戦いが終わった雄英は、奇妙なほど静かだった。
瓦礫は片付き、校庭には日常が戻りつつある。だが、あの夜に生まれた決断と覚悟は、まだ空気の奥に沈んでいる。
俺は校舎の外れに立ち、風を受けていた。
この世界に留まる理由は、もうない。
「……師匠」
背後から声がする。
振り返ると、轟が立っていた。変身を解いた姿はいつもの生徒だが、その眼は、確かに一歩先を見ている。
「行くんですね」
「ああ」
短い返事。
世界を渡る以上、再会の保証なんてどこにもない。
「……もう、会えないかもしれませんよね」
その言葉に、俺は否定も肯定もしなかった。
「可能性は低いな」
だからこそ、伝える。
「轟。俺が教えたのは、力の使い方じゃない」
一歩、近づく。
「自分の中の悪魔に聞け。
お前が背けてきた醜い部分、認めたくなかった本心……
そこに、本当の答えがある」
轟は静かに頷いた。
「……はい」
そして、はっきりと言う。
「自分の中の悪魔と向き合うこと。
それも、ヒーローであるってことなんですよね」
その理解に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
「そうだ」
俺は告げる。
「お前なら、行ける。
No.1にだ」
轟は一瞬、言葉を失い、それから真っ直ぐに答えた。
「俺は、あなたに恥じないヒーローになります。
自分の悪魔から目を逸らさず……
誰かを、救えるヒーローに」
その言葉で、もう十分だった。
その時――
俺の前に、オーロラカーテンが現れる。
七色に揺らめき、まるで虹のように輝く、次の世界への扉。
「……来たか」
そこへ、足音が重なった。
「ボース!早く!早く!」
デルタが大きく手を振る。
相変わらず緊張感の欠片もない。
「……お前は緊張しろ」
ゼータが腕を組み、淡々と言う。
「まあ、こういうの、見た事ないし」
イータはマイペースに空を見上げていた。
俺は小さく息を吐く。
「相変わらずだな、お前ら」
最後に、轟を見る。
「じゃあな。
胸を張れ、轟焦凍」
「……行ってらっしゃい、師匠」
俺はオーロラカーテンへ歩き出す。
虹色の光が、視界を包む。
振り返らない。
それが、通りすがりの流儀だ。
俺たちは、そのままオーロラの向こうへ消えた。
――数日後。
轟は、一人でディケイド事務所を訪れていた。
そこは、かつてツカサが“通りすがりながらも立ち寄った場所”。
室内には、写真や記録、そして人の気配が残っている。
ここには、道を外れかけながらも、救われた者たちがいた。
仲間を得たトゥワイス。
ヒーローに絶望しかけたレディ・ナガン。
(……俺だけじゃなかった)
ツカサは、選ばなかった。
善と悪を単純に切り分けず、
“自分の中の悪魔と向き合った者”に手を差し伸べてきた。
轟は、静かに拳を握る。
(師匠……)
自分も、そうなりたい。
誰かの背中を追うのではなく、
誰かの行き止まりに立てるヒーローに。
窓から差し込む光が、床に長い影を落とす。
轟は顔を上げた。
「……行こう」
もう迷わない。
彼は、次の一歩を踏み出す。
通りすがりの背中が残した“答え”を胸に。
――いつか、誰かを救うために。
ディケイド事務所を出た轟は、しばらく空を見上げていた。
あの日、虹色に輝いて消えていったオーロラカーテンの残像が、まだ瞼の裏に焼き付いている。
(師匠は……もう、別の世界か)
胸の奥が、わずかに痛んだ。
だが、それは喪失ではない。
託されたものの重さだ。
歩き出すと、街の向こうからサイレンの音が聞こえてくる。
小さな事件。
だが、誰かにとっては、人生を左右する一瞬だ。
轟は立ち止まり、深く息を吸った。
(自分の中の悪魔に聞け)
恐れ。
怒り。
そして、否定したくなる弱さ。
それらを切り捨てるのではなく、
引き連れて進む。
それが、ツカサから学んだ答えだった。
「……行くぞ」
誰に聞かせるでもなく呟き、轟は走り出す。
炎と氷を同時に宿すその背中は、もう迷わない。
――いつか、名前を呼ばれる存在になるために。
No.1ヒーローとは、
最も強い者ではない。
最も正しい者でもない。
最も多くの“立ち止まりかけた誰か”に、次の一歩を渡せる者。
轟焦凍は、その道を選んだ。
遠い世界のどこかで、
通りすがりの仮面ライダーが、ふと微笑んだ気がした。
物語は、まだ続いていく。
今回の話をもって、悪魔と呼ばれ慣れて 2ndは、無事に最終回を迎えました。ここでは、本来ならば起きるはずだった、最終決戦は行いませんでしたが、それを行う場合に必要なレディ・ナガンを初めとした要素も書けていた為、省かせて貰いました。また、本来ならばメインだった弔を初めとした面々や、A組の面々もあまり出番はありませんでしたので、ヒロアカらしくないSSかもしれませんでしたが、ここまで、書けたのは、皆様のおかげです。
そして、明日からは、3rd。つまりは新たな世界が舞台となります。
そこでの活躍もぜひ、お楽しみに。
3rd舞台となる世界は?
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