ゴールドラッシュ 作:switch2外れた
ひとまず最終回です。
「あは──あははははははははははは──」
静まり返ったリングの上に、笑い声だけがこだまする。大口を開け、天を仰いで。まさしく呵々大笑。笑って、笑って、笑って──息も切らしたところでようやく「ふぅ」と一息。
「いやぁ。笑った笑った。ヒヒッ……鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してさあ。なにが『
「なん……な……」
口をパクパクと開いては閉じ、意味のある言葉は紡がれない。疎らに散らばるほんの数枚の金貨を拾い、ニヤニヤと笑いながらそれを手で弄んだ。
「どうした?」
「な、あ……」
たっぷり言葉を探し、ようやく出てきた言葉はたった二文字。
「なぜ……」
だった。もちろん「なぜ”ゴールドラッシュ”を使えるのか」の意だ。
思わず吹き出し、また笑いをこらえながら返す。
「そりゃまあ、普通に考えたら『ゴールドラッシュに経済を変える力なんてなかった』んじゃない?」
「違う!そんな……ありえねえ!」
「俺は常々言ってたろ?そんな力ないって。て言うか『証拠がないから他人を動かせない』なんて悩む前に、証拠がないなら自分も動くべきじゃなかったと思うけど」
「黙れ……黙れ!こんなの、こんなのなんかのトリックだ!」
「例えば?」
「そっ……テメエが、”技忘れ”の職人を騙しきったに……」
「それがありえないと思ったからこんな場所を用意したんだろ?”技忘れ”の判断なら、揺るがぬ証拠になるはずだって。自分に不利になった途端前言を翻すのはよくないなあ」
「違う、こんな……」
「ま、推理を重ねるのは別にいいんだけどさ、弁解する相手は俺じゃなくない?」
ハッと振り返った先、
俺がヤケを起こした時のためにリモートで見守っているのだろう、この街の無数のVIPの視線が、無機質なカメラ越しに男を串刺しにするようだった。
「ちが……違うんです!少々、もう少しだけお待ちください!」
返事もなく、動きもない。完全に静止したまま席に並ぶドローンの群れはいっそシュールですらあったが、男にとっては恐怖の対象らしい。青ざめた顔、引きつった笑み。それでも必死に、不興を買わぬよう取り繕っている。
「そ、そうだ!どこかにゾロアークでも──」
「──もう結構」
遮る声は頭上から。突然
「突然のお声がけ失礼しました。お初にお目に掛かります。
如何にも執事然とした服装の男だ。整えられた髪と髭は共に白く、しかしハリのある肌と凛々しい表情が、衰えではなく老成を感じさせる。深々としたお辞儀を数秒。顔を上げて続ける。
「本日は主人より、『要する方の首を落とせ』と仰せつかっております。この場合は──
「待って──待ってください!俺も貴方もコイツに騙されてるんです!もっ、もうしばらく!時間を頂ければ明らかにしますから……」
老爺は答えない。ただ、男の言葉を聞くのみだ。
「あの、なにか返事を……」
「
「遺言って、そんな──」
「──ですが、少々冗長にすぎますね。もうよろしいですか?」
「だから待てって!おかしいんだよ!こんなのは!」
詰め寄った男の爪先からほんの数センチ先を、バヂィッと光が瞬いた。
たたらを踏んで仰け反る。視線の先には、一筋の焦げ跡──
「──それが貴方の死線でございます。進みますか?戻りますか?」
その挑発が、反対に男の常の態度を思い出させた。
「舐めてんじゃあねえぞ!」
懐から一瞬で大量のボールを掴み取り──バズンッと鈍い音を立てて、その両手が切り落とされた。
「──ッガアアアッ!」
激痛にうずくまるその頭にまたも閃く光。次の瞬間には
「死線を越えられなかったようですね」
冷徹にそう言うクモとやらに、俺は嫌々声を掛けた。
「あー、もう終わりって感じでいい?」
「ええ。ご足労頂きありがとうございました。おかげで彼の虚言を明らかにし、騙された同胞の仇を取ることができました」
初日の4人は本当に外部の人間だったか。まあそれでなくとも、街全体を巻き込んだ悪巧みが大コケして、無事でいられる道理などなかっただろうが。
「んじゃあ解散──って」
俺が言うまでもなく、客席のドローンが疎らに飛び立っていく。
「〆の挨拶ぐらい待っててよ……」
「では
「お、ノリのいい爺さんだね。それじゃあ──お相手は
「そこは自分の名前じゃないんだ……」
トウコがそう呟いた。しかし事件の中心は、あくまで俺ではなく俺のポケモンだ。
噂は噂に戻り、俺がオーナー亡き後のリングに戻るつもりもないことを含めれば、やがてその噂すら消えていくだろう。
どうにも締まらないが、これで一件落着である──さて、後日談ならぬ前日譚、というか今回のオチ。
▽▽▽
「つまりまあ──この技に経済を壊すほどの力はありませんな。”ねこにこばん”よりは幾らかマシ、という程度ですか」
「そうですか……ふむ。このポケモンの技構成、もう一度教えて頂きたい」
「構いませんよ。ええと、”ゴールドラッシュ”、”シャドーボール”、”わるだくみ”に”じこさいせい”ですな」
「なるほど……すみませんが、少し席を外してもらえますか?彼と二人で話がしたい」
「おや”わるだくみ”ですか。まあいいですとも。あのお嬢さんと恋バナでもしてきますかな」
「セクハラはやめときなよ~」
ひらひらと手を振って、ゆっくりと歩む爺さんを見送った。
扉が閉まると同時、ほんの少しだけ真面目な顔を作って、ギーマに向き直る。
「んで、どうしたの?」
優雅に笑うギーマに動揺はない。首元のスカーフを撫でつけて、その僅かな沈黙の間に考えを整理したらしかった。
「……問題の性質上、秘伝技への認定こそしても、それを公にするつもりはなかった。だが一応、改めて言おうか。
「爺さんの話は無視?」
「いや。だからこそだ。そのポケモンの──”じこさいせい”は忘れてもらう」
「……ハハ。気づいたんだ」
「あると分かれば、瞭然だったとも。しかしまさか、ゴーストタイプ──それも特定の物質に憑依するタイプのポケモンが、”じこさいせい”を覚えるとはな」
”じこさいせい”。細胞を再生して回復する技。サーフゴーに限ればそれはつまり、
一々”ゴールドラッシュ”を挟む必要もない。肉体から金貨を鷲掴みにでもして、失った分をそれで補填すればいい。そもそも肉体が再生するゆえに無限の富であることは認めていた。そこで問題になる「時間」が解決するならば、そのポケモンは経済を揺るがすほどの力を持つ。
「特異なのは技よりむしろ特性、”おうごんのからだ”そのもの。これ見よがしに専用技を振り回せば、そこに注目してバレないと思ったんだけどね。そもそも人前で”じこさいせい”使わせたことないし」
「大事を取って”技忘れ”を呼ばなければ、わたしも気づけなかっただろうね。しかし、随分とあっさり受け入れるじゃないか。無限の富が惜しくないのか?」
「そんな能力なくたって、俺のポケモンは金の生る木だよ。強さは言うまでもなく、希少さだって金になる。それに──事実として無限の富を生む必要なんてない」
金の
「今この瞬間まで、この事件で動いた俺以外の誰一人として、無限の富の証拠なんて握ってなかった。人を動かすには、噂さえあれば十分なんだ。真実は、本当に脅威たりえる連中だけに与えるもんだよ。必要になればまた噂を流せばいい──
ゴールドラッシュで儲かったのは、金を掘った者たちではなく、彼らに道具を売った者だというのはよく聞く話だ。それでなくとも、その現象の知名度に対し、それで成功を掴んだ者を俺たちは何人挙げられるだろうか。
その意味で”ゴールドラッシュ”という技は示唆的だ。派手な名前に派手な見た目。しかし得られる金は、ゲームにおいては一度につきレベル×5円。煌びやかな見た目に反して、実際に得られるものは小銭がせいぜい。
失うものがないという点では、現実のそれより随分とマシだろうが。
白熱した欲望の渦。曖昧な噂話。黄金
それに呑み込まれた者たちの残骸こそが、真実の
「それこそが──”ゴールドラッシュ”だ」
一番つまらないワンピースのオチみたいになったこと、正直反省しています。とは言え一話を書き終わるより先に考えていたラストだったので、悩んだ末に断行しました。
次章以降も書く予定ですが、今度はプロットとやらを作ってみたいのと、妄想レベルの考えしかないためかなりお待たせすると思います。
半年か一年かそれ以上か。その時もまだ覚えて頂けていれば、またお会いしましょう。
その間に中二病ゴリゴリのポケモン二次が増えていることを願います。