マスコーダー、ミルコ、シンリンカムイ、ブリティッシュ・ウォーカー。
二重のゲート運用――物間の限界を超えた采配だった。
完全に攻撃を無効化できたわけでもない
攻撃の一部がゲートをかすめ、ベストジーニストの右腕を吹き飛ばす。
「ぐああぁぁあッ!!!」
「遅れてすまねぇ!」
ミルコが飛び出し、ジーニストを一瞥すると、即座にAFOを蹴り飛ばす。
「む……!」
老AFOの身体が地に叩きつけられる。
負傷したジーニストを、ブリティッシュ・ウォーカーが抱える。
「すまない……!」
「いや、よくやった。今は退け!」
ゲートの奥へ送り込む。
ミリオも残留を望むが、ミルコが顎を殴り飛ばし、強制的に撤退させた。
「……全員、分かってるな!?」
シンリンカムイが地面に沈み込む。
「奥義――森林神滅!」
大地が裂け、緑が爆発する。
半径百二十メートルを超える森が、瞬時に生成される光景。空を覆う樹木が老AFOを包囲し、逃走すら許さぬ檻と化した。
「……面白い、それは自分の未来を犠牲にするほどの技じゃ無いのかい?」
老AFOが笑う。
「ふむ…それに、これは直接攻撃を狙っていない布陣…狙いは何かな?年甲斐もなくワクワクするね。
あぁ、勘違いしないでくれ君たちヒーローが役立たずなのは知っている上での発言なんだ、もし僅かでもポジティブな感情になってしまったなら、すまない。謝るよ、これは児戯に対しての……」
その隙を逃すミルコではない。
「ゴチャゴチャうるせぇ! 黙って死ね!!」
木々を蹴り倒し、その影を利用して接近――渾身の蹴撃がAFOを襲う。
ブリティッシュ・ウォーカーも追撃する。彼は身体能力強化形の個性、その鍛え抜かれた肉体でミルコと連携する。
「君たちだって“悪”を――」
「あるに決まってんだろ! 人間なんだからなァ!」
「なら僕だけ“悪”扱いは不公平だと思わない?」
「納得しねぇまま死ね!!」
ドゴォォン!
話を聞かずに連撃、連撃、また連撃。
「君が嫌いだ」
「ありがとよ!」
残像にすら追いつかない
「兎踏猿脚ッ!」
十重に重なる影脚が、老AFOの肉体を貫いた。
誰もが息を呑む。
「「「ミルコさん、すっげぇ……!!」」」
その背中は、森林すら凌ぐ雄大さで仲間の視線を釘付けにしていた。
「援護は任せてください!! ……行くよ、カタチ! 全力でAFOを転送させる!!」
凛然とした声と共に、マスコーダーは全三十五機の《フラクタ》を一斉に展開。
『VRED(ヴレッド)』を起動、青白い光のヴェールを纏い愛砲――『ディアッカ』を装備する。
その巨大な砲身を両腕で抱き構え、樹海を覆う森林神威の上空に静止する。
狙うは、森を突き破って姿を現すAFO。
撃ち抜く準備は、すでに整っていた。
フラクタのカメラは戦場全域を捕捉し、リアルタイムで情報を伝達。
オペレーターすら凌駕する管制能力を、彼女は単騎で発揮していた。
問題となっていたエネルギー不足は、すでに解決済み。
堕ちたバスティオンとエグゾダスの残骸から回収したエネルギーが供給され、万全とは言えずとも、少なくともこの決戦で息切れする心配はなかった。
“攻撃予測は私に任せてください。十分以内に必ず転送を成功させます。若いAFOの圧力は常軌を逸しています。早く緑谷少年たちを救援に向かうためにも、ここは速攻で決めましょう”
彼女の耳に響くのは、オールマイトに託された声。
――エルクレス。
その補助を得て、マスコーダーはさらに鋭さを増していた。
「だけど、焦って失敗すれば無駄に時間を与える。……ヤツに時間は絶対に与えちゃダメだ。一撃目で決める! “次”なんて来ない」
冷静な判断を下しながらも、その声には烈火のような覚悟が宿る。
今回の戦いの目的は、カタチを敵に触れさせること。
ゆえに支援兵装――小型戦車や飛行機、ドローンといった兵器はあえて封印された。
戦線は過酷さを増し、救護はままならない。
犠牲を抑えるには速やかな決着しかないのだ。
だからこそ――カタチは、スターと共に来日した戦闘機部隊と肩を並べる。
作戦成功率をほんの僅かでも上げるために。
「俺たちにも命を懸けさせてくれるのか!! ……スターの仇を討てるかもしれない……感謝する!!」
戦闘機パイロットの一人が、無線越しに叫ぶ。
その声は震えながらも、確かに燃えていた。
サイモン、リンダ――二人の仲間はすでに戦死した。
残存するのは、エヴリン、スーザン、サリー、マイケル、ジョンの五機のみ。
生き残った翼は、もはや数ではなく、想いで飛んでいた。
そして、その想いはマスコーダーとカタチに託されていく。
⸻
某所・工業地帯
蒼炎が咲き乱れ、瑞花となって地を覆う。
そこは、もはや地獄そのものだった。
生者は一人もいない。立ち尽くす影は全て薪骸。
バーニンを筆頭に、サイドキッカーズ、他事務所のヒーロー達、外国の救援ヒーロー。さらに、型落ち脳無、そして――エンデヴァーまでも。
つまりそれは、荼毘に挑んだ者がことごとく敗れ、魂を奪われ、炎の駒へと堕ちた証。
青白い火は肉を焼き尽くし、代わりに骨を覆い、輪郭を形作っていた。骸の姿でありながら、なおヒーローの影を残す。
その蒼原の前に立ち向かうのは――
轟焦凍、瀬呂範太、波動ねじれ、シェルム、インフェルノ。
そして数十名のヒーローと、警備隊、自衛隊の大隊。
だが、誰もが悟っていた。
圧倒的な火力。
終わりなき増殖。
不死性を伴う暴力。
「死ぬことだけが怖いんじゃない。死んだ後に…操られるのが、もっと怖い」
誰も口には出さなかったが、皆が理解していた。
自爆覚悟で特攻することすら許されない。死は終わりではなく、仲間の足を引く未来へ繋がるからだ。
「こんなモン…どうすりゃいいんだよ」
誰かの呟きが、戦線全体の心を代弁する。
……
シェルムは水化して炎を抑え込み、インフェルノは逆巻く熱線を吐き、ねじれは波動で蒼炎を散らす。
それでも蒼原は拡がり、瑞花は次々と咲き誇る。
「止まらない!? 私の水化でも!?」
「俺の炎より強ぇだと!!!」
「静まるどころか…増してる!?」
叫びは絶望に近い。
全力を尽くしてなお、炎は抑えられない。
焦凍の声が震える。
「兄さん……オヤジ…ッ、バーニンさん…皆……」
瀬呂は必死にテープを張り巡らせ、飛べない仲間を宙に留めて戦わせていた。
工場群の間に張り渡された無数のテープは空中の足場となり、被害拡大を僅かとは言え食い止めていた。
その一瞬、焦凍の近くに立てた瀬呂は、思わず声をかけてしまう。
「轟…大丈夫か? あ…いや、ごめん…(大丈夫な訳ねぇよな。兄が敵で…父親も仲間も殺されて、操られて……どんな地獄だよ、これ)」
後悔が胸を刺す。慰めにもならない言葉だと分かっていたから。
焦凍は短く答える。
「瀬呂…気を使ってくれてありがとな。大丈夫、とは言えねぇけど……頑張るよ」
それは強がり。
心の中は、混乱と喪失と絶望でぐちゃぐちゃだった。
だが、それに浸る時間すら残されていない。
蒼原は拡大を続ける。
人的被害が増えていないのは奇跡に近かった。
撤退、という言葉が頭をよぎる。
だが同時に――
「どこに逃げる?」
「我々がいなければ拡大は加速するだけ」
「特攻しても敵が増えるだけ」
矛盾しかない思考に縛られ、誰も動けない。
「核……も、無理か」
インフェルノが呟き、すぐに自責して頭を振る。
この工業地帯から市街地はそれほど離れていない、撃てるはずがない。いや、日本に核を撃って救済になる地域など存在しない。
――本当に“打つ手がない”。
その時。
「あの、俺と……オヤジがなんとかする」
焦凍の声が戦場を貫いた。
仲間たちの視線が一斉に集まる。
「今、分かったんだ。ここまで追い詰められて、心が壊れそうになって、本気で逃げたくなって……でも気づいた。俺の中に……オヤジの炎が宿ってる」
誰かが息を呑む。
「荼毘には、オヤジの肉体が。俺には、あの大爆発で……エンデヴァーの“個性”が受け継がれた。理由なんて分からねぇ。でも…あのクソ親父、やっぱり不器用すぎる」
「それで、なんとかできるのか?」
「……はい。個性が教えてくれた。一度きりだ。俺一人じゃ無理だが……オヤジと一緒なら、やれる」
「君はどうなる」
「死にはしない。身体のどっか無くなるってこともない。ただ……それだけしか分からない」
「……情けないな。我々は君の“不確か”に賭けねばならないほど追い詰められている」
「すみません……被害が広がってからじゃなく、もっと早く気づければよかったのに」
「君が謝ることじゃない。我々は“何とかなる”と思うことすらできなかったのだから」
焦凍は深く息を吐き、仲間に告げる。
「じゃあ、やります。皆、離れてください」
「分かった。頼んだぞ」
「「「全員、下がれェェェ!!」」」
事情を知る者達が叫び、戦線全体を後退させる。
「ねぇ、どうして?って聞きたいから、絶対に戻ってきてよ」
「轟……いや、ショート。帰ってきてくれ。お前と並んで戦ったことを誇りにさせてくれ。これで最後なんて絶対イヤだ」
焦凍は静かに頷く。
「波動先輩、瀬呂……はい、必ず帰ります」
その笑みは諦めではなく、誇りに満ちていた。
「大丈夫。俺は――ヒーローだから」
誰もが待ち望んでいた言葉だった。
……
『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!』
薪骸の群れが咆哮する。
だが、焦凍には分かった。
その中心に、兄・荼毘がいることを。
「兄さん……アンタと話がしたい。好きな食べ物は?」
『…ソ゛ァ゛ァ゛!!』
「はは……同じだな。いつか皆で、歳を取って死んだら……家族全員で食べに行こう。あの世に蕎麦屋、あるといいな」
『ア゛ァ゛……』
――最期の会話だった。
「じゃあ……またな」
焦凍の全身を氷が包む、更にその外側には赤橙ではなく黒い炎を纒う。
その姿は父・轟炎司――エンデヴァーそのもの。
だが、その炎は地獄を象徴する黒。
焦凍が名を告げる。
「――エンデヴァースタイル・個性ヘルフレイム
…行くぜ
“炎天化・獄陽”」
カアアアアアアア!!!!
黒い太陽が顕現する。
それはプロミネンスバーンを超えた、世界を焼く獄炎。
蒼原を呑み込み、咲き乱れる瑞花を燃やし尽くす。
薪骸達は悲鳴にならぬ声で絶叫し、次々と焼き払われた。
工場もビル群も、地が溶け沈む。
やがて全ての蒼炎を吸収し地を溶かした獄陽は、なおも巨大化し、宙(そら)へ昇る。
――もはや地上に未練はない。
何もなくなった地上の中心に残された焦凍は見た。
立ち昇る陽炎の中に、父、兄、バーニン、仲間たちの姿を。
「あぁ…兄さん! 父さん! 皆!!!」
必死に手を伸ばす。だが、彼らは首を振り、厳しい眼差しで告げた。
“あとは任せた”
そう言い残して、背を向ける。
獄陽は大気圏を抜け、空に留まった。
――以後、この星を二つの太陽が照らすこととなる。
黒き太陽。名を「獄陽」。
焦凍は背を向け、歩き出す。
「…うん…任せてくれ。俺は――ヒーローだから」
轟焦凍、ヒーロー名「ショート」。
その背には、希望と責任が託された。
……
後に、辞書の一文が修正された。
『地獄』――空に浮かぶ黒い太陽、獄陽のこと。
かつてNo.1ヒーロー・エンデヴァーがその身を犠牲にし、息子・ショートと共に到達した姿。
個性の解釈と限界を超えた、かつて無い現象
と。
後に、
獄陽教が生まれ「轟家」は世界の中心となる。
多大なる影響を与える轟家は海外での信者も多く政府も無視できない存在となる。
まさに実在する「神」の血縁者
次の物語は今から数百年後ドロドロした轟家のお家騒動である。
…………
なんちゃって!!!