ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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原作改変あります。苦手な方はご注意とご容赦を…。


第6話:「象徴の一撃(シンボル・スマッシュ) 」

爆風が吹き抜けた後、空気が変わった。

 

ただそこに“いる”だけで、まるでこの場所の“重力”が変わったような錯覚。

 

「し、しんじらんない……ほんとに、学校にいたんだ……」

 

作身が呟く。

 

彼女の頬をつたうのは、汗か涙かわからない。

けれど、その目には確かな光が戻っていた。

 

象徴が来た。

 

オールマイトは、構えることすらしない。

 

胸を張り、悠然と。まるで、彼がそこに立つだけで、全てが救われると信じて疑わないように。

 

「キミは、厄介なヴィランだ」

 

「けどな――!」

 

ドン、と大地を蹴った瞬間、オールマイトの姿が消えた。

一瞬後。

脳無の顔面に、拳がめり込んでいた。

 

 

彼の登場と共に、空気が変わる。ヴィランの息が止まり、味方の目が潤む。

 

 

「行くぞ!!」

 

オールマイトが踏み込む。

 

爆風とともに放たれる拳。それは、山をも砕く正義の一撃。

 

脳無の顔面にぶつかる――轟音。風が、空間を抉るように裂けた。

 

脳無は吹き飛ぶ。しかし、その巨体は即座に体勢を立て直し、地面を蹴る。

 

(再生……そして衝撃吸収、か)

 

拳を交えながら、オールマイトは冷静に分析する。

 

だが、それでも――

 

「パワーでは俺が上だ!!」

 

怒涛のラッシュ。重すぎる連打に、脳無の身体が後退する。

 

それでも壊れない。それでも倒れない。

 

「ちょっとはやるじゃないか……!」

 

睨み合う二人。その時、視線の端――ぬるりと、灰色の影が揺れた。

 

「さて……そろそろ、こっちも混ぜてもらおうかな」

 

5指がオールマイトに向かってくる。先程の型形女史とのやり取りを見ると、5指で触れられたら文字通り崩れるのだろう。

それに反撃しようとすると脳無との息があったコンビネーションでなかなか有効打を与えられない。

 

死柄木が、一歩、戦場へと足を踏み入れると戦況が変わっていた。

 

しかし、違和感がある。これは……いったい?

 

 

 

 

「……脳無。少し左に寄って」

 

その指示に、脳無が動く。

 

刹那、死柄木の指先が、すれ違いざまに地面へ触れた。

 

ズ……と空間が、崩れるように崩壊していく。

 

砂のように、建物の柱ごと、地面が崩れ落ちる。

 

その空間を跳躍で抜け、オールマイトが着地する。

 

「ふむ。その黒いのは脳無って言うのか、それにしても、ずいぶん派手な事してくれたね。初犯でこれは、覚悟しとくんだな」

 

「当然でしょ。これは、演出なんだよ」

 

死柄木が淡々と呟く。

 

「……演出、だと?」

 

「気になるよね。顔と手先ばかり狙ってる理由、聞きたい?」

 

「……ああ。教えてくれよ」

 

オールマイトがわずかに身構える。

 

死柄木は、笑わない。だが、唇だけで小さく口角を上げた。

 

「だってさ――全裸のおっさん、見たくないよね?」

 

その言葉に、脳無が前方へ踏み込む。オールマイトは反応して拳を振るう――が、それは囮。

 

「それに、服だけが残るってのは……なかなか、恐怖を煽れる演出だと思わない?」

 

死柄木が、空間を掴むように、五指を広げる。

 

その“動作”と共に――

 

ゴキ、グシャ、と空間が悲鳴を上げたかのように、斜めに切り裂けて崩れる。

 

まるで目の前の“世界”ごと壊れたかのような異常な光景。

 

誰かがつい口に出す

 

「ヤバい……!かもしれない」

 

 

すぐ外で、避けたオールマイトの表情が、一瞬だけ鋭くなる。

 

「その個性……やはり、ただ触れれば崩すというだけではないな」

 

「さあ?まぁ、結構使える個性なのは確かだよ」

 

死柄木は、あくまで冷静だ。

 

オールマイトと脳無の間を、意図的に動きながら、連携と崩壊で翻弄していく。

 

 

 

 

 

 

――脳無の怪力。

――死柄木の崩壊。

ふたりがかりの殺意が、今、オールマイトに迫っていた。

 

だが、次の瞬間――

 

「フンッ!!」

 

オールマイトの拳が、脳無の腹を撃ち抜く。

そのまま地面ごと吹き飛ばす。――再生があるとわかっていても、殺さずに無力化する、プロの仕事。

 

「……やっぱり厄介だな。“象徴”ってのはさ」

 

死柄木が唾を吐くように言う。

 

オールマイトは視線を逸らさず、ただ言った。

 

「……お前の“怖さ”も、よくわかった」

 

風が吹く。

この戦いの終わりは、まだ見えない。

 

「こいつはヒーローの戦場じゃない。“子どもたち”のフィールドだ! ――だから!」

 

 

 

ドゴォォン!!

 

 

 

 

 

爆風と共に、脳無が数メートル吹き飛び、鉄骨をいくつもなぎ倒していく。

 

再生する筋肉がブチブチと音を立て、脳無の体がすぐに立ち上がる。

 

けれど――

 

 

 

「私は、立ち止まらないぞ!」

 

 

 

次の瞬間には背後に回っていた。

拳、拳、拳。すべてが重く、すべてが的確に、心臓と関節を狙って放たれる。

 

まるで、一つの“信念”が拳となって脳無に叩き込まれていた。

 

 

 

「ヒーローの有精卵達よ!私を見るんだ!逃げるな。立ち向かえ。恐怖の中でも前を向け――!」

 

「これが、ヒーローの背中だ!!」

 

 

 

最後の一撃が、まるで爆弾のように炸裂した。

 

 

 

「UNITED STATES――!!」

 

 

ドン!!!

 

 

「――OF SMAAAAASH!!!」

 

 

作身を含めた1年A組全員がオールマイトの戦いに魅入られていた。これが象徴、自分たちの目指す背中。遠すぎる、近づけるか分からない。でも憧れて、焦がれて、本気で目指したいと思った姿。

 

全員が息すら忘れたかのように、しかし、拳を強く握り、わずかでも見逃すものかと目を凝らしている。

 

風圧だけで建物がきしむ。

 

音すら一瞬消えた後、すべての振動が“ドォォン”と重低音で跳ね返ってくる。

 

脳無は、地面ごと砕かれ、数十メートル後方まで吹き飛ばされた。

 

 

「うおおーー」「すげー!!」「さすがオールマイト!!」「超えてやる!!」「あれが、No.1の力かよ」

 

生徒たちが一斉に叫び、雄叫びが上がる。

 

「「「「ワアアァァァ!!」」」

 

それは“勝利”ではない。

 

――それは、絶対だった。

 

 

 

 

 

煙の中に、オールマイトは立っている。

 

拳を下ろし、ほんの少し、息をついて。

 

その背中を、緑谷・作身達は――言葉もなく、見つめていた。

 

 

 

「あれが……」

 

 

 

隣で、カタチがぽつりと言った。

 

 

 

「……“象徴”なんだね……」

 

 

 脳無が吹き飛ばされ、数十メートル先の建物にめり込んでいる。

 

爆煙の中に立つのは、なおも静かに呼吸を整える“象徴”――オールマイト。

 

その姿を、死柄木は静かに見つめていた。

 

「……ふぅん」

 

口元に手を当て、何かを計算するように目を細めた。

 

 

「脳無、再生限界まであとどれくらいだと思う?」

 

返答はない。ただ、煙の中でごうんごうんと唸る音だけが聞こえる。

 

オールマイトがわずかに前へ歩み出す。

 

風が、また吹いた。空気が張りつめる。

 

だが――死柄木は笑う。

 

 

 

「弱ってるのは嘘なのかな?……もう、やめようか」

 

その一言に、空気が変わる。

 

 

 

「戦力差、想定以上。象徴ってのは伊達じゃないってことだ」

 

「…黒霧」

 

呼びかけと同時、空間が渦を巻く。どこからともなく黒い靄が立ち上り、人影の形を成していく。

 

「承知しました、死柄木葬華(そうか)。速やかに、退きましょう」

 

「脳無と協力者たち全員連れて帰るよ」

 

黒霧の声に応じるように、建物から出てきた脳無が靄のなかに入る。複数の黒い手が伸び、多くのヴィランが回収される。

 

「おやすみ、オールマイト。次は……もっと楽しく遊べるといいね」

 

死柄木葬華は最後に、立ち尽くす作身と震える1年生たちへと視線を向ける。その目は、まるでヒトをヒトとして見ていない、この目は、まだ何かを数え、冷えた湖面のようだった。

 

「止まれっ!」

――誰かの叫び。

声は届くが、手が届かない。

 

オールマイトが一歩踏み込む。

 

「逃がすと思うか――!」

 

「うん、もう“今日は”満足したから帰るね」

 

死柄木の指が、転送口のふちに触れる。

 

 

 

「象徴を倒すには、まだ材料が足りない。次は……もっと、いい舞台を用意するね」

 

 

 

その言葉を最後に、“彼女”達は姿を消した。

 

黒い靄の中へ――

 

黒霧のゲートが完全に口を開いたと同時に、彼女たちの姿は黒煙に溶け、かき消えるように視界から消えた。

 

……ただ、空気に残されたのは焦げた空間の匂いと、深く染み付いた敗北感だった。

 

空気が、ようやく落ち着く。

 

残されたのは、破壊された建物と、震えるヒーローたち。

 

そして――まだ立っている、ただ一人の象徴。

 

「ふむ……“崩壊”か」

 

オールマイトは拳を握りしめた。

 

「……次は、確実に仕留める」

 

風が吹く。

USJは、戦場の後の静けさに包まれていた――

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

オールマイトが歩いて戻ってくる。

 

相澤先生を抱えて、作身の前で静かに立ち止まる。

 

 

 

「キミが守ってくれたんだな。ありがとう」

 

 

その声に、作身は言葉を失った。

 

身体が震えていた。恐怖じゃない。

心が――動いたから。

 

 

 

「……っ。わ、私……全然、守れませんでした……カタチだって、吹き飛ばされて……私、ただの……」

 

その言葉を、オールマイトは手で制した。

 

 

「――“戦った”んだろう?」

 

 

 

その目は、笑っていた。

 

けれど、ただ優しいだけじゃない。

そこには“誇り”と“信頼”が、込められていた。

 

「なら、君はもう、立派なヒーローだよ」

その言葉に――型形作身の目から、大粒の涙が零れた。

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