長野県警の女関羽   作:長野組推し

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ようやっとコナン君登場……長かった。


名探偵たちとの邂逅

 高校生探偵、工藤新一こと江戸川コナン。黒づくめの男たちの怪しい取引を目撃するも、背後から襲われ毒薬を飲まされてしまい、目が覚めたら──小学一年生の身体に縮んでしまった。

 

 幼馴染の毛利蘭の元に転がり込んだコナンは、蘭の父親である毛利小五郎を名探偵に仕立て上げ、組織の情報を得るために日々難事件を解決する日々を送っていた。

 

 そんなある日のこと、探偵事務所にある依頼が舞い込んだ。長野の名家である虎田家から、息子である虎田義郎を見殺しにした者が誰かを突き止めてほしいという依頼だった。

 

 依頼を引き受けた毛利一行は一路長野へ。そこで義郎の死に纏わる不可解な謎を聞くことになる。

 

 義郎の死因は竜巻に巻き込まれての高所からの落下。他殺ではなく事故死なのだが、問題は遺体の側に置かれた百足の死体。竜巻が発生した付近に百足は生息していないため、何者かが生き絶えた義郎の側に踏み潰した百足の死骸を置いたことになる。

 

 虎田家当主の直信は、長年対立しいがみ合ってきた龍尾家の仕業に違いないと考え、真実を明らかにするために名探偵と名高い毛利小五郎に依頼したのだ。

 

 事情を聞き届けた毛利一行は早速とばかりに調査に乗り出した。

 

 

 時を同じくして、虎田家と同じく長野の名家である龍尾家には西の高校生探偵である服部平次とその幼馴染である遠山和葉が訪れていた。

 

 依頼の内容は娘の婿であった龍尾康司が何者かによって殺害された事件の調査。捜査中の一点張りで頼りにならない長野の警察に痺れを切らし、龍尾家当主である為史が高校時代の後輩であった大滝警部の伝手を頼り、西の高校生探偵である平次に依頼したのだ。

 

 康司の死因は撲殺で歴とした殺人。遺体は両手足を縛られた状態で、土砂と砂利で造られた小山から頭だけを出すような形で放置されていた。しかも遺体のすぐ側には百足の死骸まで置かれていた。強い恨み云々ではない殺し方は異常と言う他ないだろう。

 

 為史の祖母である龍尾盛代は、義郎を見殺しにされたと勘違いした虎田家の報復に違いないと訴えていたが、それを鵜呑みにする訳にもいかないので平次は和葉と共に調査に乗り出した。

 

 

 依頼主と経緯は違えど同じ事件を調査する二組の探偵たち。必然的に邂逅するまでに時間はそう掛からず、そのままの成り行きで協力することになる。

 

 とはいえ小五郎も平次も、そして新一ことコナンも。現場の手掛かりだけでは犯人の目星どころか殺された理由も、遺体の傍に置かれた百足の意味も分からない。どうしたものかと頭を悩ませつつ、亡くなった義郎の義兄弟である繁次に話を聞こうと虎田家に戻ってきたところで、屋敷の前に佇む男女二人組を見付けた。

 

 男性は口元に特徴的な髭を生やした背の高い男だ。後ろで手を組んで凛と佇む様は、切長で理知的な双眸も相まって軍記小説から飛び出した軍師のようにも思える。

 

 女性は優美な茶髪を背中に流した大和撫子といった風体だが、滲み出る活発そうな雰囲気が印象を明るくしている。笑えば天真爛漫といった表現がぴったり合いそうな、可愛らしい顔立ちの女性だ。

 

 男女二人組は大所帯で屋敷に近付いてくる一行を認めると、微かに顔を顰めた。あまり歓迎していない雰囲気に並んで歩いていたコナンと平次が目敏く反応する。

 

「おい工藤。あの二人、虎田家の人間か?」

 

「いや、さっき話を聞いた時にはいなかった……つーか、んん?」

 

 屋敷前に立つ男女の二人組の顔を見て、コナンは何かが引っ掛かったように首を傾げる。無性に何処かで会ったような気がしてならなかった。

 

「なんや、どないした? 知ってる顔か?」

 

「うーん、知ってるような知らないような。ここまで出てんだけどなぁ……」

 

 コナンは首のあたりで掌をひらひらとさせた。

 

 コナンと平次がそんな話をしていると、男女の二人組が小五郎に話し掛けてきた。

 

「申し訳ありません、ちょっと待ってもらえますか。虎田家の関係者には見えませんけど、この屋敷に何かご用ですか?」

 

 そう言って女性──美羽は胸元から警察手帳を取り出す。同じく隣の男──高明も自らの身分を証明するために警察手帳を見せた。

 

 長野県警本部所属の刑事二人を前に小五郎は居住まいを正した。

 

「あー、私は私立探偵の毛利小五郎と申します。こっちは娘の蘭で、こいつは居候のコナン」

 

(居候は余計だっつーの)

 

 例によっていつもの如く雑な紹介にコナンは不満げに小五郎を見上げた。

 

「それでこっちの二人は──」

 

「オレは西の高校生探偵、服部平次や。こっちのは幼馴染の遠山和葉」

 

 小五郎から紹介を預かって平次が美羽と高明に名乗った。

 

 毛利一行の素性を聞いて美羽と高明は驚いたように目を見張る。

 

「毛利小五郎って」

 

「かの有名な眠りの小五郎。まさかこのような場でお目に掛かれるとは」

 

「いやー、それほどでも!」

 

 美羽と高明の好感触な反応に気を良くする小五郎。煽てれば木でもなんでも登りそうな様子の小五郎を、コナンと平次は半目で眺めていた。

 

「申し遅れました。私は長野県警本部所属の一関美羽です」

 

「同じく、諸伏高明と申します。以後、お見知り置きを」

 

「……一関と諸伏? もしかしてあんたら、長野の女関羽と孔明とちゃうか?」

 

 美羽と高明の名前を聞いて平次が問うと、小五郎が怪訝そうな顔で声を上げた。

 

「なんだそりゃ? あだ名か何かか?」

 

「大滝はんが言っとったんや。脅威の犯人検挙率と活躍から、三国志の武将の名前が付けられる程に有名な二人組の刑事が長野におるって」

 

「ほーん。だがよりによってなんで三国志なんだ? このあたりなら信玄とかの方が有名だろうが」

 

「それは二人のあだ名が関羽と孔明だからだよ。ね?」

 

 今一つピンときた様子のなかった小五郎に、子供らしい仕草でコナンが美羽と高明を見上げた。

 

「一関美羽刑事は“関”と“羽”を抜き取って関羽。諸伏警部は名前が音読みで“コウメイ”だから、孔明。だよね?」

 

「ええ、その通り。子供なのに頭が良いわねぇ」

 

「えへへ、そんなことないよ」

 

 小学生相手であるので美羽は砕けた口調に戻し、屈んでコナンと目線を合わせて感心混じりにその頭を優しく撫でた。思わず照れてしまったコナンだが、平次から向けられる揶揄い混じりの生温かい視線に顔を引き攣らせた。

 

「ほんで、その有名な刑事が此処におるってことは、もう犯人の目星とか付いとるんとちゃうか?」

 

 当然のように捜査状況を聞いてくる平次に美羽と高明は困ったように顔を見合わせた。

 

「残念ながら、進展と言えるような話はありません。亡くなった義郎さんと康司さんが、我々の同僚に何かしら話をしようとしていたようなので、それについて確かめに来ただけのこと」

 

「ま、仮に進展があったとしても部外者に捜査情報をおいそれと話すことなんてできませんけど。それが、名探偵と名高い毛利さんと服部君であっても」

 

 礼儀正しく丁寧ながらも取りつく島もない美羽の態度に、そこをなんとかと小五郎が頼み込む。刑事が握っている情報があれば依頼の調査も進む。行き詰まっている状況を打開するためにも、美羽と高明が持っている情報が欲しかった。

 

 小五郎が下手に出ながら交渉していると、今まで美羽と高明の二人をじっと観察していた蘭が前に出る。蘭は恐る恐る、確かめるような態度で口を開いた。

 

「あの、一関刑事と諸伏警部ですよね? 一度お会いしたことがあると思うんですけど、覚えていませんか?」

 

「なんだ、蘭。お前、この刑事たちと知り合いだったのか?」

 

「うん。東京でポーチをひったくられた時に助けてもらったのよ」

 

「……ああ! あの時の学生カップルね!」

 

 蘭の口から出た東京とひったくりの単語で思い出した美羽がぽんと手を叩く。高明も思い出したようで、ほう、と何やら含みありげに頷いた。

 

(あー、思い出したぜ。あの時の長野の刑事か)

 

 コナンも漸く何処で見た顔だったのかを思い出し、胸のつっかえが綺麗さっぱり取れた。

 

「あの時はちゃんとお礼も言えなくて、ポーチを取り返してくれてありがとうございました」

 

「いーのいーの、困っている人を助けるのはお巡りさんのお仕事だから。それより、あの時の彼氏君はいないの?」

 

「だ、だから彼氏じゃなくって……」

 

「え? なに、まだ付き合ってなかったの? あんまり長引かせると拗れちゃうわよ。何処の誰とは言わないけど」

 

(余計なお世話だっつーの)

 

 美羽の失礼極まりない、しかし矢鱈と実感の籠った言葉にコナンは心中で突っ込みを入れつつ、ニヤニヤと鬱陶しい笑みで見てくる服部の脛をげしげしと蹴った。

 

 美羽の揶揄いに顔を照れて顔を赤くしながら、蘭はそそっと美羽の側に近付いた。そして他の面々に聞かれないよう小声で美羽に訊ねる。

 

「あの、今回の事件ってやっぱり呪いとかが関係してたりするんですか?」

 

「は? 呪い? なんで?」

 

 突拍子もない蘭の質問に美羽はきょとんと目を丸くする。美羽の隣にいた高明も、意味が分からないといった顔で首を傾げた。

 

「だ、だって信玄様の呪いがーとか、百足の祟りがーって皆さん言ってて」

 

「せやせや。亡くなられた義郎さんと康司さん、武田信玄の隠し金山探してたって言うし。祟られてもうたんとちゃうん?」

 

 いつの間にか寄ってきた和葉までもが、怪奇現象に怯えるか弱い女性のようにそんなことを言う。空手と合気道の達人である二人も、幽霊や怪奇現象の類には滅法弱いのだ。

 

 かたかたと震える女子高生二人にそんなことを訊かれた美羽はしばしぽかーんと固まると、ややあってから噴き出し盛大に笑い始めた。

 

「あっははは! 蘭ちゃんも和葉ちゃんも可愛いこと言うじゃない。お化け怖いんだ?」

 

「だ、だってお化けですよ?」

 

「空手も合気道も通用する訳あらへんし……」

 

「へぇ、空手と合気道か。成る程、結構な遣い手みたいね」

 

 目を細めた美羽が蘭と和葉の一挙手一投足を具に観察する。何かしら格闘技の類を手習っていることは見抜いていたが、それが空手と合気道であることまでは読めていなかったのだ。それも感覚に相違がなければ相当の腕前である。

 

 だがそれはそれ、お化けに怯える可愛い女子高生二人に美羽は心配要らないとばかりに微笑んだ。

 

「大丈夫よ。この世に呪いも祟りもあるわけない……とは言わないけど」

 

「言わないんですか!?」

 

「そんなぁ!?」

 

 否定しない美羽に蘭と和葉がショックを受けたように悲鳴を上げた。そんな二人の反応に美羽は申し訳ないと思うが、オカルト全否定は人生二周目の自分自身の否定に繋がるので仕方ないのだ。

 

「でも今回はそんな非科学的な話は微塵もないから。だって──」

 

「──美羽」

 

 その先を口にしようとした美羽を、高明の低い声が制した。

 

 びくっと肩を跳ねさせた美羽は恐る恐るといった体で隣を見上げる。高明の切れ長の瞳が一層鋭く細められ、余計なことを喋るなと言外に言っていた。

 

 釘を刺された美羽は困ったように頭を掻き、しばし悩んだ後に蘭と和葉を見返した。

 

「えっと、じゃあこうしましょうか!」

 

 名案を思い付いたと言わんばかりに声の調子を上げた美羽は、懐から警察手帳を取り出すと空白のページに自身のスマホの番号を書き留め始める。番号を書き終えるとそのページを破り取って蘭に差し出した。

 

「もしも呪いや祟りが出たりしたら、遠慮なく電話していいわよ。すぐに駆け付けて呪いも祟りもぶっ飛ばしてあげるから」

 

「ぶ、ぶっ飛ばせちゃうんですか……」

 

「一関刑事、怖いもん知らずやわぁ……」

 

 呪いも祟りも否定しない割に微塵も恐れておらず、むしろ真っ向から捻じ伏せるつもり満々の美羽に蘭と和葉は頼もしいやら心強いやらで何も言えなくなってしまった。

 

「ま、二人には私なんかよりもよっぽど頼りになるボディガードがいるみたいだけどねぇ?」

 

 にやりと笑みを零して美羽が見やるのは、オカルトなんて阿呆らしいと言わんばかりの白けた顔をしたコナンと平次の二人。唐突に水を向けられた二人は驚いたように目を丸くした。

 

「それじゃあ、私たちはお先に失礼するわ。まだ仕事も残ってるしね」

 

 これ以上はボロを出すまいと美羽は高明と共に虎田家の屋敷を後にする。足早に去っていく二人の背中をコナンと平次は眺めながら、何処となく気の抜けた顔で言葉を交わす。

 

「なぁ、工藤。勘違いかもしれへんけど、もしかしてオレらが長野の山奥まで出向いた意味なかったんとちゃうか?」

 

「そいつは奇遇だな。オレもそんな気がするぜ」

 

 高明に咎められた時に美羽が口を滑らせかけた内容。恐らくは捜査状況に関するものだろうが、あの反応からして相当に重大な何かを掴んでいるのは察せられた。

 

 他県でもその活躍が噂される程の刑事たちが、事件に関する重大な情報を掴んでいる。であれば事件解決は目前といっても過言ではないだろう。名探偵の出る幕はないかもしれなかった。

 

「ま、すぐに解決するとも限らないし、オレたちはオレたちで調査を続けようぜ」

 

「せやなぁ。差し当たっては義郎さんと康司さんと一緒に隠し金山探してたっちゅう繁次さんに話聞いてみよか」

 

 小学一年生と高校二年生という凸凹名探偵は、事件が早々に解決してしまう気配を感じながらも調査を続けるのだった。

 

 

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