【連載版】不動の拳闘士(グラディエーター) 作:サラダよりは肉が好き
普段はラブコメ書いてますが、息抜きに更新していきたいと思います。
刃牙とかケンガンアシュラとか、そういうのが大好きなので、どうせならファンタジー的な作品の挑戦の入り口にしてしまおうというアレソレ。
お手すきの際にどうぞ。
「……」
とある街の酒場。上等な鎧を着こみ、これまた上等な剣を携えた女の戦士が訪れた。席に着き、注文を済ませる。水に、ステーキと贅沢な注文だ。見慣れない戦士を見た男の常連客が、酔っぱらった勢いでエールのカップを片手に、戦士と同じ卓へ着く。
「ねぇちゃん、見かけねぇ顔だな、冒険者かい?」
「……そうだ」
冒険者。ギルドと言われる組合に所属し、魔物退治や薬草採取などの依頼をこなし収入を得る、何でも屋に近い職業のことだ。
この世界は、剣と魔法、魔物や勇者、魔王も存在する世界。そんな中で、冒険者が新たな街へ訪れる理由とは……。
「……なぁ、アンタはこの街に住んで長いのか?」
「生まれも育ちもこの闘技場都市クルナーだぜぇ?何か聞きたいことでもあるのか?」
「……この都市で、一番強い者は誰だ?」
「……あぁ、アンタも強者を求めて来たクチかい」
常連客は、ため息をつき、エールを煽る。そして、慣れた様子で、酒場のカウンターに座って酒を飲んでいる一人の青年を指さした。
「……アイツが一番強いのか?」
「そ。正確に言えば、“最も強いとされる闘技者の一人”だけどな」
闘技場都市クルナー。かつて、悪徳な領主の趣味により奴隷同士を戦わせる娯楽であった闘技場。およそ百年前、先代勇者によって解放されたこの都市が復興に用いたものも、闘技場であった。
先代勇者を初代王者とし、奴隷ではなく、身分関係なく強さのみで序列を決める。戦う者しか能のない者の受け皿ともなり、闘技場で得た資金をもとに、街はどんどん発展し、大都市になるに至る。
そしてそんな歴史ある闘技場の闘士の中でも、上位四人の闘士のことを“四大闘士”と人々は呼び、称えている。
「四大闘士、序列第四位、“不動のケント”。数年前、突如として現れて四大闘士入りした奴だよ」
「……」
とてもそうは見えない。戦士はそう思った。この世界、エルフやドワーフ、亜人など、ただの人間……ヒュームよりも戦闘に優れた種族が存在する。戦士自身も、力自慢の種族、ドワーフとヒュームのハーフだ。そんな中で、背格好も含めてもただのヒュームにしか見えない男が、名高い四大闘士などと……。
「相変わらず美味いなリョー店長!また腕を上げたか?」
「はは、ありがとうケンちゃん。美味そうに食ってくれて嬉しいよ」
……美味そうに、店長が出した料理をほおばりエールを流し込んでいるコイツが、最強の一角?戦士の頭には、疑問符が浮かび上がる。……疑問は、解消するのが一番だと結論を出し、出された料理を完食した後、ケントなる男が座っているカウンターへと歩き出す。常連客は一応声をかけて止めるが、戦士は関係なく歩を進めた。
「……失礼、四大闘士のケント殿とお見受けする」
「んぁ?確かに俺はケントさんですよぉ~っと……見ない顔だな、どしたん」
「……決闘を申し込む。表へ出られよ」
酒場に沈黙が訪れる。そして……
「「「ギャッハッハッハ!!!!」」」
ケントや常連客によって、大爆笑の渦に包まれた。
「……何が、おかしい!」
「ひーっ、ひーっ……そりゃ俺に喧嘩売るなんてさぁ、そりゃ爆笑しちまうぜ!なぁおい!」
「どういう、ことだ……!」
「あのね、ここは闘技場都市なの。戦いだってエンタメなの。で、俺はそこの中でも一応メインの役者……闘士なワケ。お前が言ってることってのはなぁ、金も払わずに演劇のトップ役者と一夜を共にしようってくらい無謀なことなワケ!わかる?」
「ケンちゃん、その例えは若干わかりにくい……君も言っていただろう?四大闘士って。結構重たい称号なんだよ……まぁ、こんなチープな酒場で嬉しそうに酒を飲むケンちゃんの様子からは想像もできないだろうけど」
「いま店と一緒に俺もディスったか?」
……戦士は、冒険者の中でも上位と言われるAランクだ。冒険者にはA~Eまでのランクがあり、Aが最上位。その上にはSランクがあるが、これは特殊ランクのため、実質冒険者の最高ランクはAとなる。戦士は、ヒュームの父とドワーフの母とのハーフから生まれた子であり、三人兄妹の末妹だった。上の兄二人は実家の鍛冶屋を継ぎ、自身は鍛冶の才能が無く、剣の才能があった。故に、鍛えた。冒険者として、鍛冶に必要な特殊な鉱石を取ってくることができれば、少しは家業に貢献できるだろうと。
やがて、戦士はAランクとなり、自分の取柄だけでどこまでやれるかを試したくなった。唯一の取柄で、自分の強さの格。それが知りたい。最強に、なりたい。そう決意して闘技場都市まで来たが……
「……ッ。では、お前と戦うにはどうすれば良い」
「お、ここで逆ギレして攻撃してこないだけお利口さんだな。流石は高ランク冒険者だ」
戦士は驚愕した。冒険者だとは察することはできるだろうが、高ランクだという自身の身の上は語っていない。なのに、なぜ?
ケントは立ち上がり、戦士と肩を組み、そのまま外へと連れて行く。唐突なことに戦士は抵抗するが……
「(……馬鹿な!?外れない!?どんな力をしている!?)」
戦士の、冒険者Aランクまで上り詰めたパワーが、通じない。組んだ肩を、ビクとも動かすことができなかった。
「っと、見えるかぁ、あの闘技場……街のど真ん中に建ってるでっかい建物だ。あそこで闘技者登録をして……勝ち続けな」
勝ち続けろ。戦士には、その言葉だけは、重たいものに感じられた。
「そうしたら、そのうち俺と戦うこともできるだろうよ……冒険者としての実力がどこまで通じるかはわかんねぇが、頑張れよ」
ケントは戦士の肩を放し、背を叩く。鎧越しに感じる掌の衝撃は、鎧越しでも響くものだった。
「……どうして、私が高ランクの冒険者だと?」
「あん?一目見ればそれなりにできる奴だってのはわかるよ。闘技場で腕試ししたいって奴らも珍しくないしなぁ……そうだ、お前明日試合見に来いよ。珍しく、俺試合あるし」
「……試合、闘技場のか」
「そ!試合のチケットもタダじゃないが……Aランク冒険者にとってはした金だろ?」
「何故Aランクだと……!?」
ケントの右手には、戦士のギルド証が握られていた。肩を組んだ時に掏ったのである。ほほー……すげぇなぁ……と、Aランクと書かれたギルド証をひとしきり眺めて、戦士へと放り投げる。
「……手癖の悪い奴だ」
んじゃあなぁ。と気の抜けた返事と共に、酒場へと戻って行く。……ケントに対する疑問を募らせながら、戦士はその場を後にするのだった。
「あ!お代払っていってよ!」
戦士は足早に料理の代金を支払って、その場を後にするのだった!
☆
翌日。女の戦士はケントの言った通り、闘技場へと来ていた。闘技者として登録しても良いが、その前に闘技場で行われる試合を理解しようと思ったのである。
観戦席へ着く。横には偶然か、酒場で会った常連客が座っていた。
「よぉ戦士さん、来たんだな」
「……あぁ」
常連客は、ある意味関心していた。ケントより、戦士が高ランク冒険者だということは聞いていた。そして、高ランク冒険者とは総じてプライドが高い者が多い。当然だ。冒険者とは、その身一つで強さを、富を得て地位を得た者。己に絶対のプライドがあって当然だ。
だが、戦士は酒場で大笑いされ、ある意味プライドが傷つく出来事があったにも関わらず、こうして闘技場へ足を運び、闘技場について知ろうとしている。
「タイミングよかったな。そろそろ始まるぜ……ケントの試合だよ」
観客席の中腹の一部に設けられた実況、解説席。そこに居る女が、拡音の魔石が仕込まれた機器を使い、
『さぁ、大変お待たせしました!本日のメインイベント!四大闘士の試合ですッ!』
「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」
観客席が沸き立つ。戦士は、その様子に圧倒され、息を飲む。
「これが闘技場の活気だよ戦士さん……さぁ、出て来るぞ」
『早速始めてまいりましょう。まずは西の門!挑戦者!その金色の体毛は強い種族の血を引く証!怒涛の勢いでここまで駆け上がって来た虎の獣人!ティグレ!』
「ガオォォォォォ!!!!!!」
ティグレという闘技者が、雄たけびを上げて入場する。戦士は驚愕した。ティグレといえば、“金虎のティグレ”の名で、少し前まで名が知れていたAランク冒険者だった男だ。接近戦においては右に出ることはないとまで言われていたが……引退し、どこかの街で修行しているという噂は聞いていた……まさかこの街で闘技者をやっていたとは。
『対するは東の門、かの四大闘士末席……その拳は、蹴りは!あらゆる者を打ち砕くッ!闘技者最強の、拳闘使い!“不動のケント”ォ!』
「……」
ケントが、無言のまま入場する。……その姿は、昨日戦士が酒場で見た軽薄な男とは、別人のようだった。
そんな静かな姿と裏腹に、
「うおおおおおおお!」「まってましたァ!」「久しぶりのケントの試合だ!」「ドジして負けんなよー!」
「……だァうるせぇ!!!誰が負けるかよこん畜生!」
……観客席から投げかけられる、野次のような声援。戦士は理解した。ケントという男は、この街の人々に愛されているのだろうと。
ケントとティグレが、見合う。ケントの身長は百八十センチに届くかどうかと言ったところだが、ティグレは二メートル程。
「……話は本当だったのか。純血のヒューム如きが囃し立てられているとはな」
「おいおい、筋力とかで種族で違いがあるのは認めるけどよぉ……種族差別はいただけねぇなぁオイ」
「違いこそが差別、そして力だ……死んでも文句は言うなよ小僧……!」
「俺28歳で小僧じゃないし、闘技場は殺害は基本ご法度なんだけど……まぁ、いいか。お前こそ、牙が折られて文句言うなよ。歯医者通いにしてやるぜ」
『では……両者見合って……始めィィィィィィィ!!!』
ゴォォォォォォン!!!!!と、開始のドラが鳴る。戦いが、始まった。
☆
先手は、ティグレ。
「喰らえ!」
ティグレの拳が、ケントに放たれる。獣人は、筋力が優れた種族だ。その筋力を駆使して放たれる拳は、当然喰らえばひとたまりもない。
「ほい」
それを、ケントは片手で受け止めた。
「!?」
「うーん、悪くはない。さすがの獣人……だが、それにかまけて技術がおざなりだな」
ティグレは距離を取り、ケントの足元を見る。
「(両足が若干が沈んでいる……衝撃を逃がしたか?ならば……)」
ティグレは、元Aランク冒険者である。勝負勘といえるべきものは充分以上に身に着けている。種族での侮りは確かにあった。だが、一撃交えただけで確信した。ケントは、自分が相手をしてきたどんな魔物よりも強い……。
「ガァァァァ!!!!」
獣人の脚力で間合いを詰め、そして虎の獣人の特徴である、爪を振るう。この爪は、ティグレの冒険者時代に幾度も強敵を屠ってきた、自慢の爪だ。ワイバーンだろうがなんだろうが、切り裂いて来た。打撃がダメなら、斬撃で。
「いいか、拳ってのは、足から膝、膝から腰、腰から肩と、力を伝達させてだなぁ……」
ケントは、軽く足を開いて片足を前に出す。そして、拳を構えて……
「こうだッ!」
正拳突き。ティグレの放った爪撃に合わせ、カウンターのように放たれたそれは……
「グボォッ!」
的確にティグレの鳩尾を捉える。そして、ティグレはそのまま闘技場の壁まで吹き飛んだ。
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
歓声が会場を包み込む。その中で、戦士は戦慄していた。あのティグレを、まるで子供のように吹き飛ばしている。Aランクの冒険者というのは、人類でも強さの上位にあたる。それを、簡単に圧倒できてしまうものだろうか。
「な、舐めるなぁぁ!!!!」
「流石にあの程度じゃ無理か……タフだねェ!」
その後の試合も、圧倒的なものだった。幾度となく放たれる攻撃を、ケントが受け、いなし、そして、その度に攻撃を食らわせる。そんなやり取りが、数度続き……。
「……な、なぜだ。なぜ勝てない……こんな小僧に、俺が……」
「あぁはいはい、アンタみたいな奴はそういうの好きだよね……特別に教えてやる。いいか、アンタは確かに強い。単純な筋力だけで見れば、俺より強いかもな。だけどなぁ……俺は、闘技者だ。巨大な魔物ばっかり相手にしてるお前達と違って、対人戦が常の俺たちは、人族との戦い方は冒険者以上に熟知してる」
ケントは、満身創痍のティグレの前に立つ。
「闘技者舐めんなよ“子猫”ちゃん。たまたま力だけで勝ち上がって来たかは知らねぇが……闘技者(おれたち)は、そんな甘くねぇぞッ!」
アッパーが、ティグレの顎を捉え……宙を舞った体が、仰向けに身体が地面に着地するのと同時に、ティグレの意識は消え去った。
『勝負アリ!勝者、“不動のケント”ォ!』
大歓声。それに、右拳を挙げて応える闘技者。
「……これが、闘技場。そして、闘技者」
「すげぇだろ、そう、これが闘技場……真の強者たちの遊び場さ、戦士さん」
この日、戦士は闘技者登録をすることとなる。そして、その理由をこう答えた。
「……私も、感じてみたくなった。歓声と期待を背に、それに応える彼のように、なってみたくなったのだ」
これは、酒と食事が好きな拳闘士が……勇者は魔王が存在する激動の世界を、その拳で生き残る様を描く……剣と魔法の……いや。
―――拳と魔法の、ファンタジーライフを描く物語である!
短編版「不動のグラディエーター」
→https://syosetu.org/novel/330984/
そして、オーバーラップ文庫様より拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」が7月刊として書籍化します。Web版とは内容や設定が異なりますが、書籍化するが故のパワーアップでボリュームアップです。作品の雰囲気は変わりませんので、こちらもお手すきの時にどうぞ。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/