羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を   作:コントラポストは全てを解決する

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頑張って迷子をねじ込んでみた話。



おまけ
EX01.レッツゴーマイゴーGOGOGOゴースト


 

 交際3か月。気づけば夏休み手前まで来ていた。

 今年はつぐみの恋人として夏を楽しめると意気揚々に鼻歌を歌い、久しく顔を出していなかった天文部に向かった。

 

「さすがにあの煎餅も湿気ちゃったよなぁ……でも、捨てるのは──んっ?」

 部室の鍵を取り出し、いざ開こうとした瞬間、部屋の中から見知らぬ女の子たちの声が聞こえてきた 。

 おかしい。この部室は荒川秋一人のはず。部室の鍵もこの手の中にある。

 

「……出たか?」

 

 秋は背筋を凍らせ、急いでつぐみの下へ向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 バーン!と言う音ともに、生徒会室の扉が開く。この開き方は明らかなる氷川日菜の所業。また遊びに来たのだろうか。

 今度はどんな無理難題に付き合うのかとため息を吐きながら、つぐみは扉の方に目を向けた。

 

「助けてくださいつぐみ先輩ッ!!!部室におばけが!!!」

「秋くん、浮気は駄目って言ったよね」

「う、浮気……?おばけにですか……?」

 

 秋は絶対に浮気などしない。それは誰だって分かっている。

 しかし、あまりにも日菜の跡が染み込んでいたためにつぐみのスイッチが入ってしまった。

 

「ごめんごめん、冗談だよ。それで、えっと……なんだっけ?」

「おばけですよ!おばけ!」

「おばけ?」

「はい!部室から女の子の声が聞こえて来てですね!!!天文部、俺一人なのに!!!!!!お祓いしましょう!お祓い!!!」

 

 興奮か恐怖か、今までに見たことのない勢いで秋は慌てていた。

 

「もしかして天文部に新入部員が入ったこと、知らなかった?」

「新入部員……?えっ、入部届なんて貰ってませんよ?」

「ほら、秋くんって最近天文部行ってなかったし。先生が直接受け取ったらしいよ」

「そ、そうだったのか……あっ、なら挨拶しないと。ちょっと行ってきます!」

「いってらっしゃい。口説いちゃダメだよ?」

「しませんそんな事!」

 

 無自覚にたらし込んで来ることは目に見えているため、つぐみはもしもの時に備えていつでも秋の電話を鳴らせるようにしておいた。

 太陽に光るのをやめろと言っても止まらないだろう。秋もそれと同じなのだ。罪な男である。

 

 

 ◇

 

 

 どうやら知らないうちに後輩が出来たことを秋は知り、急いで部室に戻った。

 

 人が増えたのは嬉しい。

 

 だが、日菜が卒業したあと、自分一人でこの部を守っていくと哀愁混じりに誓った覚悟が肩透かしになってしまった。そこだけが少し残念。

 なら、2ヶ月近くも部室を空けるなと言われたらぐうの音も出ないわけだが。

 

「こ、こんにちはー……」

「っ!……あ、あの、ここ天文部の部室」

「はじめまして。その……一応ここの部長、的な?」

「……えっ?」

 

 ポカンとしながら、机のうえに石ころを並べる少女に挨拶をする。

 随分とミステリアスで、なんとも可愛げのある後輩だろうか。

 つぐみが寡黙になったらこういった雰囲気を纏うのだろう……そう印象付ける女の子だった。

 

「えっと……部員名簿だと、高松……だい……」

「ともり……」

「燈さんか。はっはっは……締まらなくてごめんね」

「だ、大丈夫……。よ、よろしくお願いします……」

「はい、よろしくお願いします。あっ、俺、荒川秋。今更だけど、天文部にようこそ」

 

 茶菓子が日菜産のケミカルせんべいしかないため、ひとまずお茶だけ出そうと戸棚を開けた。ここには来客用のお茶やお菓子が入っているのだ。

 

「……あれ、せんべいがなくなってる。流石に捨てられちゃったかな」

「あ、あの……それ……食べた……。わたしが……」

「えっ。あれを……?ハイエナドリ味とかサンデーマックスパフェ味とか、美味しかった……?」

「お、美味しかった」

「おぉ……すごいね燈ちゃん。いやぁ、持ってきた先輩ですら食べられなかったからさ、助かっちゃったよ。ありがと」

「そ、そんな……。美味しくて、食べただけだから」

 

 戸惑いながらも照れくさそうにしている燈に拍手を送る。

 ショートケーキパスタ味とか、南国パッション味とか、味わいが百味ビーンズのハズレ枠しかないせんべいだったので本当に助かってしまった。

 

「そこの戸棚に雑多用のお金が入ってるから、好きに使っていいよ。お菓子を買うくらいなら先生もなにも言わないし」

「うん、わかった……」

「そういえばなんだけど、その石ころって燈ちゃんが集めたの?」

「あっ……いや、これは……。ちょっと、色々あって」

 

 目をそらし気まずそうにしている燈。何かまずいものかと勘ぐってしまう。

 

「もしかして、お守りの中の石とか、高めのパワーストーンとか……?」

「えっ、ちが……こ、これ、趣味で集めてて……。普通に落ちてる、道端の石……それだけ」

「趣味?あぁ、石磨いてツルツルにするやつとか?ネットでよく見るよ」

「じゃなくて……あつめて、飾るだけ……」

「京都の石庭みたいな方向か。良いよね、あれ」

「……変な人」

「えっ、そう?」

 

 共感されたのが意外。燈の顔はそんな感情を見せていた。

 

「集めた石ってどうしてるの?流石に置き場がなくなってくるよね」

「外、歩いて……気に入ったところに置く。置きたくなる場所、あるから」

「おぉ、地脈的だ。何か悪いものを封印できそうだね」

「ふふっ……かもしれない」

 

 初対面からずっと強張っていた彼女の顔が綻んだ。

 

「先輩……石だけで、話題いっぱい……」

「前の部長がさぁ、鉛筆1本で曲芸から難問の解読までやってみせる人でさぁ。大した事のない物でも、侮れないっていうか」

「先輩の先輩、立派な人なんだ……」

「うんうん。ハチャメチャな人だけど、尊敬してる。多分、この石を見たら、『もしかしたら全部隕石の欠片かも!』なんて言い出すと思うよ」

 

 そしてその後、追加の石を探すために沖縄かイースター島辺りまで連れて行かれるところまで秋は想像した。相変わらず破天荒な人である。

 

「だから、素敵な趣味だと思うよ。もしかしたら、ダイヤモンドより価値のある鉱石がこの中から出てくるかもしれない。それが石油に変わるエネルギー源になったりさ」

「うん……。ありがとう……」

「なしてお礼を?」

「あっ……ううん。なんでもない」

 

 出会った時と比べて随分と上機嫌な顔になった。彼女は人見知りなのかもしれない。

 ひとまず、新入部員と打ち解けられたことに秋は胸をなで下ろした。

 

「そうだ、石拾いするならこれ持っていきなよ。大容量エコバッグ。燈ちゃん、学校のカバンか、服のポケットに石入れてるでしょ」

「そう、いう時も、ある……一応……」

「目、逸らさないの。汚れちゃうからこれに入れておきな」

「ありがとう。でも、綺麗なカバンなのに……良いの?」

「あぁ、良いの良いの。前に色々あってたくさん作った内の一つだから」

「色々……前の先輩と?」

「あっ、分かる?先輩がさぁ、テレビで見たブランドバッグに謎の対抗心を燃やして、『あたしも作りたい!』って言い出して。それで試行錯誤して満足したんだけど、その試行錯誤した品の一つがこれ。確か……285作目のバッグだったかな?先輩、基準が厳しくてさぁ……」

「先輩と、先輩……愛のある、関係……?」

「たぶん……?真っ当に後輩として可愛がってくれてたとは思うよ。時折出力がおかしかったけど」

「……先輩、危ない人」

「いや、危な……くはないと思うけど。まぁ、勢いはすごかったかな」

「じー……」

「えっ、危ない先輩って俺の方……?」

 

 つぐみと付き合う以前、どこかで見た覚えのある眼差しに秋は困惑した。

 この瞳はなんだったか、もう随分前のことなので思い出せないが、良くないものである事は覚えている。

 以後気をつけようと秋は心に誓った。

 

「危ない人かなぁ、俺……。むしろ、先輩達からは危機感がないって言われてきたんだけど……」

「危なくないから……危ない人……」

 

 どう解釈すれば良いのか分からない言葉を前に、秋は日菜の姿を幻視する。

 なぜ、この部にはオリジナル言語を喋る人がポンポンと現れるのだろうか。解読する身にもなって欲しい。

 いや、解読できると言う評判が燈をここに引き寄せたのかもしれない。そろそろ後継者が欲しいところである。

 

「ともりーん!ごめん!自販機売り切ればっかで──えっ、誰この人……あっ、天文部の部長の人!!!」

 

 後継者候補が現れた。

 

 

 ◇

 

 

 どうやら彼女は燈のお友達らしい。名は千早愛音。

 見たところ、秋と同じ常識よりの人間で、オリジナル言語解読家を継がせられる逸材。

 

 燈とはバンドの付き合いもある深い仲だと語り、その手の話も大得意。どうやらバンドメンバー5人のうち2人がセンスの人らしかった。

 日菜2人分と考えると、確かにいい経験が積めそうだ。

 

「そっかそっか、今まで燈ちゃんの活動を手伝ってくれてたんだ。ごめんね、押しつけちゃったみたいで」

「全然!自由に出来て楽しかったですから!ほら、ここって他に類を見ないくらい緩いですし!」

「無理強いをさせてないようで良かったよ。活動日誌はこっちでなんとかしておくから、これからも天文部をよろしくね。部員とか関係なく遊びに来てよ」

「はい!あっ、でも、夜に望遠鏡で星をみたりはしたいです!SNSにあげたい!」

「なら、今度望遠鏡の使い方と星座早見盤の使い方、教えるね」

「ありがとうございます!」

 

 人当たりもよく、場も和む。

 ただ、時折心配そうに燈を見つめるので、ただの明るい女の子というわけではなさそうだった。

 いや、幽霊部員だった部長がいきなり現れたのだ。彼女が慌てるのも分かる。

 おまけに、後輩女子に部長の先輩男子が話しかけていたのだ。見方によってはパワハラかセクハラになるだろう。

 

「……んっ?あー、ごめん二人とも。バイト先の先輩から連絡入ったから、少し席外すね。もしかしたら戻れないかもだから、その時は鍵閉めちゃって」

「分かりました!」

「先輩、また今度……」

「うん、また今度」

 

 燈も、ちゃんと仲間として秋を受け入れてくれたらしい。危ない人と評されたので嫌われたのかと秋は勘違いしていた。

 

 とにかく、これで彼女達だけになった。

 秋を含めた環境は、時間をかけてゆっくり慣らしていけばいい。

 

 

 ◇

 

 

 部活の先輩に気を使わせてしまった。

 

 おそらく自分の態度があからさまだったからだと、愛音は確信し自省する。

 まさか、いきなり先輩と出くわすとは夢にも思わず、あからさまに狼狽えてしまったのだ。

 

「楽しそうだね、ともりん。先輩、いい人だったんだ」

「うん……。こたつみたいだった……」

「そんなに居心地良いんだ……」

 

 愛音の中の他人というのは、もっとこう……人と人との距離感に悩むもので、手探りで仲を深めるものだと思っていたのだが。

 それが、あの先輩になった瞬間秒で友達になる。それも家に遊びに行くくらいの友達。

 

「あの先輩、すごい危ない人だね……」

「うん……。危なくないから、危ない人……」

「人たらしだー」

「でも……ここ、もっと落ち着ける場所になった……」

 

 まさか、燈が初対面の人と打ち解けて、そのまま付き合いを続けたいと積極的に願える日が来ようとは。とんでもない場所に来てしまったかもしれない。

 

 あの人が羽沢つぐみと付き合っていなければ、即行燈の恋人としてロックオンしたのに。人生とほ上手く行かないものである。

 

 

 

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