ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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最終話です!


最終話「ヒーローのカタチ」〜私達が行くから大丈夫〜

AFOとの決戦で、ヒーローたちは多大なる犠牲を払いながらも勝利した。

 

「これで平和が戻る」

世界中の人々が歓喜の声を上げた。

 

――だがその直後、突如として“個性”は失われた。

 

理由は誰にも分からない。

人類は新たな現実に直面することとなった。

 

かつて誰も経験したことのない、世界規模での大混乱。

異形系の個性を持つ者すら姿を変え、無個性と同じ大きな特徴のない姿となる大激変。

人々は生活のすべてを変えざるを得ず、それは決して楽なものではなかった。

 

特に日本の影響は甚大だった。

なにせ黎明期以上の「ヴィランvsヒーロー」の戦争の直後に個性が消失したのだ。

被害にあった人数や住居を数えることは不可能なほど。混乱・不安・恐怖が、人々を容赦なく襲った。

 

確かに、ヒーロー社会は勝利した。

だが、その代償はあまりにも大きかった。

 

個性を失い、家族を失った者たち。

そして――ヒーローという存在そのものを見失った世界。

 

ニュースは「ヒーロー不在の時代」という見出しを並べ、SNSには《もうヒーローはいらない》という声と《ヒーローを返せ》という嘆きが交錯した。

街頭では「もう守ってくれる人はいない」と泣き叫ぶ者がいれば、「俺たちが守る」と拳を掲げる者もいた。

混乱と恐怖、そして空白が国中を覆っていた。

 

――ただ、悪いことばかりではなかった。

脳無化していたA組の生徒や、ヒーローたちが元に戻ったのだ。

これに関しては、確かに喜ばしいことだった。

 

……グラントリノは進行しすぎており、手遅れではあったが。

 

それでも、助かった命が増えたことは喜ぶべきことだった。

 

型形と常闇は、ともに重傷を抱えながらも復興支援に身を投じていた。

 

型形はマスコーダーとして相棒のカタチを失い、常闇のダークシャドウも消滅した。

呼びかけても返事は返ってこない。

 

生まれた時から共にいた半身の消滅は、心の芯をえぐるような喪失感を与えた。

型形は食事も喉を通らず、言葉すら失いかけていた。

 

「……俺だって、ダークシャドウが消えて、ずっと心に穴が空いたままだ」

そう寄り添ったのは常闇だった。

 

同じ痛みを背負った者同士、自然と語り合う時間が増えていく。

「でもな、俺たちは生きてる。だったら、この空白も共に背負えるはずだ」

「……うん、そうなの…かな…」

 

涙を拭った型形の顔は、前を向こうと必死だった。

そうして二人は並び立ち、傷ついた人々に寄り添うことを決めた。

 

ちなみに、常闇の顔は完全に人間のものとなり、意外にもイケメンだった。

 

――個性を失った世界で、ヒーローの在り方はどうなるのか。

その答えは誰にも分からない。

もしかしたらヒーローという職業そのものが消え、時間をかけて別の何かが形作られるのかもしれない。

 

型形は、もう一人の相棒・エルクレスと共に、自分の歩む道を再び考え始めていた。

 

 

ある時、事件が起きた。

市民による暴動だった。

個性を失い混乱しているのは自分たちだけではない。市民もまた同じ苦しみを抱えていたのだ。

 

対処のためヒーローたちが出動するが、事態の収束は容易ではなかった。

そこで真価を発揮したのが、警察と――そして1年A組の面々だった。

 

1年A組は、エルクレスのモジュールで個性を再現されていた。

発目と協力して開発した『マス・デバイス』により、彼らは各自の個性を“再獲得”したような状態になっていたのだ。

たとえ出力が以前より弱まっていようとも、最も慣れ親しんだ力を前線で使える――それは何より心強い。

 

もちろん使用は強制ではない。

だが、誰ひとり拒否する者はいなかった。

むしろ率先して救助に走り、犯罪を抑止し、市民を守り抜いた。

開発部では、プロヒーローたちの個性までも再現できないかと、エルクレスとの協議が続いている。

 

一方、捕縛されたトゥワイスやスピナーら灰濁の生き残りは勾留中にあった。

だが「厚生」の名目で地上の復興に従事させられている。

 

月へ送られたヴィランたちについては、もはや連絡の取りようがない。

ただ残存する酸素量と食糧制限を考えれば――一年は持たないだろう。

 

――

 

そして、最終決戦から1年半が過ぎた。

 

元雄英1年A組は、今年度から3年生となった。

あの地獄を生き抜いた彼らは、学生でありながらそれぞれの道を歩んでいる。

 

爆豪勝己は相変わらず荒っぽい。

だがヴィラン退治や災害現場には真っ先に飛び込み、市民を救う姿に「爆豪なら大丈夫」という信頼が芽生えていた。

 

緑谷出久は「象徴」としてではなく、一人の救助者として人々に寄り添い続けている。

彼の歩みは、かつてオールマイトが示した「救けの系譜」を確かに継いでいた。

 

轟焦凍は爆轟と共に災害現場に飛び込んでいく。氷と炎を失ってなお、冷静な判断力で人と人を繋ぎ、火種を消した――彼の役割は今も変わらない。

 

青山優雅は少し変わった活動をしていた。

光を失った世界に「演出」をもたらす存在として、子どもたちに勇気を与える舞台を作り続けていたのだ。

彼の「輝き」はもはやビームではない。観客の笑顔こそが、今の彼の光だった。

 

彼らは皆、戦うだけがヒーローではないと理解し、それぞれの形を探し続けている。

 

一方、元1年B組の多くはヒーローの道を選ばなかった。

公務員、公安、教師――戦いを支える後方へと散り、偉大な先人たちの空白を埋めていった。

前線で個性を振るうことはなくとも、その在り方は確かに「支えるヒーロー」だった。

机の上で、教壇の前で、市井の現場で。

彼らの働きは人々の生活を支え、未来を導く希望の光となっていた。

 

そしてマスコーダー――型形作身。

彼女は略式とはいえ雄英を卒業し、まだ効力の残るヒーロー免許を活かして新たな活動を始めていた。

 

エルクレスと共に全国を飛び回り、災害救助と復興支援に尽力している。

壊すのは容易いが、元に戻すには時間がかかる。

それでも多くの人々は「どうせなら前より良くしよう」と口にする。

大変ではある。だが、その輪に入り、何をどうすればより良くなるかを考えるのは、確かに楽しかった。

 

「これが、私の“ヒーローのカタチ”なんだ」

 

ふと空を見上げる。

そこにはもう、あの戦友《カタチ》の姿はない。

けれど――心の中では、今も隣にいる気がする。

 

「ねぇ、カタチ……見てる?今、すっごい大変で、思ったより地味だけど……元気でやってるよ」

 

笑いながら、彼女はまた一歩、未来へと進んでいった。

 

 

そういえば最近、不思議な話を耳にした。

 

重体で、もはや動けないはずだった――トガヒミコ。

彼女は病院から忽然と姿を消したという。

 

その日を境に、SNS上で奇妙な体験談が囁かれ始めた。

 

「寝ていたら、泣き声と共に血を吸われた」

「鏡を覗くと、彼女が背後に立っていた」

「左手が黒く脈打っていて、恐ろしくなった」

「体が糸に絡まったみたいで、動けなくなった」

 

声を聞いた者は血を吸われる。

だが、その相手を見れば――そこにいたのは『自分自身』だったという。

 

死亡例はない。だが、被害届は実際に出され、入院者も出ているらしい。

そして、被害者たちは意識を失う直前、必ず同じ言葉を耳にしていた。

 

――「私は世界で一番かあいい女の子」

 

その怪談は瞬く間に広がり、日本の闇に根付いていった。

人々はそれを半ば恐怖し、半ば信じた。

もはや彼女は“少女”ではなく――伝承として生き続けている。

 

特徴的すぎるその存在は、こう名付けられた。

 

『怪異トガヒミコ』

 

彼女が入院していた病院の医療関係者は言う。

「脳を損傷し、全身に重傷を負っていた。医療的補助なしでは一日たりとも生きられるはずがない」

 

だが、死体はどこにも見つかっていない。

 

これはつまり、本物の――幽霊や妖怪の類ではないのか?

この件はSNSやニュースでも取り上げられ、「まだ個性が残っているのでは」と噂されてもいる。

 

私自身も何らかの個性の影響かと考えてはいるが、優先順位は低い。

今はまだ、救助と復興に全力を注ぐべき時期だからだ。

 

出来る限り巡回は続ける。

……ただ、これ以上の被害が増えないことを、祈るばかりだ。

 

 

 

月面基地。

 

「崩月(ほおずき)の女王、死柄木葬華様。私どもに指示をお与えください」

頭を下げたのは、黒霧だった。

 

「地球までワープできるんだよね?」

 

「もちろんでございます。私は地球からここまでワープした実績がございます。ただし……体感では一瞬でも、実際は一年前後が経過いたします。その点はご承知おきくださいませ」

 

「結構よ。限界ってのは何にでもあるものよ。地球に行けるだけで十分。よーし、じゃあ個性を失った雑魚どもをイジメに行きましょ」

 

「ぎゃははは! イジメはかっこ悪いぞ?」

左腕のレフターは言葉とは裏腹に上機嫌だった。

 

「遊んであげるの。復興で鬱々としている連中に新しい風を吹き込んで晴らしてあげるんだから、感謝されてもいいくらいよ」

 

「向こうからしたら愚風だねー」

 

葬華の横には、フォーマルな装いのMr.コンプレスがいた。

眼前にいるのは――個性が残るために月へ送られた凶悪なヴィランたちと、強化脳無の群れ。皆、セルドライバーを手に意気揚々としている。

 

地上のセルドライバーは遠隔ドローンで機能停止が確認済みだ。

現状の戦力なら“勝てはしない”が、大きな嫌がらせと被害を出すことはできる――と、彼らは思っている。

 

ヴィラン側の戦力は総勢三百名余り。全員が個性を保持し、さらにセルドライバーを装備している。Vet阿賀月やMr.コンプレスも味方だ。

 

だが、老若AFOはいない

 

“地球崩界”を試みた際の反動で、死柄木葬華はレスターと共に――形を残さぬほどに崩れ去ったのだ。

しかしその後、彼はレフターとともに生き返った。

 

老若AFOの二人が命を使った……らしい。

気がついた時には右腕が無くなっていた。

 

どうやって助けたのか。故人に尋ねても意味がないので、誰も追及していない。

 

それでも疑問は残る。

彼は、あんな人ではなかったはずだ。自分を犠牲にして誰かを助けるような人物では――いや、絶対にしないだろうと思っていた。

「私が死んだら代わりを見つける」と考えていたはずだった。

ましてや個性「AFO」を私に譲るなんて。

 

まあ、譲渡されたのはAFOだけで、今まで奪った個性は渡ってこなかったのだが……変なところで真面目だな、と苦笑してしまう。ちなみに、『崩壊』という個性そのものは消失していた。生きてAFOを継いだのだから――その程度のことは割り切れる。

 

それが、ここ一年ほどの出来事だ。

 

黒霧は“崩界”発動前に地球から脱出しており、個性を失わずに済んだらしい。半年が過ぎ、黒霧は「これで戻れる」と判断して日本蹂躙の準備を進めていた。

 

その過程で、月面基地の設備を用いて日本の様子を一方的に観察できることが判明した。地球の個性消失を知ったとき、死柄木たちは腹を抱えて笑い転げた。

 

「ざまあみろ」と他のヴィランたちと酒盛りをしたことが、今では懐かしい思い出だ。

 

相手は個性を失い、マスデバイスで劣化した個性表現と科学技術しかない。しかも、プロヒーローの多くは戦死し、退職者も相当数にのぼる。まともに戦える者は三百人もいないだろうと、彼らは踏んでいる。

 

なぜここまで差が生じたのか。

死柄木葬華にその理由は分からなかったが――事実、それは葉隠と現見の成果によるものだった。当時は素晴らしい実績だった。もしこの成果がなければ、今頃ヒーローたちはさらに大きな打撃を受けて壊滅していた可能性が高い。

 

しかし皮肉なことに、今ではその成果が新たな脅威になってしまった。もっと言えば、コンプレスを月面に送らなければ、月面のヴィランは全滅していただろう。コンプレスの圧縮玉には食料、水、作物、土、そして空気さえも入っていた。月面での生活において、彼の存在がなければ生存は不可能だったはずだ。

 

 

………………

 

 

最後の準備が整い、目の前に巨大なワープゲートが広がった。

黒霧がスタートの合図を送る。ゆっくりと両腕を広げ、低く、しかし確信に満ちた声で言った。

 

「では皆さん、何も知らない平和主義者どもを淘汰しましょう。思う存分暴れてください。大丈夫、崩月の女王が我々を導いてくださいます」

 

歓声が月面の静寂を切り裂いた。

ワープゲートが歪み、三百を超える影が地球へと流れ落ちる。

――絶望は再び、地平線の向こうから忍び寄った。

 

 

――数年後。

 

 

瓦礫の山だった街は、徐々に人の息づかいを取り戻していた。

仮設の屋根、修復された道路、共同の菜園。かつて銃声や爆轟が響いていた残り香は消え、今ではドリルや重機の音に混じって、笑い声や子どもたちの走る足音が交じっていた。街角の掲示板には「復興ボランティア募集」「家屋再建スケジュール」といった紙が貼られ、折れた標識は新しい色で塗り直されていく。

 

ヒーローという職業は、形を変えていた。

戦闘を担っていた者たちは、瓦礫の下から命を掘り起こし、水を配り、避難所で寄り添う存在となった。型形作身はカタチの喪失を胸に抱えながらも、エルクレスと共に現場で手を動かし続けている。彼女のまわりには仲間や、個性をデバイスで代替した若い世代が集まり、盾になり、梯子を作り、担架を支えた。個性がなくとも、人の体温と工夫で世界は繋がっていく。

 

もちろん悪化した面もある。

無個性化は社会の抑制を弱め、暴動や略奪が増えた地域もあった。だが、それでも助けられた命があり、日常は少しずつ取り戻されていた。

 

元雄英高校A組の生徒たちは《今世紀最大の黄金世代》と呼ばれるようになっていた。

彼らは誰かの傷を癒し、復興を支援し、ヴィラン討伐や心のケア、無個性社会に対応する新制度の再構築など、さまざまな分野で活躍していた。

 

発目とエルクレスの支援を受け、生き残ったプロヒーローの何名かはモジュールを通じてかつての個性に似た能力を得ていた。旧来の戦い方とは違えど、彼らなりの「前線」を守り続けている。

引退したヒーローもいたが、研究や復興を選び、個性の代替機構を正しく、倫理的に使えるよう努力する日々を送っていた。

 

そして誰しもが実感する日が来る。

 

――平穏とは、尊く脆いものだと。

 

ある静かな午後、日本が夕闇に包まれようとしたとき、異様な光が夜空に差した。

それは流星群のようであり、同時に人工的な航跡の列のようでもあった。通信網には規模不明のワーニングが流れる。月面基地からの小隊接近――“月面のヴィラン”が戻ってきたのだ。

 

セルドライバーを携え、なお個性を保持する者、強化脳無、そして彼らを束ねる死柄木葬華とMr.コンプレス、黒霧。その後方にはVet阿賀月の姿もあった。

 

到来は空の一点が剥がれるように示された。最初に落ちてきたのは圧縮玉の群れ。コンプレスの掌から弾かれたそれらは轟音もなく地表へ着弾し、瞬時に一帯を混乱へ変えた。食糧や資材に見せかけた“圧縮”は解放と同時に無秩序を撒き散らし、パニックを誘発する装置となった。

 

続いて強化脳無の群れが都市の縁に降り立つ。

かつての脳無とは異なる鋭い知能と残虐性を備え、瓦礫の陰から住民を襲う。彼らは無個性の者を優先的に狙うよう設定されており、市民にとっては逃げ場のない悪夢だった。

 

死柄木葬華は舞踏会の主賓のように、ただ冷ややかに観察を楽しんでいた。

 

「あれ…思ったより復興進んでるね。おーい、黒霧ー!時間差が一年どころじゃなさそうだよ?」

「申し訳ありません…そのようです。すぐお調べします」

「いやいや、良いよ。今は蹂躙と略奪の時間。無駄は省こうか」

 

月光に照らされた瞳は、東京の雑踏を冷ややかに俯瞰していた。

 

だが、日本側も黙ってはいない。

 

マスコーダー率いる復興班、エルクレスのAIを相棒とするチーム。

そして緑谷・爆豪・轟・青山を筆頭に、《今世紀最大の黄金世代》。さらにはルミリオン、サンイーター、ネジレチャン、隻腕のベストジーニスト、Mt.レディ、シンリンカムイらが最前線に立つ。

 

市民ボランティアや町工場の発明家も立ち上がった。個性はなくとも、知恵と機械と連携は強力な武器となる。仮設バリケード、圧縮玉の無効化、負傷者の即席治療、子どもの避難誘導――人の手で編まれた「盾」が街を守った。

 

戦いは数日にわたり、やがて局地戦へと落ち着いた。日本側の抵抗は堅実で、ヴィランの補給路を削ぎ、脳無の群れを押し返した。

しかし勝利は完全ではない。街は焦土と化した区画を残し、多くの命が失われた。

 

退却の際、死柄木葬華は言葉を残す。

 

「良い事教えてあげる。私達は一瞬で来た。けどね、ワープ中に7年経ってたみたい。次は何年後かな?アンタらがおじいちゃんになっても、私達は若いまま。…それまで“遊んで”あげる。Dr.柄木もスピナーもトゥワイスも手に入ったからさ。次はもっと楽しくしてあげるよ」

 

灰濁メンバーは黒霧のワープで退き、月面へ戻った。

 

 

 

残されたのは疲弊しながらも諦めない人々。

再び復興のために立ち上がる人々。

 

 

そして――死柄木葬華への対策を立てるため、新たな組織が動き出していた。

 

「……本日をもって、正式に公安長官を拝命することとなりました」

記者会見の壇上で、鷹見が深く頭を下げる。

かつてはただ公安に使われる一人のヒーローに過ぎなかった男が、今はヒーロー社会の残された舵を握っている。

 

「我々の役目は、これから起こりうる未来を嘆くことではない。脅威に対する確かな守りと、助かるための逃げ道を用意して、新しい秩序を、みんなと…人々と共に築くことだ」

 

その背後には、葉隠と現見が静かに立っていた。

 

一方で、八木俊典――かつてのオールマイトは、再び教壇に立っていた。

「今日の課題は“自分の強みを知ること”だ!」

車椅子に乗った痩せ細った身体。だが、その声はかつてと変わらぬ熱を宿している。

教師として、生徒一人ひとりの未来を照らすことに全力を尽くしていた。

窓際に立つ背中は、もはや“象徴”ではない。

それでもなお、確かな“指標”であり続けていた。

 

戦いの果てに散ったヒーローは数知れない。

葬儀の列は絶えることなく続き、街の鐘は幾度も鳴らされた。

 

地上は焼け野原のまま。完全な復興にはまだ遠い。だが人々は諦めなかった。

 

目に見える希望があったからだ。

 

それは――かつて空を駆けた雄大な巨大戦艦。

「バスティオン」と「エグゾダス」。

壊滅寸前と思われた機能が、静かに、しかし確かに再起動を始めていた。

 

「まさか……動き出すなんて……」

現場に居合わせたヒーローが息を呑む。

 

説明を求められたエルクレスは淡々と答えた。

『ナノマシンによる自己修復が働いていたのです。時間はかかりますが、やがて全機能が戻るでしょう。カタチさんが復旧用にエネルギーを残していたんですよ』

 

作身は「ハハッ」と笑った。

 

「もー!カタチってば……いつも大事なこと、内緒にしてるんだから……」

 

懐かしむ目から、一筋の涙が零れ落ちる。

 

いずれ来る戦いに備え、都心の住民たちは早くも決断していた。

崩れた地上より、安定と安全を優先し、地下での生活を選んだのだ。

 

人工太陽で明るい通路には市場が並び、子どもたちの笑い声が響く。

人工の月と雲が、静かな夜を約束する。

 

地下に生活を移し、地上を戦地に――それが死柄木達への対策だった。

 

かつて隔離されていたヴィランたちも、今は徹底した管理下で瓦礫の撤去や再建支援に従事していた。

皮肉だが、かつての敵が未来の街を形作る一助となっていた。

 

それほどの対策をしても――人々の不安が消えることはなかった。

 

あの死柄木と新たな軍勢が、再び襲来すると告げられているのだから。

 

「ヒーローという職業は、もう存在しないのかもしれない」

鷹見がぽつりと呟く。

 

「でも、“人を救いたい”と願う者は、いつの時代も消えない」

八木もまた、深く頷いた。

 

「ならば、それはきっと別の名を与えられるだろう」

 

一つの戦いは終わった。

だが、新たな時代はすでに始まっている。

 

月は遠く、冷たく夜空に輝く。

その影は完全には消えていない。

いまは静かな夜も、いつかまた歪むかもしれない。

 

けれど今は、人々が互いに手を取り合い、壊れたものを少しずつ直している。

 

大きな戦いの後、瓦礫の上に置かれた小さな花を見つけて、子どもが笑う。その笑顔を守るために、誰かが明日も手を動かすだろう。

 

だから、世界は終わらない。

 

 

次に何が来るかは分からない。

 

けれど人々はきっと、その時も立ち向かう。

 

「私が行くから大丈夫!!!」

マスコーダーの声が響く。

 

それに続くように仲間たちの声が重なる。

「「「違う!私達だよ!!」」」

 

背中を押す声に、自然と笑みがこぼれる。

 

「ごめんごめん!じゃあ……もう一回!」

 

「「「なんじゃそりゃー!?あはははは!」」」

 

個性を失った世界。

絶望に打ちのめされた。

 

けれど――『人々』は立ち上がり続ける。

 

すごいよね。

こんなのもう、“誰か”がヒーローとかじゃない。

 

皆がヒーローなんだ。

 

――これが、新しいヒーローのカタチ。

 

 

「私達がいるから大丈夫!」

 

それなら、どんな脅威が来たって――

世界は、日本は、きっと大丈夫だ。

 

……fin

 




ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
今回で「最終話」です。

ですが、後日談や怪異トガヒミコに立ち向かう話やオリジナルヴィランの過去(例:スイちゃん)について書く日が来るかもしれません。

いつになるか分かりませんが…「続きが見たい」と感想をいただけたら、その時は続きを書く可能性も十分あります。

コメントや評価、ブックマーク、そして感想――どれも本当に大きな励みになりました。

それでは、一旦ここで区切りとさせていただきます。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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