勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」 作:匿名希望
「それで、警備はいつまで続くんですか?」
「セリーナさんからは、あと三日ほど頼まれてるな。人員を確保するのに大急ぎでもそれくらいって」
「予定よりも大幅に進捗を早めてしまったスレイに驚けばいいのか、それともそのスレイの化け物じみた成果に三日で追いつけさせることができるこの国の人達に驚けばいいのか分からなくなってきましたよ」
昨晩の警備は何事もなし。
精々ちょっとした魔物が近寄ってきただけで済んだ。
討伐数を報告した時、セリーナさんが若干ドン引きしたような表情を浮かべていたが、多分気のせいだろう。
魔王討伐の旅の時に比べたら屁でもないくらいだし。
「こうやって道路を伸ばすのはいいけど、魔物に襲われるのは大変だよなぁ。……あれ?」
「どうしましたかスレイ。またお間抜けな顔をして」
余計なひと言が付け足されたジュリアの言葉は無視するとして。
「道路を作ったとしても、魔物に襲われるならほとんど意味がないんじゃないか? そりゃ、なるべく安全なところを選んで工事はしてるんだろうけど、昨日の昼も夜もなんだかんだで魔物が襲来してるんだったら、結局危険性自体は変わりないんじゃ?」
隣国まではかなり離れてるし、この道路も全部を監視するとか現実的じゃない。
どうやって、この道路を運用するんだろうか。
「この間、我々が王墓で見つけた魔物よけの指輪を使うんですよ。ほら、メレディスさんとロビンさんと一緒に冒険した時に手に入れたやつです」
あ、そういえばそんなのあったな。
魔物の巣を封じ込めるくらいには強力だったやつ。
俺にはあまり意味がないやつだったけど。
「あれもスレイだから微妙に感じるだけで、ちゃんとした運用をしたら広大な場所の安全を確保できる代物ですからね。なにせ、古代の王といえど遺体が身につけているだけでも魔物の巣の出口を蓋することができていたくらいですし」
言われてみれば確かにそうだ。
生きている人間が誰一人としていない中、長い年月を経てもその効果を発揮し続けていたのだから。
……けど。
「……その話を聞いていると、俺のトラブル体質が常軌を逸しているようにしか聞こえないんだが」
「え? 今更気づいたんですか?」
心底不思議そうにするジュリア。
そこには、俺を揶揄おうとするような雰囲気は一切ない。
常日頃から俺を小馬鹿にするような発言が散見されるジュリアだが、この瞬間は完全に素の反応だった。
……なんだか、もの悲しくなって来た。
「一般人なら一緒に暮らすだけでも命懸けです。本来であれば、その体質のせいでスレイは結婚する相手を一生見つけられないところだったんですから。スレイの伴侶となるには、四六時中トラブルに巻き込まれてもまあ大丈夫で、そんじょそこらの魔物にもやられず、スレイ自身の無駄にえげつないバイタリティも受け入れられて、料理も余裕でこなし、夜の生活にも付き合うことができるくらいは必要条件になりますよ。あくまでこれ必要条件であって十分条件ではないですからね、そこは勘違いしないように。十分条件までとなるとさらに厳しくなります。なんだかんだでスレイは世界を救った勇者なので、よっぽどスレイが心の底から愛している人間でなければ、それなりの格は求められることになるでしょう。まあ、そこはスレイの気持ちが最優先ですので、参考程度の指標にしかなりませんが、世間一般の貴族様方の基準であれば、王族に連なるレベルの血筋か、それに並び立つ程度の地位を持って然るべきと言われますでしょう。おやおや、なんという偶然。スレイからの愛も一心に受ける地位的にも世界最高の聖女様がここにおわしますじゃありませんか。いやだがまだ早計です。そのほかの条件も精査しなくては。そうですね、やはり婚姻というものは相互の愛が必要になりますよね。なりますから。なると言え。そういう訳ですから、ワイフとなるにはスレイへの愛が深くなければよろしくないというもの。世の中にはとりあえず見合いで結婚して、愛はそのあと育むのもありだという意見もありますが、愛するもの同士がくっつくことも悪くはないと思うのです。しかし残念ながらスレイはその青春時代を魔王討伐に捧げてしまった勇者様でございます。そんなハードな人生を送っているのに、何処の馬の骨とも分からない女と仲良くなることなど不可能です。あーあ、どこかにその過酷な旅を長年共にして、互いに互いを知り尽くして、孤独な運命をたどりかねない勇者に無償で無限大の愛を注げる聖女様がいないでしょうかねー。そんな都合の良いプリティな女の子がいるなら私もお目にかけたいところですよ全く」
「鏡でも見たらいいんでない?」
もはやこれはツッコミ待ちだろ。
「そんなにアピールしなくても、俺はジュリアのことは大好きだし浮気もしないから。こっちだって、ジュリアが別の男に気が移ろったらなんて考えてビクビクしてるくらいだしさ」
「そうならないように、ちゃんと私の気を引き留めておいてくださいね。そうでないと、別の人について行っちゃいますから」
ジュリアはイタズラっぽく笑いながらそう言うが、そんなことはないと思う。
あれだけの愛をぶつけられたら、流石に自信もついてくる。
この聖女様は、本当に俺のことを好いてくれているという自信が。
「安心してくれジュリア」
ならば、俺もその余裕に見合うだけの態度で答えを返さなくては。
「もしジュリアが正当な理由で別の男のところに行くんであれば、俺はとても悲しくなるけど、最終的にはどうにか受け入れるさ。勿論そんなことにはさせないように努力はするけどな」
ジュリアに見限られるなら、それは俺に問題があったということだ。
もしもそうなってしまったら、俺はジュリアに縋り付いて泣き喚くかもしれないけど、ジュリアが幸せになるためなら、堪えてみせる。
無論、ジュリアからの愛を、おざなりにするつもりは毛頭ないので、そんな最悪な未来は来させないけどな。
だが、俺の回答が少しお気に召さないのか、ジュリアは不貞腐れた顔をしながら。
「……そうですか。なら、もし不当な理由であればどうします? こう、政治的な理由だとか、倫理的に明らかに悪とされる方法で奪われた場合は?」
そんな追加条件を出してきた。
不当な理由かぁ。
面白いことを聞くなぁ、この聖女様は。
そりゃあ、勿論大人の対応をするに決まってるじゃないか。
いくら相手がそんな卑劣なことをしようと、こちらがそのレベルまで落ちる訳にはいかない。
そうだな、ここは穏便に、
「相手の男の居場所を死ぬ気で見つけて、全力でぶん殴る。そんで、しっかり社会的にも罰を受けさせて、二度とジュリアの前に顔を出せないようにしてやる」
……あれ?
なんか自分が思っている以上に物騒な答えが、自らの口から漏れ出てるんだけど。
「そこで、自分でトドメを刺さないあたりは理性的ですね」
「いや、待ってくれ。今の発言はなんかおかしくなって出ただけなんだ。俺が言おうとしたのはもっと別のことで……」
いかん。
このままでは俺がジュリアから危険人物だと思われてしまう。
どうにか取り繕わないと……!
「安心してください。私が貴方と別れることになった時は、私の体は爆発四散するようになってますから奪われることはありませんよ」
「何言ってんのお前!?」
もっと危険な人物が目の前にいるんですけど。
「おそらく我々が離縁することになった場合、その原因は私の方にあると思うんです。しかも大概のことは受け入れてくれるスレイが別れを切り出すともなれば、相当な裏切りをしたことになりますよね? そこまでの悪事を働いたのであれば、その責任は自らの命で償う他ないじゃないですか」
「そうやって同意を求められて、俺が首を縦に振ると思ってるの!?」
しまった。
ジュリアは普段は尊大な言い方をしているけれど、変なところで割と自己評価が低いところがある。
というか前も同じようなことを言っていた気が。
「前の時とは違って、今はそういう呪いを自分にかけているので改めて伝えさせていただきました」
「だから俺の内心を読み取らないでくれない!?」
怖いから。
これまでも心を読まれることはあったけど、この今のシチュエーションだとその恐怖が倍増してるから。
「そういうのって普通俺にかけるもんじゃないの!? こう、なんていうか、自分が捨てられるくらいならその相手を殺してしまおうみたいなさぁ! 前ジュリアから借りた本に出てくるキャラだったら、浮気した相手の男をナイフで刺したりしてたし!」
「いやですねスレイ。貴方が私に刺されたくらいで死ぬわけないじゃないですか。魔王ですら殺せなかった人間をどうやって殺せと?」
「そういう問題じゃなくて!」
実際、ジュリアに刺されても死ねる自信は全くないけども。
「そもそも私の心情的に、スレイを傷つけたくありません。というか普通に考えて、その人が好きなのであれば、その相手を痛めつけるなんておかしくありませんか? 私には理解できませんよ」
「だったら、俺だって好きな人が傷つくところを見たくないって気持ちを持ってることを察してほしいかなぁ!」
必死にそう訴えかける俺の姿を見て、ジュリアは。
「察してますよ。だから、私のことを捨てないでくださいね?」
すごく。
ものすごく粘ついたような感情を上乗せさせた視線を、俺に投げかけたのだった。
普通の人が見たら、その重圧で怯えてしまうだろう。
「……はぁ。本当にあれだな、ジュリアは」
「何ですか? まさか怖気付いたとか……」
けど、それくらいはなんてことはない。
「面倒くさいな」
「め、面倒っ!?」
これでも俺は、世界を救った勇者だし。
なにより、ジュリアのことが好きで好きでしょうがない男なもんで。
「そうやって試さなくても大丈夫だって。ジュリアが思っている何倍も、俺は自分の嫁さんのことが大好きだから」
そう言いながら、俺はジュリアのことを抱きしめた。
言葉だけじゃ伝えきれないから、どうにか行動でも伝わるように。
すると。
「ぴ゛ゅ゛ぐ゛り゛ゎ゛ふ゛ぃ゛」
「マジでそれどうやって発音してんの?」
なんでこんなことで混乱するんですか、この聖女様。