片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。 作:you are not
あと、念のためR17.9タグ入れました。
ビデン村の空気は、王都のそれとはまるで違っていた。
澄んだ風が草木を揺らし、麦畑は黄金色に染まり、子供たちの笑い声が遠くから響いてくる。
「ついたか」
馬車が村の入り口で止まると、ベリルは真っ先に降りる。
「――ほら、ルーシー。」
ルーシーへと手を差し出した。少し不器用な仕草だったが、差し出されたその手は力強かった。ルーシーはわずかに目を丸くした後、嬉しそうに微笑んでその手を取った。
「気が利くの」
馬車から降りてきたルーシーのその姿は、いつもの可憐な少女のような姿ではなく、酸いも甘いも経験した大人の女性の姿になっていた。
ベリルも最初こそ驚いたが、『子供の姿で嫁入りしては恰好が付かない』と言われて納得した。現に、両親に子供の姿のルーシーのことをどう説明したものかと考えていたものだ。
歩きながら、ベリルはふと隣のルーシーを見やる。
「……本当に良かったのか。団長の座も、学園の仕事も全部」
その問いに、ルーシーは軽く肩をすくめ、何でもないことのように答えた。
「副団長に任せた。学院での役職も後進に譲った。わしがいなくとも、王国は回る」
「だけど……」
「心配いらん。レベリス王もお主の功績を認め、わしの選択を許してくださった。ただし――王国が呼んだ時には、夫婦そろって王都に出向くこと。それが条件だといわれてしまったがの」
その声音には、後悔も迷いもなく、ただ覚悟があった。
「わしに仕えていた従者も解雇したが、あやつは如何せんわしへの忠誠が強すぎるでの。
いずれ村に来るつもりらしい」
ルーシーはそのことがよほど嬉しいのか、笑っていた。
「相変わらず、抜け目ないね」
「当然じゃろ。女一人で田舎暮らしに飛び込むなど笑われかねん。だが、わしは笑われても構わん。――お主と共にあるのなら」
その言葉に、ベリルの胸は熱くなった。
(どうやら、俺の心配は、杞憂だったらしい)
「ふふ、じゃから案内してくれると助かるんじゃがな?」
「……あぁ。これから過ごす村なんだ。覚えてもらうことが多いよ」
そう言って、二人は自然に手を繋いだまま歩き出した。
そんな姿を他所に、畑仕事をしていた村人たちが、その姿を見て口々に囁く。
「あれ、ベリルじゃないか……?」
「隣の綺麗な女の人は……?」
だが二人は、そんな視線すら気にせず、寄り添うように村の道を進んでいった。
―――
道場の門前に立つと、年季の入った木の板戸が見えた。顔を上げると、子供のころから見てきた道場の看板が見えた。多少ひび割れ、変色してしまってはいるが、何ら変わりなくその場に鎮座していた。
「変わらないな」
感慨深そうにベリルは微笑んだ後、ルーシーを連れて、道場の離れにある家に案内した。
「ただいま、お袋、親父。」
家の扉を開けると、白髪混じりの父モルガナ・ガーデナントと、母フレン・ガーデナントがリビングのテーブルに並んで座っていた。
「あら!ベリルお帰りなさい!」
ベリルの母親が真っ先にベリルに駆け寄り、彼の体に手を添えた。
「見ない内にこんなに傷だらけになって……でも、無事に帰ってきて嬉しいわ。」
母親はベリルの硬くなった手を掴み、腕や首から垣間見える多くの傷跡を見ながら呟く。剣士の妻として長年生きてきたのだ。多少の傷は見慣れたものなのだろう。
「まったく、こっちが手紙を出すまでてんで帰って来やしねぇんだ。この剣バカが」
腰を庇いながらも、父モルガナは深い皺を刻んだ顔で微笑む。
「それで、腹は決まったか?」
「あぁ、俺が親父の道場を継ぐよ。」
ベリルの決意の籠った眼を見たモルガナは目を細めた。
「どうやら、一皮むけたみてぇだな。今のお前さんなら安心だ」
ベリルの肩をポンポンと叩きながらモルガナは嬉しそうにする。
「ねぇ、ベリル。そちらの方は?」
ベリルの隣に立っていたルーシーを母親は興味津々と知った様子で眺める。その目には明らかな期待がこもっていた。
「あぁ、紹介するよ。俺の……大切な人だ」
ルーシーは一歩前に出て、裾をつまみ、深く礼をした。
「ルーシー・ダイアモンドと申します。夫ベリルと共に生きていくと決めて参りました。どうか、よろしくお願いいたします」
いつもの年寄り口調ではなく、丁寧な口調で自分の義両親となる二人に挨拶の言葉を口にした。
お袋は目を見開き、やがて嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あなた、やったわ!ベリルがお嫁さん連れてきたわ!しかも、こんなに別嬪さん!」
「あぁ、
「あんたら、俺のことなんだと思ってんだ」
父モルガナの言葉に、ベリルは少し赤面しながら頭を掻いた。
―――
その夜。張りきった両親は、ベリルの部屋だった場所に大きな寝具を用意するなどの大規模な模様替えを施し、夫婦の部屋として、ベリルとルーシーにあてがった。
「わし、本当に嫁に来てしまったんじゃな」
ベリルと向かいあうよう添い寝する形で寝具に体を横にしながら、ルーシーが、赤く染まった頬を指でなぞりながらぽつりと呟いた。
「不安はない?」
ベリルは、ルーシーの顔をまじまじと見つめながら、真剣に問いかけた。
「しておるなら、ここにおらんよ」
そう言って、彼女はまっすぐにベリルを見つめ返した。瞳には、決意と優しさが揺れている。
ベリルは無言で手を伸ばし、ルーシーの頬に触れた。指先から伝わる温もりに、互いの心臓が跳ねる。
「ルーシー……」
「ん?……ん!?」
唇が触れ合う。簡単な挨拶のようなキスを、やがてルーシーの口内を蹂躙するようにベリルの舌が差し込まれ、唾液を潤滑油として舌を絡ませ合い、舐め回し、互いの体液を交換し合う互いの愛を確かめう深いキス。ディープキスへと移っていった。
「んん!!……ぷっは!死ぬかと思ったわい」
ゼーゼーと荒い呼吸をしながら、ベリルの胸板を両手で押しながらルーシーはお互いの顔を話した。顔を離すと唾液で出来た透明な橋が光に当てられ輝いて消えていった。
「すまん」
ベリルは申し訳なさそうに、ルーシーに謝罪する。しかし、その顔はどこか不満足げだった。
「そんな、物足りなさそうな顔をするな。それに、接吻で満足するのか?」
頬を紅潮させながら、ルーシーはベリルの衣服に手を掛け、脱ぐよう促す。
「再三言うようだけど、いいんだな?」
「わしはもう、魔法師団の団長でも何でもない。ただの、お主の女じゃ……抱いてくれ。」
震える声で囁きながら、彼女は自ら帯をほどいた。衣がふわりと落ち、金色の髪と白い肌が月光に照らされる。
ベリルは思わず息を呑んだ。
「優しくしてくれんか?」
「努力する」
ベリルはルーシーをベットに押し倒し、見上げながらそう返した。余談だが、後日ルーシーに嘘つきと言われたのは別の話。
二人の影が重なりながら、夜は深まっていく。
外の世界は静まり返っていた。
その一室だけが、むせ返るような甘さと熱い鼓動で満たされていた。
―――それは、二人にとって新しい人生の始まりを告げる、最初の夜だった。
次回ぐらいで、正道ルートは終わりにして、一端の完結にしようかと思ってます。