ウマ娘にもトレーナーにもなれなかったモブ転生者 作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
苦手な方は読み飛ばす事をおすすめいたします。
それでは本編をどうぞ。
リナがお茶の準備をしている様子を眺めていた俺は漂ってきた緑茶の香りに首を傾げる。
「……あれ、普通の緑茶の香り?」
魁さん一家の食堂やシステムキッチンの質の良さから類推するに、裕福な家庭と思っていたんだけど。
「妻子は量を飲むからね。最初は味にこだわったんだ。ところがガブガブ飲むもんだから、値段がその……」
親父さんの遠い目に俺は無言で頭を下げた。
アプリゲームだかアニメだかよく覚えていないが、トウカイテイオーがはちみーという飲み物を注文した時に出てきた紙の器がバケツサイズだったような気がする。
食べ物だけでなく、飲み物に関してもウマ娘共通だったかー。
道理でリナのコップだけビールの大ジョッキサイズなのか納得がいったよ。
前々から不思議に思ってたんだが、ウマ娘は成人男性よりも同じくらいか一回りも二回りも背丈が低い。
「どこにそれだけの量が入るんだ?」
「乙女の企業秘密ということで♪」
「ウインクしたって誤魔化されないぞ」
「太一君、止めるんだ。世の中には考えてはいけない事もあるんだ」
魁さんに窘められ納得がいかなかったものの不承不承従う事にした。
もちろん、俺のコップの大きさは人間用だ。リナは魁さんと俺のコップを家庭用電子レンジに入れて温め始め、自身のコップを家庭用電子レンジよりも二回りほど大きな業務用のレンジで温め始めた。
うん、知ってた。
バケツサイズこ飲み物を人間並みの早さで温めるには業務用しかないわな。
温まるまでの残り時間を見ると家庭用電子レンジよりも短めになっていた。
どんだけ強力なんだよ。
仮に俺たちのコップをウマ娘用電子レンジで温めたら沸騰して溢れ出てるんじゃないのか、これ。
そんなしょうもない事を考えつつ、温め終わった飲み物を取り出したリナからカップを受け取る。
「では、いただきます」
うん、美味い。
「凄いだろう、うちの娘は」
父親の自慢に俺は頷く。
「個人差はあれど、お茶の入れ方でここまで変わるとは思いませんでした」
「ふふーん、褒めろ褒めろ〜♪」
胸を張って自慢するリナに素直に称賛する。
「どんな魔法を使ったんだ?」
「愛情♥」
「……いや、その。これ、随分と深みとコクのあるコーヒーだな?」
俺の当然の疑問に彼女はあっけらかんと答える。
「そこらのお店で売られてる安物の豆だよ?」
「コーヒーマシンの性能が良いせいか?」
「コーヒーマシンは十年前に買ったのだよ?」
つまり、経験と勘でここまでの味を引き出した、と。
「マジか」
「マジです」
俺は目の前のカップの中で揺れる黒い水面視線を落とし、彼女に目線を向け問いかける。
「何も混ぜ物もしていない。ブラックコーヒーでここまでの味が出せるものなのか……」
「現に出てるじゃない」
それはそう。
「コーヒー豆の概念が崩れる!」
俺は真剣な顔で彼女に見つめる。
「……時にリナよ」
「ダメです」
「頼みが」
「ダメです」
「まだ何も」
「ダメです」
「いや、何がダメなんだよ!?」
ただ単に安いコーヒー豆で美味しいコーヒーを入れる。やり方を教えて欲しいだけなのに。
彼女はニヤついた笑顔で聞いてくる。
「ただで教えてはあげられませんなあ?」
何だろう、ちょっとイラつく。
「……何が条件だ」
「私と正式に恋人同士でのお付き合いを決めてもらえるなら♪」
「……待て、ちょっと待て! 美味しいコーヒーの入れ方を人質に取るのは卑怯だろ!?」
「聞き捨てなりません、私がここまでの味を引き出すのに年単位の時間をかけたんですよ?」
丁寧なその返しに俺は言葉に詰まる。
「ゆくゆくは一緒の家庭に入ってもらえるなら、毎日美味しいコーヒーや紅茶が飲み放題だよ♪」
同級生からの魅力的な提案に俺は頭を悩ませる。
いや、でも、将来を考えての事なら堅実な選択なんだろう。
いやしかし、今世の俺はまだ十代半ばだし自由気ままな独身生活も捨てがたい。
さてどうしようか?
同席していた魁さんが微笑ましく見つめているが、先ほどから口出しをしてこないのはどういう事だろう?
まあ何となくは理解している。年頃の少年少女たちの青春に割って入るつもりはさらさらないのだろう。
それでも俺としては今、この時だけは少しでもいいから助け舟を出してほしいと思う。
内心ため息を吐きつつ重くなってきた眼を何とか開けようとして——なんだかとても眠い。
振る舞われたシチューをおかわりしたせいもあってか、胃の内容物を消化するために血流が集中しているのだろう。
それにしても、ここまで眠くなるものなのだろうか。
目線を上げると魁さんもうつらうつらと船を漕いでいる。
俺だけならまだしも、彼までこうなったことに違和感を感じ、リナに目を向けるとニコニコと俺を見下ろしていた。
ここに来て俺の頭の中にある可能性が過ぎり、脳内に警報が鳴り始める。
「……なあ、質問していいか?」
「何?」
「飲み物に、何を、混ぜた?」
彼女はニコニコと笑いながら告げる。
「君のような勘の鈍い男の子は大好きだよ♥」
この場であの名言を改変するのか!
即興なんだろうが、不覚にも上手いなと考えてしまう。
もはや声を出すことも億劫で、押し寄せる睡魔に抗えず意識を手放した。
────────────────────────
この光景を見て、俺は夢の中にいると実感した。
目の前で餅つきが行われている。
臼が俺でリナが杵を繰り返し俺の腹に振り下ろす。
その合間に魁さんが俺の腹を水をつけた手でこねる。
ぺったんぺったん
いやなんだ、この状況。
何が起きている?
一体これは何の夢なんだろうか。
覚めるものなら早く目覚めたい。
その願いが叶ったのか、目の前の餅つき大会の光景が陽炎のように消えていき、急速に意識が浮上していくと感じた。
そもそも、俺は何でこんな夢を見ているのだろうか?
眠る前は何をしていたのだろう?
まぶたを開いて正面を見る。
……俺の部屋ではない。どこかの家の天井だ。
……という事は仰向けの体勢のようだ。
そこまで考えて気がつく。
そうだ、俺はリナの家で魁さんと夕食をご馳走になってコーヒーを振る舞われ、そこで眠気が——
そこまで思い出したところで、体が規則正しく振動している事に気がついた。
何だ、餅つき大会が夢の中から続いているのか?
天井から視線を下げるとリナが目の前にいた。
肌色の体が規則正しく、上下に運動している。
……一糸纏わぬ、生まれたままの姿で。
「……おい」
俺の呼びかけに、恍惚とした表情で浸っていたリナの目が俺に焦点を合わせた。
「……あ、目が覚めたんだ♥」
そんな事を言いながらもリナは上下動を止めない。
頭痛がしてきた。
どうすんだ、これ。
「……何してんだ? お前」
「見てわからない?」
「いや、何となくは分かるんだが、脳みそが理解を拒んでいる」
快楽から脱してはいないが、リナは明らかに気分を害した表情に変わる。
意識がはっきりしてくるにつれ、俺の下半身から脳へと快感が伝わってきた。
「え、私の口から言ってもらいたいの?」
「……いや、言わなくていい」
目の前の現実をただひたすら受け入れたくない。
今はそんな気持ちでいっぱいである。
「そんな煮え切らない態度の君にはっきり言うね」
「おいバカやめろ」
相手はウマ娘だが諦めるには早すぎる。
だから全力で抵抗を試みる。試みた。
手足が全く動かない。
何故だと顔を横に向けたら手首が紐で縛られていた。
何となく、四肢がこういう状態だと理解させられた。
周囲を見ると、先ほどまでいたリナの部屋だった。
状況から察するに、彼女のベッドの上に寝かされた上に手足を縛られ、完全に身動きが取れない状態で搾り取られている真っ最中のようだ。
「お前何してくれてんの!?」
頭の中で整理がついたので、半ば絶叫した俺に上下運動をやめた彼女が上気した顔で笑う。
「ようやく今の立場を理解できたようだね♥」
「認めたくない! 認めたくなーい!」
唯一自由が利く首を左右に振るものの、無駄な抵抗であった。
「何でそんなに拒否するの?」
リナは不満気に問いかけてくるが、俺は努めて冷静にツッコミを入れる。
「するわ! 普通、食後のコーヒーに一服盛るやつがいるか!」
「ここにいまーす♪」
「開き直るなー!」
笑顔で返すリナに抗議するが聞く耳を持とうとしない。
あ、これは駄目かもしれない。
「……でもさ、私たちここまで来たら恋人同士でしょ♪」
「強制するな、勝手に決めるな! 大体、今日の放課後あたりまでは仲のいいクラスメイトだったはずだ! たった数時間で何でこんな事を!?」
理由を問いただしたところ、リナの目がどろりと濁って行くのを間近で見た。
「……君がいけないんだよ」
「あ?」
「聞いちゃったんだ。君とお父さんとの会話」
彼女の言葉に喉元まで出かかっていた文句が止まった。
「あの時、食堂の隣の廊下で盗み聞きしていたの」
俺はその言葉に自身の迂闊さを呪った。
リナは自身の部屋でぐっすり眠っているものと思い込み、彼女の父親の質問に不用意にも本音で答えてしまったのが原因だろう。
それで思い詰めた彼女が暴挙に出た、と。
なるほど、納得がいった。
全ては自分が引き起こしたのが原因であると。
いや、こんなん納得できるか!
まだだ、まだチャンスはある。
完全に手遅れになる前に、起死回生の一手を——
俺は念じながら視線をリナの目に合わせ、本人には分からないよう軽い催眠をかける。
「正直に答えろ」
「うん?」
「まだ、
俺の杞憂に終わってほしいという確認にリナはにっこり笑う。
彼女は上体を起こすと腰を上げる。
「ほら」
繋がりが解除され、様々な体液がこぼれる。
赤は血だろう。
透明なのは、まあ体液なんだろう。
白は……
白は……
「分かった?」
詰んだ、詰んだよ、俺!
「もう、逃げられないよ♥️」
無言の俺にリナは勝ち誇った女の顔で宣言した。
「…………あー、その、リナ」
「
俺の震え声に彼女は優しく返す。
たぶん、リナがこの状況を実行したのは突発的なものなのだろう。
睡眠薬を準備しかねてから計画していたのかは不明ではあるが、もう手遅れだし今さらだ。
「じゃあ、そういう事で」
リナは俺の下半身のモノに手を伸ばし、腰を落とす。
「時間はまだまだあるから明け方までじっくりと、ね?」
上下運動を再開するリナに抵抗する気力を失った俺は、せめて自由な思考を明後日の方へ投げ出す事にした——
とりあえず本作はここまでにして区切りをつけます。
他の作品も同時並行で執筆してるので正直執筆数を減らしたかったのです。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
評価や感想をお待ちしております。
それでは、また。