ヒーローのカタチ   作:サモア リナン

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第7話:「悪意のボランティア活動」

黒い靄がぐるぐると渦を巻き、空間がぐにゃりとねじれる。

 

――瞬間転送、完了。

 

その先に広がっていたのは、打って変わっての静寂だった。

 

場所は古びたビルの地下。鉄骨とコンクリートだけで構成された、どこまでも無機質な空間だ。拠点なんて呼べる代物じゃない。ただの避難用シェルター、そう形容するのが一番しっくりくる。

 

にもかかわらず、床には塵一つ落ちていない。不気味なくらい清潔だった。

 

「……あー、疲れた」

 

死柄木葬華は、靴をぽいっと脱ぎ捨て、適当なソファにばさっと倒れ込む。その瞬間、周囲には戦闘で消耗した脳無や“駒”たちが、次々と姿を現した。

 

「はい解散ー。帰れるやつは帰って〜。残ってていいけど、騒いだら消すからね」

 

その気だるげな一言に、ヴィラン連中は口々に不満をこぼし始める。

 

「なんだよ、オールマイトが死ぬって話だったのに」「つまんねー」「ちっ」

 

ブツブツ言いながらも、順に撤収していく。

 

そして、葬華は黒霧に軽く目配せ。

 

《まとめて、よろしく》

 

「本当に、よろしいのですか?」

 

黒霧の問いに、葬華は肩をすくめた。

 

「うん。適当に、ドクターのとこに送って。あとはよろしく」

 

そして、彼が包み込む。連れ帰ってきた全ての“駒”たちを――

 

「「「「え???」」」」

 

あっという間に、黒霧の影に飲み込まれた。

 

───

 

「……あー、ほんと、うるさかったな、あいつら」

 

独り言のように呟きながら、喉元を指先で掻く仕草。そしてすぐに立ち上がり、壁の一角にある鉄扉を押し開ける。

 

その奥には、狭い部屋。そして中央にぽつんと置かれた、年季の入ったモニター。

 

『……ふむ。想定より早い帰還じゃのう、葬華』

 

そこから響くのは、ドクターのくぐもった声。驚きも焦りも感じさせない、ただただ冷静で、機械的な観察者のような口調だった。

 

「予想通りだったよ。オールマイトは、まさしく“象徴”。脳無の再生限界までは持ちこたえたけど……それ以上は意味なかった。本当に弱体化してんの?」

 

『ほう……それはまた、興味深い。現時点で“象徴”に肉薄できる存在など他におらぬ。貴重なデータが取れたのは実に良い成果じゃ。疑うのも無理はないが、あれでも確実に弱体化しとるよ。……して、さっき送られてきた有象無象は、なんじゃ?』

 

「あれねぇ、まぁ……お土産?」

 

『没個性ばっかりじゃが……』

 

「……大事なのは、気持ちだから」

 

『こっちみんかい』

 

葬華はポリ、と前髪のあたりを掻きながら、ソファの背にもたれ直す。

 

『……それで、組織の名前はどうするつもりじゃ?』

 

「あー、完全に忘れてたわ」

 

またもポリ、と頭を掻く音が静寂に響く。責任感ゼロの反応、けれどそれを恥じる様子もない。

 

『今回、脳無とタッグを組み、“象徴”に喰らいついた。この一歩は大きい……ならば、その足跡にふさわしい名を掲げねばなるまい』

 

「うーん……そういうの考えるの、苦手なんだよなぁ」

 

『ふむ、では“黒の軍勢(くろのぐんぜい)”など、どうじゃ?』

 

「ダサい」

 

『即答じゃのう』

 

葬華は小さく肩をすくめた。が、その瞳の奥では何かが燃えている。怒りでも虚しさでもない。そこにあるのは――狂気じみた、固い執念だった。

 

「……黒霧は?何かない?」

 

背後で直立していた男に視線を向ける。

 

「そうですね、まず。私たちは悪事でお金を稼ぐことが目的ですか?」

 

「いや?」

 

「では次に、日本を、あるいは世界を変えようとしている。この点については?」

 

「正解」

 

「つまり、ボランティアで悪事を働き、罪のない方々の生活を脅かす非営利組織ということになりますね」

 

「……あれ?急に難しくなってきたぞ?」

 

「失礼しました。では、まとめましょう。そうした意図を込め、“敵(ヴィラン)連盟”というのは、いかがでしょうか?」

 

「おー、それ、なんかいいじゃん!」

 

『チープじゃのう』

 

「ダサいよりマシ」

 

『むぅ』

 

…………

 

「さて、と。じゃあこれからは――“皆様の悪意で成り立つ非営利組織・敵連盟”、本格的に仲間集め、始めましょうか」

 

『ほっほっほ、期待しておるよ。わしも……彼の方もな』

 

「任せてって。握り崩してあげる、この素晴らしい世界を、ね」

 

その目には、狂気に溺れることなく、けれど正気とも言えない熱が灯っていた。

 

前だけを見据える瞳――

 

それは、世界の崩壊を本気で願う者だけが持つ、誰も見たことのない光だった。

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