別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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今回は短いです。


大抗争③

 隆誠が放った【福音(ゴスペル)】の音が空気を震わせる。その魔力の質は、アルフィアが知るそれと寸分違わぬものだった。

 

 だからこそ、アルフィアは理解できなかった。

 

「……ふざけるな」

 

 低く、地を這うような声音。

 

 それを遮るように、隆誠が放った音の衝撃波がアルフィアへ襲い掛かろうとした瞬間――

 

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

 アルフィアが右手を正面に翳し、静かに魔法名を告げた。その直後、衝撃波はまるで存在そのものを否定されたかのように霧散した。

 

 空気が震えることもなく、ただ消えていく。

 

「なっ……」

 

 隆誠は思わず声を漏らした。回避不可能だと確信していた一撃を、アルフィアは無音のまま消し去ったのだ。

 

 ルーン魔術で模倣した【福音(ゴスペル)】が無効化された事実は、彼にとって予想外だった。攻撃魔法に関する情報は得ていたが、相手の魔法を無効化する魔法については聞いていない。

 

(あの猪め……! そんな魔法を使えるなんて聞いてないぞ!)

 

 隆誠は思わず、七年後のオッタルへ毒づく。彼から聞いたのは主に攻撃魔法の情報ばかりで、アルフィアを攻撃特化の魔導士と誤認していた。

 

 しかし現実は違う。目の前の相手は、攻撃だけでなく防御・無効化まで兼ね備えた完全な魔導士だった。

 

(ま、いっか)

 

 隆誠はすぐに思考を切り替える。情報の本人が目の前にいる以上、直接戦って確かめればいいと。

 

 アルフィアは、隆誠の【福音(ゴスペル)】を無効化した直後、さらに殺気をぶつけてきた。

 

「どんな手段で行使したのかは知らんが……中々良い度胸をしている」

 

 その声音は静かだが、底に潜む怒気は凄まじい。自分と同じ魔法を使われたことが、アルフィアの機嫌を最悪にしていた。

 

 これまで彼女は、他者の戦い方を模倣し、理解し、凌駕してきた。だが、自分の魔法を模倣された経験は一度もない。【ヘラ・ファミリア】にも、肩を並べた【ゼウス・ファミリア】にも、そんな者はいなかった。だからこそ、彼女は怒っているのだ。

 

「最初は軽い仕置きで問い質すつもりだったが……少々強めにやる必要がありそうだ」

 

(【福音(アレ)】を軽い仕置きって……)

 

 隆誠は呆れたように目を細める。

 

 先程の【福音(ゴスペル)】は、瞬間的に纏った闘気(オーラ)で防げた。

 

 だが、並の冒険者が直撃すれば確実に重傷どころか、死んでいてもおかしくない威力だった。それを『軽い仕置き』と言い切るアルフィアの感覚は、完全に常人のそれではない。

 

 オラリオの冒険者は、『実力こそが全て』という徹底した実力主義の中で生きている。この都市では、言葉や肩書きよりも、力の証明こそが何より重んじられる。だからこそ、この迷宮都市で『英雄』と呼ばれる者は、周囲を説得する必要すらない。実力で黙らせることこそが常識であり、最も手っ取り早く、最も確実な方法なのだ。

 

 それは、オラリオという都市が抱える残酷な現実であり、冒険者たちが生き残るために身につけた価値観でもあった。

 

 平穏を望む隆誠にとっては決して相容れない思想だが、この都市では力を示さなければ周囲を黙らせることが出来ないという現実を、嫌というほど理解していた。

 

 初めて会った【フレイヤ・ファミリア】の眷族達がそうだった。どれほど友好的に接しようとしても、彼らは一切耳を貸さず、ただ『力』だけを基準に隆誠を測ろうとした。その経験が、彼の胸に深く刻まれている。

 

 そして、目の前のアルフィアも例外ではない。

 

 彼女の纏う魔力、殺気、言葉の端々に滲む絶対的な自負。その全てが、力の世界で生きてきた者のそれだった。

 

(……なら、いっそ力の差を教えてやる方が早いか)

 

 隆誠は静かに決意する。

 

「ああ、そうかい。だったら俺も少しばかり本気でやらせてもらおうか」

 

「何?」

 

 予想外の返しだったのか、アルフィアのオッドアイがわずかに訝しげに揺れる。

 

 その瞬間――

 

「はぁぁぁぁぁ……!」

 

「ッ!?」

 

 隆誠が構えながら力んだ途端、彼の全身から凄まじい突風が吹き荒れた。空気が爆ぜ、瓦礫が跳ね上がり、周囲の建物の壁が軋む。

 

 アルフィアは思わず後方へ吹き飛ばされそうになりながらも、辛うじて踏みとどまる。

 

(何だ……!? 奴から感じられる、この力は……!?)

 

 彼女の表情に、初めて警戒が宿った。

 

「参考までに教えてやろう。本気になった俺は――『Lv.10』以上だ」

 

「………は?」

 

 アルフィアは完全に目が点になった。

 

 嘗て所属していた【ヘラ・ファミリア】団長――【女帝】が最高峰の『Lv.9』として君臨していた。その【頂天】を知る彼女にとって、『Lv.10』という言葉は冗談にもならない。

 

 だが、それはすぐに現実として突きつけられる。

 

 隆誠が右手を真っ直ぐ伸ばしたのを見て、アルフィアは魔法を放つつもりだと判断した。

 

 しかし次の瞬間。

 

「はぁっ!」

 

「ごっ!」

 

 腹部に衝撃が走った。それは殴られたという感覚すら曖昧になるほどの速度と威力だった。

 

 アルフィアの身体は地面から浮き上がり、背後の建物へと吹き飛ぶ。壁を突き破り、さらに奥の建物まで連続して破砕しながら、彼女はようやく停止した。

 

 瓦礫が崩れ落ち、粉塵が舞い上がる。その中心で、アルフィアはゆっくりと立ち上がった。

 

 嘗ての英雄アルフィアと、隆誠の戦いが――今、本格的に始まろうとしていた。




次回はリューセーVSアルフィアの戦闘になります。

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