pixivより転載
私は夜鷹純の娘である。既に成人している。
夜鷹純が引退してすぐにむしゃくしゃで作った子どもだ。彼が金回りの良い男だったので、私は金銭面では一切苦労せず育ったのは恵まれていたと思う。
その恵まれた金回りで私はバレエ留学し、パリ・オペラ座に就職した。就労ビザも取っているし、基本的に今の私はフランスで暮らしている。
ただ、色々心配な親ではあるし、時折顔を見に帰国することもある。それも、最近は頻度が下がったことだが。
頻度が下がった原因。それは、夜鷹純と言う難儀な男に惚れて、また夜鷹純に惚れられて、夜鷹純がアラフォーにしてついに手に入れた幸福──明浦路司である。彼はフィギュアスケートのアシスタントコーチ(それもオリンピック選手)をしているため忙しいはずなのだが、恋人の世話を甲斐甲斐しく焼く。体を壊さないか不安なので、マメに連絡を交わしながら「無理しないでくださいね」「父は意外に頑丈ですからね」と心配している。恐らく、いい大人なのだから自己管理もできる人だと思うし、父もそんな恋人を気遣っていることは知っている。
そもそもが既に養子縁組を済ませている間柄なのだ。私の義兄となった人と父は事実上の夫夫なので、バランスの取れた間柄であればいい、と思う。
「ただいま」
「お帰り」
「お帰りなさい!」
我が家に帰って来たら、父と義兄が出迎えてくれた。司は偶々休みだったらしい。父はいまだに光の影のコーチをしているので昼にいるのは普通だった。
──不意に、気づく。
父の顔を、私はじっと見つめた。
「何」
父は落ち着かない様子で──傍から見れば無表情──私に言う。
私は、まじまじと父の頭と顔を見た。それから、言う。
「……お父さん、なんか若返った?」
「そんなわけないでしょ。もう40過ぎだよ僕は」
そういう父の、肌ツヤが非常に良い。基礎化粧品のCMに出られそうなほどだ。実際父は美容系の会社とスポンサー契約をしている。他にも育毛系の会社とも契約を結んでいたはずだ。
そこで、はたと気づく。ばっとそちらを見た。
そこでは司が、ニコニコ笑っていた。そんな彼を私は見上げる。
「……司さん、何かしてます? 父に」
「何でもないよ」
そう言って、どこから取り出したのか、高級そうなデザインのボトルたちを出して見せた。
「ただ、純さんのスポンサーからもらった基礎化粧品を純さんの肌に叩き込んでるだけだよ。あと育毛剤も揉みこんでる」
「いいって言ってるのに」
「あるんだから勿体ないしこの美貌は磨かないと!」
「……納得した」
私は得心した。なるほど、お高い基礎化粧品。お高い育毛剤。そんなものを毎日丁寧に恋人に摺り込まれたのでは、それは四十路過ぎだろうと若返るだろうと。
ついでに、恋人の愛情も籠っていれば、猶更。
──肌ツヤ良く、髪もコシとハリが出ている、年齢不詳の美貌の男。
それが愛情の賜物であることがわかり、私は思わず呆れて溜息が吐いた。
司の情熱が続けば、多分還暦ごろまでこの美貌だろう。とりあえず私は、次のパリ土産は男性用の基礎化粧品にしようと決意したのだった。
「司さん、有難うございます」
「純さんの素材が良すぎるだけだよ」
「何の話?」
了