昴くんはなにもしない 作:あまも
忙しかったのもありますが、普通にシャケしばきまくってました
休み前で目処が立ってきてようやく少し落ち着いてきたので、久々になりますが更新です
言うて話は進んでませんが……
閲覧ありがとうございます!
ソースカツと白米を胃袋に収め、ほっかほかな体温を蓄えた私たちは、再びフォレスターへと乗り込んだ。
先ほどまでの賑やかな店内とは打って変わり、車内は暖房の効いた静かなプライベート空間である。
うーん…お腹いっぱいで、暖かいもんだから……もう眠いんじゃが。
初対面のひとんちで爆睡するほどののんきさは流石の私もないので、度々起きては小林くんとノアズ・アークがなんかしてんな〜と横目で眺めて、と、つまりは熟睡してないもので。
一方隣の元捜査官様は、ひと休みしてご飯も食べて、元気になったのかやれ「あの山は〜」、「あのお店は〜」、「道の駅は〜」と賑やかだ。調査の片手間に、長野の下調べをしてくれていたらしい。
いや、道中の景色も中々良かったのよ?
満腹感からくる心地よい眠気に抗いながら、私は隣の小林くんの解説と、ノアズ・アークのナビゲーションに従って、どことも知らぬ次の目的地へと車を進めていた。
駒ヶ根の市街地を抜け、徐々に景色が木々の多い山へと変わっていく。
冬の柔らかな日差しが木立の隙間から差し込み、フロントガラスに細々と当たる。
こんくらいの天気も好きだな。家でゴロゴロしてるのに1番いい天気だ。
ドライブも良いんだけどさ、外に出たくなくてねぇ。
『お兄ちゃん、もうすぐ到着だよ。次の看板が見えたら左に入ってね』
スピーカーから響くノアズ・アークの弾んだ声。で、どこに向かってたんです?
それは広大な森の中にぽつりぽつりと建つ、周囲の自然と調和したモダンで美しい施設群だった。
駐車場にフォレスターを停め、エンジンを切る。
目の前に立てられた施設の看板に目を向け、道中の看板が見間違いではなかったのだと確信した。ついつい、シートベルトを外す手を止めて固まる。
「……養命酒、製造」
看板の文字を読み上げた私を見て、助手席の小林くんが「ふふん」と声を漏らして笑う。
「そう。長野に行くなら、ハルをここに連れてこようって、昨夜ノアズ・アークと計画を練ってたんだ」
「……なぜここに? 私はてっきり、もっとこう、絶景スポットか歴史的建造物にでも行くのかと思っていましたが」
私が心底不思議そうな顔を向けると、小林くんは得意げに口を開いた。
「お前は酒が嫌いで、全然飲まないだろ。でも、これだけは飲むって、前に言っていたろう? だから、製造工程とかルーツを知れば、少しはお酒そのものに興味を持ってくれるんじゃないかと思ってさ」
その言葉を聞いて、私は思わず天を仰ぎそうになった。
いや、まぁ、製造工程に興味はあるけど……
かつて『スコッチ』という名を与えられ、そして今も都内の喫茶店で働き、私立探偵なんてオシャレなことやっている『バーボン』と共に活動していたこの友人は、それぞれその名に冠されたウイスキーを好んでいる。
というか、お互いの名前のウイスキーを好んでいる。
恋かもしれない。
……いや冗談です。また笑顔で首締められちゃう。
橋波さんのキッチンにも、しれっとバーボンとスコッチが置いてあったから、なんかもうこいつら仲良いなオイって若干の疎外感は無きにしも非ずなわけだが。
酒の楽しみを知る彼らからすれば、頑なにアルコールを拒絶する私の姿は、人生の楽しみを半分損しているように見えるのかもしれない。
私に酒への興味を持ってもらうための、きっかけ作りの一環。
その心遣いは素直にありがたい。
ありがたい、が、致命的な勘違いがひとつある。
「小林くん。私はお酒の味がそもそも苦手なので好んで飲むことは無いですからね」
「とか何とか言って、でもあんなに大事そうにちびちび飲んでいるじゃないか」
「大事に飲んでいるのは、ひとえに一気に飲むとアルコールがキツいからです。良薬口に苦し、です」
アルコールの匂いと味とあのカッカする感じが苦手なのだ。あれが無い酒は、それはもう酒ではないからね。
『ふふ。ボクの勝ちだね小林さん。お兄ちゃんはそういう嗜好品に楽しみは求めてないって』
私のスマートフォンから、ノアズ・アークの呆れたような声が漏れる。どうやら彼は小林くんの目論見が外れることを最初から予測して、賭けをしていたらしい。小林くんがぐぬぬと臍を噛んでいる。
「まぁ……せっかくみっちゃんやノアが、私のために予定を組んでくれたのです。見学ルートもあるようですし、健康食品の知識を深めるつもりでお邪魔しましょう」
漢方とかへの興味はあるからね。バツの悪そうな顔をしている小林くんを促し、私は車のドアを開けた。
外の空気は相変わらず凶悪なまでに冷たかったが、食後の腹ごなしにはちょうどいいだろう。
■
無料の工場見学ルートに足を踏み入れた瞬間、ふわりと独特の香りが漂う。
シナモンっぽいのはわかるんだけど、あとはなんかこう……『身体に良さそう〜』な、複数の生薬が複雑に絡み合った、落ち着く“あの”匂いだ。
ハッキリ言うなら、薬臭い。
「おぉ……すごい匂いだ。スパイスの倉庫にいるみたい」
「ええ。これだけ濃厚な生薬の香りを嗅ぐと、鼻から薬効成分を摂取できているような気になりますね」
小林くんが周囲を見渡しながら感心したように呟き、私もそれに同意して頷いた。
流石の料理上手な小林くんさんちゃん先生は、「シナモン、いや、桂皮か?それにクロモジ……クローブ……に……」と目を閉じて匂いを分析しておられる。
「え、これシナモンじゃないんです?」
「似てるけど違うな。たぶん」
私、今までずっとシナモンが入ってると思ってたんだけど。
私たちはガラス越しに、製造工程や巨大な熟成タンクを見学して回った。展示コーナーには、調合されている14種類の生薬がパネルと共に並べられている。
烏樟、反鼻、淫羊藿、桂皮、丁子……。
確かにシナモンとは書かれていない。
横で小林くんが、予想が当たって「ヨシ」と頷いている。
「これだけの生薬がアルコールに溶け込んでいるからこそ、あれだけの風味がするんですね。酒というより、やはりこれはアルコールを溶媒とした漢方薬の類いですよ」
「それはそうなんだが……」
「これ、中身当てクイズをれーくんにやらせたら当ててきますかね」
「ゼロなら飲む前から、“知識だけで”何が入ってるかは当ててくるんじゃないか」
「確かに〜」
まったくもって面白味のないやつである。おのれトリプルフェイス。
小林くんも、知らなかったわけではないだろうが、匂いから予測して判断つけるのを楽しんでいた様子。となると零くんも、似たようなことをやるかもしれん。
ショップで、養命酒の他にもある薬用酒を買い漁って、零くんに飲ませてやろうか。
私がやった場合は養命酒以外わからない自信がある。
小林くんは苦笑いで、パネルを見ている私を見ていた。
彼としては、製造工程の奥深さに触れて「お酒って面白いな」と思ってもらいたかったのかもしれないが、酒って時点で飲み物としてはノーセンキューなのでね。
私の興味はどうしても「何がどうして身体に良いのか」という薬理的な側面ばかりに向いてしまう。
それでも、自分が日頃から恩恵を受けている液体の正体を詳しく知れたことは、十分に有意義な時間だった。
ビールの工場見学とかも、ろくに飲みもしないが何がどうなって原料の草からあの黄金の液体になるのか、とかは気になるし。工場見学は面白いよね。
さくさくっと見学を終えた私たちは、「くらすわの森」の広大な敷地内を少し散策することにした。
建物の外に出た瞬間、容赦ない信州の冷たい風が頬を打つ。
うーん……寒い!
「ダメですやはり寒いです。早く屋内に入りましょう」
「ハル……もう少しだけ歩こうよ。ほら、景色がいいから」
文句を垂れる私の背中を、小林くんが面白がってぐいぐいと押してくる。
景色はいいし、整備された林の中を探索しているようでこれはこれで面白いけどさぁ。
羽織ったコートのポケットに両手を突っ込み、首をすくめながら遊歩道を歩く。
寒さは憎い。ひたすら憎い。
それほど着込んでもいないのに、るんるんと軽快に歩く小林くんも憎たらしい。
なんやあいつ。脂肪もほとんど無いくせに。
燃焼系筋肉の塊め。アミノ式のCMの動きさせたら全部とは言わないが8割くらい出来そう。
ただまぁ……目の前に広がる景色は確かに美しかった。
葉を落とした広葉樹の森は静寂に包まれ、足元の落ち葉も心地よい音を立てる。
澄み切った冬の空気を通して見る木々のシルエットは繊細で、見上げれば高く青い空がどこまでも広がっていた。
「水と空気が綺麗だから、良いものが作れるんだろうね。お酒にしても、食べ物にしても」
「……そうですね。水が良い土地というのは、それだけで価値があります」
「……ホント、“良いところ”、だね」
小林くんが立ち止まり、大きく背伸びをして白い息を吐き出す。
その横顔は、東都で過ごす時の、常にどこか張り詰めていた彼からほんの少し気を抜いたような、穏やかでリラックスしたものだった。
私に酒の魅力を教える、という彼の裏ミッションは失敗に終わったようだが、どうやら彼自身の良い息抜きにはなっているらしい。
彼がこんな風に無防備に自然を楽しめるのなら、この凍えるような散歩も、まあ悪くはない。
やっぱり、もしもの時はこの長野の山の中に潜伏してもらおう。寒くて暑いが、山の中ならきっと色々変わるはず。
……いややっぱ寒いな。遊びに行けなくなったらどうしよう。
■
森をぐるりと一周して、すっかり体が冷え切った頃合いを見計らい、私たちは敷地内に併設されたカフェへと逃げ込んだ。
木の温もりに溢れた店内は、生き返るような暖かさに満ちている。
私はもちろん、帰りに私ひとりに運転させるつもりは毛頭ない小林くんもあわせて、この後の車の運転を控えている。
なので当然ながら、私たちはアルコール類は口にできない。
しかし、酒に興味のない私からすれば、温かいお茶が飲めればそれで十分だった。
お酒も美味しい料理も大好きな小林くんには酷なことだが、どうせ見た目と匂いだけでラーニングして、後から自力で何とかするに違いない。
私たちは温かいオリジナルブレンドの紅茶と、地元食材を使った見目麗しいスイーツを注文し、森を見渡せる窓際の席に腰を下ろした。
景色はいいし、暖かいし、香りも良いし、明るくて過ごしやすい。
なんやここ。余生を過ごすための場所か?
「はぁ……極楽です……」
湯気を立てるマグカップを両手で包み込み、冷えた指先を温める。暑さは若干怪しいが、寒さはもう見ててヤバいのがわかるからまだいいね。
「お酒への目覚めは期待外れだったみたいだけど、楽しんでもらえたなら良かった」
小林くんが、阿笠さんや少年探偵団宛のお土産を袋に分けながら、楽しそうに笑う。
「ええ、十分に堪能しました。みっちゃん、ありがとうございます」
「こっちこそ、連れて来てくれてありがとう、ハル」
うむうむ。友人との旅行ってのも良いものだね。
そんなリラックス時間だったが、唐突に途切れることになった。ノアズ・アークからの緊急速報が入ったのである。
『五丈の森で火災発生。負傷者1名。……高明刑事だよ』
「えっ」
時間は15時前。
零くんに美味しそうなケーキとこの素晴らしい景色を送り付けた所であった。
慌てて小林くんに伝えると、のんびりしていたリラックスみっちゃんフェイスは見る見る青ざめて、ぞわりと総毛立っている。
「な、え、兄さんは!?」
「無事です。火災に巻き込まれたわけではなく、その前にどうやら……」
机に襲い掛かるかのごとくがばりと身を乗り出してきた彼を落ち着かせながら、ノアズ・アークに拾ってきてもらった警察無線や搬送先の病院の情報と、あんまり使わないようにしていた新一くんのメガネ越しの音声データも確認。
「――犯人に、屋敷の中で襲われて、意識を奪われたまま屋敷に放置され……犯人はその彼ごと屋敷を燃やそうとしたようですが、お兄さんはその前になんとか屋敷から脱出していたようです。頭を強打されたようで、意識は無いものの命に別状はないようですよ」
「そ、そうか……」
ぷしゅうと音がしそうな程、張り詰めていた小林くんの全身から力が抜けた。なんなら机に突っ伏して、深い深い安堵のため息をついている。
「……兄さんまで――」
「……」
呟きは聞こえなかったフリをしてケーキをひとくち。あまあま。
なんというか……私も大概だが、彼も大概身内が炎とか爆発に巻き込まれがちではなかろうか。
爆発とか爆発とか事故とか……彼本人とか。
あれだな。
私はバーニングする所によく私本人が遭遇するが、彼は身の回りの人間が私含めてバーニングする場面が多そうな気がする。
タチが悪いのは、私はこうして無事だけど、みっちゃんはかなり事件性ありそうなものとか、爆発を伴うとかの鉄火場なバーニングだからね。
毎度のことだが、心労がすごそうだ。転がっている黒キャップを被せてやりながら、その形の良い頭をよすよすしといてやろう。
「お見舞い、行きますか?」
「…………いや、こうなってしまった以上、重要参考人の兄さんに接触するのは難しい。それに」
小林くんはもぞもぞと起き上がり、ちびりと、原料にも使われるという信州のおいしい水をひとくち飲む。
「江戸川くんと大和さんが、仇は取ってくれるだろ、絶対」
「違いない」
ちょっと顔見ただけだが、大和警部は顔に似合った苛烈な方のようだったからな。親友が襲われて黙っちゃられないだろう。
県境越えての越権捜査したお兄さんといい、似た者同士な幼なじみなのかもしれん。
そして、こんな卑劣な手段を取り、あまつさえ警官を襲うなんて
事件解決はもちろん絶対するだろうけれど、その手段はもしかしたら煌めくサッカーボールが跳ね回るかもしれない。
「……予定では帰るつもりでしたが、少し、新野の方へ戻りますか?」
私の提案に、小林くんは腕を組んで天井を仰ぎ、しばらく唸っていた。
最後に頷いて、そうして首を横に振る。
「……いや、良いよ。事件は解決するだろうし、兄さんが無事なら、それで」
「了解」
偉いなぁ。
自分に課したルールは守れる男である。
ケーキをひとくち食べる。いやはや、美味しいねぇ、甘くて。あまうま。
■
……そういえば。
先程、大きな窓から見える美しい雪の森と、テーブルに並んだケーキ、そして紅茶のカップが画角に収まった写真を送り付けた、仕事に勤しんでいるであろう友人殿から文字でお返しが来ていたのだった。
気持ちを切り替えた小林くんと共に見る。
『お前ら、本気で観光を満喫してるじゃないか。何しに行ってるんだ』
『長野の自然と空気を堪能して、英気を養っているところです。大事なことでしょう』
『美味しい料理がいっぱいあるぞ!(* ˊ꒳ˋ*)』
「……みっちゃん」
「はは。無理はしてないよ」
いつも通りの返信にしようと、無理に付けた顔文字ではないよ、ということらしいが……まぁとやかく言うまい。
私と小林くんの返信に、画面の向こうでエプロン姿の男が盛大なため息をついている光景が目に浮かぶようだった。
彼も、小林くんも、このやり取りが息抜きになればいいんだが。
……なんか最近、零くんとクリスさんがまーた何かで動いているっぽいんだよなぁ。
十中八九橋波さん関連だろうとは思うのだけど、思い切って小林くんや新一くんに聞いちゃえばいいのにね。
私? 聞かれましてもねぇ。
橋波さんはお兄ちゃんだよ。
「ゼロ……羨ましがってるかな」
「ふふ。彼にも、ここの薬用酒ざっとまとめてお土産に買って帰ってあげましょう」
私の本気の提案に、冗談だとでも思ったのか、小林くんは声を上げて笑った。
「いやいや、それならあいつの部下にもお土産渡してあげろよ。胃を痛めてそうな顔色してたぞ」
「ふふ。そうですねぇ」
くたびれメガネのお兄さんなぁ。
今回の件、とりあえずデータは送り付けておいたが、精査はあちら任せなのでね。
あっちはあっちで別のルートから情報を集めているようで、それと照らし合わせているところなんだろう。
ノアや私に任せてくれたら、なる早で仕上げてあげるんだが、風見さん側の情報のルートに触れさせたくないんだろうね。
信頼度が足りてないのだわ!
…………ま、風見さんがどうやって情報を集めているか、なんて零くんがお見通しだろうし、こっちからはとやかく聞くこともない。
あちらからも、私と距離を詰めたくないのか積極的には聞いてこないからね。
……あの人、規則人間過ぎてそのうちやらかしそうな気がするな……
…………不信感募らせた協力者さんに、殴られたりとか……
なんてね!
長野劇場公演チケットは持ってないので不参加です
長野旅行楽しかったです()
うみぞこの街に行ってきます……推しが待ってるんです……
読んでいただきありがとうございました!