なんとかヴィランを倒した私は、芦戸ちゃんと一緒に森を抜けた。
その先で目にしたのは、想像すらしなかった光景だった。
黒い巨体、露出した脳。歪んだ不気味な人形のような存在が、無抵抗の相澤先生の上に、拳を振り上げていた。
「……なに、あれ」
瞬間、空気が悲鳴を上げた。
「先生ッ――!!」
体が、勝手に走り出していた。
(私が……助ける。先生は、私たちを守ったんだから――!)
その背後から、耳障りなほど陽気な声が次々と追いかけてくる。
ぞろぞろ、わらわら。無数の“カタチ”たちが、地面を這い、壁を登り、脳無に向かって殺到する。
「いけ、カタチ! あれ全部、ぜんぶ使っていいから!」
「うん、がんばる!」
カタチたちが脳無の顔に飛びつき、目を塞ぎ、口を覆い、腕に絡みつく。
まるで毛玉の大群。視界は完全に封じた。
その隙に、私は先生の元へ飛び込んだ。
「先生、今、引っ張るから……!」
右腕を取って、思い切り引く。
だけど――
「俺は……いい。逃げろ」
「そんなの、ダメっ……!」
脳無の足が、先生の脚を踏みつけていた。いや、ねじ込むように抑え込んでいる。
ただの足。それなのに、まるでビルに踏まれているような絶望的な重さだ。
(動かない……力が……足りない……)
上では、カタチたちがまだ必死に群がっていた。
だが――
「……ウ……ルサ……イ」
ゴゥン、と。
脳無が首を振っただけで、十数体のカタチが吹き飛んだ。
次に腕を広げて、バン! と一掃する。
虫ケラのように、カタチたちが壁に叩きつけられ、床に崩れ落ちる。
「……っ、ああ……!」
私の手が、止まる。
(増やせる……でも、それだけじゃ……何の意味もない)
「私、何やってんの……」
小さく、カタチが囁く。
「……ごめん、役に立てなかった……」
そのとき。
視界の端に、ひとつの影が差した。
「やあ、こんにちは。ちょっとどいてもらっていい?」
「――え?」
その声は乾いていた。
目の前に立つのは、灰色の髪の人物。この集団のおそらくリーダー。
肌は死人のように色がなく、顔と腕と足には……異様な“手”がついている。
「君、ちょっと邪魔だよ」
――死柄木
5本の指が、私の右腕にそっと触れる。
「やめろ!!スマァァアアアッシュ」
緑谷くんがきてくれたけど、間に合わない
「……うわぁあああああ!!!」
崩れた。
右腕の、触れられた部分から、まるで砂のように、崩れ、消えていく。
恐怖に心が凍る。パニックで、頭が真っ白になる。
「.そんな!」
「うそ……うそ、やだ……なにこれ……!」
「壊すってのは、そういうこと」
目が、笑っていない。
その声に温度はなく、まるで死んだ湖面のように冷たい。
「ヒーローらしく壊れてね」
「「作身ッ(先輩)!!」
カタチと緑谷くんが叫ぶ――でも、遅い。
……完全に。
――ヒーローコスチュームが崩壊した。
「こんの変態!!」
「ごめんなさい!!」
緑谷君はすごい勢いで背を向けてくる、
「うーん、衣装しか壊れないと……こう、つまんないね」
死柄木は頭を掻いている。視線は私を見ていない。
私は膝を抱える。羞恥と絶望で、動けない。
「さて……次は、なにを壊そうかな―」
そのとき、轟音が世界を引き裂いた。
爆風。巻き上がる風。空気が振動する。
次の瞬間、死柄木の身体が、音もなく吹き飛ばされた。
「――――ッ!!?」
ドガアアアアァン!!!
地響きの中、土煙の向こうから、ひとつの影が歩いてくる。
背中が広く、腕が太く、マントが風にはためいている。
「……オール、マイト……」
「オールマイト!!」
その名を呟いたのは、私か緑谷くんか、それともカタチか。
震える声。けれど、その顔には、確かに笑顔があった。
「来た……ホンモノ、来たよ……!」
爆風の中心から、彼は現れた。
そして――
「頑張ったね。もう大丈夫だ」
そう言って、マントを外し、私に掛けてくれた。
「安心したまえ。なぜかって? ―私が来た!!」