宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第37話】
"地球星系"から遥か離れた銀河系内の空間。
現地勢力――ボラー連邦現体制派が、「ネリン軍管区」と呼ぶ地域区分の外れにあたる宙域。
絶対零度を下回らんばかりに凍てついた星海を、二百を優に超す艨艟の群れが進んでいる……。
それこそは、星間大国ボラー連邦の最高指導者
ベルム・フォン・ベムラーゼ最高管理委員長が、最高幹部を集めた会議の場で
期待を込めて「新戦力」と呼んだ、体制側ボラー軍・新造艦隊の姿であった。
その艦列は既存のボラー艦隊同様に、
アールヴァ級・バルツイル級の装甲艦を基軸とする打撃艦戦隊三隊が前衛・側衛を務め、
赤く塗られた旗艦級大型戦艦を中心に置いてクロトガ級・アマンガ級で成る戦艦隊が続き、
カルチヤ級投射艦多数が主力のミサイル投射艦群が殿を務める構成で――その総数、約250隻。
典型的なボラー親衛軍の重編制打撃艦隊と同一に見えるが、よく見れば各所に
まず、艦隊にはガノンダ級航宙母艦の姿が無い。
旗艦に設定されていることが多い打撃艦戦隊にも一隻もいない。
また、艦隊の各艦は、元より角ばって真っ直ぐな線が多い既存のボラー軍艦艇に輪をかけて
直線的かつ全体的にディテールを廃した、簡略化されたような姿をしている。
その上、艦橋構造物は戦艦級のそれはカルチヤ級(駆逐艦)程度のものに置き換えられ、
カルチヤ級に至ってはほとんど艦橋が無くなっており、代わりにアンテナマストが立つのみ……
この唯一の例外となっている真紅の艦隊旗艦も、アーコフ級やバイオン級ではない新型艦だった。
「同志司令官、現在我が艦隊は『ラガド星雲』に接近しつつあります。」
「分かった。……叛乱軍との戦線に到着するまで、二日という所だな」
既存のそれとは相違点ずくめのボラー艦隊の旗艦、
地球やガミラスが把握していない新型戦艦の艦橋では、艦隊司令官の男が報告を受けている。
体制側ボラー軍増援艦隊『第十二機械化打撃艦隊』を率いる、ボボファン特務大佐である。
「機械化」の文字が示す通り、旗艦以外の艦隊を構成する簡易設計艦は全て無人化されていた。
多数の将兵が叛乱側に寝返ったかその予備軍の疑いがあるため戦線へ動員できないこと、
ボラー体制側は追い込まれつつある現状でとにかく艦艇数の確保を優先したことから、
艦の生命維持装置などを積載しない無人運用前提の簡易設計艦多数とそれを
有人の旗艦少数または単艦で構成された「機械化打撃艦隊」を、体制側ボラー軍は配備したのだ。
なお、叛乱軍側に艦隊が流されることを恐れてか、
ボラー無人艦隊は「親衛軍」、それも特に選抜された人員が行うこととなっている……。
そうして編成された「機械化打撃艦隊」は、部隊としての体裁が整い次第、
連邦の中央部から激烈を極める各叛乱軍管区との前線へと送られており、
十二番目に編成されたこの艦隊も、ラガド星雲を挟んでネリン軍管区と隣接している
バルジク軍管区の叛乱軍こと「統治再建機構」との戦闘宙域へ向かっている最中なのだった。
「捲土重来、ですね!」
「ああ、これで奴らに思い知らせることが出来る。 見ていろ、叛乱者ども……!」
若い部下の言葉に表情を険しくしながらも頷き、息巻く無人艦隊司令・ボボファン。
彼もまた上記の通り、ボラー現政権・永久管理機構の最高管理委員会及び
その直轄軍事組織・親衛軍の上層部から、能力と体制への忠誠心を
貴重な新戦力である無人艦隊を預けるに足ると判断された男である。
エリート揃いである親衛軍の中でも、彼が選ばれたのには理由があった。
本来、艦隊の司令官に任じられる将官たちが内戦で次々戦死・戦傷で使えなくなり
年齢・経験的に将官にはまだ不適格な佐官に艦隊指揮官の権限を与えた「特務大佐」の制度に
ボボファンが合致していたことがあるのは当然だったが、特筆すべきは彼の
何を隠そうボボファンは元々、
第二十九親衛打撃艦隊に属するガノンダ級航宙母艦の艦長(当時は中佐)を務めており、
同艦隊は地球歴換算2206年8月にバルジク軍管区の司令官らを「不正物資流通網運営」など
連邦に対する背任罪で逮捕するため同軍管区に向かった所、叛乱した現地艦隊の奇襲を受け
壊滅する憂き目にあったが、彼の指揮するガノンダ級は辛うじて生き残り
同じ第二十九親衛打撃艦隊の残存艦をまとめ上げて命からがら帰還を果たしていた。
このことからボラー体制側中央は彼を評価し、昇進の上、無人艦隊を委ねたのである。
ボラー上層部には「一度殺されかけた相手なら絶対に寝返るような真似はすまい」という
考えもあったようだが、事実ボボファンは、親衛軍の僚友を卑劣な奇襲で殺した敵に
並々ならぬ憎しみを抱き、上層部に一刻も早い叛乱軍との再戦を願い出ていた。
それがようやく叶う――復仇の時を前にして、無人艦隊司令部の戦意は昂っている。
「最高管理委員長ベムラーゼ閣下、また親衛軍司令長官バルコム閣下は
我々に、この最新鋭の旗艦『エレクダール』を与えて下さった。
その御期待にも必ずや応えねばならん。」
「はい!」
ボボファン司令官は一言一言に、特に敬愛する指導者が自分たちのために
宛がってくれた新型旗艦の名には力を込めて語り、部下も熱が入った顔で同意した。
―――第十二機械化打撃艦隊旗艦、ガオヴァ級指揮戦艦『エレクダール』。
一般的なボラー軍の通例通り、艦隊旗艦を示す赤一色に塗られた400m級の大型戦艦。
サイズ的に同等で、役割も共通する前級艦・アーコフ級指揮戦艦と比べると、
ガオヴァ級艦の艦影は上下に張り出したシルエットとなっている。
横から見ると、扁平な菱型に近い主船体の下には台形の大型構造物が存在しており、
反対側の船体上部にも隠顕式陽電子主砲塔を格納しているらしい段々の構造物がある。
艦橋構造物は他のボラー艦と同様に船体上部最後部近くに置かれているが、
比較的小型の
バルツイル級、クロトガ級の流れをくみ起伏が少ない角型のアーコフ級とは異なり、
この新型旗艦級戦艦はアマンガ級の系譜にあり、同級を大型化したような姿であった。
ガオヴァ級は元々、高性能だが大型なこともあって整備性やコスト等で取り回しが悪く、
多数の建造・運用に難があった親衛軍艦隊専用の大型旗艦バイオン級を補完するため、
同級の性能をなるべく維持しつつボラー軍の標準旗艦アーコフ級と同等のサイズまで
小型化することを目的に「50号計画」で開発・設計された試作艦の色が濃い戦艦である。
そうした素性と時勢のため建造数は現状あまり多くなく、
「蹴撃」の意を持つ艦名を冠した戦艦『エレクダール』も実戦部隊に配されることはなく
ボラー連邦中央部で兵装・艤装の試験艦の役割に徹していた。
そんな折、内乱の発生によりボラーで無人艦隊の整備が始められると、
多数の無人艦艇を指揮・管制する旗艦に申し分ない性能を持つガオヴァ級指揮戦艦、
とりわけ実戦部隊に配されておらず自由に動かせる『エレクダール』は
新編する機械化打撃艦隊の旗艦にはうってつけの艦であった。
無論、内戦下の体制側ボラー軍の厳しい懐事情の中で全ての機械化艦隊に
ガオヴァ級あるいはアーコフ級のような専用旗艦が配備できる訳はなく、
他隊は旗艦としてアマンガ級とボラー軍制式重投射戦闘艦の座を争って敗れ、
モスボールされていたカルチヤ級の拡大発展型や、旧式化したガノンダ級初期建造艦を
代替するため設計された軽空母ドラノダ級の格納庫に指揮通信設備を詰め込んで
旗艦に仕立て上げたものが配備されるなど、あらゆる艦が動員されている。
その中で、『第十二機械化打撃艦隊』に新鋭旗艦戦艦が配置されたことは即ち、
この部隊が赴く先がボラー連邦にとって重要な戦域かつ激戦地であることを意味する。
体制側上層部の意図はボボファンら将兵も十分承知しており、彼らは闘志を奮わせていた。
「――しかし、皮肉なものだな。宙域間の通行の障害になるだけと思っていた
『魔女の棲処』が、叛乱軍を防ぐ壁にもなるとは。
尤もそのお陰で、我々は戦線到着に時間がかかる訳だが……」
「はっ……少々危険はありますが、もう少し星雲に近い航路に変更しますか?」
「どうしたものかな……」
旗艦『エレクダール』艦上で、ボボファン司令と部下たちが「魔女の棲処」――
第十二機械化打撃艦隊の前にある暗黒星雲「ラガド星雲」に視線をやりながら語らう。
この「大きな手のひら」の名を持つ暗黒星雲はボラー連邦領内に少なからず点在する
他の暗黒星雲同様、時折周辺宙域に対しエネルギーを減衰させる正体不明の干渉波を放って
恒星や惑星の活動を低下させ、
人々から「宇宙を凍てつかせる息吹を放つ"魔女"の棲処」として、古くより恐れられてきた。
実際問題、ラガド星雲近辺で機関に不調を来し遭難した宇宙船は数知れない。
そのためボラーの交通網・宇宙航路はこれらの影響圏を避けるように設定され、
流通に余計な時間を要し大いに効率を損なっている原因でもある。
一方その性質上、ボボファンが言う通り目下の内戦で叛乱軍管区の艦隊が
体制側宙域へと一気呵成に雪崩れ込むのを阻む「壁」になったのも事実だ。
当然それは、かつてベムラーゼら体制側上層部が看破した通り
体制派軍の艦隊が叛乱軍管区へ逆侵攻する時にも同じことが言えるのだが、
「統治再建機構」の攻勢を凌ぐので精一杯な現状では考えても詮無き事であった。
増援無人艦隊の
万が一不定期放出のエネルギー減衰干渉波を受けた時に大きな影響を受けること必定の、
ラガド星雲に近づく代わりに迂回で浪費する時間を抑える短縮航路をとるかで
頭を悩ませているとき、"事件"は起こる―――。
前兆もなく、『エレクダール』艦橋内が暗くなった。照明が非常灯に代わったのだ。
「――ッ、何だ!? 敵襲か!?」
「いえ、レーダーには何の反応もありません!」
「機関が緊急停止した模様! 現在、本艦の電力系統は予備電源に移行!」
「なんだと!? ここはまだ干渉波の影響が酷い距離ではない筈だぞ!」
艦隊司令部は親衛軍のエリートらしく、狼狽を最低限に抑えて問題の特定と対処にかかる。
どうにも旗艦のコグダール機関が突如として緊急停止したらしかったが、原因は不明だ。
仮にラガド星雲の「魔女の息吹」こと干渉波による仕業であれば、
計器などに予兆が現れるだろうし、何より艦橋の窓から見える隷下の無人艦隊には
機関に不調を来した艦の存在は見られず、制御システムにもそのような報告はない。
旗艦だけが、突如として機関停止という非常事態に見舞われたのである。
「とにかく、機関を復旧させろ! 艦隊にも停止命令を出せ!」
「了解しました!」
怪訝に歪めた表情のボボファン司令が取り敢えずの方針を示し現状の打開を試み、
部下たちもそれを受けて機敏に行動し始めるが、彼らの努力は唐突に遮られた。
旗艦のレーダー要員が、
「周囲の戦艦隊、主砲を展開!? ……本艦に砲を指向しています!!」
「なにっ!?」
まったく突然のことである。
真っ赤な旗艦『エレクダール』の周囲にあったクロトガ級・アマンガ級をベースとした
ボラー軍無人戦艦は、旗艦からの命令もなく突如として隠顕式砲塔を展開し、
あろうことか旗艦にそれを向け、ボボファンたちがその様を確かめる間もなく
黄緑がかった陽電子の閃光を撃ち放つ。
それも一隻・二隻ではなく、『エレクダール』周囲にいる戦艦全てが一斉に!
無数の光条は、容赦なく旗艦の赤い船体へ突き刺さった。
「「「うわあああああ!!」」」
機関が停止し、頼みの
統率していた無人戦艦からの砲火を四方八方から浴びせられる『エレクダール』。
意志を持たない筈の無人艦隊からの「叛乱」に第十二機械化打撃艦隊司令部は茫然となる。
否、彼らが考える間も与えぬほどの勢いで旗艦は、味方であったボラー無人艦隊の砲撃に
被弾し続け、あっという間に気息奄々・沈没確実の状態へ追い込まれたのだ。
被弾箇所から生じた火災は艦橋にも及び、黒煙と炎熱にボラー将兵たちは斃れて行く。
艦隊司令官ボボファン特務大佐もまた、何が起きているか分からぬうちに
艦橋至近に無人戦艦が放った陽電子ビームが命中した衝撃で、床に強かに叩きつけられ
流血に崩れて動けないまま、自身へ迫り来る火焔を眺めるばかりとなる。
彼は、自身が先の叛乱軍艦隊の奇襲から生き延びた時点で運を使い果たしていたという
無慈悲な事実を理解させられる羽目になったのだ。
「うぅ……ま、魔女の……呪い……か……?」
瀕死のボボファン司令はそう呟き、事切れた。
直後、第十二機械化打撃艦隊旗艦『エレクダール』も、
先ほどまで率いていたはずの無人艦の列の中で跡形もなく爆発四散する。
司令官は復仇という悲願を果たせぬまま、旗艦は初陣を飾らぬうちに、虚空に消えたのだ。
一方、原因不明の叛乱を起こしたボラー無人艦隊250隻は、
そのまま「魔女の棲処」――ラガド星雲に向かって進撃を続けていく。
まるで、何者かの意思に操られているかの如く………。
あまりにも唐突で、艦隊司令部は外部へ通報することもできず、
外にこの事件の実情を知る者はいない。
増援を受ける筈だったネリン軍管区前線部隊やボラー体制側上層部は
暫らく後に第十二機械化打撃艦隊が行方不明となっていることを知ったが、
厳しい戦況から、行方不明になった艦隊の捜索に兵力を割くことはできなかった。
ボラー体制派当局は報告・通信記録ほか諸々の状況証拠を鑑みて、
寝返った可能性・前線後方に回り込んだ敵の奇襲を受けた可能性は低いこと、
第十二機械化打撃艦隊が暗黒星雲を前に突如として失踪したことから、
「魔女の息吹」による機関トラブルなどで遭難、暗黒星雲内へ墜落したと判断した。
だが、この無人艦隊の謎の叛乱と失踪事件が呼び水となって直後に生起した事態は、
天ノ川銀河に激震を走らせることとなる。
時に、西暦2206年12月5日―――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翻って、視点は地球連邦の側へと移る。
「ムルマン星秘密宇宙港壊滅事件」から二カ月ほどが経過した頃だ。
あれから、ボラー連邦体制側が自勢力圏内における地ガ船団の運行を認めたことで
援助計画はふた月のうちに着実に進展、成果を上げつつあった。
まず10月1日、ボラー体制側の方針転換を受けて地ガ合同の援助計画本部が船団再開を決定。
同3日にサルタ基地まで進出していた宇宙戦艦『ムサシ』を旗艦とする第二回船団「TB-02」が
ボラー体制側当局との再調整を経て、再開後最初にボラー連邦圏へ送られた援助船団となった。
そして同7日、TB-02船団は体制側ボラー領中央に位置しており
民生物資を切実に必要としていた「工廠惑星トゥラーラ」へ現地当局の協力の下に無事到着し
初めてボラー連邦市民の手に地球製人道援助物資を渡すことに成功したのである。
これに続いて10月上~中旬には、
北米管区軍籍の宇宙戦艦『アリゾナ』『ペンシルバニア』が率いる第三次・第四次船団も
ボラー体制側天体で特に援助を希望していた「惑星ズモレン」「惑星ガストラハン」に到達、
人道援助の任を果たして妨害を受けることなく地ガ共同開発宙域へと帰還。
事実上失敗した第一次船団の雪辱に燃える宇宙戦艦『ヤマト』も第五次船団を指揮して
「惑星ガルーカ」を目的地として援助船団運航の任に再挑戦し、見事リベンジを果たした。
以降このように、四隻の護衛戦艦を軸とした援ボ船団はローテーション方式により
援助物資荷積地となったバーナード星、中継点である共同開発宙域外縁のサルタ基地、
ボラー体制側勢力圏の援助希望天体を相当なペースで往復運航されている。
この間、ムルマン星で起きたような「事故」は一切生じていない―――。
また同時期には、同盟国である地球連邦と同じく
ボラー体制側からの援助要請を受け入れた共和政ガミラスも、本格的に動き始めていた。
同国は当初、援助船団の輸送船舶のみを提供する方針で、
かつてガミラス星からの移民計画時に地球側から借款返済を兼ねて供与され
『国家予備商船隊』としてガス惑星でモスボール保存していた多数の
無人運用で援助物資輸送手段に活用する気でいた。
しかし、多数の無人貨物船を保管状態から稼働状態へ即座に移行させることは不可能だったため
援ボ船団は暫くの間、ガミラス貴族が営む宙運企業「ツァインフェルテ社」の民間船を雇船し
すると、雇船契約でツァインフェルテ社が巨額の利益を上げたことに触発されたのか
他の企業やそれと繋がる政治家・自治体などガミラス国内の広範から政府・軍に向け、
「ガミラスもより積極的に援助計画に関与し経済振興策とすべきだ」との声が上がるようになる。
結果、ヒス政権はこれを無視できず、地球側が運航する船団に輸送船を派遣しても
なお余力がある「国家予備商船隊」を利用した、銀河間航路方面から
ボラー体制側勢力圏に向かう、ガミラス側独自の船団の派遣を計画。
新たな船団を受け入れることになるボラー体制側としても警備に割く兵力や手間はあるが
民間に回せる物資はあればあるほど良いため拒む理由も薄く、これを快諾した。
11月24日にはガミラス援ボ船団の運航司令部が、銀河間航路の自由浮遊惑星バランの
新バラン鎮守府内に開設され、銀河方面軍長官フラーゲ大将が船団運航司令官を兼任。
また、船団護衛実施部隊としてフォムト・バーガー少将率いる第六空間機甲旅団艦隊も
バラン星に配置され、船団運航開始の時を今か今かと待っている。
地球側船団にも11月上旬からガミラス「国家予備商船隊」の
ツァインフェルテ宙運社から借りていた民間輸送船の代替を始めており、
11月28日に「惑星ギロフ」に到着・荷降ろし後帰還中の『ヤマト』率いる第十四次船団、
「惑星リャダン」へ航行中の『ムサシ』隷下TB-15船団は全船がFE級に置き換えられている。
さらに、FE級多数を戦列に加えたことに加え、『H計画』で設計・時間断層で急速量産された
ハンドラー級・ハウンド級という大小二種の無人艦――即ち船団護衛艦が一定数揃ったことで
援助計画本部は輸送船団そのものの大規模化を企図し、第十六次船団「TB-16」は
無人貨物輸送船十数隻に有人護衛戦艦一隻・大型無人艦一隻・無人艦八隻の護衛がつく
従来の援ボ船団の編制から転換されることが決まった。
現在、初の大規模援ボ船団「TB-16」に属する
地ガ共同開発宙域の植民惑星バーナード星へ援ボ船団専用に設けられた特設宇宙港で
地球の工業地帯(時間断層工場含む)で製造加工された食糧品・医薬品・衛生用品・衣料品・
発電機や暖房機材・水道資材などインフラ設備からなる人道援助物資を積載中である。
ボラー市民向けの人道物資を満載する50隻近い輸送船の護りに付く護衛艦の総数は
北米管区の護衛戦艦『ペンシルバニア』『アリゾナ』の2隻を指揮系統の中枢として、
ハンドラー級大型無人戦闘艦4隻、ハウンド級無人戦闘艦28隻にも上っていた……。
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『―――という次第でありまして、援助船団「TB-16」は予定通り明日0700時に
バーナード星特設貨物宇宙港を進発できるものと考えております。』
モニターに映し出されているのは、厳めしい顔付きの地球連邦防衛宇宙海軍の将官である。
所々金線が入った黒コートを纏ったこの初老の男性軍人はアレクサンドル・アラルコン少将。
ボラー連邦(体制・反体制側問わず)との有事に備え編制された「北銀河方面部隊」こと
宇宙海軍第七艦隊での副司令官格の一人、第七艦隊戦艦群司令の座にある人物だが
この時は宇宙戦艦『ペンシルバニア』に将旗を掲げ、TB-16船団を指揮している。
彼は今、旗艦『ペンシルバニア』の士官通信室から、
地球にある援助計画本部へ現在のTB-16船団の荷積み状況について報告中だった。
「了解した、アラルコン少将。貴船団の無事の航海を祈る。」
ボラー人道援助計画本部でアラルコンの報告を受け、応答するのは同じく地球連邦防衛軍人――
それも宇宙海軍、防衛軍全体のトップを歴任した男、パウロ・
現在は地球連邦交易局で軍事
彼は、地ガ政府がボラー連邦体制側から物資援助の要請を受諾したことにより
地ガ合同で編成された援助計画本部にも交易局から出向・幹部として参加していた。
タナカと同じく援助計画本部に参加している幹部は、彼に劣らぬ錚々たる面々である。
本部長を務めている、地球連邦の有力議員ジョセフ・ジョースターⅤ世。
今はタナカ同様交易局に籍を置き、地ガの対ボラー接触を見据えて同局を裏から操っていた
元・地球連邦外務局長官のチャールズ・
援助計画本部で正規・現役の外務局出向者ながら実質的にエバットの補佐役となっている
在ボラー地球大使館開設準備部長の
防衛軍からの正規出向者で、船団が輸送する人道援助物資の管理・調達業務の多くを担う
芹沢元帥の腹心・防衛軍参謀本部兵站部長の下村光二郎少将。
ガミラス側からも大使館の代表者としてローレン・バレル参事官、
銀河駐留軍団の連絡要員として同司令部からノルム・ベール大佐が出席している。
援助計画本部は次期大統領の呼び声高いメアリー・ピットの肝入りであるためか、
タナカとエバットを始め彼女が長官を務める交易局から相当数の人材が送り込まれていた……。
「……今回の直接会合のタイムテーブルはこれで全て済んだことになりますな。
それでは解散となりますが、緊密な情報共有を変わらずお願い申し上げる。
皆さん、お疲れ様でした。」
この日の援助計画本部の会合は初の大規模援助船団「TB-16」の
進捗報告を受けたところで一段落し、ジョースター本部長の訓示によってお開きとなる。
他にも役職を抱えていて多忙である大半の幹部たちは
互いの挨拶もそこそこに、本部を置いている交易局の大会議室から退出していく。
後には、元から交易局の所属者であるタナカ予備役大将とエバット元外務局長官が残された。
尻から根が生えたように、二人は会議室の椅子から立ち上がらない。
そのうち、片方――タナカ予備役大将の方から嘆息が聞こえてきた。
エバットがそれを聞いて顔をタナカの方へ向けると、
タナカも視線を返してそのまま口を開く。彼の表情は、鉄のように硬い……
「……ミスター・エバット。 貴方は歴史に造詣が深いとお聞きしました。
古代ローマの兵器に、『コルウス』というものがあるのをご存知か?」
エバットは、眼前の軍人――それも生粋の叩き上げ・現場肌の提督が、
そのイメージと直結しないような学術的な話題を口にしたことに面食らいながらも
己の皺深い脳に刻まれた知識を参照して応じてみせた。
「ええ……。
紀元前はポエニ戦争の頃、操船技術が未熟だった初期のローマ海軍が、
技量で勝るカルタゴ海軍に対抗するために編み出した強行移乗用の"橋"のことですな」
老外交官の答えを聞き、タナカは感嘆の色を滲ませて頷いた。
「流石だ……。
時折、これについて思うことがありましてな、聞いて頂けますか。」
「えぇ、私で良ければ」
どうやらタナカは何か思う所があるらしく、エバットに相談を持ち掛けたいらしい。
エバットは内心で訝しみながら、これを承諾する。
それを確かめてから、元・防衛軍総司令官は滔々と語り出すのだった。
「――現在の地球人類は、当時のローマと同様、
ガミラスやボラー、ガトランティスなど先んじていた勢力に比べ、
総合的な科学力や軍備で劣る防衛軍、ひいては地球が得た『コルウス』こそが、
『波動砲』だったのではないか――そう、考える時があるのです。」
「なるほど。 言われてみれば、そうかもしれません。
此方から敵へ、架けた先に破滅を齎す『光のコルウス』とでも言えましょうか」
タナカの言葉を吟味するように、エバットは思案する。
その脳裏には、かつての対ガトランティス戦争の記録映画で見た、
「地球連邦 防衛宇宙海軍」の紋章が刻まれた艨艟たちが放つ青白い光芒が描き出された。
他にもエバットが知る幅広い知識を基に構図を組み立てていくと、
確かにタナカの言う通りのように思われる……。
だが当のタナカは、苦いものを吐き出すかのように顔の険しさを一層増して、続けた。
「……それだけに、私はガミラスやボラーが『波動砲』を持つことを恐れています。」
「………。」
彼の意見に、エバットも同感だとばかりに表情を歪めた。
先述の通り、遥かに国力・軍備で劣る地球が、大国であるガミラスやボラーと
ほぼ対等な関係性を構築できた理由の大きな割合を占めるほどの力を『波動砲』は有する。
それを、元より圧倒的な力を持つ大国が有するとしたら――慄然とせざるを得ない。
現在では同盟国ではあるがかつての怨敵でもあるガミラスが『
保有することになった際も、保有に同意する対価として次元潜航艦技術の提供を求めた上、
運用に大きな制約が付く総統座乗艦以外に搭載しないことを書面で確約させているのだ。
一方でエバットは、星間大国がこうした兵器を大々的・普遍的に保有することは
現実的とは言い難い――その意を込めて、タナカに告げる。
「……しかし、コルウスには弱点があったそうです。
コルウスを乗せた船はバランスを崩し、嵐に遭っては容易に転覆したと……」
上記の経緯でガミラスがデスラー砲の搭載を総統座乗艦に限る条件を吞んだのは、
彼らとしても下手に波動輻射兵器を軍内に遍在させる事は避けたい意図があったためだ。
万が一、波動砲搭載艦艇が反体制勢力の手に落ちれば―――被害は想像もつくまい。
地球のような単一星系国家・単一天体起源民族国家であればまだしも、
ガミラスやボラーのような広大な領土と複数の天体起源民族を有する多民族国家では
内乱・テロで波動砲のような惑星破壊級兵器を用いられる可能性は低くない。
だからこそ、ガミラスは波動砲の搭載をデスラー総統の座乗艦一隻に留め
ボラー連邦では波動砲自体の開発・配備を行っておらず、それに準ずる兵器である
惑星破壊ミサイルも最高首脳直轄組織「親衛軍」のみに扱わせているのだ。
「示唆的な話ですな。
その構図に重ねれば、波動砲に頼った勢力はいずれバランスを崩して転覆する――
そのことは理解しています……理解してはいるのですが……。」
当然、軍事・安全保障の専門家たるタナカはそうした事情を重々理解している。
それでも彼は、地球外勢力――ボラー連邦が波動砲を持つことを危惧していた。
波動砲を製造する技術力はあるだろうし、事実上波動砲の下位互換となっている
同国の重粒子砲「ボラー砲」の運用ノウハウは波動砲戦術への転用も容易であろう。
その気になれば彼らは何時でも、波動砲の大量配備が可能なのである。
特に、ボラー反体制派組織「統治再建機構」が波動砲を持てば、当然内戦で使う筈だ。
ボラー体制側も対抗のためそれを保有する必要が出るし、現在の反体制側の勢いであれば
体制側が波動砲を持つ前に現体制を打破してしまう可能性すらある。
そうなれば、将来の地球とガミラスは、波動砲を用いることに何ら躊躇いのない
恐るべき国家と直面することになる―――しかも、それは決して遠い話でもないのだ。
「……ムルマン星の一件を考慮すると、
ボラー反体制派が我が援助船団を攻撃しないという保証はどこにもありません。
私は恐ろしい……波動砲を持つ敵の前に、防衛軍将兵を送り出すことが……!」
「………。」
タナカは声を震わせる。
かつて現場に立ち、今では後続を見送る者ゆえの恐れであった。
痛々しいほどに委縮した元防衛軍統括司令長官の姿を前に、エバットは何も言えなくなる。
二人きりの交易局大会議室を、再び静寂が閉ざし始めた。