ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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よし!
モチベ回復したから書けた!


第38話「戦場の減少は被害の拡大を意味している」

日本最大級の鍾乳洞──安家洞(あっかどう)。

その岩肌を打ち破り、地の底からあふれ出すのは、もはや人でもヒーローでもない“膨張する肉塊”だった。

 

元トゥワイス。

かつて仲間思いの一人の男であったはずの彼は、今や意思を失い、ただ“増える”という本能だけを残した怪物と化していた。

 

巨体はすでにギガントマキアを凌駕し、山を潰し谷を埋め、雲をも突き破るほどの高さへと膨れ上がる。

大地は押し潰され、森も町もひとつの「肌色の侵食物」に変わっていく。

──災害の単位が「東京ドーム何個分」などという人間的な尺度で測れる段階は、とうに過ぎていた。

 

あまりにも被害が拡大したため、日本空軍・陸軍・雄英からも増援が派遣される。

雄英からはエクトプラズム、ハウンドドッグ、そして宇宙服姿の13号。

三人の教師陣を中心に、希望者と選抜組が合流する形で討伐作戦が決定された。

 

そこには吹出漫我(B組)と塩崎茨(B組)の姿もあった。

かつて一度トゥワイスとの交戦で敗走した二人が、再びこの戦場を志願したのだ。

「ウォッシュの弔い」をしたい。と表情が物語っていた。

 

さらに新たに編成に加わったのは、小大唯(B組)と円場硬成(B組)。

そして市街地救助で定評のあるプロヒーロー、マニュアル。

 

空からは空軍の戦闘機が爆撃を続け、陸からは戦車で砲撃を行っているが──それは皮肉にも逆効果だった。

傷を負った部位からは増殖が加速し、爆撃は肉体を刺激してさらなる膨張を呼び込む。

ただの現代兵器では一定以上強力な個性には効果が薄いことが改めて証明されてしまい、地上の誰もが打つ手を見失いかけていた。

 

 

「……あれが、元トゥワイス……」

遠目にもわかる。

岩肌を削り、山を貫き、天をも覆い尽くす肉の巨塊。

 

「こりゃ……最悪の災害だな」

犬耳を震わせ、ハウンドドッグが低く唸る。個性進化し4足歩行で巨体化した彼の背に、メンバー全員が跨がっている。足場として、なお余裕があるほど、その身体は大きく逞しい。

 

「すでに半径三キロが肉に飲み込まれました」

13号がヘルメット越しに告げる。周囲に浮かぶ無数の球体──進化した彼女の個性『ブラックホール』を応用した技、その名を“アトロシティ”。

漆黒の小さなブラックホール群は、増殖を少しでも削ぐための切り札の一つである。

 

「都市圏まで……数時間の猶予しかない」

エクトプラズムが分身を展開しながら、低く呟く。

その無数の分身は物質化しては肉塊を飲み込み、ただの“質量”へと変換する。

無形には無形で。彼の分身は、暴走する無限の肉に対抗できる“虚無の手”となる。

 

「……俺たちが最終防衛線、ですね」

マニュアルは手元のペットボトルを器用に操りながら、決意を込める。

 

「……ウォッシュさんの仇を取りたいです! 僕にできることは何でも!」

吹出漫我は震える手でペンを握る。

 

「吹出くん……復讐は罪です。けれど弔いは義務。これは故人を偲(しの)び、前に進むための戦いです」

塩崎茨は祈るように手を組む。その背後には茨で形作られた上半身のみの“巨人”が浮かび上がり、戦場を睨み据えていた。

 

「サポートアイテム、いっぱい持ってきました! 発目さんの“とっておき”だってあるんです…勝算はあります!」

小大唯がポシェットを抱え、瞳を輝かせる。

 

「空気抵抗は俺が減らす!これなら少しでも早く辿り着けるはずだ!」

円場硬成が空気を凝固させ、前方に巨大な円錐を形成する。ハウンドドッグの巨体ごと包み込み、彼らの行軍を加速させた。

 

そして、遂に肉波の最端へと辿り着く。

 

 

 

立案された作戦はただひとつ。

I-Islandとサポート科が共同開発した新発明──《リバース・コア・コンデンサー》。

 

コレから発せられる光を浴びせれば個性の出力を逆転させ、暴走を抑制する。脳無であろうとセルドライバーであろうと、例外はない。

ただし効果範囲は半径五十メートル。十秒以上浴びせねばならず、一度使えば再利用は不可能。しかも発光時間は1分間のみ

 

ぶっつけ本番の、唯一無二の切り札。

 

小大唯が設置を開始し、装置が発光までのチャージを開始する。

 

──あとは、ここを守り切るだけ。

 

「みんな……頼んだぞ!」

円場硬成が吠え、空気の足場を三次元的に展開する。

仲間たちはそれを跳び回り、各々の全力で肉波に挑んだ。

 

「凝固した空気は階段状、それから10cm×10cmのブロック状、さらに10mの平面も作った!活用してくれ!!」

円場硬成が叫ぶ。

 

 

「ウォーターバレット!!」

先陣を切ったのマニュアル。

彼の放った水弾が炸裂する。

だが次の瞬間──

「うわぁーっ!」

伸びてきた触手に吹き飛ばされ、1番近くの川、安家川まで飛ばされる。

 

 

「…あ…ゴホン!!…行きます──《アトロシティ》展開ッ!」

13号の声と同時に、周囲の空間が黒く歪む。

無数のブラックホール球体が唸りを上げ、一斉に肉を削ぎ取りながら吸収していく。

四方八方から空間が抉れ、触手は悲鳴を上げるかのように揺れながら吸い込まれていった。

 

だが、限界はある。

ひとつひとつの“穴”には吸収できる大きさに上限があり、増殖速度の方が上回る。

削いだ端から、さらに新しい肉が押し寄せてきてしまう。

 

「……ッ、止めきれない……!」

歯噛みする13号の額に汗が滲んだ。

 

「……まだだよッ!」

小大唯がリュックから飛び出した小石にタッチする。瞬間、それは岩山のようなサイズに膨張した。

「降らせッ!!」

無数の巨岩が雨のように降り注ぎ、触手を砕き、大地に叩きつけられる衝撃で一時的に動きを鈍らせる。

圧倒的な重量が、肉の波を縫い付けるように押さえ込んでいく。

 

「ワンッ!!」

地鳴りのような咆哮と共に、ハウンドドッグが吠えた。

その牙が巨大な触手を裂き、返り血のように肉片が飛び散る。

鼻先を震わせ、次の攻撃の方向を仲間に向かって吠える。

「右から来るぞッ! 構えろ!」

その声がなければ誰も気づけなかっただろう。死角から迫る触手を仲間たちが迎撃する。

 

「分身展開──ッ!!」

エクトプラズムの叫びと共に、数え切れない分身が戦場を埋め尽くした。

無数の人影が肉を押さえ込み、触手を飲み込み、全身を犠牲にして侵食を止める。

本体は汗まみれで息を荒らしながらも、無言で次の分身を生み出し続けていた。

──最も広範囲の侵食を抑えているのは、間違いなく彼の力だった。

 

円場硬成も空気を刃のように凝固させ、槍や剣を作り攻撃に参加していく。だが、まだ硬度が足りず、触手を貫き切ることはできない。

「……ちっ、まだまだだな、俺……!」

歯を食いしばりながら、それでも攻撃の手を止めることはない。

 

「オラァァァッ!! オラァァァァアッ!!」

普段の祈り深い姿とは打って変わり、塩崎茨が叫び声を上げる。

背後に浮かぶ上半身のみの“茨の巨人”が轟音と共に祈りの両手を振り下ろす。まさにスレッジハンマー。触手が砕け散る。

次の瞬間、絡みつく茨が鞭のように唸り、触手を縛り付けた。

 

殴って、打ち下ろして、縛る!

殴って、打ち下ろして、縛る!

 

その繰り返しが戦場に鋭いリズムを刻む。

「お前が! お前がああぁぁぁ!!」

目の前でウォッシュを失い、傷付いた心が生み出した“祈り(物理)”が敵を伐ち砕く。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

吹出漫我は右手に古びた週刊ジ◯ンプを握り、とあるページを開く。

そこに描かれていたのは、男女や年齢を超えて心を震わせた名場面。

彼の個性で今も受け継がれる伝説の必殺技が、現実に放たれる。

 

「原作なら、これだけで全てが終わるはずの威力……! 僕は、自分の力の無さが恨めしいッ!!!」

 

彼は左手を腰に当て、有名すぎる構えをとる。

そして、全力で叫んだ。

 

『か◯は◯波ーーーッ!!』

 

喉が潰れるほどの絶叫。前に突き出した手から光が放たれる。

その斜め左背後──髪をツンツンに逆立て、身体が透けた男性が、両手を前に突き出し「◯め◯め◯」のポーズを取っていた。

まるで紙から抜け出した幻影のように。

 

「こ、これは伝説の……!? 吹出か……!!」

誰もが目を奪われる光景だった。

彼の描く空想が現実を侵食し、肉片を飲み込み、触手を一瞬で一掃する。

 

しかし代償は大きい。伝説の週刊誌は光に焼かれ、失われてしまう。もう二度と手には入らない。

「燃え尽きたぜ……真っ白にな」

彼の発した名言は時代も作品も越えて戦場に木霊する。

 

──それぞれの個性、それぞれの力で全力で抗った。

 

だが、それでも膨張は止まらない。

 

大地を覆う肉はなお広がり続け、空を塞ぎ、仲間たちを押し潰さんと迫ってくる。

 

「止めなきゃ……ここで止めなきゃ街が……!」

誰もが限界を悟りながら、それでも前を向いた。

 

絶望に押し潰されるか、それとも──僅かな希望を掴むか。

 

「……まだ、いけるだろ! 俺!!」

円場硬成が血を吐きながらも両腕を突き出す。

周囲の空気が軋むように震え、凝固の密度がこれまでとは桁違いに高まっていく。

透明だった壁は結晶のような輝きを放ち、敵の猛攻を正面から受け止めた。

 

「硬成くんの“空気”……こんなにも固く、広く……!」

教師陣ですら息を呑む進化。

凝固した空気が次々と連鎖し、都市を覆う巨大な防壁のように形を変えていく。

 

更に──

 

吹出が自らの色を取り戻し、叫ぶ。

『四倍だあああぁぁ!!』

 

塩崎は「だらっしゃぁあああああ!!」と祈りの両拳を地面に叩きつけ、おびただしい茨を地中から噴き上げて肉波を押し留める。

 

13号はさらに個性を進化させ、ホワイトホールを生み出していた。

ブラックホールで吸い込んだ肉波を、ホワイトホールから吐き出し、そのまま肉波にぶつけるという荒技。

 

──それでも敵の質量は想像以上に強大で…

 

いずれ突破されるのは誰から見ても時間の問題だと分かった。

 

《リバース・コア・コンデンサー》へ肉波が襲いかかりそうになる。

 

もう、一刻の猶予もなかった。

 

「みんなぁぁ!!“アレ”使います」

 

小大唯が懐から取り出したのは、発目に「本当のほんっとーに危ない時だけだからね!コレは超切り札だよ」と言われ手渡された特殊散布装置だった。

 

起動と同時に霧が広がり、戦場にいる全員の個性を強制的に限界突破させる。

 

「3日間は個性使えなくなるらしいけど……これなら数秒とは言え、最強だよ!!」

 

 

 

[ドクン]

 

 

 

その場の味方全員が個性が凄まじく強化されたことを理解した。

 

 

「「「「…ありがたい!!」」」」

 

皆が声を揃えて吠える。

 

円場の空気の壁は瞬時に拡張し、幾重もの結晶柱となって敵を絡め取る檻へと変貌する。

まるで空そのものが味方したかのような光景だ。

 

「「「まだだ!押し込めぇぇぇぇッ!!!」」」

エクトプラズムとハウンドドッグ、13号の声が重なり、戦場の士気をさらに高める。

 

 

「ウォーターロケットー!!」

 

ぱーん

 

「なんでだーー!」

帰って来たマニュアル。再度、触手に安家川に飛ばされる。

 

 

13号のブラックホールとホワイトホールは桁違いに拡張され、その範囲は戦場全体を覆う。

エクトプラズムも分身の数を倍以上に増やし、ハウンドドッグの突進は何キロも先にある肉波を吹き飛ばし、地上から引き剥がす。

 

小大は触手を捕まえて縮小をかける。

「ひいぃぃぃ!!!コレ、ヌルヌルしてて気持ち悪い、でも!!」

僅かとは言え全体的に縮小し、限界突破後に最も範囲縮小に貢献したのは彼女となる。

 

茨の巨人は塩崎を取り込み脚まで顕現、文字通り触手の群れを蹴散らす。祈りの両拳は天の裁きのように最高点まで振り上げられ、肉波そのものに叩きつけられ、弾け飛ぶ。

 

吹出は涙を流しながら叫ぶ。

「バイバイ! ドラ◯ン◯ール!!」

彼はとある漫画全巻を生け贄にし、最終巻と同じ大きさの“元◯玉”を号泣しながら投げつける。

 

拮抗していたのは一瞬

 

『「またな…はぁ!!」』

 

ドゴゴゴゴゴ…

 

彼は名シーンのセリフを真似る事で『カッコ』をつける。

それは威力の底上げへと繋がり、押し留めるどころか『元◯玉』の範囲の肉を削りとる事に成功する。

 

 

敵の侵攻を一時的に押し留めることに成功、しかし、肉が失われた部分から今まで以上に増殖を開始した。

 

だが、無意味ではなかった。

 

教師陣の奮闘と、進化したB組の力──そして、遂に小大が設置していたサポート科の発明品《リバース・コア・コンデンサー》のチャージが完了したのだ。

光が最高潮に達し、戦場を白銀に染め上げる。

 

カアアアァァァァァァ!!

 

暴走する肉の山は一気に収束し、地表を揺らす轟音の後、そこにただ一人の影だけが残った。

 

「……はぁ、はぁ……」

砂煙の中に現れたのは、かつての姿へ戻ったトゥワイス。

痩せ細り、倒れ込むように地に伏すが、その胸は確かに上下している。

 

「生きてる……」

茨が荊を緩める。

 

「勝った……」

円場が膝から崩れ落ち息を吐く。

 

トゥワイスの目尻から一筋の涙が流れ、その震える唇は「怖かった」と形をつくっていた。

 

収束したトゥワイスは封印医療班へと引き渡され、現場には静けさが戻っていた。

 崩壊した地面、砕けた岩壁。そこに立ち尽くす教師陣とマニュアルの表情は、疲労の色と同時に確かな安堵がにじんでいた。

 

「……ふぅ、ギリギリ…を超えていたな」

 ハウンドドッグが呻くように呟く。

 

「それでも持ちこたえた。特に……B組の生徒たちのお陰だ」

 エクトプラズムが分身を解きながら、仲間たちに目をやった。

 

 塩崎茨はまた祈るように両手を組み、円場硬成はまだ膝をついて荒い息を吐いている。

 吹出漫我は息を切らしながら生贄にした漫画のかけらを拾っている。

 小大唯は水気に濡れた手を見つめ、信じられないというように小さく笑っていた。

 

「普段は光の当たりづらい子たちだが……」

 13号が言葉を探すように口を開く。

「ここまで進化して、雄英を背負うまでになっていたとは」

 

 その隣で、マニュアルが大きく頷いた。

「俺も驚いたよ。……あの子たちは、自分の個性の可能性を恐れず、最後まで仲間を信じて踏ん張った。ヒーローとしての核を、しっかり持ってる」

 

「まったく、誇らしい限りだ」

 エクトプラズムが口元を緩める。

「これなら――A組と肩を並べ、いや、それ以上に大きく羽ばたく日も近いだろう」

 

 教師たちの視線の先で、B組の面々は互いの肩を叩き合い、疲労困憊の笑顔を浮かべていた。

 その姿は、間違いなく次代を担う“ヒーロー”だった。

 

 

…………

 

 

「ところで、僕の個性は何で限界突破しなかったんだろう?」

テキパキと事後処理をするマニュアル問いに答えるものは誰もいなかった。

 

「あ〜聞かない方が良かった?

うん…まぁいいか!さぁ、後始末して次に行こう!!」

 

 

彼…マニュアルの真骨頂はそのメンタルの強さなのかもしれない。

 

 

 

…………

 

 

「トゥワイスは……生き残った」

会議室に集まった教師陣の前で、エクトプラズムが報告を終える。

 

「それ自体は僥倖だが、問題は処遇だな」

ハウンドドッグが腕を組む。

 

「本来なら、スピナーと引き離すのが妥当です。互いに刺激し合えば再び暴走の火種になるかもしれません」

13号の声は沈んでいた。

 

マニュアルが口を開く。

「だが……今回の“戦争”で、俺たちにそんな余裕はあるのか? 収監先の人員も、監視網も限界に近い。分散させるより、一箇所で徹底管理する方が現実的だ」

 

「月面基地への転送は?」

 

エクトプラズムの仮面の奥の目が細くなる。

 

「あんな所に送れば、今の健康状態じゃ1週間も持ちません。戦っている最中ならともかく、拘留している相手に転送は控えるべきかと」

 

「……決まったな。いまはヒーロー側が主導権を握るためにも、速やかに収監と管理を優先せざるを得ない」

マニュアルの言葉に、場が重く沈む。

 

「トゥワイスとスピナーを同じ収監施設に置けば、脱走時の連携の危険は高まる。それでも、“今”の負担軽減が優先か…」

ハウンドドッグが深く息を吐いた。

 

「戦争は、甘い理想に配慮する余裕を奪う。だが――その中で今日、B組は確かに“希望”を示した」

13号が静かに言った。

 

会議室の空気が、少しだけ和らいだ。

決して安全ではない道を歩むしかない。だが、その先に立つ者たちは着実に育っている。

 

教師陣とマニュアルは、疲労に滲む眼差しのまま、窓の外を見た。

 

 

 

 

 

 

厚い鋼鉄の扉が開く。

手錠で繋がれ、重警備のもとに歩かされる一人の男。

――トゥワイス。

 

彼の顔には包帯が巻かれ、痩せこけた体はかつての影もない。

それでも、その瞳にはかすかな生の光が宿っていた。

 

「……ここか」

低くつぶやいた声に応じるように、鉄格子の向こうから視線が動いた。

 

「……」

 

爬虫類の瞳。無言のまま、檻の奥から現れる影。

――スピナー。

 

一瞬、空気が凍る。

施設の看守たちも、緊張のあまり息を呑む。

二人が言葉を交わせば、“何かが起こるのではないか”

そんな恐怖があったからだ。

 

沈黙を破ったのはトゥワイスのかすれ声。

 

「……悪ィな、スピナー。オレ……もう、増えねぇ」

 

その言葉にスピナーの目がわずかに揺れる。

檻の鉄格子に手を置き、静かに言葉を返した。

 

「……そうか。……それでも、お前が生きてるなら……」

わずかに口角が上がった。

「……オレは、まだ戦える気がする」

 

その笑みは寂しく、だが確かな絆を示すものだった。

 

周囲の看守たちは警戒を解かぬまま、二人を隔てる鉄格子を見つめていた。

互いに手を伸ばせば届きそうで、届かない距離。

 

それでも、かつて同じ“戦場”を駆けた二人の目は、確かに再会を喜んでいた。

 

 

看守が避ったあとトゥワイスは疲れ切った表情で座り込み、まだ肩を震わせていた。

 

スピナーはしばらく沈黙していたが、やがて低く、しかし強く声を発した。

 

「……トゥワイス……聞けよ」

 

彼の瞳は暗闇の中でも鋭く光っていた。

「オレは……ずっと、画面越しにお前達のことを見てた。トガヒミコは……ミルコに負けて、今は治療中だ。マスキュラーは海に落ちて……もう戻らないかもしれない。スイちゃんはヒーローを巻き込んで自滅、その後……荼毘と遭遇して確実に……死んだ」

 

声を絞り出すたび、スピナーの手が小さく震える。

「……それでもオレは、動向を観続けることしかできなかったんだ」

 

トゥワイスの肩が小さく震え、嗚咽が漏れる。

 

「……で、我慢できなくなったんだ」

スピナーは目を伏せ、悔しさを押し殺すように続ける。

「ここから出せ! オレが! 仲間を守るんだ!って興奮して……取り押さえられちまった…何が情報を小出しするために大人しくするだ…俺は…情けない」

 

鉄格子越しの沈黙。

その間に、トゥワイスは涙を流していた。

 

「……オレもだ……」

トゥワイスの声が震える。

「仲間を守れなかった……情けなさと、死ねない自分への嫌気……オレも……」

 

スピナーは顔を上げ、必死に目を合わせる。

「でも……生き残ったんだ。オレも、お前も……まだここにいる」

「まだ……やれるだろ?」

その瞳には、悲しみだけでなく、確かな意志の光があった。

 

トゥワイスは目をこすり、震える声で小さく頷く。

「……あぁ……オレ……まだ……諦められない……」

 

スピナーは鉄格子越しに拳を握った。

「だったら……次に進もうぜ」

 

涙でぐしゃぐしゃになった二人の顔が、わずかな笑みと希望で結ばれる。

悲しみと悔恨を抱えながらも、再び立ち上がる覚悟を互いに確かめ合った瞬間だった。

 

 

⸻⸻

 

 

黒霧の護衛任務。

某所・中央病院。

 

サー・ナイトアイを筆頭に、プッシーキャッツのマンダレイとピクシーボブ、さらに耳郎響香、拳藤一佳(B組)、麗日お茶子、蛙吹梅雨、小森希乃子、鱗飛龍――

そしてその他数十名のヒーローと警備隊が集結し、黒霧の防衛作戦はある一時から順調に進んでいた。

 

「ウラビティ!!」

生死を分ける戦争で麗日お茶子は一時とは言えトガヒミコを忘れる事にした。そうしなければ隣の大事な友達が危ないから…彼女は仲間を選んだのだ。完全に吹っ切ることは難しいが決意を胸に地面に触れ、十数名のヴィランを一気に無重力で浮かせる事に成功した。

伝播範囲が以前と比較して狭くはあるが、あるとなしでは雲泥の差だった。浮遊伝播が復活したのだ。その影響は大きい。

 

「今よ、響香ちゃん!」

「任せて!」

耳郎がジャックを床に突き刺すと轟音が響き渡り、浮遊した敵が体勢を崩す。そこへ拳藤の巨腕が容赦なく薙ぎ払った。

 

「数が多すぎる……でも退かない!」

拳藤の叫びに応えるように、蛙吹が飛び出す。長い舌で敵の武器を絡め取り、希乃子の胞子が視界を奪った。

 

「ここは私たちが守るっちゃ!」

マンダレイとピクシーボブも合流。大地を揺らし、敵の進軍を強制的に阻害する。

 

さらに鱗飛龍が前へ踏み出す。

「龍の炎で薙ぎ払う!」

紅蓮の吐息が通路を灼き、混戦を制圧していく。

 

また敵の質が上がっていたため実力者やセルドライバーを持っている者、さらには脳無を優先的に月面基地へ強制転送させた事が最も戦況の影響を与え時間を稼ぐ事が出来ていた。

 

そして…

 

「このまま時間を稼げれば……」

ナイトアイが時計を見た、その瞬間。

 

「舞台袖からの乱入だよ。お邪魔します」

 

爆ぜる声とともに現れたのは、黒煙を纏い“ステキなステッキ”を振り回すMr.コンプレス。

 

「来た──!」

マンダレイの警告。次の瞬間、無数の玉が宙を舞い、弾けた光の中から現れたのは刑務所脱獄組のヴィラン達だった。

 

「増援か!」

ピクシーボブが土の波で押し返すが、数が桁違い。

 

コンプレスは軽やかにステップを踏み、ステッキを掲げる。

「さぁ──《大切な駒》を頂戴するよ」

 

拘束室ごと黒霧が圧縮球へと飲み込まれた。

 

「そんな!!やられた……!」

耳郎の声が絶望を帯びる。

 

コンプレスは大仰に一礼。

「任務達成だね。それじゃあ、これにて──」

 

だが、逃走用のワープ脳無に手を伸ばした瞬間――

 

「帰れると思うなよ!」

 

空間が歪み、背後に門が開いた。

現れたのは夜嵐イナサと肉倉精児。

 

「物間さん、ナイスタイミングっす!」

イナサの烈風がワープ脳無を吹き飛ばす。

 

「私たちが来たからには、好き勝手はさせんぞ」

肉倉の両腕が伸び、敵を次々と肉団子へ変え、逃げ場を塞ぐ。

 

「げぇ!?やっぱ狙われてた──」

コンプレスの仮面の奥で焦燥が滲む。

 

「……あんたは、ここで絶対に捕まえる!」

物間が息を切らし、再び空間をねじ曲げる。

 

ワープゲートが新たに開き、戦場は混沌の渦に飲み込まれた。

 

それでも余裕を崩さないMr.コンプレス。

「幕間の時間だ……観客を分断する奇術をお見せしよう!」

掌を弾くと無数の光球が浮かび上がる。

 

「分断狙いか……!」

イナサが即座に風圧で吹き散らす。だが、一部が弾け、ヴィランとヒーロー数人が“ステキステッキ”に吸い込まれた。

 

「肉倉ぁ!」

隣の肉倉が囚われかける。だが、自らの腕を杭にし空間を突き破って脱出。

「甘い!俺の体を圧縮するなど、たかが奇術で出来るか!」

血を噴きながらも立ち上がる。

 

 

「気合いでどうにかなる物じゃないんだけど!?」

驚くコンプレス

 

 

物間が目を光らせゲートを閉じる。

「肉倉くん……!抹消を使う!長くは持たないからイナサくんが抑えてくれ!」

 

「個性が使えないね。レイザーヘッドの個性か……想定内だよ! ……あれれ? ステッキまで無効は想定外だ!」

コンプレスが狼狽える。

 

「任されたあぁぁ!!」

イナサの嵐が吹き荒れ、コンプレスの仮面にヒビが走る。

 

物間は必死に「抹消」の視線を維持。

「……もう少し……!」

圧縮とステッキの力を封じることに成功する。

 

「厄介な高校生……!」

力を失ったコンプレスを夜嵐の暴風が地へ叩きつけ、肉倉がその体を拘束。

 

「観念しろ、奇術師。今度こそ幕引きだ」

 

「ぐぅ……まぁ黒霧を奪ったんだ。実質こちらの勝ちさ」

 

「……黒霧が……奪われた……!」

 

ナイトアイが周囲のヴィランを制圧し、静かに目を閉じた。

「……未来通りだ」

唇から零れるのは乾いた呟き。

 

「時間稼ぎは完了だ。負け確定の未来は見えなくなった……。だがこの先に待つのは──やはり敗北か、それとも……」

 

コンプレスが捕縛される直前、残した言葉。

「フフ……仲間たちは……すでにVet阿賀月とDr柄木に預けてあるよ」

 

「やっぱり……!」

物間が顔を歪める。

 

 

「圧縮された球全部とその棒は預かる。お前はこのまま月面基地に送る」

 

「ん?月面基地って何だい?」

 

抹消の効果が切れればすぐにでも広範囲圧縮をしてくることは予想できた、だから誰も反対はしなかった。

 

説明もしない。

 

そんな余裕はない。

 

……シュン…

 

すぐにオペレーターが叫ぶ。

「中央病院より報告! 黒霧奪取を確認! ただしMr.コンプレスを捕縛、証言あり! “圧縮されたヒーローたち”は阿賀月と柄木の手にある! ギャングオルカ隊と合流して下さい。そんな!!ギャングオルカ隊ほぼ全滅しています…至急救援を!」

 

「くそ……休む暇なんてないね」

物間は血を流しながらゲートを再び開こうとして――

 

「っ……!」

 

血が涙となり、耳から垂れ、口から吐き出し――崩れ落ちた。

 

「「「物間!!」」」

 

限界を超えた脳は強制的に意識を断ち切った。

命を削る前に、本能がシャットダウンさせたのだ。

 

もう、物間はこの戦いで目を覚ますことはない。

 

仲間を救い、戦場を支え続けた――間違いなくMVP。

 

「こんなになるまで……すまない。ありがとう、物間くん」

 

その直後、ブラドキングとスナイプ死亡の報が届く。

 

聞こえていないはずなのに、彼の目からは一筋の涙が流れ出る。

 

 

戦局は収束へと傾きながらも、なお凄惨な戦いは続いていく――。

 

 

 

⸻⸻

 

 

vs阿賀月&柄木

某工業区付近の丘陵地帯

 

Vet阿賀月の衣装は、ただのド派手な装飾着ではなかった。

羽飾りのように広がるのは光学結晶。その一枚一枚が、“個性──光や極光”の効果を持ち、それを増幅させるための装置だった。

 

「これがわたしの光輝く舞台!」

 

その宣言と同時に、戦場は昼を超えた。

否──昼という表現では生ぬるい。

まぶたを閉じても焼き付く、白を超えた白。

網膜はもちろん、視神経すら灼かれるほどの光量。

 

「ぐああああッ!?」

「目が──視界がッ!!」

 

眼を潰すどころか、“感覚器そのもの”を破壊する暴力、視界を奪われた瞬間、敵も味方も関係なく、ただ光の奔流に飲み込まれていく。

リューキュウは可能な限り巨大化し光に対して背を向け影を作る。

 

だが、

ほぼ同時、追い打ちをかけるように暴音が駆けた──。

 

「コレがワシの生ライブじゃーーー!!!」

 

操縦席の柄木が、二本のレバーを前に押し出す。

その瞬間、超巨大脳無の腹部が、獣の口のように大きく開き重低音と軽高音が入り混じった爆音が聞こえた

 

──。

 

そこから放たれたのは、声ではない。

音そのものが牙を剥く。

 

「っぐおぉぉぉぉ──ッ!?」

「耳、塞いでも……ッ!」

 

鼓膜が破れ、骨伝導で脳が揺さぶられる。

音波は空気だけでなく、肉と骨をも震わせる暴力。

敏感な者は一瞬で痙攣し、白目を剥いて倒れる。

遅れて意識を保った者も、平衡感覚を失い、膝を折る。

 

──光と音。

二つの“主感覚”への暴虐が容赦なく戦場を蹂躙した。

 

「ぎゃああああああッ!」

「やめ、ろ……耳が……眼が……ッ!」

 

悲鳴すらも飲み込む、白と轟音の地獄。

わずか数秒──それだけで戦線はほぼ全滅した。

 

 

 

それは戦闘ではなかった。

ただ、強烈な光と音による“処刑”だった。

 

それでも、なお踏みとどまる影があった。

光の中で、音の中で、砕かれた体を引きずりながら。

 

「──俺…何で、無事…?」

 

その声は、かき消されそうなほど弱々しい。

 

 

戦場は数秒前とは打って変わって穏やかで静かだった。

 

 

だが

 

 

ロボット群は全て沈黙。

リューキュウも、ギャングオルカも、力あるプロ達でさえ膝を折り、目や耳や鼻から出血し意識を失って瓦礫に沈んでいる。

 

──地獄

 

それでも、すべては終わっていない

 

「……ッぐ、……まだ……動ける……!」

 

影の闇から這い出る黒色支配。

その全身は耳から血を垂らし、目は涙で曇っていたが、それでも彼は立ち上がった。

 

「…リューキュウさんに庇われて…影に潜れた……あたしらだけ…?…」

 

柳レイ子が震える手で、宙に瓦礫を浮かべながら膝をつく。

彼女の“念動”はもはや防御の壁ではなく、彼女自身を支える松葉杖のようにしか機能していない。

 

宍田獣郎太は巨体を獣化させたまま倒れ伏していた。

しかし唸り声とともに片腕を地面に突き立て、踏みとどまる。

「……マケ…ナイ…!」

だが目は白く潰され両耳から流れる血は止まらず、長くはもたないのは誰の目にも明らかだった。

 

鎌切尖は壁にもたれ、呼吸を荒げながら鎌腕を地に突き立てていた。

「…まだ斬れる……っ」

虚勢でしかないが、その鎌は確かに戦場に残っていることを証明していた。

 

そして──。

 

「オペレーター……応答……」

黒色が震える指で通信機を操作する。

周囲は瓦礫と失神したヒーローで埋まり、僅かに見えた通信機の光だけが頼りだった。

 

【……こちら公安オペレーター。状況を報告しろ】

 

全く聞こえない。

 

もしかして機械が壊れたのかと思う。

 

だが、壊れているのは自分の耳も同じだった。

 

崩れ落ちそうになる膝を必死に支え、もしかしたら誰か聞いているかもしれない。

そんな思いを込めて必死に伝えた。

 

「戦線……壊滅……! プロもロボ群も全滅状態……!残存は、俺と数名……!強烈な光と音の攻撃で目と耳をやられている。何も聞こえない…ほとんど目が見えない…誰か聞いている事を願っている…頼む……聞こえててくれ…頼む、至急、増援を……!」

 

通信の向こうでざわめきが走る。

誰もが予期しなかった壊滅の報。

 

【……ッ!! 了解。救援部隊を即時編成する。君たちは出来るだけ逃げろ!生きろ!!諦めるな!!繰り返す──諦めるな!頼む、生きろ!!】

 

 

「はは…何言ってるか、わっかんねぇ……」

 

何か言ってるのは聞こえた。

だが内容が分からないから返事ができない。

 

伝わったような気がするから、勝手に希望にした。

 

きっと助けに来てくれる。

 

黒色は仲間たちを見渡すが…遠くは見えない

ボヤけて見えるのは…

レイ子

獣郎太

鎌切

クラスメイトが立とうとしている。

 

更に周りを見る…自分達を取り囲んでいるのは黒い何か…

 

 

近寄ってきてわかった。アレは脳無だ

 

 

状況は絶望的

 

光と音に焼かれながらも、まだ終わっていない。

 

自分にできる事は──なんだ?

 

考え続ける事が大事だと思い脳をフル回転させる。

 

脳無が遅くないスピードで近寄ってくる。

レイ子、獣郎太、鎌切が大した抵抗もできず殴られ地に伏せている。

 

次は俺だ

 

脳無がスキップして寄ってくる。

 

よく見えないのにニヤニヤと嫌な笑顔で拳を振り上げているのが分かって腹立だしかった。

 

仲間が殴られたのに何も出来ない自分にハラワタが煮えくりかえる。

こんなに頭に血が昇ったのは産まれて初めてだった。

 

その時、ふと…思い至る。

 

(あれ?泡瀬とA組の3人がいねぇ…)

 

そして……

 

目の前に迫る拳を最後に黒色の意識は途切れた。




残りの戦場は

後回しにしたバスティオン周辺を除けば

vs Vet阿賀月&Dr柄木

2人のAFOのいる種子島かな?

そして思ったより月面基地転送が地味

現見さんと葉隠さんを活躍させたいなぁ…
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