別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
「アーディ、いきなり何だ? ビックリしたぞ」
突然の
離れようと腕を動かしてみても無理だった。アーディが思い切り抱き着いているせいで、まるで鉄の輪に締め付けられているように身動きが取れない。
見た目こそ可憐な少女だが、彼女は『Lv.3』の第二級冒険者。その腕力は一般男性の比ではなく、隆誠の胸元に回された細い腕は、見た目に反して驚くほど強い。
(……いや、これ本気で抱き着いてるな)
隆誠がその気になれば、抜け出すのは造作もない。だが、相手はこの三ヵ月で最も深く交流した他派閥の少女。その必死さと温もりを前に、呆れながらも拒む気にはなれなかった。
「だって、リューセーさんが
アーディの声は震え、言葉の端がかすれていた。胸元にしがみつく指先は、恐怖の余韻をまだ手放せずにいる。
(お、ちゃんと付けていたようだな)
隆誠はその一言で全てを察した。昨日の作戦中、死にかけた瞬間――ペンダントに施した『守護の加護』が発動し、彼女は紙一重で生還したのだろう。
どんな状況だったのかは知らない。だが、彼の言いつけ通りペンダントを身に付けていた事実だけで、胸の奥がじんわりと安堵で満たされる。
「そうか。それは何よりだ」
泣きそうになっているアーディの背に手を伸ばし、落ち着かせようとした瞬間。
「リューセー、貴様。私の知己に何をしている?」
冷たい声が空気を裂いた。振り向けば、暗い表情でジト目を向けているリューが立っていた。
「おお、リオン。無事に戻って来たか、お疲れさん」
隆誠は全く動揺しない。寧ろ、彼女が大した傷もなく帰還したことに心底ほっとしていた。
「
リューの声は怒りよりも潔癖な拒絶が強く滲んでいる。アーディを守ろうとする気持ちと、男性への警戒心が混ざり合い、彼女特有の刺々しさが倍増していた。
「何だよ、もしかして嫉妬でもしてるのか?」
「ふざけるな! そんな事は断じてあり得ない!」
隆誠が場を和ませようと軽口を叩くと、リューは即座に否定した。その反応は、まるで心の奥を突かれたかのように鋭い。
【アストレア・ファミリア】の中で、彼女だけが未だに距離を置いている。料理で胃袋を掴まれても、それ以外は全く気を許していない。
この世界のエルフは総じて面倒臭い性格をしており、異常なほどの潔癖症。リューはその典型であり、さらに男性への警戒心は群を抜いて強い。
七年後には年下の少年――ベル・クラネルにべた惚れになり、今以上にポンコツ化する未来を知っている隆誠としては、時間が経てばあそこまで変わるのかと、刺々しい態度を受けても全く気にしていない。尤も、修行の時には容赦なく叩きのめしているが。
「何やってんだ、お前等」
呆れたような声が響き、ゆっくり歩いてくるライラが姿を見せた。その後ろにはアリーゼと輝夜、さらに【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティまで揃っている。まるで帰還報告の場に乱入した野次馬一行のようだった。
「リューセーったら、こんな所にいたのね! 作戦中は
アリーゼは腰に手を当て、怒りよりも呆れの色を濃くした声で詰め寄る。
「全くだ。此方が命懸けの作戦から帰還したと思えば、朝っぱらから女とイチャ付くとは……随分良いご身分ですねぇ」
輝夜はネチネチとした嫌味を、これでもかとばかりに重ねてくる。その目は細く吊り上がり、まるで浮気現場を押さえた近所の奥様のような鋭さだ。
だが二人とも、隆誠が勝手にいなくなったところで心配などしていない。もし
さらに、アリーゼ達は隆誠が『仮面の狩人』として暗躍していることを知らない。唯一知っているアストレアが、彼の安全のために口止めしているからだ。
「おいリューセー。あたし等に無駄な労力を割いた罰として、美味ぇ食事を用意しろよな」
ライラが口元を吊り上げながら要求してくる。その顔は怒っているというより、当然の権利だと言わんばかりの図々しさだ。
「はいはい、デザートも付けとくよ」
隆誠は文句一つ言わず、甘んじて受け入れた。この後、休む間もなく
アーディがまだ隆誠の腕にしがみついている中、シャクティは鋭い眼差しを向けながら静かに歩み寄ってきた。その足取りは静かだが、纏う空気は明らかに戦闘前のソレだった。
「聞いたぞ、リューセー・ヒョウドウ。何でも作戦の前日、アーディに首飾りを贈ったそうだな」
「え? あ、まぁ、これには訳がありまして……」
シャクティの表情だけでなく、目の奥に宿る光を見た隆誠は即座に察した。『妹にプレゼントを渡したことが気に食わない』という、あの理不尽な姉ムーブが始まったのだと。
その場にいたアリーゼ達も話を聞いていたが、シャクティから発せられる鋭いオーラに若干引き気味になっている。まるで、触れたら切れそうな刃を前にしたような緊張感が漂っていた。
「私がいぬ間に、愛する妹にセクハラをしただけでは飽き足らず……今度はナンパ行為をするとはな」
「………は?」
隆誠は本気で意味が分からなかった。『このやり取り、前にもやったよな?』と、既視感すら覚える。
「誠実なフリをして、一度ならず二度までも……やはり貴様は一番油断ならん。そこに直れ。今度こそ粛清してやる――!」
「ちょっとお姉さん、一先ず俺の話を聞いてくれませんかね!?」
「貴様に
「何でそうなる!」
隆誠はアーディをそっと引き離し、迫り来るシャクティの攻撃を紙一重で躱し続ける。その動きは軽いが、彼女の攻撃は本気だ。風を裂く音が広場に響き、周囲の空気が一気に張り詰めた。
「シャクティ、落ち着いて下さい!?」
「普段止める側のお前がそっちに回ったら、どうすんだ馬鹿!!」
普段とは全く異なる行動を取るシャクティに、リューとライラは本気で困惑していた。あのシャクティが暴走するという珍事に、二人の表情は完全に固まっている。
「お姉ちゃん! 私、セクハラやナンパなんてされてないよー! リューセーさんに乱暴な真似しないでー!!」
アーディは必死に止めようとするが、シャクティの耳には届かない。妹を守るという名目の暴走は、完全に姉の暴走へと変質していた。
「知ってる輝夜? シャクティみたいな人のこと、神様達の言葉で『しすこん』って言うのよ! 私は物知りなんだから、フフーン!」
「心底どうでもいい……。あのような戦が起こった翌朝に、不謹慎なことくらい下らんことをするな、お前達……」
アリーゼと輝夜は完全に傍観者だった。
隆誠を助けようとしないのは、彼が自分達より遥かに強いことを知っているからだ。あの程度の攻撃で参るはずがないと、そう確信している。
実際、隆誠はシャクティの攻撃を全て紙一重で躱していた。本気を出せば反撃して黙らせることもできる。
だが、相手はアーディの姉。下手に攻撃すれば後々面倒になるのは目に見えているため、攻めあぐねていた。
広場の空気は、戦闘後の静けさと騒がしい日常が入り混じり、奇妙な混沌を生み出していた。
「……えっと、これは声を掛けても良いのかな?」
隆誠とシャクティが全力戦闘(?)を繰り広げている広場の端で、飄々とした旅人風の男神が足を止めていた。
リューセーを危険視するシャクティが完全に誤解してると言う内容でした。
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