クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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第41話 ロベルタの授業

 ロベルタと今後の予定を話し合うにあたり、千司はもう一人の人物を部屋に呼び戻すことにした。彼女に一言断ってから部屋の外に顔を出すと、褐色の美女キルル・ベルベットに声を掛ける。

 

「キルル、話がある」

「畏まりました」

 

 粛々と頷くに応じて、ストレートの銀髪がさらりと揺れた。

 キルルを部屋に招き入れる一方で、廊下に取り残されたアリアはフードの下で不服そうに頬を膨らませる。

 

「……アリアは?」

「もうしばらく見張りを頼めるか?」

「もー……わかった」

 

 口を『へ』の字に歪めつつも、命令には大人しく従うアリア。ここ最近ストレスが溜まっているだろうに、それでも従ってくれる辺り都合がいい女である。

 

 小さくため息を吐くアリアを置いて部屋に戻ろうとした時――ふと部屋の中からロベルタが声を掛けてきた。

 

「ふむ、(うぬ)は変わった従者を連れているのじゃ」

「ん? あぁ……まぁ確かに変わってはいるな」

 

 頷きつつ、そう言えば二人が直接顔を合わせるのは初めてかもしれないと気付く千司。改めてアリアを紹介しようとして——それより早くロベルタは口を開いた。

 

「うむ、覚醒者を視るのは久しぶりなのじゃ~」

「……覚醒者?」

 

 聞き覚えのない単語に疑問符を浮かべる千司。横目でキルルとアリアの表情を確認するも、二人とも思い当たる節がないのか何それと言わんばかりの表情で小首を傾げていた。

 

「……む? もしかして知らないのか?」

「あぁ。……悪いがキルル、もう少し外で見張りをしてくれるか? 代わりにアリアは中に入ってくれ」

「畏まりました」

「う、うん」

 

 流石に放置するには気になる単語である。

 

 千司の言葉を受け、キルルと入れ替わりにアリアが入室したところで、話し合いを再開させる。

 

 位置関係はロベルタが先ほど同様にベッドの淵に腰掛け、千司はその対面の椅子に腰を下ろす。残るアリアはフードを脱いで白と紫の入り混じった髪を揺らしながら千司の頭を抱えるように後ろから抱き着いてきた。

 

「それで、覚醒者って言うのはなんだ?」

「うむ。……正直、妾自身良く分かっていないところが多いのじゃが……覚醒者とはある特定の条件がステータス魔法(・・・・・・・)と干渉を起こした結果なのじゃ」

「……干渉?」

 

 顎に手を当てる千司に、ロベルタは頷きつつ続ける。

 

「通常、レベルを上げるには鍛錬を積むか、敵を倒す必要があるのじゃ。前者は伸びが緩やかじゃが、安全。後者は早熟じゃが、危険が伴う。そして問題は後者にあるのじゃ」

 

 ロベルタは小さな手を顎に当て、必死に言葉を選びながら口を開く。

 

「何かを殺傷してレベルが上がる際、その相手の血液——それも魂と深く繋がりのある心臓の血を口にすることで、稀に相手の特性を引き継ぐことがあるのじゃ」

「特性を引き継ぐ……?」

「うむ、ステータスじゃったりスキルじゃったり、それが勇者の血ならば本来訪れるレベルの限界が大幅に引き上げられたりするのじゃ」

「理屈は……わかっていないのか?」

「すまんのじゃ~。何しろステータスの魔法自体妾よりずっと昔に召喚された勇者が考案したものなのじゃ。そんな魔法と魂がこうぐちゃぐちゃーっと……」

 

 説明を口にする中で、次第に眉間の皴を深くするロベルタ。

 

 何とか言葉にしようと頭を捻った彼女は、しかし最終的に『なんも分からんのじゃ』と言わんばかりの表情を浮かべ、幼児の如く足をプラプラさせながら言葉をまとめた。

 

「とにかく、そうした特性を引き継いだ人間のことを、妾の時代では覚醒者と呼んだのじゃ~」

「……なるほど」

 

 かなり省略されたが仕方がない。

 分からない物を無理に聞いても、彼女の好感度が下がるだけだ。

 

(それに、ロベルタは魔法にこそ詳しいが、聞いてる限り学者という訳ではなかったのだろうしな)

 

 一人納得しつつ、千司はそれまで黙っていたアリアに声を掛ける。

 

「それで、心当たりはあるか? アリア」

 

 相も変わらずぎゅっと抱き着いたままのアリアは逡巡。

 うんうんと頭を捻ること数秒。ふと何かを思い出したように口を開いた。

 

「そう言えば——」

 

 語られた内容は、魔法学園襲撃時の事。千司がアリアにプレゼントした富田と岸本の二人を殺害した際、心臓を貫いた剣をぺろりと舐めたのだとか。

 

「うへぇ」

 

 思わず顔を顰める千司。

 人が嘆き苦しみ、絶望の果てに死に絶える姿が大好物な千司であるが、カニバリズムは理解できない趣味嗜好である。頭おかしいよ、何て自身を棚上げしていると、慌てた様子でアリアが言葉を続けた。

 

「ち、ちが……その、騎士の時に捕まえた殺人鬼が『生き血を啜るのが生きがいだった』って言ってたから、勇者の血はどんなものなのかなって……でも、確かにその時から身体は軽くなってるし、ステータスも大きく伸びてる気がするような……」

 

 その言葉に千司は深く溜息を吐く。

 

「……何故、それを報告しなかった」

 

 頭上のアリアを見上げるように尋ねると、彼女はまっすぐに千司を見つめ返し——ギザギザの歯を見せながら、いつも通りの笑みを浮かべるのだった。

 

「いひひっ、忘れてた♡」

「……」

「だって、人を殺すのは……んっ♡ 想像するだけで楽しいけど、殺した後って興味ないし。死体とか邪魔なだけだし……あっ、でも最近はドミトリーを見て死体の使い方(・・・・・・)が分かって来たよ♡」

 

 アリアは決して馬鹿ではないし、この世界においても頭の良さは上位だろう。

 しかし、それを打ち消して余りある異常性が、千司の想定を超えていた。

 

「……そうか。まぁ、なら仕方ないな。次からは気を付けるように」

「いひひっ、うん♡ わかったよ、ドミトリー♡」

 

 ぎゅーっと抱きしめながら頬擦りしてくるアリアに、内心ため息を吐き、千司はロベルタに視線を移した。すると、どこか面白くなさそうな彼女と目が合う。

 

「どうかしたのか?」

「ん? ……妾、どうかしていたのじゃ?」

「いや、知らないが」

「うむ……」

 

 小首を傾げつつ、自身の心臓を抑えるロベルタ。

 

「そう言えば、よくアリアが覚醒者だと気付いたな。何か特徴でもあるのか?」

「いや、見た目に変化はないのじゃ。妾が気付いたのはあくまでもこの魔眼のおかげなのじゃ。以前にも話したと思うが、妾の眼は魔力やスキルを覗くことができるのじゃ。覚醒者の魔力は特徴的だから一目瞭然なのじゃ~」

 

 大図書館の地下から彼女を救出する際、確かにそのようなことを言われたのを千司は思い出す。

 

「なるほどな。……因みに、覚醒者ってのは量産可能なのか?」

「というと?」

「例えば強力な人間を捕らえて心臓を抜き取り、その血を複数人で乾杯したらどうなる?」

 

 千司の言葉に、状況を想像したのかロベルタは顔を顰める。

 彼女も全人類虐殺を望んでいる物の、猟奇的な光景が得意という訳ではないらしい。

 

「うむ、その場合でも特性を引き継ぐのは一人なのじゃ。先程も言ったが、これは魂とステータス魔法の干渉の結果だと思われるのじゃ。魂は一人に一つしかないのじゃ」

「なるほどね」

 

(あとでアリアにステータスの上昇率を聞く必要はあるが……正直戦力増強としてはカウントしずらいな。使い勝手が悪すぎる)

 

「それじゃあ王国が使ってくる可能性はあると思うか?」

「……うーん、妾の推測なのじゃが、構わぬか?」

「頼む」

 

 首肯を返すと、ロベルタは淡々と答える。

 

「おそらく、有り得ないのじゃ。この国の愚かな貴族共は勇者の血を受け継いでいる。覚醒者を作るよりその血を繁栄させる方が、ずっと効率的で優秀な人間が作れるのじゃ」

「そうか……教えてくれてありがとう、ロベルタ」

 

 千司は勤めて爽やかな笑みを浮かべながら感謝を述べた。

 

(……まぁ、大方想像通りだな。ライザちゃんなら躊躇なく行いそうだが、心理的ハードルを考慮すれば、覚醒者を作るよりセックスして子孫繁栄させた方が、確かに有意義だろう)

 

 覚醒者云々の問題は『意図せずアリアが強化された』程度の認識にとどめておくのが吉だと千司は判断しようとして——ふと、先ほどのロベルタの言葉を思い出す。

 

(……いや、対象の特性って言ってたな)

 

 思考を巡らせる千司。

 頭上のアリアの髪がさらりと頬を流れる。

 

 それを手慰みに梳きながら考え込んでいると、先ほど同様眼前のロベルタから視線が向けられているのに気が付いた。

 

 面白くなさそうな表情をしていた彼女は、千司と目が合うや否や立ち上がり、近付いて——千司の膝上にちょこんと腰掛ける。

 

「……どうした?」

「うむ、妾は気付いたのじゃ」

「何に?」

「汝のことを、我が子のように思っている、と」

「……ほう」

 

(また意味の分からないことを言い出したな)

 

 見た目だけで言えばむしろロベルタが千司の子供である。しかしそんな思いになど気付くことなく、彼女は千司とアリアを見つめてから口を開いた。

 

「故に、我が子が女とイチャイチャしてるのは気に食わんのじゃ~! アリアと言ったか? 千司と恋仲になるなら、母である妾を倒してからにするのじゃ~!」

 

 膝の上でふんぞり返り、面倒臭い(しゅうとめ)と化したロベルタ。

 

 賢いのか馬鹿なのか良く分からない彼女に、千司は内心ため息を吐きつつ、思考は後回しにしてさっさと話し合いを再開させるのだった。

 

 

  §

 

 

 アリアと入れ替わるようにキルルが部屋に入って来たのを確認してから、千司は改めて口を開いた。

 

「さっきは悪かったな」

「いえ、それで覚醒者云々については分かったのですか?」

「あぁ、あとでロベルタからでも聞いてくれ」

「はい……あの、ロべちゃん。どうしてドミトリー様の膝に?」

「気にする必要はないのじゃ~」

「いや、重いから退いてくれ」

「!?」

 

 淡々と返すと、ロベルタはショックを受けた様子で膝から降りる。そのまま彼女はベッドに腰掛けていたキルルの膝上に行きちょこんと座った。

 

 それでいいのか最年長。

 

「それで、ドミトリー様。話とは何でしょうか?」

「ん、あぁ……もちろん今後についてだ。ところで……エルドリッチの方は無事なのか?」

 

 千司の問いかけに、キルルは僅かに目を見開いたのち、答える。

 

「えぇ、先日ライザ王女が現れたという報告が来ましたが、『ロベルタの遺産』は問題なく簒奪できたそうです」

「それはよかった」

 

 以前王都にてエルドリッチと話し合った際、千司は彼に『ロベルタの遺産』の簒奪を頼んでいた。それは王国の北方に領地を持つ貴族の家からである。

 

(『遺跡』出発前にライザちゃんが向かったって聞いた時はどうなるかと思ったが、流石に距離と時間があれば、相手がライザちゃん(化け物)でも逃げるのは容易か)

 

「大尉と話し合いの場を用意しますか?」

「いや、それはまたの機会に。エルドリッチには引き続き『ロベルタの遺産』の救出を進めてもらう」

「畏まりました」

 

 千司とキルルのやり取りに、彼女の膝上のロベルタは満面の笑みで頷く。

 そんな彼女を無視しつつ、千司は言葉を続ける。

 

「それと並行して、頼みがある。エルドリッチの部下の中で最もコミュニケーション能力の高い者、或いは――人を扇動する能力に長けた者を貸して欲しい」

「……何を、するのでしょうか」

 

 その言葉に、千司は口端を持ち上げながら答えた。

 

「そりゃあ、まぁ……俺たちにとって有意義な実験だな」

「……大尉の許可がなければ、私の一存では決めかねますね」

「大丈夫、エルドリッチからの許可は取ってるから」

 

 実際は何も話していない千司であるが、エルドリッチならうまく話を合わせるだろうという一種の信頼にも似た確信があった。

 

 キルルは数秒悩んだのち、最終的には首肯を返した。

 

「……畏まりました。それでは幾人か見繕い、数日後にご紹介したいと思います」

「助かるよ。準備が出来たらアリアにでも伝えてくれ」

「はい」

 

 その後は細かな動きに関して話を詰めて、この場はお開きとなった。

 千司はロベルタとキルルに別れを告げてから、アリアを伴い同所を後にする。

 

 宿に戻る途中、フードを被り直したアリアが徐に口を開いた。

 

「それで、アリアはどうすればいいの?」

「アリアに関してはもう一度アイリーンの姿にするから、昼間にも言った通り基本的にはエリィの友人として行動してくれ」

「ん、わかった」

 

 小さくうなずくアリアに、千司は続ける。

 

「……エリィとは、仲良くするんだぞ」

「? うん」

 

 頭に疑問符を浮かべる彼女と別れ、千司は一人で宿屋に戻った。

 部屋に入ると、ベッドの上ですやすやと寝息を立てるライカの姿。

 

 相も変わらず恐ろしいまでの顔面偏差値である。

 

 そんな彼の隣に横になると、ライカは寝ぼけ眼で口を開く。

 

「ぁえ、奈倉さま……どこかに行っていたのですか?」

「少しトイレにな。起こして悪い」

「いえ……別に……」

 

 そうして再度夢の中へと旅立つライカ。千司はそんな彼を抱き枕代わりにして、自身も眠りに着くのだった。

 

 

  §

 

 

 翌朝、ライカに起こしてもらった千司は、いつも通り彼に着替えさせてもらう。

 

 こうして世話をしてもらうのも久し振りだななどと感慨に耽りつつ、日課であるセクハラを行い、ライカが嫌そうな顔を浮かべるのを眺めてから、宿屋に併設された食堂で朝食を摂った。

 

 その後は早々に王宮へと向かった。

 

 王宮に到着するや否や、千司は荷物を部屋に運ぶようライカに預け、一人で訓練場へと向かう。近付くにつれ訓練に励む声が聞こえてきて——。

 

(おー、やってるやってる)

 

 覗き込んだ先ではリニュと実戦形式の訓練を行う猫屋敷の姿があった。

 

 その後方ではレーナに魔法を教わるせつなや文香、松原の姿を発見。さらに端の方では魔法の才もなく、かといって実践訓練に参加するレベルに達していない下級勇者が、つまらなさそうな表情で基礎訓練に励んでいた。

 

(見た感じ、変化らしい変化はないな)

 

 千司がしばらく顔を見せていない間に、一人ぐらい実践訓練の方に上がっているかとも思ったが、面子は面白いほど変わっていなかった。

 

 退屈な基礎訓練が、余程の事やる気を削いでいるのだろう。

 

 などと観察しつつ、千司は訓練場端の木陰で休憩していた斎藤夏木の下へと足を運んだ。

 

「よう、久し振り」

「あれ、奈倉じゃん。久し振りー、帰ってたの?」

「ついさっきな」

「無事に帰って来て何よりだね」

 

 にこやかな笑みを浮かべる斎藤は、自身の隣をポンポンと手で叩く。座れという意味だろう。千司は腰を下ろしてから、彼女に尋ねた。

 

「それで、こっちはどんな感じだ?」

「どうだろーねー。そう言うのは景に任せっきりだから」

「手伝わないのか?」

「無理無理、柄じゃないし。それぐらいわかるでしょ?」

「まぁな」

「ひどー、正直に言うなよなー」

 

 ぺしっと肩パンしてくる斎藤。相変わらず元気な少女である。

 

 そんな彼女は、現在進行形で繰り広げられる猫屋敷とリニュの実戦形式の訓練を見つめていた。両者の動きは当然リニュの方が圧倒的に格上であるが、それでも猫屋敷は汗を拭いながら果敢に攻めている。

 

 そんな姿を眺めつつ、話を続けた。

 

「それじゃあ、斎藤的には特に変わりはない、と?」

「さぁ……どうだろ。正直、気になることはあるけど、気のせいかもしれないし。それに、もしそれが奈倉にとって重要な事なら、きっとすぐに気付くよ。その辺目敏いでしょ?」

「……そうかもな」

 

 意味深なことを語りつつ、斎藤は腰を上げる。

 お尻についた土を軽く払い、大きく伸びをするのとほぼ同時、前方で繰り広げられていた猫屋敷とリニュの訓練が終わった。果敢に攻めていた猫屋敷であったが、あと一歩のところで攻撃を躊躇。リニュのカウンターを喰らって、地面を転がった。

 

「動きは良いが、こればっかりは精神的な問題だな。……よし、ネコヤシキは休め。次はサイト――センジ!?」

 

 斎藤に視線を向けたリニュは、その隣に座っていた俺に気付くや否や、素っ頓狂な声を上げた。

 

「ただいまリニュ。俺のことは気にせず訓練を続けてくれ」

「あっ、いや、だが……ぐぬぬ」

 

 そのまま駆け寄ってこようとした竜人族(ドラゴニュート)を、それとなく手で制する。彼女に捕まるとしばらく解放されないのは目に見えているからだ。加えて、他の勇者にリニュとの関係が露呈する可能性がある。

 

 それはそれで面白いことになりそうだが、今は避けたい面倒事だ。

 

 ただリニュの言葉で他の勇者たちにも帰って来ていることが伝わったらしく、せつなや文香、それ以外の下級勇者からも視線が向けられた。……と、同時に、千司は違和感に気付く。

 

(あら~? なーんか、関わりの薄い連中からの視線が厳しいなぁ~)

 

 具体的には基礎訓練を押し付けられている下級勇者である。

 

 篠宮たちが王宮を発って以降、千司は居残り組の中で上下関係を構築していた。故に嫌われるのは必然。しかし千司はそのポジションを辻本や村雨といった『優秀な銀級勇者』に押し付けていた。

 

 むしろ千司自身は彼らをスケープゴートに、好感度を稼いでいたつもりである。

 

 ふと斎藤に視線を向けると、彼女は小さく首肯。

 

(これが気になることねぇ~)

 

 一人納得する千司。

 しかし考えるのは後回しにして、今は訓練を終えたばかりの猫屋敷に声を掛けた。

 

「調子はどうだ?」

「最悪」

 

 千司の言葉に疲れた表情で返す猫屋敷。

 彼女はそのまま隣に腰掛けようとして、直前で動きを止める。徐に自身の身体をすんすんと嗅いでから、照れた表情で距離を取った。

 

「別に気にしないが?」

「私が気にするの。……それで、かなり長い間顔を見せなかったけど、何してたの?」

「王都の外に冒険へ。詳細は後で話すが、まぁ実りはあったよ。そっちはどうだ?」

「変わりはないかな。一応、まとめられていると思う。……ごめん、嘘。ほんとは最近、何かギスギスしてる」

「あっちの連中か」

「まぁね。同じ居残り組なのに、私たちが優遇されてるって思ってるみたいで」

 

 暗い表情を浮かべる猫屋敷に対し、千司は内心ニコニコ。

 順調に心が悪意に浸食されている様に歓喜である。

 

(平和ボケした心持とかいらないんよ。殺伐とした空気感がないと、いざって時に一線を越えられないからなぁ~)

 

「まぁ、しばらくこっちにいるし、何か対策を考えとくよ」

「そうなの? 迷惑かけてごめん、ありがと」

「迷惑なんて、それなら頼りっぱなしの俺の台詞だ。ありがとう、猫屋敷」

「……頼りっぱなしは私の……ううん、何でもない。どういたしまして」

 

 堂々巡りになると判断したのか、感謝を受け入れる猫屋敷。そんな彼女に、千司は僅かに顔を伏せながら、おずおずと告げた。

 

「ただ、実を言うと今回の冒険であらかたの調査が終わってな……しばらくしたら、外で実践訓練をしてもらいたいと思っている」

 

 千司の言葉に、猫屋敷はきゅっと口を噤み、小さく息を吐き出してから問うた。

 

「……それは、私も?」

「あぁ、猫屋敷にもぜひ参加して欲しいと考えている」

「……」

「もちろん無理強いはしない。けど……俺は猫屋敷に来て欲しいと思っている。まだ時間があるから、考えといてくれないか?」

「……わかった」

 

 渋々と頷く猫屋敷を横目に、千司は今後の動きを考えるのだった。

 

 

  §

 

 

 その後、猫屋敷以外の面子にも声を掛けようとして、ふと王宮の方角からすっかり見慣れた紺色の髪の女騎士が近付いて来るのに気付いた。

 

 彼女は口元に笑みすら浮かべて、千司に声を掛ける。

 

「貴公、帰っていたのか!」

「あぁ、セレンはかなり早く帰ってたみたいだな。ライカから聞いたよ」

「うむ、無事に伝言が伝わったようで良かった」

「それで、えっと……サバトだったか? 彼はどうしたんだ? ライザ王女に知らせると言っていたが」

「それが北方の騒ぎが思ったより手こずったらしく、まだ王女が戻っていなくてな。まだ報告できていない状況にある。今はあの愚かなる第二騎士団長オーウェンの実家にて客人としてもてなされている」

 

 不快そうに眉を顰めるセレンを見るに、どうやら彼だけでなくその家も嫌っているらしい。

 

「なんでまたホリュー家に?」

「貴族時代に親交があったそうだ」

「なるほど」

 

 適当に頷くと、セレンは「だがそれも今日まで」と笑みを浮かべる。

 

「実は早馬で明日には王女が戻られると連絡があった」

「……それはよかったな」

「あぁ! 貴公も報告があるだろうから、明日までにまとめてもらえると助かる」

「わかった」

「それじゃあ私はまだ仕事があるから」

 

 手をひらひらと振って去っていくセレン。

 そんな彼女を見送りつつ、千司は明日を想って憂鬱になるのだった。

 

(……さて、ライザちゃんはどう出るのか)

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