別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

72 / 78
サブタイトルを見て疑問を抱くかもしれませんが、読めば分かります。


貴様に義姉呼ばわりされる筋合いは無い!

「アーディ、いきなり何だ? ビックリしたぞ」

 

 突然の抱擁(ハグ)に隆誠は完全に面食らった。だが、体勢を崩すことなく、されるがまま受け止めているあたり、彼の反応はどこか優しい。

 

 離れようと腕を動かしてみても無理だった。アーディが思い切り抱き着いているせいで、まるで鉄の輪に締め付けられているように身動きが取れない。

 

 見た目こそ可憐な少女だが、彼女は『Lv.3』の第二級冒険者。その腕力は一般男性の比ではなく、隆誠の胸元に回された細い腕は、見た目に反して驚くほど強い。

 

(……いや、これ本気で抱き着いてるな)

 

 隆誠がその気になれば、抜け出すのは造作もない。だが、相手はこの三ヵ月で最も深く交流した他派閥の少女。その必死さと温もりを前に、呆れながらも拒む気にはなれなかった。

 

「だって、リューセーさんがアレ(・・)を渡してくれなかったら私……今頃は……!」

 

 アーディの声は震え、言葉の端がかすれていた。胸元にしがみつく指先は、恐怖の余韻をまだ手放せずにいる。

 

(お、ちゃんと付けていたようだな)

 

 隆誠はその一言で全てを察した。昨日の作戦中、死にかけた瞬間――ペンダントに施した『守護の加護』が発動し、彼女は紙一重で生還したのだろう。

 

 どんな状況だったのかは知らない。だが、彼の言いつけ通りペンダントを身に付けていた事実だけで、胸の奥がじんわりと安堵で満たされる。

 

「そうか。それは何よりだ」

 

 泣きそうになっているアーディの背に手を伸ばし、落ち着かせようとした瞬間。

 

「リューセー、貴様。私の知己に何をしている?」

 

 冷たい声が空気を裂いた。振り向けば、暗い表情でジト目を向けているリューが立っていた。

 

「おお、リオン。無事に戻って来たか、お疲れさん」

 

 隆誠は全く動揺しない。寧ろ、彼女が大した傷もなく帰還したことに心底ほっとしていた。

 

「本拠地(ホーム)にいなかったので捜してみれば……この状況でアーディに不埒な行為とは! 正義の剣の翼に誓って、貴様を討つ!」

 

 リューの声は怒りよりも潔癖な拒絶が強く滲んでいる。アーディを守ろうとする気持ちと、男性への警戒心が混ざり合い、彼女特有の刺々しさが倍増していた。

 

「何だよ、もしかして嫉妬でもしてるのか?」

 

「ふざけるな! そんな事は断じてあり得ない!」

 

 隆誠が場を和ませようと軽口を叩くと、リューは即座に否定した。その反応は、まるで心の奥を突かれたかのように鋭い。

 

 【アストレア・ファミリア】の中で、彼女だけが未だに距離を置いている。料理で胃袋を掴まれても、それ以外は全く気を許していない。

 

 この世界のエルフは総じて面倒臭い性格をしており、異常なほどの潔癖症。リューはその典型であり、さらに男性への警戒心は群を抜いて強い。

 

 七年後には年下の少年――ベル・クラネルにべた惚れになり、今以上にポンコツ化する未来を知っている隆誠としては、時間が経てばあそこまで変わるのかと、刺々しい態度を受けても全く気にしていない。尤も、修行の時には容赦なく叩きのめしているが。

 

「何やってんだ、お前等」

 

 呆れたような声が響き、ゆっくり歩いてくるライラが姿を見せた。その後ろにはアリーゼと輝夜、さらに【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティまで揃っている。まるで帰還報告の場に乱入した野次馬一行のようだった。

 

「リューセーったら、こんな所にいたのね! 作戦中は本拠地(ホーム)から出ないようにって言ったじゃない!」

 

 アリーゼは腰に手を当て、怒りよりも呆れの色を濃くした声で詰め寄る。

 

「全くだ。此方が命懸けの作戦から帰還したと思えば、朝っぱらから女とイチャ付くとは……随分良いご身分ですねぇ」

 

 輝夜はネチネチとした嫌味を、これでもかとばかりに重ねてくる。その目は細く吊り上がり、まるで浮気現場を押さえた近所の奥様のような鋭さだ。

 

 だが二人とも、隆誠が勝手にいなくなったところで心配などしていない。もし闇派閥(イヴィルス)に襲われたとしても、彼らは隆誠が逆に返り討ちにしている未来しか想像していなかった。

 

 さらに、アリーゼ達は隆誠が『仮面の狩人』として暗躍していることを知らない。唯一知っているアストレアが、彼の安全のために口止めしているからだ。

 

「おいリューセー。あたし等に無駄な労力を割いた罰として、美味ぇ食事を用意しろよな」

 

 ライラが口元を吊り上げながら要求してくる。その顔は怒っているというより、当然の権利だと言わんばかりの図々しさだ。

 

「はいはい、デザートも付けとくよ」

 

 隆誠は文句一つ言わず、甘んじて受け入れた。この後、休む間もなく闇派閥(イヴィルス)の襲撃に備えなければならない事を知っているから。

 

 アーディがまだ隆誠の腕にしがみついている中、シャクティは鋭い眼差しを向けながら静かに歩み寄ってきた。その足取りは静かだが、纏う空気は明らかに戦闘前のソレだった。

 

「聞いたぞ、リューセー・ヒョウドウ。何でも作戦の前日、アーディに首飾りを贈ったそうだな」

 

「え? あ、まぁ、これには訳がありまして……」

 

 シャクティの表情だけでなく、目の奥に宿る光を見た隆誠は即座に察した。『妹にプレゼントを渡したことが気に食わない』という、あの理不尽な姉ムーブが始まったのだと。

 

 その場にいたアリーゼ達も話を聞いていたが、シャクティから発せられる鋭いオーラに若干引き気味になっている。まるで、触れたら切れそうな刃を前にしたような緊張感が漂っていた。

 

「私がいぬ間に、愛する妹にセクハラをしただけでは飽き足らず……今度はナンパ行為をするとはな」

 

「………は?」

 

 隆誠は本気で意味が分からなかった。『このやり取り、前にもやったよな?』と、既視感すら覚える。

 

「誠実なフリをして、一度ならず二度までも……やはり貴様は一番油断ならん。そこに直れ。今度こそ粛清してやる――!」

 

「ちょっとお姉さん、一先ず俺の話を聞いてくれませんかね!?」

 

「貴様に義姉(あね)呼ばわりされる筋合いは無い!」

 

「何でそうなる!」

 

 隆誠はアーディをそっと引き離し、迫り来るシャクティの攻撃を紙一重で躱し続ける。その動きは軽いが、彼女の攻撃は本気だ。風を裂く音が広場に響き、周囲の空気が一気に張り詰めた。

 

「シャクティ、落ち着いて下さい!?」

 

「普段止める側のお前がそっちに回ったら、どうすんだ馬鹿!!」

 

 普段とは全く異なる行動を取るシャクティに、リューとライラは本気で困惑していた。あのシャクティが暴走するという珍事に、二人の表情は完全に固まっている。

 

「お姉ちゃん! 私、セクハラやナンパなんてされてないよー! リューセーさんに乱暴な真似しないでー!!」

 

 アーディは必死に止めようとするが、シャクティの耳には届かない。妹を守るという名目の暴走は、完全に姉の暴走へと変質していた。

 

「知ってる輝夜? シャクティみたいな人のこと、神様達の言葉で『しすこん』って言うのよ! 私は物知りなんだから、フフーン!」

 

「心底どうでもいい……。あのような戦が起こった翌朝に、不謹慎なことくらい下らんことをするな、お前達……」

 

 アリーゼと輝夜は完全に傍観者だった。

 

 隆誠を助けようとしないのは、彼が自分達より遥かに強いことを知っているからだ。あの程度の攻撃で参るはずがないと、そう確信している。

 

 実際、隆誠はシャクティの攻撃を全て紙一重で躱していた。本気を出せば反撃して黙らせることもできる。

 

 だが、相手はアーディの姉。下手に攻撃すれば後々面倒になるのは目に見えているため、攻めあぐねていた。

 

 広場の空気は、戦闘後の静けさと騒がしい日常が入り混じり、奇妙な混沌を生み出していた。

 

 

 

「……えっと、これは声を掛けても良いのかな?」

 

 隆誠とシャクティが全力戦闘(?)を繰り広げている広場の端で、飄々とした旅人風の男神が足を止めていた。




リューセーを危険視するシャクティが完全に誤解してると言う内容でした。

感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。