練習試合 音駒高校 開始!
数日前 ランニング中 星野視点
「翔陽のバカ、勝手に走りやがって」
俺は、ランニング中に暴走してどこかへ行った翔陽を、自転車で探していた。
喘息持ちの俺は、無茶をしないよう自転車でランニングに参加していた。そんな中、菅原先輩から翔陽が飛び出したことを聞き、自転車に乗って探す羽目になった。
暴走する時の翔陽は、基本的にまっすぐな道しか行かない。だから、坂の向こうにある公園まで移動していたら、翔陽と金髪の人と黒髪の人と背の高い黒髪と……。
「? あれは」
栗色の髪にメガネを掛けた男子がいた。
「おい、翔陽。何してるんだ?」
「おっ、斗真!」
「すみません、ウチの者がご迷惑を」
「何で斗真は、俺が何かしたと真っ先に思うんだよ!!」
「あ〜、心配しなくて大丈夫だよ。ウチも迷子のプリン頭を探してただけなので」
「クロ、何その言い方」
「迷子は事実だろ?」
「先輩、早く戻らないと皆待ってますよ」
「そうだった。そんじゃ、俺達はここで」
「またね、翔陽……」
「またね? 何でだ、研磨?」
「……まさか、ここにいるとはね。星野斗真」
「? お前と会ったことあるか?」
「いや、初対面だ。アンタは全中の会場で見ただけだよ」
つまり、コイツは全国大会の時に俺を見かけたのか?
観客として? それとも選手として?
選手としてなら、正直見覚えはないが……。
「俺の名前は諸星豹真。そんじゃ、またな」
俺と翔陽は、その時に会った2人から「また」と言われたことを理解できなかったが……。
現在 試合会場前 星野視点
「お前、音駒だったのか?」
「まぁ〜ね」
俺は諸星と再び対面して、あの時の言葉の意味をようやく理解した。
改めて諸星を見ると、月島みたいに飄々としていて背が高いが、筋肉の付き方が少ないせいか細身に見える。
「てっきりバレーボールを辞めてたと思ってたよ。去年、全中で角間中学のメンバーに名前を見なかったからね」
「去年の2学期からこっちに転校したんだよ」
「まぁ、俺としてはアンタと試合できるのを楽しみにしてた」
「……そうか」
全中時代、どこで会ったのか思い出せないが……。
仮に全中時代の試合に参加したチームのメンバーなら、かなりの経験者……油断できないな。
そして、アップ後、烏養コーチに改めて今日のスターティングメンバーを紹介された。
影山 月島※ 東峰
田中 日向※ 澤村
――――――――ネット――――――――
※サーブの時は星野、守備の時は西谷が入る。
これが現在の烏野高校のスターティングメンバーで、俺と西谷先輩がメインの交代要員だ。
そして、音駒のサーブから試合がスタートした。
「オーライ!」
「旭さん、頼みます!」
「すまん、ちょっと短い!」
「旭さん、1か月もサボるから!」
東峰先輩がレシーブ対応するが、西谷先輩に厳しく指摘されていた。
それでも1、2年生とは違い、安定したレシーブを返して、影山の近くにボールが上がる。
音駒の面々が影山に注目していたら――
シュタッ! ストン!!
翔陽との「変人速攻」が炸裂し、全員が驚いていた。
烏野が先制点を取り、次はこっちの田中先輩のサーブからラリーが続く。
そして、東峰先輩のスパイクで2点目も勝ち取ったが……音駒のリベロが手で弾いていた。
初見で東峰先輩のスパイクに反応したことに、西谷先輩が反応していた。
「向こうのリベロ、ヤバいですね……旭さんのスパイク、初見なのに手で触れてましたから」
「じゃあ、西谷先輩、リベロの人の動きを見ておいてください!」
次に翔陽のサーブで、俺と交代した。
今回は1セット目で点を取り、なるべく翔陽の凡ミスを減らすのが目的らしい。
上手くハマれば2セット目でゲーム終了するが、外れても相手の出方を見て作戦を立てやすい。
その目的で、俺は1セット目から出させてもらう。
「翔陽、交代だ!」
「うっ!」
「アホ。このセットで試合が終わるわけじゃないんだ。いちいち反応するな」
「わかってるよ! 10点取ってこいよ!」
「無茶言うな」
俺はコートを見渡した。
音駒は翔陽たちの変人速攻と東峰先輩のパワー、そして狙いがまだ定まっていない。
烏養コーチの話では、音駒はレシーブ力が半端ないチームと聞いている。
「でも、まずはリベロの実力を見せてもらいます!!」
俺はリベロに向けて、全力のスパイクサーブを打った。
左利きの俺のサーブは、大抵の人なら初見では反応するのが厳しいはず。
「速っ!?」
でも、リベロの人は綺麗には返せなかったものの、レシーブしてボールを観客席まで飛ばした。
多分、左利きの俺のジャンプサーブの回転に慣れていなくて、反応が遅れたんだと思う。
それでも初見で動ける……しかも、威力重視にしたのに、ほぼ勢いを殺していた。
「凄いな、あのリベロの人……冗談抜きで点を稼がないと厳しいぞ」
烏野が3点取ったところで、音駒がタイムアウトを取った。
この早い段階でタイムアウトを取ったのは、俺のリズムを崩すというよりも、こちらの現状を落ち着かせるのが目的に見えた。
タイムアウト後、音駒はデディケート・シフトで、レフトの東峰先輩を3枚ブロックの形で守備するように変えていた。
一見すると東峰先輩対策と思うが……何故だろう。
これは翔陽に対する対策にも見えた。
前に俺が対策として提案した方法に似ている。
「狙いは翔陽の速攻を潰すのが目的……とにかく、ここで点を稼ぐ」
次はホーク回転のサーブを、モヒカン頭の人に向けて打つ。
「何だ!? ボールが下に曲がったぞ!?」
慌てふためくが、体は反応してボールに触れた。
しかし、ネットに当たってこっちの点になる。
……だが、さっきからノータッチエースが狙えていないから、嫌な予感がする。
「これが音駒高校か……やっぱりレシーブ力が安定してるチームは怖いな……」
なら、相手コートのアウトラインぎりぎりに打ち込む!
「おっと、そう連続では取らせないよ!」
黒髪のキャプテンがレシーブに反応し、モヒカン頭の人がプリン頭のセッターに綺麗にボールを返す。
そして、猫目の人にAクイックで決められ、点を取り返された。
これで4対1になり、俺がベンチに戻ると、今度は俺に話しかけてきた諸星がピンチサーバーとしてコートに立つ。
「あいつ、ピンチサーバーなのか?」
諸星がボールを頭上に投げ、無回転でボールを打ち込んだ。
「あれはジャンプフローターサーブ!?」
前に町内会チームの嶋田さんが見せてくれたサーブに、翔陽が顔面で受け止めて弾いてしまい、点差は4対2になった。
諸星は続けてサーブを打つ。
今度は田中先輩のところに向かい、軌道が読めずに変な方向へボールを返してしまい、アウトになる。
4対3。
しかも、あの手首の柔らかさ……。
ギリギリのところでボールの軌道をずらすことで、こちらの反応が遅れている。
嶋田さんのよりも、さらに難易度が高い……。
手首のしなやかなサーブを打つ人で、俺は東京の学校で1人の生徒を思い出した。
現在は、井闥山学院高校に通う佐久早聖臣選手……。
もしかして、諸星がいた中学って――。
「菅原先輩、あのピンチサーバー、ひょっとしたら井闥山学院中学にいた生徒かもしれない……」
「おいおい、井闥山学院って、確か牛若と並ぶ三大エースの一人で、去年の全国大会優勝校じゃないか?」
「はい。アイツは、そこの中等部にいた可能性があります」
「2年前、中2の春高で宿舎先で自主練してた時に、同じようにサーブ練習してた奴がいたんです」
宿舎先の公園の壁でサーブ練習をしていたら、同じように練習している奴を見かけた。
その時はフードを被っていて顔は見えなかったが、手首の柔らかな動きで、無回転+左右にブレるジャンプフローターサーブを打っていた。
その選手はすぐに帰り、それ以降見かけなかった。
でも、今のプレーで、俺はあの時の人物が彼である可能性があると思った。
「けど、俺が全中に参加した時は、井闥山学院にジャンプフローターサーブの選手は見かけなかった……ベンチ入りしてなかったのか?」
「マジかよ! ジャンプフローターサーブができる奴でもベンチ入りしてないのかよ!!」
そんなことを言っている間に、3点目を狙ってサーブを打ってきたが、西谷先輩が反応し、田中先輩が決めて、諸星の連続サーブを止めた。
そこで俺はコーチのところに駆けつけた。
「コーチ、音駒相手に俺がどこまで通じるか分かりませんが、2セット目もチャンスがあるなら出たいです!」
「ちょっと、星野君!?」
「落ち着け。試合は始まったばかりだ。焦る気持ちは分かるが」
「すみません」
「少なくとも練習試合だから、ピンサーだけで終わるとは限らない。他のメンバーも使うつもりだ。覚悟しておけ!」
「ありがとうございます!」
それを聞いて、ベンチ入りしている他のメンバーも身を引き締めて応援していた。
その後の展開では、徐々に翔陽がスパイクを打つ時に、あの長身の奴が手で触れ始めていた。
そして、22対24と、向こうのマッチポイントになっていた。
「影山! トス寄越してくれ!」
「今はマッチポイントだぞ。ここで取られたら、向こうに勢いがつく」
「分かってる……だから決める」
だが、2人の変人速攻は彼に止められ、1セット目は音駒に取られた。
コートチェンジ
コートチェンジの間に、俺達はコーチの元に集まる。
「切り替えていけ。無敵の速攻なんて無いんだ」
コーチを含め、みんなが翔陽が落ち込んでいないか気にかけていた。
正直、俺も翔陽の変人速攻の対策は考えていたが、初見の彼らの対応の速さには……驚いていた。
ただでさえ、あのレシーブ力が脅威なのに、新しい攻撃に対しての対応の速さ……チームとしての安定感が違いすぎる。
「影山! 俺にトスをくれ!!」
とりあえず、翔陽は意気消沈していなくて、そのまま続行した。
だが、翔陽の攻撃はことごとくブロックされ、点差は7対12となっていた。
そんな様子に、月島は無言の圧で訴えていたが――。
「何で、日向を下げないって顔してるな?」
「え?」
「これが公式戦なら変えてるだろうが、今は新しく何かを掴もうとしてるんだ。本人が戦意喪失したなら変えるが……」
『ワクワクする』
追い詰められているはずなのに……笑っていた?
翔陽からは、むしろこの状況を楽しんでいるように見えた。
この、追い詰められても獲物がある限り諦めない貪欲な獣の目……。
普段はヘタレなのに……時々、翔陽が恐ろしく感じる。
だからこそ、負けたくないと思って、俺も頑張ってこられた。
「おい、大丈夫か、日向?」
「影山、何だろう? 前はブロックに捕まると嫌だったのに、今は目の前の敵が俺に向かって必死なのが分かるんだ。お前のトスと何かが加わったら、前に進めるんだ」
「……」
「だから、俺にトスを上げてくれ!」
「おう!」
そして、再び翔陽にトスを上げた影山のボールを、翔陽は「見て」打とうとしていた。
「やば!?」
だが、タイミングがズレてボールはアウトになった。
コーチはタイムアウトを取り、翔陽の行動が影山任せではなく、自分の意思でボールを打ち分けようとしていたことを確認した。
それを聞いたコーチは、影山にダイレクトデリバリーからインダイレクトデリバリーへトスを上げるように指示を出していた。
普通、試合中にこういう指示は、セッターとしても選手としてもやりづらいはずだが――。
「やってみます」
やると言い切る影山が恐ろしい。
「それと星野、次、月島のサーブ権の時に交代だ。点稼いでこい!」
「了解です」
さて、烏野高校の反撃開始だ。