結城家の隣人転生者、気づけばハーレムに…。 作:射蓄労働者
夕飯の支度がひと段落した頃だった。
「……そういえばさ。」
箸を動かしながら、ふと思い出したことを口にする。
「もうすぐリトの誕生日だな。」
「え?」
ソファに寝転がっていたララが、勢いよく上半身を起こした。
「たんじょうび? リトの?」
その反応を見て、だいたい察する。
「……もしかして、知らなかった?」
「うん! 知らなかった!」
即答だった。
「じゃあプレゼントいるね!」
思い立ったが即行動、という言葉を体現したような反応。 風呂場から水音が聞こえてくるのを横目に見る。
――主役は不在。
「ちょっと待って、ララさん。」
キッチンの奥から、落ち着いた声が飛んできた。 エプロン姿の美柑が、手を拭きながらこちらへ来る。
「プレゼントって……もう何あげるか考えてるの?」
「これから考える!」
ララは胸を張る。
「リトが喜ぶやつ!」
「……嫌な予感しかしないんだけど。」
美柑の視線が、自然と俺に向く。
「ねえ、ソウ兄も止めてよ。」
「いや、まだ何も言ってないしなあ‥。」
とはいえ、この温度差はいつものことだ。
ララは行動力と無邪気さ、でもズレてる。美柑はそれに冷静にツッコむ。
これではどちらが年上なのか分からない。
廊下の向こうで、扉の開閉する音がする。
「――あ、そろそろ出てくる。」
主役が戻る前に話をまとめないといけない。そう思った瞬間、ララの瞳がきらりと光った。
「じゃあね、宇宙で流行ってるこれとかどうかな?」
ララがどこからともなく取り出したのは、明らかに地球の家電売り場では見かけない代物だった。
「ボタン押すとね、気分に合わせて部屋の重力変えられるの!」
「絶対ダメ!!」
美柑の即答。
「家が壊れるし、近所迷惑だし、そもそも使い道ないから!」
「えー、便利なのにー。」
「便利の基準がおかしいの!」
次に出てきたのは、うねうねと動く小さな生物。
「これは?」
「護衛用ペット!」
「却下!!」
会話が成立する前に否定されていく。
「……二人とも、一旦落ち着こう。」
間に割って入る。
「ララの“特別なものをあげたい”気持ちは分かるし、美柑の考えてることも正しい。」
二人の視線が向く。
「誕生日プレゼントってさ、気持ちが伝われば十分なんだと思う。重すぎなくて、使い道があって、リトが困らないやつ。」
「……そういうのが、一番なんだけど。」
美柑は小さく頷く。
「でも、今のララさんのは違うでしょ‥。」
「じゃあ――」
ララがぱっと顔を明るくした。
「店とか見に行けばいいんだね!」
ララは玄関に向かって行こうとする。
「……今から?」
「もう遅いでしょ。」
俺と美柑から思わずツッコミが入る。
「じゃあ明日ね。放課後でいい?」
自然と決まる約束。
風呂場から歩いてくる音がした。
三人は同時に口をつぐむ。
――主役には、まだ秘密だ。
翌日。
放課後、三人で商店街を歩いていた。
ララは相変わらず人目を気にしない。 道の真ん中で立ち止まっては、目についた商品を指差す。
「ねえねえ、これリト好きかな?」
「それは……普通に使わないと思う。」
余りにも奇天烈な品を見て、美柑が即座に判断する。
「高すぎるのはダメ。消耗品すぎるのもダメ。あと、リトが気を遣いそうなのもダメ。」
さすが妹、解像度が高い。
「細かいなあ。」
「細かくしないと、後が大変なの。」
そんな二人を見ながら、俺は少し後ろを歩く。 暴走しそうになったら止めて、落ち着いたら背中を押す。 それだけでいい。
「……そういえば。」
ふと、ララが首を傾げた。
「リトって、何が好きなんだろ?」
ララの疑問に美柑が少し思い出そうと目を泳がせる。
「‥‥‥植物とかお世話するのが好きみたいだね。」
美柑が自然に答える。
「小さい頃から、庭いじりとか好きだったし。お花とかただ水をあげたりするんじゃなくて楽しそうに話しかけてるし…。」
「へえ……!」
ララの目が、きらっと光った。
勢いのまま、植物が置いてあるエリアに赴く。
店先の観葉植物コーナーで、ララは足を止めた。
「地球の植物もいいけど……。」
少し考え込んでから、にっこり笑う。
「じゃあ、宇宙の植物にしよっかな。」
「……大丈夫なやつ?」
美柑が警戒する。
「うん! ちゃんと育てやすくて、危なくないの!それでいて印象に残るやつ!」
胸を張るララ。
「リト、きっと喜ぶよ。だって、好きなものだもん!」
その言葉に、美柑は少しだけ考えてから頷いた。
「……ちゃんと説明書つけてね。」
「もちろん!」
こうして、プレゼントは決まった。
‥‥‥、セリーヌだろうなあ‥。見た目ヤバ目な頃の‥。
俺は少し天を仰いだ。
リトの家に、先に集まったのは三人だった。
「しーっ。リトには内緒だよ?」
ララが指を口に当てて小声で言うが、声量はあまり変わっていない。
「内緒にする気、ある?」
美柑がため息混じりに返す。
「まあ、帰ってきたらすぐ分かるだろうけど。」
そう言いつつ、俺は玄関先に目をやる。
時刻は夕方。そろそろリトが帰ってくる頃だ。
テーブルの上には、簡単な飾り付けとケーキ。
ララはそわそわ、美柑は段取り確認、俺は流れを見守る役。
やがて、玄関の扉が開く音。
「ただいまー……って、え?」
リトが一歩入ったところで固まる。
「おかえりー!!」
ララが勢いよく飛び出した。
「誕生日おめでとー!!」
一拍遅れて、美柑が控えめに。
「……リト、お誕生日おめでとう。」
「え、え、なにこれ!?」
完全に不意打ちだ。まだ何のことか分かっていない。
ララが腕を引っ張り、強引に居間へ連れて行く。
「ほらほら、主役は座って!」
リトは半ば押される形で座らされ、状況を飲み込めないまま。
「……ありがとう。正直、びっくりしたけど。」
周りの装飾などを見てやっとリトは状況を理解する。照れたように笑うリトを見て、美柑は少しだけ安心した顔をした。
「じゃあ、プレゼント!」
ララが胸を張る。
「まずはこれね!」
美柑から渡されたのは、実用的な小物だった。
「いつも使ってるの、そろそろ古くなってたでしょ。」
「うん、助かる。ありがとう、美柑。」
兄妹らしい、穏やかなやり取り。
俺はと言うと、ちょっといい香水をあげてみた。そう言うのには無頓着なので、ここぞと言う時につけて西蓮寺に振り向いてもらえ‥。
そしてララが、リトの手を引いて庭の方へと移動する。
「そして、これがメイン!」
ララはどうだとばかりにカーテンを開ける。
そこには、土に植えられた“花”。
ただし。
花弁は大きく、中心には歯のようなものが覗き、茎は不自然に太い。なんかうねうねもしている。
「………………。」
リトに美柑は呆気にとられ、数秒の沈黙。
「……ララ?」
「かわいいでしょ!」
即答。
「宇宙の植物なんだよ! 育てやすいし、リト植物好きでしょ?」
「いや、好きだけど……これは……」
美柑が一歩引いた。
「……見た目が、ちょっと怖い。」
「えー? そう?」
ララは首を傾げる。
花は、静かに揺れている。
想像よりデカイな‥。ここからセリーヌが産まれるとは不思議なもんだなあ。
内心で、そう思う。
もちろん、誰も知らない。
「……まあ、せっかくだし。」
リトは困りながらも、庭に置くことを決めた。
「ちゃんと世話すれば大丈夫、だよな?」
「うん! お水あげてね!」
ララは満面の笑みだった。
夕食はいつもより賑やかだった。
ララはテンション高め、美柑はツッコミ役、リトは振り回されつつも楽しそう。
「今日は特別だからね!」
ケーキを囲んで、他愛ない話が続く。
気づけば時間はすっかり深い夜。
「もう遅いし……ソウ兄も今日は泊まっていけば?」
美柑が言うと、ララが即反応。
「お泊まり! いいね!」
「まあ……この時間だしな。」
リトも頷く。
その結果。
「……で、どうしてこうなる?」
布団を敷いた部屋で、俺は状況を確認する。
「四人で寝れば問題なし!」
ララは即断。
「問題はあると思うけど……。」
美柑は言いつつも、もう諦めている。
ララ
リト
美柑
俺
四人で、雑魚寝。
皆それぞれ自室があるはず何だか‥、と思うがララの暴走は止まらない。
「えへへー。リトー!」
「おい、やめろよ!」
ララがこれみよがしにリトにくっついており、リトが引き剥がそうと必死だ。
しばらく死闘が続いた末、やっと落ち着きを取り戻し電気が消える。
部屋が静かになる。
「……今日は、楽しかったな。」
リトがぽつりと言った。
「うん。」
美柑が小さく返す。
「誕生日っていいね!」
ララは最後まで元気だ。
「明日も学校あるから寝るぞー。」
このままズルズル会話が続きそうなのを見越し、会話を遮断する。
その後、スゥスゥと規則的な寝息が聞こえてくる。
それを皮切りに寝息が重なる。ちらっと横を見ると美柑の寝顔が見える。寝返りをうってなのか俺の布団の境界近くにいる構図だ。
にしても美柑も大きくなったなあ‥。
幼少期からの付き合いであり密な間柄だったため成長過程をよく知っている。自分も今は高校生なので言えた柄じゃないが子どもの成長とは速いものだ。
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……と、思った次の瞬間だった。
ごろっ。
向こうで大きな音がした。
「……ん?」
リトだ。
一回。
二回。
三回。
まるでローリングでもしているかのように、豪快に寝返りを打つ。
おい待て、それは嫌な軌道だぞ‥。
次の瞬間。
どすんっ。
「っ!?」
布団が一斉にずれた。
リトの豪快な寝返りに美柑が巻き込まれ、その反動で
「きゃっ!?」
美柑の小さな悲鳴。
弾かれるように、こちら側へ。
ごろり。
気づいた時には、美柑が完全に俺の腕の中にすっぽりとおさまっていた。
「……っ!」
距離が、近い。
寝ぼけているのか、リトはまだ目は閉じたままだ。
俺は美柑と目線が合う。
「っっ‥‥‥‥‥‥‥//////」
僅かに月明かりを灯すだけ部屋だが明らかに美柑の顔が赤くなるのがわかる。
ごろんっ。
そんな中さらにリトの追撃により、さらに距離が縮まり‥、
「むぐっ。」
美柑の顔が俺の首元に押し付けられる。
身体は密着し、右足が俺の足に絡まる。
「っっっっっ!!!!!!」
ここで美柑が勢いよく飛び起きる。
「リィィィトォォォォォォ!!!!」
深夜とは思えない絶叫が響いた。
ばしんっ!!
乾いた音。
リトの頬に、見事な平手打ちが炸裂する。
「いっっっ! な、何!? 俺何かした!?」
飛び起きるリト。
だが状況を理解する前に――
「問答無用!!」
二発目。
ぱしんっ!!
「だから何が!?」
「寝相が悪すぎるのよ!!」
「寝てただけだろ!?」
「結果が全て!!」
無意識のリトにとっては完全に理不尽裁判である。その状況にララは半分起きながら楽しそうに観戦している。
「わー、修羅場ー!」
「修羅場じゃない!」
美柑は顔を真っ赤にしたまま、びしっと指を突きつける。
「今後、私の半径一メートル以内で寝るの禁止!!」
「そんな制限ある!?」
「あるの!!」
さらに枕が飛ぶ。
ぼふっ。
「痛い! 痛いって!」
「反省しなさい!!」
「してる! 今してる!」
数秒のドタバタの末。
ようやく静止。
美柑は荒い息を整え、乱れた布団を直す。
「……もう。これ以上動いたら廊下で寝てもらうから。」
「はい……。」
完全にしょんぼりしたリト。
ララがにこにこしながら一言。
「でも仲良しだね!」
「仲良しじゃない!!」
即ツッコミ。
俺は小さく息を吐いた。
「……美柑。俺と場所変わるか。」
リトのラッキースケベ対象は異性なので俺が間に入れば多分問題ないだろう。
「……うん。ありがと。」
美柑はそっぽを向いたまま布団に潜り込む。恥ずかしさからなのか美柑とは視線が合わない。
そして再び消灯。
静寂。
……数分後。
ごふぅぅ!
俺の横腹にリトの一撃が入る。またローリングをかましてきたのだ。
その反動で俺は美柑の方へ転がる。
ガサゴソゴソ。
転がった反動で俺の手が美柑の身体へと絡みつく。
「ちょっ!!!」
あらぬ所に手が入り、美柑も目を覚ました。
ヤバいっ、と俺はすぐに手を離そうとする。
しかしリトが何故だか俺に覆いかぶさり身動きが取りづらい。
つまり密着状態が続いている。
今は美柑の顔は見れない。ただ、体温が上がっているのが肌越しにもわかる。
無理に振り解くと美柑に怪我をさせかねない。
そう思考していると‥
「……動いたら、今度はソウ兄も連帯責任だから。」
少し震えたような声色。
おそらく怒ってる。そう俺は思った。
「ごめん‥。」
とりあえず謝罪。
「別に怒ってるわけじゃない。」
顔が見れないので表情が分からない。本当に怒ってないのか。とりあえずリトが動くのを待つ。
のだが……
さっきまでの寝相は何だったのか。全く動く気配がない。
ヤバ‥‥、手が痺れて‥‥‥
変な体勢だったため手が痺れてくる。
美柑。すまん。少し動かす‥‥
俺は内心で謝りつつ少し手の体勢を変える。
モゾモゾモゾモゾ‥‥‥‥、フニュ。
「ひえぁぁ‥‥‥!」
体勢を変える一瞬に、指先には温かく柔らかい感触が残る。
直後。
「‥‥‥‥‥‥ソウ兄のえっち!!!!!」
どさどさ。
男子高校生二人をもろともせずに美柑が起き上がった。
「大変申し訳ありません。」
美柑が次の言葉を言う前に俺は完璧な土下座をする。
「‥‥ん、あ‥、どうしたんだあ?」
思いっきり引き剥がされ、リトも目を覚ます。…が、寝ぼけている。
そんなリトを見て、美柑は毒気が抜かれたのか、「はぁ…。」と一つため息をつく。
「うん。リトが悪い。」
そう笑顔で一言。
そこからスパーンと一発叩く。
なんでぇ!?となるリトと土下座する俺。ララは寝ている。
地獄絵図である。
なんだかんだあったが、やっと静かに寝静まる。
規則正しい寝息が、重なっていた。
月明かりだけが、部屋を淡く照らしている。
「…………、もうお嫁にいけない…。」
布団の中でぼそっと呟く声があったのだが、 誰にも聞かれることはなかった。
感想、誤字報告ありがとうございます。
いったい美柑のどこに触れたのかは…想像におまかせします。
拙い文章ですが引き続き期待しない程度にのんびりとお楽しみください。