ようこそ声色主義の教室へ   作:Yutchi

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感情を持たない人間は、ただの空虚な容器にすぎない。
                —レオナルド・ダ・ヴィンチ—


神様面談

『Bad Morning~』

 

「え?」

自分でも呆れるほど素っ頓狂な声がでてしまった。体を起こして周りを見渡すと目の前には地平線まで広がる草原があった。暖かな日光が差しているが空気はひんやりとしていて風が川のようにサラサラと流れている

 

とても心地よい空間だ。

 

『おーい、こっちこっち!』

 

声のする方に目を向けると、大きな樹冠の下に草原の中ではよく目立つ真っ白な服を着た人がいた。

風を切る心地よさを感じながら、ゆっくりと近づいた。

 

「えっと……こんにちは?」

『はい、こんにちは』

 

今の時間帯が分からなかったため、とりあえずこんにちはと言うと思いのほか元気な声が返ってきた。声だけでは分からなかったが近づいてみるととても白髪の中性的な顔立ちの青年だった。

 

それにしても美形だな

 

『褒めてくれてありがと』

しまった、口に出てしまったのだろうか?

とりあえず……

 

「えっと、私死にました?」

『うん。しっかり死んだよ』

やっぱりか、しっかり刺されていたのを見てしまったしそれもそうか。

 

『まんまり驚かないんだね~』

青年が少し食い入るように私を見ながら言った。

 

「失礼かもしれませんが、あなたは……」

『うーん。神様みたいなものかな? 取りあえず座って話そうか』

やはり神様か、などと思っていると後ろに突然椅子が現れた。流石と言うべきか、ともかく前にいる青年が神様だという信憑性が高まった。

座らないのも失礼かと思い、とりあえず腰を掛けた。

 

「ところで、ここはどこですか? そもそもなぜこんなところに?」

 

『ここはあの世みたいなものかな、神様のお部屋みたいなものだと思ってくれていいよ。

君は死んだわけだけど、少し話したいことがあって招待したんだ』

 

お部屋というには広すぎないか? と思いながら、話したい内容について聞くことにした。

 

「それで、お話とは?」

『まぁ結論から言うと転生してみないかっていうお誘いかな』

 

ん?

「それは記憶も引き継いで、ということですか?」

『そうだね~、転生するとしたらそうなるかな』

 

それはおかしな話だ。もし死んだ者たち全員にこの話をしているのだとすれば、その中の大半の人は記憶を引き継いで転生することを選ぶだろう。しかし、そんなことを続けていれば時間が経過するにつれ記憶を引き継いで転生したという者たちが増加し続けているということになる。

 

少なくとも前世で私の周りにそのような人はいなかった。そもそも、そんなことが起こっているのだとすれば前世由来の知識や学力、記憶によって、もっと社会は発展しているはずだ。

 

だとすると……

「この話をされるのって、ごく少数の人たちだったりします?」

 

『おー、さすが!ご名答だよ。ていうかそもそも君が初めてかな。』

これには少し驚いた。つまりこれは何千億人という人、別世界があるとすればもっと多くの人たちの中から自分が選ばれたということだ。

 

しかし、そうなると更におかしな話だ

 

「なぜ私に?」

少し困惑気味にたずねると、青年は背もたれにもたれかかりながら説明し始めた。

 

『まず、一つ目の理由は瞬間記憶力があることかな。』

 

「珍しいかもしれませんが、私だけというわけではないのでは?他にも持っている人はいると思いますが。」

実際、瞬間記憶力の持ち主は3万人に1人と言われており、単純計算でも地球上に27万人程いることになる。それだけではあまり確定的な理由にはなりえないはずだ、

 

『君の瞬間記憶力は特殊でね、このような能力は脳の構造に由来するものなんだ。だからこれら能力は先天的なものが多いんだよね。

でも君は違う。

君の能力は君の経験、性格、記憶に由来するものなんだ。だから君の能力は瞬間記憶力とは似て非なるもの。擬似瞬間記憶力といったところかな?その証拠に君の能力は視覚情報だけではなく五感情報すべてを記憶できるってわけ。』

青年が首をすくめながら言った。

 

 

不意に理解した。

うすうす気づいていたが、そのような違いがあったのか…。言うなればこれは絶対音感と相対音感のような違いがあうということだ。*1

「しかしそれが転生とどう関わってくるんですか?」

 

『本来、転生すると肉体も新しいものに変わってしまうから、脳の構造もリセットされ能力を失う。しかし君なら記憶を失わない限り、能力を失うこともない。これほど転生に適した人材は無いと思い、声をかけたんだ。』

 

「なるほど…

確かに一理ありますね。ですが、そんなことでわざわざ神様が声をかけますかね?神様にその気があるのなら勝手に転生させてしまえばよかったのでは?」

 

『まぁそこは個人の意見の尊重と…

2つ目の君と話したかったって理由が大きいかな。」

 

私と?

 

『君はイレギュラーな存在だったからね。ほかの神様たちとよく君の人生観察をしていたんだ。本来、それが神様の仕事なんだけどね。君のことは特に気にかけてたよ。君があの父親に暴力を振るわれた時はほかの神が怒り狂って大変だったよ。』

 

「えっと…気にかけてくれてありがとうございます?」

『いいよいいよ、僕たちが勝手に見てただけだから。』

 

しかし、まさか自分がずっと見られていたとは改めて驚いた。

 

『しかし君は能力を獲得した後、活用はするものの人前で披露したりはしなかったから僕たちとしては少しもどかしさはあったかな。』

 

人前で披露し褒められたりしてもあまり嬉しくもなかったし、それで面倒ごとが増えるのは嫌だったからそのような考えはあまりなかった。

 

青年が体を起こし、私をまっすぐ見た。

『僕たちは君にもっと色んな人と出会って理解してほしい。もっと自分を知ってほしい。もっと世界を広く見てほしい。君のためにもね。

えこひいきかもしれないけど、ずっと君を見てきたものとしてはそうして欲しい。』

 

 

 

こんなふうに誰かに気にかけてもらったのはいつぶりだろう、

ちゃんと見てくれてたんだ……

 

 

「ありがとうございます……転生のお誘い受けてもいいですか?」

 

『うん!それじゃあ転生について詳しく話そうか。』

『っと、その前に…何か飲みながら話そう。』

 

すると、私と青年の前に木造の円形テーブルと紅茶が現れた。

 

『どうぞ。』

「それではお言葉に甘えて」

 

フルーティーで花の香りがするスッキリとした紅茶だった。

「美味しいです。」

『お口に合ってよかった。それじゃあ転生について話すね。

一応、転生先の肉体の情報はカスタム可能なんだ。だから、まずはそこから決めようか。

性別はどうする?』

 

出来れば慣れている性別のほうがいいだろう。

「女性でお願いします。」

 

『オッケー、女性ね。顔はどうする?』

 

「うーん、私と神様を合わせて2で割ったような顔で。』

『おっ!嬉しいね僕の顔を選んでもらえるなんて。ほかの神が聞いたら嫉妬するだろうなー♪』

喜んでもらえてなによりだ。

 

『筋肉や骨格はどうする?』

「骨格は強くおれにくいように、筋肉は鍛えれば付きやすいようにしてください。」

『筋肉は初めからある程度付けることができるけど?』

 

「そこまでは悪いですし、どうせなら自分で付けたいので」

それに前世では、スポーツや格闘技はやらせてもらえなかったから、やってみたい気持ちもすこしあるのだ。

 

 

 

その後も詳しい肉体情報を決めていった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし!これで大体決まったね。

次は能力についてだ。君には瞬間記憶力ともう2つ神達からプレゼントしたいとおもってるんだ。』

 

「もう2つプレゼントですか?」

 

これ以上どんな能力が?

 

『1つ目はサウンドカラー共感覚だよ。』

 

共感覚 別名シナスタジア、たしかある刺激に対して通常の感覚とは別に他の感覚が生じる現象だ。サウンドカラー共感覚は音に対して色を感じるというものだった気がする。

 

『この能力の内容は知ってると思うけど、君には神達で少し改良したものを渡そうと思ってる。

すべての音ではなく声にのみ反応し、色やその形で感情見ることができるようになってるよ。』

 

『君にはこの能力を使って、よりダイレクトに人の感情を受け取って理解を深めてほしい。扱い方は難しいけど君ならすぐ使いこなせるようになると思うよ。』

 

「分かりました。」

これは、いい能力だな。相手の本心をより明確にとらえることが出来るし使い道が多そうだ。

しかし、視覚情報が格段に増加するから慣れるのには時間がかかるだろう。

 

 

というかそもそもこの能力を持ってたら、対人ゲームはほぼ勝ち確定じゃないか?

まぁ、ゲームはあまりしないしいいか、

 

 

 

 

『2つ目は能力ではなく人格をプレゼントしたい。ていうかもうプレゼントしてるんだけどね。』

 

「え?」

〈え?〉

突然声が2つ聞こえた。

 

『それ!

今2つの声がしたでしょ。1つは君自身が口で発したもの、もう1つはもう1人の君が脳内で発したものだ。』

 

なるほど……

「それはつまりもう1人の私を作り出して、脳内に入れ込んだということですか?」

〈それはつまりもう1人の私を作り出して、脳内に入れ込んだということですか?〉

 

青年が顔をしかめながら…

『あー、ちょっと待って。とりあえず中の君は声を出さないようにしてもらえるかな?僕にも重複して聞こえるから。それと人格は同じなわけだから、中の君が質問しようとしなくても外の君が質問してくれると思うよ。』

 

〈分かりました。〉

 

これは少し感覚が狂うな。

〈私もだよ。〉

 

『まぁ、それもそのうち扱いやすくなるさ。時間が経てばたつほど別の人格として認識できるようになってくると思うから。脳内で自分と同居してると思ってくれ。』

 

自分と同居……

ということは思考も共有するということか?

〈いや、外の私の思考を私は聞き取れてるけど、私の思考は外の私に聞こえてないようだから、外の私の思考のみ共有できるみたい。〉*2

 

『その通り。今、脳内で聞こえてるのは中の君の思考ではなく声だと思ってくれ。脳内で声が聞こえなくとも中の君は思考を止めているわけではないから安心して。』

 

確かに中の私の思考が常に聞こえてしまうと、脳内での情報処理に時間がかかるしお互いの思考を阻害しあってしまうことになりかねない。

うまく作ってくれた神様にあらためて感謝した。

 

『この能力は、君に君自身を理解してもらうために作ったんだ。より客観的な視点からお互いをよく理解しあうことは君自身を理解することに直結する。』

 

〈斬新なアイデアですが、確かに理にかなってますね。〉

そうだね。

 

『そう言ってもらえて嬉しいよ。ちなみに、外の君と中の君の立ち位置は入れ替え可能だ。どちらかがずっと脳内にいるのも不公平だしね。入れ替えの時はお互いが同時に スイッチ って言えばいいよ。』

『この能力は、かなり汎用性の高い能力だ。上手く使ってみてほしい。』

 

確かにこの能力はかなり使い道がある。

通常の状態なら並列思考が可能だし、五感情報の処理を分担すればさらに瞬間記憶力が高まる。

お互いが交代制で体の主導権を握りあえば長時間の作業も可能になる。

〈そもそも、脳のメモリが2倍になったわけだから記憶の容量もアップだね〉

 

『もう使い道を思いついてるみたいだね、いいことだ。』

青年が温かに微笑みながら言った。

 

 

 

「何から何までありがとうございます。見守っててくれたこと、能力をくれたこと、もう一度…チャンスをくれたこと、本当に感謝してます。改めて、ありがとうございます。」

 

『どういたしまして。

まぁ僕たちがしてあげたいと思ってやったことだから、気にしないで。それにこれまでじゃなく、これからも君を見守っていくつもりだから。』

 

『感情を持たない人間は、ただの空虚な容器にすぎない。

 

これから君にはその容器の中に様々なものを入れていってほしい。 頑張ってね。

 

っとそろそろ時間だ。

それじゃあ、いってらっしゃい!』

 

私の体が暖かく、まぶしい炎に包まれていく。

 

 

 

それじゃあ—

 

 

 

「行ってきます。」

〈行ってきます。〉

 

 

 

『君の人生に幸多からんことを—』

*1
絶対音感は先天的なものに対して、相対音感は訓練によって獲得可能です。

*2
〇 外→中  ✕ 外←中




投稿遅れてしまってすいません。
ちなみに
『』神様
「」主人公(声)
〈〉中(もう1人)の主人公の声      でした。

前世での主人公のスペック
学力  綾小路並
知性  坂柳並
判断力 坂柳並
身体能力 低い
協調性 低い
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