春野サクラの妹です   作:ハルニー


原作:NARUTO
タグ:オリ主
サクラの妹として産まれた、忍びの才能に溢れた少女は、忍びを夢見る姉を想って自分の才能を隠して生きていた。しかし少女の姉が病床に伏して……

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春野サクラの妹です

 

 真っ白い壁は清潔感にあふれており、ツンと鼻をつくのは消毒液のニオイだ。磨かれた窓から差し込む陽光は、夕刻に近くなってきたことを知らせる。カラスの鳴き声がさみしげに白い空間にも聞こえてくる。

 

 透明なガラス瓶に原色の柄の入った花瓶が陽光を透かして白いテーブルに鮮やかな影を伸ばしている。

 色とりどりの花々を花瓶に活けるのは桃色の髪の少女だ。丁寧な手つきで花を活けている。さまざまな角度から花の様子を確認し、ちょいちょいと花々の位置を調整する。花の一輪一輪、みずみずしい緑も主役となる美しい花の活け方。輝きを放つ花々を見下ろし、満足げにひとつ頷く少女は優美な笑みを口元に浮かべる。

 

 実家から持ってきた衣服を鞄から取り出して、ベッド脇の衣装ケースにそうっと納めていく。

 そして空になった鞄に、今度は洗濯物を丁寧な手つきで収納する。衣ずれの音をひとつも立てず、不自然なまでに身動きの音がしない。呼吸音さえも極限まで潜めており、まるで人の気配を感じさせない。

 

 消え入るばかりに存在の儚いその少女は、憂いを帯びた瞳で見下ろした。ベッドで眠る、彼女に似た少女を。新緑のような瞳に長い睫毛が影を落とす。

 

 ベッドには少女--春野ナノハとよく似た色合いの少女が横たわっていた。一眼見て血縁関係にあることがわかる。

 

 陽の角度が変わり、少女の眠りを妨げぬようにとナノハは静かにカーテンを引く。

 

 白いシーツに包まれて穏やかな寝息を立てる少女は、痩せぎすではあるものの、膨らんだ蕾を想わせる将来有望な美貌の持ち主だ。

 桃色の髪に桃色の眉毛、睫毛までも綺麗な桃色。その長い髪をセンターパートにわけて、すべて肩元から左に流している。

 わずかに目蓋が震え、少女がゆっくりと目を開く。

 

「ん……? ナノハ、今日も来てくれてたんだ。アカデミーは?」

 

 ナノハは口角を持ち上げた。色彩の乏しかった彼女が色づき、人の気配を当たり前のように発し出す。寝ぼけ眼の病人--春野サクラはその鮮やかな変貌を目の当たりにしたにもかかわらず、ナノハから不自然さをまるで感じなかった。それを感じさせないだけの無意識の力がナノハから働いているかのように。

 

「早退しちゃった」

「もうすぐ卒業試験だっていうのに?」

「優秀なサクラに勉強を教えてもらっているおかげで、最近試験の結果が底辺じゃないのよ? 先生も病院に行ってきていいって」

 

 努力家で才女と名高かったサクラが突然の病に倒れたのはつい最近のこと。その原因は医療忍者でも分からず、入院の日々が続いている。活動時間は日に日に短くなっており、今では1日の半分は寝て過ごしている。

 

「本当に? そう毎日お見舞いに来なくてもいいのよ」

「サクラが来るなというなら来ないけれど」

 

 見つめ合ったのは1秒にも満たない短い間。引き伸ばされたその1秒間にナノハの心は恐怖する。人目を引く綺麗な笑顔ながらも、すがるような眼差しのナノハ。

 サクラは罰が悪そうに視線を逸らし、ずいっとナノハに手を差し出した。

 

「……今日もアカデミーの資料持ってきてくれたんでしょ?」

 

 ナノハはか細くなったその薄い手に、手書きの資料をそっと手渡す。

 なんて細い腕だろう。肉が極限まで削がれて、今にもぽきりと折れてしまいそうだ。

 ナノハは歪みそうになる顔に鉄壁の笑みを貼り付ける。サクラは瞳を輝かせて資料に見入り、明るい表情でナノハを見上げた。

 

「……いつもありがと。

 早いところ病気を治してナノハに追いつかれないようにしなくちゃ」

 

 花が綻ぶように微笑むサクラに、ナノハは薄い笑みを唇に刻んだまま、小さく首を振った。

 

「わたしなんかがサクラに勝てるわけがないよ」

「簡単に負けてやる気はないけど。……にしてもあんた、昔は凄まじい才能の持ち主だなんて言われてたのにね」

 

 チクリとトゲのある物言い。サクラの瞳はどこか昏く、苛立たしげな雰囲気だ。自分ではどうしようもないほどの怒り、やるせなさ。理不尽な病に倒れたサクラの心はどれほどの苦しみを讃えていることだろうか。

 心からその気持ちを理解できるナノハは、サクラの怒りに感化されることなくにこりと笑って頷いた。

 

「ほんと、嘘みたいだよね。幼い頃優秀だと言われてるやつほど、歳をとるにつれて平凡になるいい例だよ。サクラとは正反対だ」

「……そういうつもりじゃなかったの。……ごめん」

「わかってる。大丈夫だよ、気にしてない」

 

 気にしていない。本心だ。

 だって劣等生の烙印を押されているのは事実だ。人々のその評価は正しいものであるし、ナノハはその事実を正しく受け止めていた。

 人々が勝手にナノハに期待して、勝手に失望しただけだ。

 ナノハのなにが変わったわけでもないし、なにが汚されたわけでもない。なんの不利益があるでもない。

 

 両親の期待を裏切ってしまったのだけは少し申し訳ない気持ちになったが、ナノハの代わりにサクラが優秀な成績を収めてくれた。両親も鼻高々であることだろう。きっと優秀なくの一になるはずであった。その努力家な性格や、回転の速い頭。抜きん出て緻密なチャクラコントロール技術からしても、サクラがアカデミーのなかでも逸材であることは明白であった。ナノハよりもずっと将来を期待されたくの一であり、サクラ自身も忍としての自らの未来を心に描いていたに違いない。

 

 当の本人であるサクラが一番辛いはずなのに、妹のナノハの前では勝気な姿勢を崩さない。サクラは病気になってから一度としてナノハに弱い面を見せようとしなかった。子どもらしい癇癪を起こすこともなかった。おおよそ子どもとは思えぬ精神的な強さで以て、じっと耐え忍び、病が自らの身体から消えていくことを願い続けていた。

 

 だがナノハは知っていた。人気のない夜、幼い少女が一人で肩を震わせ涙を流していることを。か細く小さな身体が独り病魔に恐怖しながら震える姿は痛々しくてとても見ていられないものだ。ナノハはそばに寄り添ってやりたい気持ちを、ぐっと抑え込んでその光景を食い入るように見つめていた。そばにいてやりたいのは、ナノハの気持ちだ。サクラは己の弱い姿をナノハにだけは見せたくないのだ。己のエゴで彼女の高潔な矜持を踏み躙るわけにはいかない。

 

 二人の少女が人目を偲んで耐え忍ぶことは、一度や二度の話ではなかった。入院している娘だけではなく、もう一人の娘も遅くまで帰ってこないものだから心配して両親が探しにくることもあった。

 苦しむサクラと、サクラに気付かれぬように胸を痛めるナノハ。二人の気持ちを痛いほどに感じた両親は、そっと目配せし合ってそれぞれの優しい娘のもとへと近寄った。

 

 苦しそうなサクラをそっと母が抱きしめて、なにもできない無力感に沈むナノハの肩に父がそっと手を置く。

 母のようにサクラを抱きしめることができたなら。ナノハはそう願うが、そうされてもサクラは喜ばない。

 この溢れんばかりのサクラへの想いに気づいて欲しい気持ちと、エゴ丸出しの心に気づかれたくない気持ち。相反する気持ちが心の中でせめぎあう。父の温かな手の温もりがそっとナノハの心を慰めた。

 

 

 ナノハはアカデミーに通い、せっせとサクラのための板書を写す。

 サクラは、起きている時間にはアカデミーの教科書を開いて、復帰したときに備えているのだ。ナノハができることであれば、なんだってやろうと思っていた。もしも人の病気を肩代わりできる忍術が発明されたならば、ナノハはサクラの病を喜んで肩代わりするほどに。

 健気に努力を重ねるサクラの姿に、ナノハの苦しみは募った。

 

 同じ双子でも二卵性双生児であるナノハとサクラは、性格はもちろんのこと見た目も色彩が同じくらいでよく見ると全然違う。

 

 スレンダーで勝気な美少女のサクラはハキハキした物言いで性格も勝ち気だ。対してナノハは将来は幼いながらもどこかしら色香の漂う、穏やかな性格の少女だ。

 アカデミーでは美人姉妹として名を馳せているが、双子でありながら男子からの人気が高いのはナノハであった。

 隙のない勝ち気で優秀なサクラよりも、男女分け隔てのない劣等生のナノハのほうが親しみがあったのだろう。同じ劣等生と噂されるうずまきナルトとは雲泥の差、ナノハはクラスの人気者であるといって差し支えない。人間観察が趣味であるナノハは、里から憎まれているナルトが自分の姉にうっとりと視線を奪われている様を何度も見たことがあった。遠巻きにナルトを排外しようとする子どもたちと違って、サクラはしっかりとナルトに接していた。その言葉こそキツいものであったが、ナルトとまともに話をする人間が少ない中での冷たいサクラの態度は、それでもナルトにとって魅力的に映ったに違いない。

 

 

 サクラは物心ついた頃から忍に憧れていた。少なくとも、ナノハが忍という道を選ぶ前にしっかりと忍の道を志していたように思う。

 サクラは自らの意思で忍になりたいと願い、その道を歩むべく親を説得した。

 

 高給取りとはいえ、戦争には出ねばならないし、若くして死ぬことも多い血生臭い職業に喜んで就かせたいとは親も思わない。特に、血継限界などもない一般的な忍家庭である春野家ではなおさらだ。

 

 それでも両親がサクラの希望を受け入れたのは、妹のナノハの存在があったからだ。

 ナノハは物心つく前から類稀なる身体能力を認められていた。大人でも目を見張る速度で野山を駆け回り、見様見真似で印を結んでチャクラを操り、遊び半分に忍術を披露してみせた。

 

 教えてもいない忍術をスポンジが水を吸収するようにぐんぐんと身につけていくナノハに、この子の将来はくの一しかないと両親は確信していた。

 鳶が鷹を産むとはまさにこのことだ、と。ナノハが上忍となるであろうポテンシャルの持ち主であることは、忍である親は確信していた。

 願わくば、姉妹助け合って生きていってほしい。そう願い、ナノハとサクラが忍になることを許可した。

 

 

 6歳になると同時に姉妹二人は忍者学校に放り込まれた。

 サクラには辛いものになるであろうと予想した両親の考えと、アカデミーでの春野家姉妹の評価は正反対のものであった。

 

 忍として天性の才を誇っていたはずのナノハは落ちこぼれとなり、目立ったところがないと陰口を叩かれていたサクラは成績トップとなっていた。アカデミー入学時点から徐々に徐々に能力を落としていくナノハに誰も目を向けなかったが、それは実におかしなことであった。

 今まで当たり前のようにできていたことができなくなっている。それがなにを指し示すのか、本人以外の誰も気づいてはいなかった。幼い頃に人より優れていた者が埋没していくのは珍しいことではなかったから。特別な血継限界をもたない、また両親も上忍ではない無名の一般家庭の少女であればなおのこと自然な流れであると思われた。

 

 ナノハは自分のことよりも、ひたむきに努力を重ねる姉の姿を見ていた。才女と言われるに至るまでにサクラがどれほど悔し涙を流し、努力を重ねたのかをナノハはよく知っていた。双子の妹からも隠れて修行に明け暮れていた。睡眠時間を犠牲にし、血と涙と汗を礎にサクラは才女の名を手にした。

 

 

 ナノハが手渡した資料を読みながら、うつらうつらと船を漕ぐサクラの姿に胸が痛くなる。経絡系に問題があるのかもしれないと聞き、日向一族に身体を見てもらったが異常が見つからない。だというのにサクラの眠る時間はどんどんと増えていく。普通の人間の当たり前の生活でさえ、サクラにとっては負荷のかかるものとなってしまった。

 

 忍として才気あふれる彼女が再び輝くために、どうすればいいのだろう。たった一人の姉をどうすれば助けることができるだろうか。

 毎日のようにナノハは悩んでいた。

 

 もう二度と目立つような真似をするまいと思っていた。サクラにはアカデミーで卒業して忍になってもらい、ナノハは劣等生のままアカデミーを去って、忍者とはならずに一般人として生活をするつもりであった。才能がなんだというのか。己の才能がサクラに劣等感を感じさせるのであれば、演技をすればいい。ナノハは忍への道を渇望していたわけではなかったから。

 

 だが、今は。

 医療忍者となり、サクラの病を治したい。

 普通の医者ではダメなのだ。普通の医療忍者でもダメだ。今は里にいないが高名な--伝説の三忍の一人である綱手に従事したいとナノハは思った。そして自分がサクラの病を治すのだ。

 

 近頃はそんな願いがナノハの胸に生まれはじめていた。

 もしもこの身に本当に忍としての才能があるというのなら。

 伝説の三忍に診てもらわねばわからないというサクラの病をも治せるようになるだろう。

 

 サクラの見舞いのために毎日訪れる病院で、さまざまな人たちを見て余計にその想いは強くなっていた。

 

 わたしも、人を救える忍になりたい。

 --変わりたい。

 

 劣等生と成り下がり、嘲笑う人の評価を素直に受け入れていたナノハは、無意識に己に課していた重い枷が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

 

 

 アカデミーでの訓練の最中、がらりと顔つきを変えたナノハが的へと向けて手裏剣を投げる。吸い込まれるように中心へと飛んでいった手裏剣が深々と突き刺さり、教師は拍手した。

 

「今のは……ナノハか! いいぞ、その感覚をよく覚えておくんだ!」

 

 いつもはひょろりと的から投げていく手裏剣がどういうわけだかナノハの思うがままの軌道を描いて飛んでいく。

 

 体術も今までと全く違った。くの一のなかでは一番とされる少女を赤子の手を捻るように軽々と倒してみせた。

 

 忍術の授業のときにはすっかりクラスの皆、アカデミーの教師でさえもナノハに注視していた。みなの視線が降り注ぐなか、目にも止まらぬ速さで印を結び、緻密なチャクラコントロールで術を披露してみせる。その美しいチャクラの流れを見ていた教師はぞくりと背筋に冷たいものを感じた。今までこれほどの才能を、誰にも気付かれることなく隠し続けていたのだ。それは並大抵のことではない。幼い少女の身に宿る凄まじい忍としての才能に、教師は恐怖さえした。

 あまりに実力がかけ離れていると、嫉妬の対象にさえならない。アカデミーの落第者だったナノハが歴然と才能を見せつける姿に、子どもたちはただただ驚愕した。

 

「嘘……すごいわ、彼女。昨日までとまるで別人みたい」

 

 温和そうな笑顔こそ変わらない。

 人に対する気遣いや優しさもそのままに、ナノハは己への枷をすべて取っ払った。人間には恒常性というものがある。現状のままでいようとする無意識の働きだ。まるでそれがないかのように、生まれ変わったかのようにナノハは忍としての才能を見せつけた。

 大好きな姉のために、枯らしてしまおうとしていた才が、再び水を得て花開いていく。

 

 忍としての実力を見せつけたナノハはあっと言う間にくの一クラスのトップに躍り出ることとなった。

 




ちょっと書いてみたかった。
供養に投稿しました。
読んでくれてありがとう。

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