「境界の獣の消滅開始を確認」
「あ、うん」
「では、ありがとうございました」
私はそう言って光の粒子になり始めた境界の獣から視線をそらし、主を失い崩れ始めた境界から出るための準備を開始した。早く出てご飯食べたい、今は日曜日のお昼ごろ。本来なら三月君...じゃなくて優君とご飯を食べてる時間のはずが境界の獣が出たせいでデートから抜け出して討伐に来ているので優君をお店の前で待たせているのだ。境界内部の時間は現実世界に比べ進み方がゆっくりだけど自分の体感時間には関係ないので空腹が普通に加速している。ホントにお腹がすいた。
「あの...」
そんなことを考えながら境界から出ようと門をくぐるところでたまたま近くにいたとかで一緒に境界の獣を討伐することになった魔法少女さんが声をかけてきた。
まさか話しかけられるとは思っていなかったので少しびっくりしながら振り返る
「どうかしましたか?」
しっかりと敬語を使いながら魔法少女さんに声をかける。かなり大人っぽい人なのでもしかしたら年上かもしれないからね。あ、思い出した。そういえば罠の魔法少女とか言ってたっけ?
罠ってどんな魔法なんだろ?今回の境界の獣はかなりの雑魚だったので私が一瞬で燃やしちゃったので彼女がどんな魔法を使うか確認できていないんだよね。一応『罠』って言ってるくらいだから設置する系の魔法だと思うけど...うーんかなり珍しいな。基本的に魔法少女の能力、というか使う魔法はタイマン想定、要するに一人でも正面から戦闘できる能力になることが多いんだけど『罠』ってどう考えてもタイマン向けじゃないよね?どうやって戦うんだろう?
「あー、いや敬語じゃなくてもいいよ?たぶん同い年だし?」
「そうなんですか?」
罠の魔法少女さんは頬をポリポリと搔きながら私にそう言ってきた。へー、同い年なんだ?ってなんでそんなこと知ってるんだろう?
「うん、君『朱雀』でしょ?さすがに有名どころの魔法少女の情報は頭に入れてるよ」
「そうなんですね」
へぇ...すごいな私なんて他の魔法少女の情報とか全く知らないのに
「いや、だから敬語...あーまぁ今はいっか...とりあえず今回はありがと。私ひとりじゃたぶんきつかったから」
「...」
びっくりした。私自身かなり不愛想な対応をしていたので文句でもいわれるかな?と思っていたのに普通に頭を下げてお礼を言われた。かなり予想外だったので思わず閉口してしまった。
「それでさ、少しお願いがあるんだけど...」
おっとなるほどそういうことか。これを機に私に何か頼みたいことがあったから礼儀正しくしてたのか、まぁそれは全然いいけどなんだか最近こういう人増えたな。同じチームに入れてくれだとか魔法を使うコツを教えてくれとかを私に頼んでくる人が増えたんだよね。
全部面倒だから断ってるけど。一応チームというか相方はもういるしこれ以上メンバーを増やす予定もない。というか普通に過剰戦力だ。私と『空の魔法少女』がいるだけでたいていの境界の獣は一瞬で討伐できるし。ただあまりにも強いチームってことで魔法少女協会から強い境界の獣討伐を任されたりするんだけど、それも今のところ大した手間ではない。だって『空の魔法少女』が天才すぎるから。私も日本の魔法少女ランキング2位まで上り詰めたけど正直魔法少女としての才能では彼女にかなり劣る。
『空の魔法少女』...えっと名前なんだっけ?普段会話しないから忘れちゃったや。彼女は真面目に修行とかしていないのにランキング5位につけている化け物だ。多分だけどあと数か月したら3位4位の人も抜いてるだろうし。私より上にはいかせないけどね。正面から戦闘してもたぶん私が勝つし。
「なに?」
ま、どうせ仲間に入れてくれとかだろうけど一応聞いておこう。
「わ、私を鍛えてくれない!?」
「...」
もっとめんどくさいお願いだった。
「私の魔法は本当に正面戦闘に向かないんだ。だから色々考えながら必死で戦ってるんだけど...それももうかなり厳しくて...罠の魔法を設置しても絶対に引っかかってくれるわけでもないし...」
だろうね、境界の獣はああ見えて頭がいい。彼女の魔法は見れてないけど戦闘前にカードをそこら中に投げてたのは見えてたしおそらくあのカードを媒介に罠を作るんだろうけど設置された後のカードから魔力を感じた。つまり魔力を感知できる境界の獣たちはまず避ける。
しかも込めた魔力量がカードそれぞれで違ったしあからさまにバカでかい魔力を込められたカードもあった。ということはおそらく強い罠には大量の魔力がいるってことだと予想できる。
また境界の獣は総じて大型種が多い、今さっき倒したヤギみたいな境界の獣も普通にバカでかかったし討伐しきるにはかなり大規模な魔法がいる。つまり...境界の獣を倒すための大規模な罠が込められたカードは大量の魔力を持つことになるので境界の獣はまず絶対に警戒して近づかなくなる。
「そうでしょうね。でも私じゃなにも教えられないです。あまりにも魔法の種類が違いすぎます。」
「ぐ...そうだよね」
「というか私に聞くよりも自身の師匠を頼ってはどうでしょうか?」
基本的に魔法少女なった子には師匠として経験豊富な魔法少女が付くことになっているので彼女にも師匠がいるはずだ。
なので私は『罠の魔法少女』にそう問いかけると気まずそうに眼をそらした。
「いやぁ...私の魔法があまりにも珍しい後方支援型というかかく乱?型だっていうことで誰を師匠につけるか協会でももめてるみたいでさ...まだ師匠がいないんだよね...」
ーーーまじか...やばいな魔法少女協会...なにしてるんだろうか?というかこの子よくここまで生き残れたね...師匠もいない魔法少女で正面先頭に向かない魔法少女とか即死んじゃう筆頭だよ?
「なら、師匠が決まるまでおとなしくしておいた方がいいです。じゃないと死んじゃいますよ?」
「あはは...私もそうしたいところなんだけど...お金が必要で...」
「あぁ、なるほど...」
そういう話か。なら止めることはできない、だってこういう理由を抱えた人は止めたところで境界に潜るから、よく聞く話だ。それで亡くなった魔法少女はかなりの数聞いたことがある。
「だからさ...できればでいいんだけど...お願いできませんか!」
そう言って再度彼女が私に頭を下げてくる。
「それは別に私じゃなくてもいいのでは?もしよろしければ他の魔法少女を紹介しますが?」
一応私にも知り合いの魔法少女はいるのだ、数人だけど
「あ、いやその...」
「なにか?ちなみにですが魔法少女ランキング2位の地位が目当てならあまり意味はないですよ。所詮お給料が良くなるくらいですので、それともそれ以外で私を指名する理由がおありで?」
何故か『罠の魔法少女』は気まずそうにしている。うーんさすがにずかずかと言いすぎたか?でもこれくらいきつく言わないとしつこく食い下がってくる人も多くて面倒なんだよね、前魔法少女協会に行ったときに魔法少女でもない一般の魔法使いの人にしつこく食い下がられてほんとに迷惑だったし、ほんとなんだったんだろあの人?ずっと自分の父親の自慢とお金持ちってことをアピールして私のことをご飯に誘ってきてたけど....あまりにもしつこいので長官に押し付けた思い出がある。さすがにストレスが溜まったのであの後優君のおうちに行ってひたすら優君をゲームでぼこぼこにしたんだよね。
「あー、その...怒らない?」
「?」
怒るようなことを言う出すつもりなんだろうか?
「いや...ホントその、たまたまなんだけどこの境界に入る前に朱雀さんのこと見ちゃったんだよね...」
「...ん?」
どういうこと?
「すっごい...ホントにすっごいものすっごいかわいい笑顔で彼氏さん?と一緒に歩いててさ...それで思ったんだよね、教わるならあなたがいいって、だってあんな笑顔をする人だもん絶対に良い人でしょ?」
「...」
そんな笑顔してないもん...
恥ずかしい...
というか久々のデートだったんだもん...
と心の中で言い訳を重ねながらどうやって彼女のお願いを断ろうか考えているとズガガガガガガと境界が今にも壊れる音が鳴り響いてきた。
あ、そろそろ出ないとまずいか
「とりあえず、考えてもいいですか?今はさっさと境界から出ることが先だと思うので」
「うん!もちろん!じゃあここ出たら連絡先ください!」
「あ、ごめんなさいスマホ持ってないです」
「マジで!?」
めちゃくちゃ驚かれた。
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「優君ただいま」
「お、お帰り?」
「ごめんねちょっとトイレで知り合いに会って少し話してたせいで遅くなっちゃった」
と、こんなかんじで優君に対してうそを伝える。魔法少女のことを伝えるわけにはいかないのでしょうがないけれど正直乙女としては複雑である。毎回毎回境界の獣の討伐が依頼されたときにトイレと言い訳してるのだがかなり恥ずかしい。優君はたぶん気にしていないんだろうけど私が気にするんだよね。乙女ゲージががりがりと削れてる気がする。
こういう時にスマホがあればちょっとママから連絡来たから少し話してくるねとか言えるんだろうけど...私スマホ捨てちゃったんだよね...だからこういうデートしてるときとかに少し抜ける際にする言い訳がトイレしかないんだよね...買いたいものがあるとかだと優君は絶対についてきてくれるし。
連絡と言えば境界の獣関係の連絡はヌイのよくわからない念話で届けられるから今まで問題なかったけど他の魔法少女はどうやらスマホで受け取っているようなので私と契約しているヌイであるヨンからはかなり遠回しに「朱音ちゃんもスマートフォンを持ってほしいヨン」的なことを言ってくる。
どうやらこの念話はヌイたちからしても面倒な方法らしい。それとなーくどんな方法を使っているか聞いたことがあるけどその地域の担当の魔法使いの人が境界の獣の反応を検知する、その後魔法少女協会に連絡がいく、そして適切な力量を持つその境界の近くにいる人に協会から連絡するって形が普通らしいけれど私の場合そこからヌイを経由してヨンに知らせるっていう人手間が挟まるわけである。うん、そりゃヨンも面倒だっていう気持ちもわかる。明らかに無駄だもんねその作業
うーん、そろそろ買うかぁ...さっきも『罠の魔法少女』とのやり取りでめんどくさいことが起きたし、連絡手段がないから『罠の魔法少女』の電話番号をそのまま記憶することになるとは思ってもみなかった。そのうちうまい言い訳を用意して公衆電話から電話をしないといけない。
......さすがに不便になってきたね。それに何より優君と連絡が取れないのが結構嫌だ。
「そうだ優君」
「ん?どしたの?」
「私スマホ買う」
「へぇ...いいじゃnーーーーマジで?」
わ、びっくりした急に大声出さないでよ。苦情の気持ちも込めて優君のわき腹をつんつんしておく
「まじだよ。今決めた」
「急だな!?てかいつ買いに行くの?」
「今日」
「マジで急じゃん!?お金とか大丈夫なの...?」
「ある、だからご飯食べ終わってから一緒についてきて」
「ーーもちろん!!!」
なぜか優君がとてもうれしそう笑っているけどなんでだろう?まぁ優君が嬉しそうならなんでもいいや
よくわからないけど私もうれしくなって優君と一緒に笑いながらお店に入った。すると店員さんから変な人を見る目で見られてしまった。ちょっと恥ずかしくなった。
「ーーーうん、絶対あの子がいい。何あのすんごくいい笑顔!120%いい人じゃん!」
お店に入るとき遠くから『罠の魔法少女』の声が聞こえた気がしたけど気にせずおいておくことにした。今はデートを楽しむことが先だもん。
というわけで過去編はいりまーーーす。キャラを掘り下げるには過去編が一番って古事記にも書いてる