円形の議場に、重く張りつめた空気が漂っていた。
ドム系MSを中心とした突発的な地上侵攻、それに応じて展開された連邦正規軍とティターンズ監察軍政官庁再任兵による共同防衛、そして市民の死者はゼロという結果──。
しかし、「完全勝利」と評するには、なお議論の余地があった。
「市街地に一発の砲弾も届かなかった。これは我が連邦軍と監察軍政官庁が見せた、“最良の防衛戦”と断じてよいでしょう」
発言したのは公安局次官。
文民統制の一翼を担う立場として、戦後の沈静化と市民意識の安定を最優先に語る。
「再任兵による参戦も、今回は見事だった。ランドリオン部隊も規律を守り、市民保護を徹底している」
拍手こそ控えられたが、いくつかの席では頷く者もいた。
しかし、次の発言が空気を切り裂く。
「……だが、逃走した武装兵はどうなる?」
語気鋭く立ち上がったのは、治安総局監察官。
連邦軍内における規律維持を任務とする人物であり、再任制度には一貫して懐疑的な立場を取ってきた。
「我々が容赦すれば、敵はまた武器を取りに戻る。今日見逃した者が、明日また市民を襲う。そのとき、誰が責任を取るのか」
ざわ……と、議場に微かな動揺。
「命令を下した当人──軍政大将はどうした。不在とはどういうことか」
議長席より問いが飛ぶ。これに応じたのは、政府首班代理官だった。
「軍政大将は、戦場における投降兵・捕虜の収容および治療、並びに事情聴取の指揮を継続中とのこと。よって、本日は代行として私が通達を持参しました」
中央スクリーンに、軍政大将から送られた通達文の要約が表示される。
【軍政官庁発 第0088-01-DAK通達:戦後対応要旨】
・市街地被害ゼロ。市民の死傷なし
・投降兵131名収容。治療・取調べ中。再武装の兆候なし
・逃亡兵への追撃停止は、投降兵への信頼維持・衝突拡大回避のため
・再任部隊と正規軍の混成運用において、命令系統および交戦規範の逸脱なし
「戦術的な最小被害の達成に加えて、戦後秩序の即時確保。現地指揮としては最善だ」
軍政監理庁長官が口を開く。
官僚出身の技術畑の人物で、アインの能力には一目置いている。
「逃走兵を一掃すれば、残る者まで武器を取る可能性はあった。“殺し尽くさないこと”が、統治の条件となる局面はある」
これに文化教育省副長官が頷く。
「戦い方だけでなく、“終わらせ方”までコントロールできる指揮官はそう多くない」
と続ける。
一方、治安派の内務保安局部長はなお警戒感を解かない。
「それでも……逃げた者が再び牙を剥く可能性はある」
「そのときはまた、彼が立つのではないか?」
議長が、静かに呟いた。
◇◇◇◇◇
──西アフリカ砂漠地帯の岩陰。
焦げた砂と砕けた装甲片が、戦の余韻を焼き付けていた。
「……本当に……追ってこなかったな」
ドワッジのコックピット内、汗まみれの若き兵士が呼吸を整えながら、恐る恐るモニターを確認する。
ジャイアント・バズの弾倉は空。
頭部センサーは砂塵と高熱で故障し、視界は曇っていた。
それでも、背後から砲撃の追撃が来ることは、最後までなかった。
「なんでだよ……なんで止め刺しに来ねえんだよ、連邦が……」
隣のドム・トローペンから、もう一人の生存者が叫ぶ。涙声だった。
「俺たち、攻め込んだんだぞ……市街地にだって届きかけた。仲間は死んだのに、あいつらは……!」
彼らが見たのは──異常なまでに精密で、徹底された連邦軍の防衛戦。
あの黒き砲撃機──ランドリオンによる空間支配。
そしてなにより、先頭で投降を呼びかける白のガンダムが、敵兵の四肢だけを的確に切り裂いて「殺さない戦い」を貫いたことだった。
「あんなの、俺たちが見た来た“連邦”じゃねぇ……」
「……ティターンズの機体のくせに……なんであんなに“優しかった”んだよ……」
ドムのパイロットは、血の気の引いた手で操縦桿を撫でた。
あのまま動いていれば、頭部を斬られていたかもしれない。
──いや、それさえも、「脚を撃って、止めていた」だけかもしれない。
「……投降しなかった俺たちが、悪いのか……?」
静かに呟いた声に、誰も答えなかった。
ただ、ひとつの事実だけが、彼らの心に重くのしかかる。
「あいつらは、“殺そうと思えば殺せた”──だが、殺さなかった」
生き延びた自分たちの“理由”が、戦果でも執念でもなく、「赦し」だった。
その事実に、何人もの残党兵が、苦しげに顔を伏せた。
「くそっ……もう一度、戦えるのかよ、これで……」
「……わかんねぇよ……こんなん、もう“戦争”じゃねぇ……」
誰ともなく、ヘルメットを投げ捨てた音がした。
それは敗北ではない。
だが、「過去の自分たちが否定された」という痛み。
それを胸に、彼らは砂塵の中へと去っていった。
いずれまた武器を取るのか、それとも、二度と取らないのか。
答えは、まだわからなかった。
しかし、確かな事はある。
──戦いは終わった。
爆炎の名残が地平に燻り、吹きすさぶ乾いた風が、破壊されたドムの脚部を転がしていく。
ダカール制圧しようとしたジオン残党のドム・トローペン、ドワッジ、ディザート・ザク──その多くは捕らえられ、あるいは無力化され、あるいは戦意を失って投降していた。
しかし、それでもなお、幾つかの小隊が──もはや追撃も受けぬまま──荒野へと退いていた。
その空に、影がひとつ、音もなく現れる。
「な……なんだ、あれは……」
ジオン残党のひとりが、顔を上げて呟いた。
視線の先には、異形の機影。
鋭く引き絞られた鋼の翼。
だが武装の兆しはなく、両腕に装備されるべきはずのミサイルポッドも、レールガンも存在しない。
ただ静かに、滑空するように彼らの頭上を通過していく。
EWACリオン。
監察軍政官庁の情報部が運用する、航空指揮・索敵特化型の偵察リオン。
背部に構える巨大なレドームが、対地・対空・電磁波探知の三重構造センサーとして機能し、あらゆる電子的情報を収集しながら、敵に対しては無言で飛翔する“沈黙の監視者”。
「……あれ、さっきのヤツか? でも、武器がねぇ……」
「つーか、飛んでる? 地面、踏んでないぞ」
「ホバーユニットか? いや、違う……あれは……飛行機……?」
ランドリオンに翻弄された彼らにとって、“空を飛ぶリオン”は未知の存在だった。
その異様な静けさ、殺意のなさ、そして何より──
光。
機体の腹部、そして両肩部に内蔵された閃光灯が瞬いた。モールス信号に準じた高度発光通信──。
空に紡がれた《言葉》が、彼らの眼に刻まれる。
《コレ、イジョウ、ノゾマズ》
《チツジョ、ヘ、ノ、キジュン、ヲ、ノゾム》
意味はすぐには理解できなかった。
だが、繰り返される発光に、兵士たちは徐々にその文意を読み取っていく。
「……秩序への帰順を望む、だと?」
「“これ以上は望まない”……だとよ。あの黒い連中が?」
「マジかよ……俺たちを殺さないって……そんな、こと……」
誰もが、信じられなかった。
追い詰められ、友軍を多く失い、恐怖に震えながら逃げたというのに──。
空から降りてきたのは、爆弾でも、死でもなく、「許し」に近い光だった。
EWACリオンは旋回しながら、再び光を送る。
それは、言葉を持たぬ意思の提示。
追撃を行わないという事実を、敵味方を問わず知らせる、沈黙の命令でもあった。
「……あいつ、攻撃してこねぇぞ……」
「俺たち……生きてるんだな」
膝をつき、崩れ落ちる者もいた。
武器を放り出す者、仲間の名を呼ぶ者。
ひとり、またひとりと、荒野の影は沈黙に包まれていく。
空の彼方で、EWACリオンが消えていった──その姿は、まるで「戦争の終わり」を見届けに来た天使のようだった。
EWACリオンの操縦席は、かつてのティターンズ機や連邦軍機らしくはない無骨な計器で満たされているのは一年戦争の頃のコックピットを彷彿とさせるが、そこに宿るのはもはや旧き狂気ではない。
背部レドームから流れる情報波は、精緻なHUDに地形・索敵・生体反応の全てを映し出している。
「……“反応なし”。一帯に武装解除済の集団、確認」
低く、落ち着いた声で呟いたのは再任兵──コールサイン《スピア・イレヴン》。
彼はかつて、バスク・オムの下で哨戒任務を繰り返していた男だった。
だが今、彼が操作するEWACリオンは、非武装のまま、光と情報で戦場を“終わらせる”役割を担っている。
「こちら《スピア・ナイン》。北側、逃走集団のうち2小隊、武器を投棄。合流進行中」
無線が鳴る。同じEWACリオンの再任兵仲間だ。
「了解。《スピア・セヴン》、上空旋回しながら光信号続けろ。“ノゾム・キジュン・チツジョ”の反復」
《スピア・セヴン》のオペレーターは、若い女性の声だった。
「こっちの地上部隊、ずっと見上げてるよ……あたしらに撃たれるって、まだ怯えてる」
「怯える理由は、俺たちが撒いた過去の種だ。……それでも今、俺たちは“翼”を与えられてる」
《スピア・イレヴン》の声は、どこか遠くを見つめているようだった。
「ティターンズのバッジをつけてた頃、俺は何を見ていたんだろうな。敵か、標的か、それとも……ただの命令か」
「でも今は、“見せる”側じゃなく、“見られてる”側だよ。地上から、ずっと、あたしらが試されてる」
数秒の沈黙のあと、機内に低い電子音が鳴る。HUDには「通信:軍政官庁旗艦ヒリュウ改」との表示。
《任務継続。市民区域および投降部隊上空の監視維持。武力行使厳禁。発光信号による意思伝達を継続せよ》
アイン・ムラサメ──軍政大将からの指示だった。
「聞いたか、《セヴン》、《ナイン》……追わない、撃たない、“見守れ”だとさ」
「……やっぱ、変わったよな。戦場って」
「違う、あの人が変えて、“俺たちが”変わったんだよ。」
電子的な旋回音。
EWACリオンは群れを成さず、一定間隔で広がって飛ぶ。
誰もが空の一点を見つめ、地上に点在する小さな影に“光”を送り続ける。
その発光は、どこか祈りのようでもあり──かつて憎まれ、恐れられた兵士たちが、それでもなお「秩序への帰順」を告げるという、静かなる再誓のようでもあった。
「……なぁ、俺たち……誰かを赦していいのかな?」
《スピア・ナイン》が呟くように言った。
「それを決めるのは俺たちじゃない。俺たちはただ、“撃たない”って決めただけだ」
《スピア・イレヴン》の声は、澄んでいた。
「……それで、いいさ」
静かに、EWACリオンは空を流れていく。
誰も撃たない空で、誰かが“戻ってくること”を、ただ信じていた。
◇◇◇◇◇
──ダカール近郊、黄昏の空に赤い残照が滲む。
陽が落ちる前の静寂のなか、旧防衛線の内側で準備が進められていたのは、第二次投降者収容作戦だった。
EWACリオンからの報告により、さらに複数の小規模集団がジオン残党からの自主投降を望んでいるとの情報が確認される。
それに呼応するように、監察軍政官庁は即座に再任兵のリオン部隊とランドリオン部隊を編成し、非武装状態のまま、民生機や後方支援車両とともに“迎え”の出発準備を整えていた。
「……あれが、迎えに行く部隊……?」
砂塵に霞む先、複数のリオン型とランドリオンが護衛のようにホバートラックを囲いながら、南東の荒野へと進んでいく。
だがその機体は、いずれも武器を外され、誘導ミサイルもレールガンも装備されていない。
ただ無骨な機体構造だけが残され、まるで“丸腰の騎士”のように静かに進む。
「偵察でも、制圧でもない……これは、救出か」
市街地の臨時野戦病院付近。
血に塗れた制服姿の連邦軍兵士が、肩に包帯を巻いたまま呟く。
彼の隣にいたのは、先に投降し、身柄を拘束されたばかりのジオン残党兵だった。
「……なんで、撃たないんだ……こんなこと、今までなかった。降伏しても、殺されると思ってた」
それは多くのジオン兵が抱えていた本音だった。
だからこそ迷い、恐れ、逃げ、時に再武装し、結果として撃たれ、死んでいった。
だが今、目の前の光景は──
民生用MS《レイスタ》が、ランドリオンの支援として武装解除にあたる。
手際は鮮やかであり、明確に「再侵攻ではなく、迎え」であることを示していた。
「……市民用の機体まで出して……本気なんだな、あいつら」
「ああ、本気で“終わらせに”きてる」
その言葉に、再任部隊の一人が静かに頷いた。
かつて、ティターンズという名の下で暴虐に手を染めた己の手。
その記憶は、消えるものではない。
だが──今は違う。
撃たず、追わず、ただ秩序を築く。
「空を飛ぶより、こっちの方が緊張するな……」
隣でランドリオンに乗り込む僚機のパイロットが言うと、リオンのコクピットから別の声が返る。
「……だが必要だ。俺たちが行かなくちゃ、誰があいつらを信じてやれる」
風が吹く。
遠くで爆発の名残りが砂に溶け、赤みを帯びた空気の中を、ホバートラックと護衛のAM群が、ゆっくりと地平線に消えていった。
それを、連邦軍兵士、再任兵、ジオン残党兵が、無言のまま見送っていた。
過去を背負った“翼”が、今は赦しを告げるための使者となって、戦場を去っていく──。
それは、宇宙世紀における“再誓”の、もう一つの形だった。
◇◇◇◇◇
──ダカール郊外。戦いが終わったはずの空には、いまだ微かに火薬と焼けた鉄の匂いが漂っていた。
爆発で穿たれたクレーター、折れた脚部をさらすドム・トローペン、砂に沈むディザート・ザクの機影──それらの中を、静かに、しかし確かに歩いていくMSがあった。
《レイスタ》
アイン・ムラサメが設計した、非戦闘型の高機動作業用モビルスーツ。
民生用MSながらティターンズ監察軍政官庁にて再任兵部隊の支援中核を担う存在であり、“鉄の整備士”とも称されるMSだった。
「こちらローダーチーム、破損機体を確認。動力喪失、搭乗者は投降済み。搬送作業に移行する」
無骨な外観ながら、緻密に制御されたレイスタが、ドワッジの残骸を持ち上げる。
背中のマウントクレーンを展開し、固定具を噛ませると、ホバートラックが側面から接近し、牽引作業を開始した。
再任兵のひとりが、コックピットの中で黙ってスイッチを切り替え、状況を記録する。
機械のような沈黙だったが、その眼差しは、過去に向けられた悔いと、未来への責任を映していた。
そしてその傍ら、さらに特異な姿があった。
白と赤の大型パックを背負い、医療用赤十字マークを輝かせるレイスタ──《ホスピタルレイスタ》である。
参考設計は、ザフト系「ホスピタルザク・ウォーリア」の構造。
軍政官庁仕様に改修されたこの新型は、戦場に“動く救命所”をもたらした。
「……応答あり。意識あり。脊椎系センサーに反応──搬送可能」
ホスピタルレイスタが無力化されたジオン残党機のコックピットをこじ開け、担架アームで搭乗者を慎重に引き出す。
パイロットスーツの破れた若い兵士が、泥にまみれたまま眠るように担架に固定された。
そのレイスタの背から、ホスピタルコンテナが展開し、簡易手術台とAED、止血剤スプレーが起動、救護班が展開する。
まさに前線に降り立つ野戦病院である
「止血処置、呼吸安定。後方搬送を要請する」
作業は淡々と、迅速に。
それはまるで、“何人たりとも置いていかない”という意志の体現だった。
さらに、地形修復班のレイスタが次々に前進する。
戦闘によって抉られた地面に、粘着舗装材を注入。
ランドリオンのランドムーバーが踏み固めたあと、レイスタがフレームローラーを使って平地化を進めていく。
崩れかけた避難用の路地を修復する様子を、市民が建物の影から見つめていた。
「……お兄ちゃん、あれ、兵隊さん?」
「……違うよ。きっと、“助ける人たち”なんだ」
女の子が、機体の胸部に描かれた連邦のマークの上に、小さく添えられたもうひとつの紋章──《TITANS INSPECTION ADMINISTRATION》の十字章に気づいて、じっと見つめていた。
さらに一部のレイスタは、破損したドワッジを丁寧にクレーンで立ち上げ、牽引トラックに積み込んでいた。
その様子を見ていたジオン残党の投降兵は、無言でそれを見つめていた。
「……壊すための兵器じゃねぇ。……直すためのMS、だと?」
呟いたその男は、やがてひとつ、深く頭を垂れた。
陽が傾き始める。
整地された道路の先に、レイスタたちの整列した背が見える。
兵器ではない。だが彼らは、戦場にもっとも必要とされた存在だった。
再任兵として、そしてアイン・ムラサメの設計思想に従う者として、“誰かの命を守る”という任務に向き合っていた。
その背は、戦場で最も静かで、最も強いものだった。
◇◇◇◇◇
爆炎は消え、空気の震えも収まった。
だが戦いの終わりは、始まりでもあった。
瓦礫と焦土の只中に、無数の影が黙々と働いていた。
レイスタ「コールサイン:オウル01」──機体整備班・操縦士リツ・ナガセ
「ドム胴体、ケーブル露出。熱量ゼロ、電源喪失確認……よし、こっち、持ち上げるぞ!」
軽く鼻歌を口ずさみながらも、その操縦桿さばきはまるで精密機械。
元工兵の再任兵リツは、コックピット内で一瞬も気を抜かない。
「戦ってた頃より、今のがよっぽど神経使うよ、まったく……なぁ、相棒?」
レイスタのカメラが小さく瞬いた。
「こいつら壊すのは早かったけど、直すのって手間かかるんだよね。……でも、そっちのがマシだろ?」
彼女の声は、MSではなく、かつて“敵”と呼ばれた者たちに届いていた。
ホスピタルレイスタ「コールサイン:レスキュー03」──救急支援班・操縦士カズマ・シュレーダー
「出血確認、止血開始……酸素供給、調整完了……次、搬送班頼む」
ホスピタルレイスタの背から展開される医療ユニットが、器用に負傷兵を扱う。
カズマはその一つ一つの動きに集中しながら、冷静に呟く。
「戦争で殺し合ってた相手を、今こうして救うってのは……割り切れるもんじゃねえ。だがよ」
彼は深く息をつき、目を伏せた。
「それでも、誰かがやらなきゃ、世界は変わんねぇ。アイン様が信じた“その後”ってやつを……俺たちが繋ぐんだろ?」
地形修復型レイスタ「コールサイン:ミスト09」──土木整地班・操縦士ハン・ナガセ
「……地面、酷ぇな……穴だらけ。戦場ってのは、ほんとガキの喧嘩みたいだ」
広がる凹地に、熱舗装剤を注入する。
硬化までのわずかな間に、ランドリオンの車輪が均すように進入し、あとはレイスタが地ならし用のアームを下ろす。
「人の足で歩けなきゃ意味ねぇんだよ、戦争も勝利も」
地味な作業。
だが彼は誇りを持っていた。
かつて“破壊しかできなかった自分”への、贖罪の手応えがそこにあった。
ランドリオン「コールサイン:ロア04」──瓦礫撤去班・操縦士バルタ・シメオン
「前方建物、倒壊懸念あり。支柱、一本ずつ抜けよ。無理すんな、ここは街だ」
無骨な砲撃機から大型アームを展開し、丁寧に柱を抜き、瓦礫を載せていく。
「昔の俺なら、この街一個、吹き飛ばしてたかもな……」
ふと呟く。
その言葉に、僚機のランドリオンから通信が入る。
『でも今は違う。あんた、笑いながら市民に頭下げてたじゃねぇか』
「うるせぇ、茶化すなって……でも、ありがとな」
通信が切れる。
だがその頬は、ヘルメットの下で緩んでいた。
レイスタ「コールサイン:ホープ07」──捕虜搬送班・操縦士エレナ・バーロウズ
「……大丈夫。誰もお前を撃たない。……もう終わったのよ」
脚を引きずるジオン残党兵を支えながら、エレナはそのままトラックの手すりに手を添える。
「それでも、まだ信じられないなら、あたしの名前を覚えてて。いつか、また会えたときのために」
再任兵である彼女は、かつて自分が倒した相手と似た顔を、この街で何度も見た。
だからこそ、同じ痛みを知る自分が、橋渡しにならなければと思っていた。
──そして、それぞれの無線に、アイン・ムラサメの名で発された通信が届く。
《各班へ。現地状況、回復段階に入ったと判断する。作業継続と秩序維持を優先せよ。今は、誰かを追う時ではない》
皆、一様に返答した。
「了解──我々は、築く者だ」
誰も讃える者はいない。
誰も注目しない。
けれどこの街を支える“柱”は、今日も静かに、立ち上がっていた。