ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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そろそろ終盤が見えてきた!
と思ってたのにまだAFO戦に行けぬ!



第39話「犠牲者と救われた者」

 

黒色支配、柳レイ子、獣郎太、鎌切、リューキュウ、ギャングオルカ……

次々と倒れていく仲間たちやヒーロー、自衛隊、警備隊の人々が、脳無に“拾われ”、まるで死体の山をあさるように運ばれていく。

 

その光景を、ただ無力に見つめるしかない者たちがいた。

 

切島鋭児郎。

彼の“硬化”が深化して辿り着いたのは、『侵蝕硬化』──。

そしてその更に先に、彼の体が反射的に発動した技があった。

 

危機を感じた瞬間、自分と周囲五メートルの仲間を“自動”で瞬時に鋼鉄化し守り抜く。

攻撃のための必殺技ではなく、仲間を守るためだけの──必護技。

 

その影響を受けたのは、佐藤と峰田だった。

 

発動した瞬間、三人の身体はまるで鋼鉄の像に変わり、脳無の攻撃すら弾き返す。

だが、それは絶対防御ではない。効果時間は三十秒。

三十秒の間は守られるが、逆に言えば、その間はただの石像のように何も出来ない。

 

仲間が連れ去られていくのを、ただ見ているしかないという絶望の三十秒。

──それでも。

あるのとないのでは、雲泥の差だった。

 

事実、彼らは致命傷を免れ、眩暈と耳鳴り程度の被害で済んでいたのだから。

 

……

 

やがて三十秒が経過する。

鋼鉄の殻が剥がれるように硬化が解け、切島、佐藤、峰田が一斉に顔を上げた。

 

「……やっと、解けた!!!」

切島の赤い瞳に宿ったのは、鋭い光。

叫びながら再び硬化し、突撃する。

 

「んなろぉ……行かせるかああぁッ!」

 

「連れていくなァァッ!!!」

峰田は足裏にモギモギを貼り付け、バウンドの反動を利用して跳ねるように接近。

小さな体を必死に躍動させ、脳無の群れに飛び込んでいく。

 

「絶対に許さんッ!!!」

佐藤は走りながら、バリバリと氷砂糖やキャンディを口に押し込み、一気に飲み下す。

血糖が爆発的に跳ね上がり、筋肉が膨張する。

 

「オオオオオラァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

全身が怒りに震え、血管が浮かび上がる。

雄叫びとともに、超必殺技── シュガー・バースト が解き放たれる。

瓦礫が吹き飛び、地面が割れるほどの怪力の奔流。

 

その時切島が峰田に「待った」を掛けた。

視線、手のひら、頷き──アイコンタクトでの合図。

 

「……あ、泡瀬!!」

 

最初に気づいたのは切島だ。

だが一番近くにいたのは峰田だった。

 

虚ろな意識を保ちながら、ロボ群の残骸へと手を伸ばす泡瀬。

その指先に呼応するように、金属片や装甲板がかすかに揺れた。

彼の個性は、まだ生きていた。

 

だが、その傍らには脳無が迫る。

 

「絶対置いてかねぇ!!!」

 

── オールレンジ・ジョイント。

 

峰田の体から吐き出された無数の粘着玉が、地面へ、脳無の足へ、そして泡瀬の身体へと広がっていく。

一見無秩序な粘着の塊が、やがて網のように展開し、敵を拘束し、仲間を守る結界となった。

 

一方、その場で血に塗れた唇を震わせる男がいた。

 

「……ごぶ……まだ……!」

天喰環。

 

すでにその身体は限界を越えている。

だが──彼の胃袋には入っている。

 

本来、“喰う”べきではないものを喰った。

それは、光と音。

 

そして現れたのは、あり得ざる顕現。

 

── 光響の翼。

 

感覚の残滓が物質の形を成し、天喰の背から広がっていた。

 

「皮肉なもんだな……。けど、これで……道を開ける……ッ!!」

 

絶叫とともに、翼が閃光を放ち、音波の衝撃が脳無の群れを薙ぎ払う。

たった一瞬で、仲間たちの足場が切り拓かれた。

 

「サンイーター!?天喰先輩か!? ……行くぞ佐藤ッ!!!」

「おう、行くぜ切島ァァッ!!!」

 

硬化と怪力。

二つの力がぶつかり合い、脳無の群れを粉砕する。

骨と肉が飛び散り、大地が陥没する。

 

「「俺らのクラスメイト、返してもらうぞコラァァァァァ!!!!!」」

 

残存戦力わずか五人。

だが、その瞳にはもう絶望はなかった。

仲間を奪還するための反撃が、ここから始まる。

 

──だが、それを嘲笑う者がいた。

 

「ひゃーっひゃっひゃっ! ワシらはここまでじゃあ! 後は存分に苦しめェェッ!!!」

Dr.柄木が爆音混じりに笑いながら、巨大脳無を操って離脱を試みる。

 

「これ、実は一回こっきりなのよねー。……あれ?動ける人いるんだ?やっぱり“個性”の可能性は無限大だわ。ま、いいや。バイバーイ」

Vet阿賀月は衣装に煌めく光学結晶を羽ばたかせ、白極光の翼を広げ天に舞い上がった。

 

彼らは戦う者ではない。

彼らは研究者。

戦場に誇りを置くのではなく、成果を持ち帰ることこそが使命。

 

勝ち誇った笑みを残し、逃走を図る。

 

──だが、そんなものは許さない。

 

「……逃がすものかよッ!!!」

血に塗れた天喰環が、光響の翼を羽ばたかせた。

音波を纏った突撃が雷鳴のように炸裂し、柄木を直撃する。

 

「ガァッ……!?」

次の瞬間、超巨大脳無はバラバラに吹き飛び、肉の雨となった。

柄木も瓦礫に叩きつけられ、血に沈む。

 

追撃は不要だった。

天喰の光速の一閃が、一瞬で全てを粉砕したのだ。

 

「残るは……お前だ、阿賀月剥貸!!!」

 

天喰は空へと舞い上がる。

 

「ワタシ? ……えっ、なんで!? 意味わかんないんだけど!?」

阿賀月が本当に意味が分からないと驚愕の表情を浮かべる。

 

次の瞬間──。

 

二つの光が、夜空で交差する。

戦場の上空は、光響と白極光が交差する軌跡で埋め尽くされ、流星群のような閃光が乱舞する舞台と化した。

 

光響と白極光が交錯する。

流星群が暴走したかのように、空間そのものが閃光で裂け乱れていた。

 

「ったく、早く帰って新しいセルドライバー作りたいんだよねー。邪魔しないでくれる?」

阿賀月が舞う。背から展開した光学結晶の翼は、何層もの羽ばたきで虚構の太陽を生み出し、その輝きは戦場を焼き尽くす。

放たれるのは無数の光刃。散弾の雨、突き立つ槍の群れ──殺意そのものが弾幕となって天喰を貫こうと迫る。

 

「……軽いんだよッ!!」

天喰は広げた光子の翼を一閃、爆ぜる閃光とともに滑空する。

光を喰ったその身体は、光速を模した加速を得て、阿賀月の光刃を切り裂きながら進む。

そして舞い落ちた光響の羽が、意思を宿したかのように阿賀月を狙い撃つ。

 

ズバババババッ!!

 

連なる衝撃波と共に、阿賀月の翼が粉砕された。

しかし、彼女は口角を上げ、笑う。

 

「ひゅー、やるじゃん! でもね──壊せば壊すほど、強くなるんだよ!」

 

砕けた結晶は新たな光を増幅し、散らばる破片そのものが光弾と化して逆襲する。

“破壊が力を生む”──それが阿賀月の真骨頂。

 

「クソッ……!」

天喰は光子の翼で旋回、さらに音波の障壁を纏って光弾を弾く。

だが衝撃は肉体を焦がし、灼熱の閃光が視界を奪う。白の洪水が、じわじわと感覚を削っていく。

 

──それでも、天喰は立ち止まらない。

 

「俺は……光も、音も、全部喰った! だから……もう通じねぇッ!!」

 

叫びは自らを鼓舞する咆哮。

翼が再び閃き、光と音の残響が混じり合って顕現する。

爆音を纏う光の羽ばたきが、空を震わせる。

 

“光で塗り潰す相手”を、“光と音そのもの”で打ち破るために。

 

二つの太陽が衝突するかのごとく──

光響と白極光の激突が、眩暈を覚えるほどの閃光で戦場を覆い尽くした。

 

 

 

 

「……先輩、頑張って……! 俺らも、踏ん張る!!」

切島が硬化した腕で顔を覆い、血の滲む喉から吼える。

 

十体以上の脳無が、閃光に惑わされることなく突進してくる。

その肉体は弾丸のように硬く、巨人のように重い。

 

「負けらんねぇ……! ここで立たなきゃ、全員死ぬんだッ!」

佐藤が拳を構える。

 

糖で強化した巨腕が鼓動するたび、骨格が軋み、地面が鳴動した。

「──ホイップ・フレイル・マキシマムッッ!!」

 

咆哮と共に叩き込まれた一撃が、脳無の巨体を宙に舞わせ、地面へと叩き伏せる。

だが、奴らは倒れない。

黒い筋肉をうねらせ、再生を繰り返し、這い戻ってくる。

 

「はぁ……はぁ……! キリがねぇ……!」

峰田の粘着玉が飛ぶ。

足場を潰し、壁を作り、仲間を繋ぎ止める。

全身から溢れ出す紫の玉は、もはや汗でも血でもない──彼の命そのものを削って滴り落ちていた。

 

「……俺も戦う」

 

その声に皆が振り返る。

泡瀬洋雪。血を吐き、立つのもやっとの彼が、残骸の山に手を伸ばしていた。

 

「無茶すんな!」

切島が叫ぶ。だが次の瞬間──金属が軋む轟音が全てを遮った。

 

残骸が、泡瀬の個性に応えて組み上がっていく。

腕に装甲板、脚にローラー、背に歪んだバーニア。

むき出しの配線、無骨な鋼材が火花を撒き散らし、ひとつの巨体を形作る。

 

「俺は……俺だけ守ってここにいる。そんなの、ヒーローじゃねえだろ……!

頼む、俺にチャンスくれ! 仲間を、俺の意志で守らせてくれッ!!」

 

後悔。自己嫌悪。

だが、それを越えて「守りたい」という願いは本物だった。

その想いは仲間たちにも伝わり、誰ひとり止める者はいなかった。

それこそが“尊重”。ヒーローを志す者としての、当たり前の答え。

 

(……わがままでごめん。けど、ありがとう。俺、この学年で良かったよ)

 

感謝と決意。

その奔流が、彼の個性を押し上げた。

 

ガチャン!ガチャン!ガチャン!!

 

粗野で無骨な機体を纏った“戦士”が立ち上がる。

 

「──《フォレスト・グリント》」

 

地面が震え、ローラーが火花を撒く。

脳無の拳と、鋼の拳が衝突した。

 

「パイルバンカァァァーーッ!!」

 

ゴガァァァンッ!!

 

杭が拳の側面から発射され、脳無の拳を貫通。脳を穿ち、怪物を沈黙させる。

 

立っていたのは──フォレスト・グリント。

 

「泡瀬ェェェッ!!!」

切島が吼える。

「てめぇ、最高にイカしてんじゃねえかッ!!」

 

「よし……俺たちも行くぞ!」

佐藤が巨腕を振りかぶり、脳無を薙ぎ倒す。

峰田は背後から粘着玉を投げ、フォレスト・グリントを支えるように脳無の足を絡め取る。

 

地上戦線が、再び動き出した。

硬化と怪力、粘着と鋼鉄。

無骨で荒々しい連携が、脳無群を押し返していく。

 

「俺らは……仲間を置いて逃げねぇ! 絶対に取り戻すんだッ!!」

切島の叫びが響く。

 

その声は、閃光と轟音にかき消されることなく、確かに仲間たちへ届いていた。

 

――そして。

最後の脳無五体が牙を剥く。

皮膚を硬化させ、黒い筋肉を脈動させた、普段なら恐怖に足を竦ませる怪物たち。

 

だが、もう誰も怯えなかった。

背中を預け合う仲間たちの力は、一人で抱える限界を超えていた。

 

 

異なる個性同士の同調が生み出した、奇跡の力。

 

彼らはお互いの力を信じて背中を預ける事で何倍ものちからを手に入れた。それは“想い”の力と言う不確かなものではなく、能力が底上げされているという事実。

進化・深化・限界突破、そのように呼ばれる個人の能力アップの話ではない、1人では決して手に入らない異なる個性同士の同調による可能性の拡大。

 

この力が初めて顕現した事例。

 

 

後に付いた名前が

 

 

“ユニゾン・クィルク”──

 

 

 

「ははッ! なんだコレ、全然怖くねぇ……! 力が湧いてくる……これなら!!」

 

切島が硬化した腕を地面に叩き込む。

その硬化は地面を伝い、脳無の足下を鋼鉄化していく。

逃れようとする脳無――しかし、突如鋼鉄の槍が地中から伸び、鋭く貫いた。

 

「ギ!?!?」

 

一体目、撃破。

 

 

「こんなの、初めてだぜ。お前らとなら……俺は!!」

 

佐藤の身体が変貌する。筋肉が縮んだのではない。無駄を削ぎ落とし、理想的に引き締まった“戦闘のための肉体”へと進化していた。

その姿は、まるで鍛え抜かれた獣。

 

刃と爪を備えた脳無が襲いかかる――しかし。

 

「この身体……すげぇな。けど長くは持たねぇな……よし、“糖廻体”って名前にしよう」

 

佐藤の右ストレートが炸裂する。

ただの一撃。それだけで脳無の刃は粉砕され、再生も追いつかず機能不全に陥った。

 

二体目、撃破。

 

 

「え……お前ら何でそんなヤバイ事になってんだよ!? おかしくね!? ……あ!これ、覚醒イベントか! やべ、やべ、すぐ動かなきゃ無駄になるじゃん!」

 

峰田だけが、状況を客観的に理解していた。

彼は両手を振り上げ、叫ぶ。

 

「いっくぜー! 超巨大モギモギ・バウンド・フィッティング!!」

 

これまでにない巨大な粘着玉が出現。岩塊のように転がり、脳無に直撃。

べったりと貼り付き、もう一体までも巻き込み拘束する。

 

「ギギィィィッ!!」

 

だが、二体の脳無は融合しようと蠢きだす。黒い肉が絡み合い、異形の進化を始めかけ――

 

「うげぇ!? やっべやっべ! マジでやばいやつじゃんコレ!!」

 

青ざめた峰田は、即座に両手を鳴らす。

 

「反転ッ……グレープジュース・スカッシュ!!」

 

爆発的な剥離圧で融合を強制的に引き剥がし、二体を地面に叩きつけた。

 

「二体まとめていけるか!?」佐藤が叫ぶ。

 

「大丈夫、俺がやる」

 

低く燃える声で泡瀬が応えた。

その背に立つのは鉄の巨体――フォレスト・グリント。

 

 

無骨なパーツを溶接で繋いだ鉄塊の巨体。美しさはない。だが魂だけは宿っていた。

右腕には旧式ドリルユニット。泡瀬はそこへ自作の圧縮ロケットを仕込んでいた。

 

「……ドリル・ロケット・パンチッ!!」

 

ズドオォォンッ!!

右腕が射出され、ドリルの刃が二体の脳無をまとめて貫通。背後の瓦礫ごと吹き飛ばす。

 

三体目と四体目、撃破。

 

「うおおっ! やっべぇ!!」切島が目を輝かせる。

「なに今の!? アニメじゃん!!」峰田が絶叫。

 

泡瀬は残る左腕を突き出す。鉄拳が震え、圧縮エネルギーが収束。

 

「もういっちょ!! 必殺……鉄拳パイルバンカーァァァーーッ!!」

 

キュイイイイッ――ズドォンッ!!

鉄の拳が脳無を粉砕。五体目、撃破。

 

 

「やったぜぇぇ!!」峰田がガッツポーズを決める。

だが、その瞬間。

 

「……峰田、危ない!」切島の叫び。

振り返れば、ボロボロの六体目が突進してきていた。

 

「えっ!? マジかよ!?」

 

だが、佐藤が飛び込む。一足で間合いを詰め――

 

「糖廻体ッ……超必殺――シュガー・ホイップ・スター・マインッ!!」

 

咆哮と共に、拳と脚が乱舞する。

爆ぜる星のような連撃。防御も再生も許さず、脳無は叩き潰された。

 

六体目、撃破。

 

 

「っはぁ……はぁ……」佐藤は痩せ細った身体で膝をつく。

急激な強化の代償。糖分の枯渇が限界を告げていた。

 

「顔がぁぁ!! 皮膚がァァァ!!」切島も全身の痛みに悶え転がる。

「おいらのチャームポイントがぁぁ!!」峰田は頭のモギモギを失い嘆く。

 

「ありがとな……フォレスト・グリント……」

泡瀬の鉄巨体も崩れ落ち、鉄屑を散らしながら彼は膝をついた。

だが、その顔には満足の笑みがあった。

 

 

数秒後――。

静まり返った戦場で、峰田がつぶやく。

 

「オイラ達……勝ったのか」

 

「おう、勝ったぞ!」切島が天に拳を突き上げる。

「俺たちで……脳無を全部、倒したんだ!!」

 

「そっかぁ……やったな……」

 

仲間たちは大の字に倒れ、もう一つの戦いの行方を眺めていた。

 

 

空では、天喰環の光響の翼と阿賀月の白極光が衝突を繰り返し、激闘もついに終局へ差し掛かっていた。

 

しかし、地上戦での脳無部隊の壊滅を目の当たりにした阿賀月の表情に、初めて焦りが滲む。

 

「え、え〜!? 冗談でしょ!? いくら型落ちとはいえ、高校生なんかに脳無が負けたのッ!?」

 

「当たり前だ! 彼らは最高の訓練を受けている。負けるものか!」

 

地上戦の結果は、彼女の予測から大きく外れていた。不規則に光学結晶が閃く。その隙を――天喰が見逃すはずもない。

 

「今だッ!!! ……これで終わらせる!

《極彩・光響ノ剣》ッ!!」

 

天喰の翼が広がり、虹色の光剣へと変貌する。

周囲には十体の“分身”――いや、彼が紡ぎ出した残響体が出現し、阿賀月に殺到した。

 

「残像……!? いや、違う!?」

「これは残響体だ!」

「何がちゃうねーーん!!!」

 

ツッコミの直後、残響体が一斉に駆け抜ける。

阿賀月のセルドライバーを切り裂き、その余波が響き全身を震わせた。

 

「ひっ……ぎゃあああああああッ!!」

 

火花が弾け、結晶の翼が砕け散る。彼女は空から落下し、地に叩きつけられた。

 

「いったたたッ!? うそ……腕が、曲がってる!?」

 

情けない悲鳴。地を転がる姿に、先ほどの威勢は欠片も残っていない。

 

それでも阿賀月は歯を食いしばり、懐から禍々しい小さな“脳無の頭”を取り出した。

 

「くっそ……!それなら、とっておきの脳無型セルドライバーを見せてあげるッ!」

 

その瞬間――全員が悟る。

「アレ」を使わせてはいけない、と。

 

「「「「させるかァァ!!!」」」」

 

「させる……ッがァァッ!?」

 

天喰が最後の力を振り絞るが――

ビキィッ、と音を立てて吐血。彼の身体は限界を迎え、地上へと堕ちていった。

 

誰もが限界を超えている。

もう、どう足掻いても間に合わない。

 

絶望が広がるその時――

 

瓦礫の影から、葉隠透と現見ケミィが姿を現した。

 

「……カタチさん、お願い。この人を送ってください」

 

ケミィが低く、決意のこもった声で告げる。

カタチの手が阿賀月に触れた瞬間、光が走り、転送の渦が巻き起こった。

 

「ふぇ……?」

 

阿賀月の姿が消える。

ボトリ、と小型の脳無の頭だけが残された。

 

静寂――。風が瓦礫を撫でる音だけが耳に残る。

 

「えっ? あれ葉隠と現見だろ? ってことは……月に送ったのか!!」

「よ、よかったぁ……」

「ふぅ……どうなるかと思ったぜ」

「心臓に悪すぎる……」

 

切島のつぶやきに、仲間たちは肩で息をしながら頷き合った。

 

 

決着後

 

「私の出番な〜い」

現見は口を尖らせ、葉隠とともに次の戦場へ向かっていった。

 

しかし後に判明する。葉隠は現見の“幻惑”を活用し 現見“は葉隠の“透明”を利用した。結果、この場の数十体もの脳無を誰にも気付かれずに転送していたのだ。減ったことを気付かせぬよう環境ごと幻惑で隠す徹底ぶり。

 

それでいて「出番なかった」と言い放つ――そのポテンシャルの高さに、公安は思わずうなる。

まさに暗躍のために生まれたコンビだった。

 

やがてリューキュウやギャングオルカ、B組の仲間たち、多くのヒーローや警官隊が到着。天喰は救急車で病院へと搬送されていく。

 

その頃、瓦礫の上。両腕を縛られたDr.柄木が白衣の裾をいじりながら、なお不気味に笑んでいた――。

 

「おい……言えよ。Mr.コンプレスからもらった“圧縮玉”、どこに隠した?」

切島が血走った目で睨む。

 

「オイラたち、ここまで仲間がやられたんだ。黙ってりゃ済むと思うな!」

峰田が声を荒らげる。

 

だが柄木は顔を背け、鼻を鳴らす。

「ツーーーン♪」

子供じみた態度で無視を決め込んだ。

 

苛立ちに拳を握りしめる佐藤を、泡瀬が弱った声で制止する。

「……ムダだ……こいつは喋らない。時間稼ぎだ……」

その言葉に、三人は歯噛みした。

 

その時──通信機が震える。

【こちらオペレーター八木! 聞こえるか!?】

 

「オールマイト!?はい、オイラ達は生きてるぜーー」

峰田が叫ぶ。

 

【……良かった。休憩させてあげられず申し訳ないが、まず報告する。リューキュウは意識を取り戻した。だが……ギャングオルカは……心肺停止だ】

短い沈黙。子供たちにそれを聞かせたくない気持ちが、通信越しに痛いほど伝わった。

 

「そんな……っ」

切島が悔しさに歯を噛む。

 

【そして、おそらく時間がない。黒ノ家のあった座標……地下に施設がある可能性が高い。すぐに確認するんだ!】

 

「地下……?」

佐藤が辺りを見渡す。

瓦礫をどけ、焦げた大地を探ると──金属の取っ手が半ば埋まっていた。

 

「……これは…入り口?」

 

軋音とともに、隠されたハッチが開く。

冷気が噴き出し、鉄錆と薬品の匂いが立ち上った。

 

派遣されてきた警官隊、研究者と思われる人達が入っていく。

ただ見ているだけなんて彼らには出来なかった。

 

「……友達がいるかもしれない!俺たちもお願いします」

切島が言い、許可をもらったのちA組三人も大人と地下へと足を踏み入れる。

 

その背に、泡瀬が声を振り絞った。

「……気をつけてな。…すまんが俺は、もう……動けない……」

血に濡れたロボたちが彼を守るように佇み、救急車まで運んでいった。

 

 

暗い地下通路。

壁際には冷却パイプが走り、警告灯が断続的に明滅していた。

 

そして──分厚い扉を専門の個性を使い開ける。

視界が開けた先にあったのは…

 

「……な、なんだこれ……」

峰田が膝を抜きかける。

 

試験管のような巨大な培養槽が並んでいた。

中には泡に浮かぶ影……見覚えのある仲間たちの顔が眠っている。

 

「おい……これ……皆いるぞ、B組も…!」

佐藤が呻く。

 

さらに最奥には、あまりにも巨大な影。

透明な液体の中で、巨躯が静かに鎮座している。

 

「ギガントマキア……!?」

 

切島の声が震えた。

その身体には既に黒い管が絡み、脳無化の処置が進行していた。

 

地下室の冷気が、わずかに震える。

ハッチを閉めた上からでも伝わるのは、金属と薬液の匂い、そして安らかではない静寂だ。

突入班は互いに見渡し、目に浮かぶのは困惑と焦りだけだった。

 

「オペレーター、オールマイトへ。取り急ぎ相談がある。ここに仲間が――試験管の中で眠ってる。だが、勝手に操作したら危ない。どうすればいい?」

切島の声は低く、しかし震えていた。無造作に押された通信機が、かすかに光を漏らす。

 

【了解。現場の状況画像を上げてくれ。直接触らないで、向こうで解析するよ】

八木の声は冷静だったが、その裏に隠れた緊張は伝わってくる。時間がない。

 

 

「下手に触れたらダメだ。試験管に細工があるかもしれない」

峰田が顔を歪める。目の前の透明な管の中、懐かしい顔が泡の中に浮かんでいた。誰かの指が震える。

 

その時、暗がりでいくつもの影が浮かび上がる。

「──僕達に任せて」

救助隊と共に来たカタチ達は念の為、一緒に地下施設に来ていた。

彼らは目立たない物音で通路の一角から歩み出る。その存在は常に静かだが、確かな論理と計算を抱えている。

 

「カタチ、端末操作できるか?」

佐藤が急に希望を帯びた声で訊ねる。

 

「うん、大丈夫。僕ならできる、ちょっと待っててね」

 

八木が画面越しに指示を送る。

【カタチくん、最初にギガントマキアだけを“睡眠状態”に固定してくれ慎重に頼むね。】

「オッケー。ロック解除プロトコルを逐次開けていくよ。試験管は外殻の圧力バランスを崩すと内部の薬液が一気に噴くからね。」

 

カタチは淡々と頷き、キーボードを叩く。

端末の表示が一つ、また一つと解除されていく。警告灯の色が不安定に変わり、やがて安定する。

 

「ここからは――俺が直接、外殻を触らずに内部圧を均していく。外部からの物理的介入は最小限に留める」

カタチの声は平坦だが、その裏に込められた集中力は凄まじい。画面の数字が下がり、培養槽の温度、浸透圧、薬剤濃度が安全域へと戻される。

 

やがて、最も巨大な培養槽のバイオロックだけが“スリープモード(睡眠)”へと入った。

ギガントマキアの姿は揺らぎ、だが動きは止まる。まるで深い眠りに誘われたかのように、透明な液面の中で静まった。

 

八木の声が漏れる。

【ギガントマキアはこれで睡眠固定。脳無化プロセスは一時停止だ。他は……】

画面のデータがスクロールし、カタチの指が滑ることなく最も重要な数値へ到達する。

 

その時、カタチは静かに口を開いた。声はまるで水面に落ちる小石のように、部屋中に波紋を広げる。

 

「みんな、脳無化が進んでる。言い方が悪くてごめん…個体差はあるけど…生体の15〜40%は脳無化。クソォ…これはなんとも出来ない…ごめん…せめて脳は人間のままだったら良いんだけど…」

 

その言葉は、A組三人とその場に居合わせた救助隊全員の胸を真っ直ぐに射抜いた。

切島の硬い表情がひび割れ、峰田の目が白くなる。佐藤の呼吸が一瞬止まったように見えた。

 

「──何だよ、それ……」

峰田の声は震える。だが、怒りと悲しみが混ざった複雑な感情が次第に熱量を帯び、芯になる。

 

カタチは静かに付け加える。

「数値は正確だ。部分的な脳組織の置換。外科的な回復法は今のところ存在しない。でも完全な“人”であることを剥奪されたわけではない。できることを最優先にしよう」

 

カタチは俯き、言葉を続ける。

「だから、今は触らずに、最小限の介入で。目を覚ましてくれれば――その可能性を信じたい」

 

静寂が戻る。だが静寂は諦めではない。燃えるような決意が、三人の胸に灯る。

時間は容赦なく過ぎていく。だが今、彼らには選択肢がある。

壊すのか、守るのか。救うのか、諦めるのか。

 

切島は拳を固めて言った。

「やれることをやる。俺たちに出来ることは何もないのかよ…」

 

峰田は膝をつき、試験管のひとつに手を伸ばすが、やがて指を引っ込める。

「触らない。カタチのやり方でいく。オイラたちはもう、何も出来ない」

 

複数のカタチ達の声が、端末越しに重ねられる。

「これより遠隔保護プロトコルを開始します。意識回復を優先、脳機能の温存を最優先。進行状況を逐一本部に連絡をします」

【頼む……】

 

カタチは端末に流れる数値を最後まで確認し、静かに背を向けた。

 

「ここからは──僕の戦いだ」

 

冷たい地下室の空気が震える。張りつめた緊張と、かすかな希望が同時に満ちていく。

誰もが心の中で願っていた。

どうか無事であってくれ。仲間のままでいてくれ、と。

 

 

カタチの声が落ち着いた調子で響く。

「第一段階──外部薬液の循環を遮断、培養槽を“安定化モード”に移行。バルブ、同期して」

 

「了解」

 

複数のカタチが、一斉に手を振る。まるでオーケストラの指揮者のように。

青白い回路図が空中に広がり、一本一本の配管が電子の糸で繋がっていく。

シューッ、と鋭い音を立てて薬液の流れが切り替わる。

刺激の強い薬剤が外部タンクへと吸い上げられ、培養槽は徐々に安定を取り戻していった。

 

「第二段階──ニューロン活動を監視。脳波を引き上げて、意識回復を誘導する。ここは慎重に……失敗すれば、戻らない」

 

声は冷静で、硬質だ。

「脳無化が進んでいても、脳が残っている者はいる。だから可能性はある。共鳴パルス、送るよ」

 

「……オールグリーン」

 

カタチは端末に指を走らせる。複雑なコードが編まれ、空気が低く震えた。

試験管の中へ、まるで心臓の鼓動を模したリズムが流れ込む。

 

液体の中で眠る仲間たちの神経に、確かに伝わった。

 

 

「……っ」

 

常闇踏陰の培養槽で、黒い影がふるりと揺れた。

閉じた瞼が痙攣し、モニターに小さな脳波の山が走る。

 

「常闇!? 反応したぞ!」

切島の声が弾ける。

 

だがカタチが手を挙げて制した。

「まだだ。でも──いい兆候だ。脳は生きている。続ける、慎重に」

 

次いで庄田二連撃の指先が、ピクリと動く。

障子目蔵の多腕がガラス越しに弱々しく握られる。

角取ポニーのまつ毛が震え、呼吸のように気泡が浮かび上がった。

 

希望の光が、確かに差し込んだ。

 

だが同時に、冷徹な現実も突きつけられる。

 

 

カタチは淡々と報告する。

「……調べて分かった。Mt.レディ、フェイ・ロン、虎、ビッグ・レッド・ドット……そしてグラントリノ。彼らは脳まで脳無化が進んでいる。意識を戻す可能性は……限りなくゼロだ」

 

「な……っ」

切島の息が詰まる。

峰田は言葉を失い、佐藤は壁を殴りつけた。

 

「特に……グラントリノは深刻だ。脳そのものが……ない。あるように見えるのはハリボテ。もう“意識”は……」

 

【……っ……お師匠……】

 

八木の声が途切れる。通信越しでも、苦痛が伝わってきた。

 

「……あのじいちゃんが……」

佐藤の喉が震える。

 

だがカタチは続けた。

「でも、口田、庄田、常闇、障子、角取……彼らは違う。身体は侵されていても、脳は無事だ。人として戻れる。

 

おそらく…大人は即戦力として…

 

雄英生徒達は意識を残して僕たちのメンタルを挫くためにワザと…

 

脳と身体の脳無化の優先順位を決めたんだと思う。そうじゃなきゃ違いは説明できない」

 

「クソみてぇな理由だ…納得したくねぇのに腑に落ちてしまう」

佐藤と峰田が俯いて震える。

 

その言葉に応じるかのように、常闇の胸が小さく上下した。

水面に泡が弾け、生命の証を刻む。

 

「──トコヤミッ!」

切島の叫びに合わせるように、彼の脳無化した目が開かれる。

 

【それでも……希望は、ある】

八木が深く息を吐き、呟いた。

 

 

やがて救助ヒーローたちが地下に降りてきた。

担架を抱え、次々と試験管の解除に取りかかる。

 

「よし、液圧下げろ! 割るなよ!」

掛け声が飛ぶ。

 

最初に開いたのは常闇の培養槽だった。

冷気と共に倒れ出た身体を、切島が抱きとめる。

 

「……トコヤミ!」

 

弱々しい呼吸。かすかに瞼が開き、赤黒い瞳が切島を見上げる。

「……キリ……シマ……?」

 

「おお……おおお!」

切島は人目もはばからず、涙をこぼした。

 

角取ポニーも救出され、震える手で小さく祈るような仕草を見せた。

庄田、障子、口田も次々に救い出され、まだ完全ではないが確かに“生きて”いた。

 

だが一方で──。

 

別の列に運ばれる者たちは、眠り続けるしかなかった。

Mt.レディ。フェイ・ロン。虎。ビッグ・レッド・ドット。

そして……グラントリノ。

 

試験管ごと搬送カプセルに封じられ、延命ではなく“静止”の処置が施される。

目を覚ませば怪物になってしまうからだ。

 

「……グラントリノ……」

佐藤の拳が震える。

峰田は唇を噛み、切島は堪えきれず涙を流した。

 

「なんで……なんでこんな……!」

 

胸に渦巻くのは、悲しみと怒り。

仲間や先輩、尊敬する先達者達を弄んだヴィランへの、どうしようもない憤りだった。

 

それでも彼らは担架に向かって声をかけ続けた。

「絶対取り戻す!」

「また一緒に笑おう!」

「俺たちは──諦めない!」

 

涙に震えた誓いが、雄英の生徒たちの心をさらに強くした。

 

冷たい地下施設で。

絶望と希望の狭間に、再び立ち上がる理由を刻みつけたのだった。




思ったより…内容が重い!!!!
苦手な人いると思う。
ごめんね!
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