ゲームを楽しんでいた男が意識を失い、目を覚ますと新しい世界でドールズフロントラインに登場するG36というメイド人形になっていた。
性別どころかロボットになってしまった男はメイドとしてウマ娘の世界で王女のファインモーションを守っていく。

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王女さまとメイドのゆりかご

 ぐわんぐわんと頭に強いめまいを感じる。目を開けようとも視界はまっくら。

 いったい俺はどうしたというんだろう?

 意識はあるのに体はなにひとつ動かせない。

 ついさっきまでは仕事が終わったあとに自宅でスマホゲーをしていただけなのに、何が起こったというんだ。

 そう疑問を感じつつ、体が動かせないかと試しているとふいに耳から音が聞こえ、目に景色がうつる。

 

 聞こえる音は人々が逃げ惑う悲鳴と怒号、爆発音と銃撃音。

 仰向けに倒れている俺が見ている景色はどんよりとした灰色の曇り空と、俺をのぞき込むように見ている馬っぽい耳が頭頂部に生えた小さな女の子だ。

 ……いったい何事!? え、何かの事故かテロにあったの!? 日本で!?

 そう混乱しながら驚いていると、意識は強制的に感情を処理するプログラムによって抑えられる。

 プログラム? と不思議に思っていると、強いめまいがやってきて俺と『私』の意識は統合され、ひとつの意識となる。

 

 そして視界の端に映る文字、5月の午後2時で気温が19度と出ているのを無視して自身の状態を確認する。

 自分はボディーガード機能を備えたハイエンドの家政用人形だ。一般的にAIを持つ作業用アンドロイドの総称として自律人形と呼ばれており、純粋な戦闘用だと戦術人形と呼ばれている。

 その家政用人形である私に名前はつけられていない。

 自身を確認しながら、前にいた俺の場所が前世だとわかったのは、俺がいたところではこういう機械はなかったからだ。

 それにプラスして視界の端に映る、壊れかけな車のサイドミラーで見た自身の顔に覚えがあったから強い確信を持った。

 ヘッドドレスを身に着けて淡い金髪の髪を持ち、長い三つ編み。青色のきれいで鋭さがある目を持ち、雪のように白く美しい肌。

 服はスカートを膝上までに短くしたヴィクトリアンメイドな服を身に着けている。足には拳銃を装備し、服の中には予備マガジンひとつとナイフがある。

 美人で20代前半っぽい顔はドールズフロントラインに登場するG36というキャラクターにそっくり。

 

 顔の次は155センチの身長で作られ、そこそこ大きい胸を持つ体だが腕や足にエラー警告が出っぱなしだ。

 今の体の状態は肘から先の左腕の欠損と左足の関節部を損傷。人間そっくりの人工皮膚の下からはケーブルや機械パーツが見えている。他に被害は少なく、上半身にあるバッテリーや通信装置は無事だ

 体の状態をチェックしたあとに行動ログを見ると、どうやら北アイルランド返還10年記念ということで北アイルランドで王族一家がそろって親善パレードをしているときに車列への攻撃があったみたいだ。

 攻撃方法はドローンに爆弾を装備し、突っ込ませるというもので。

 

「メイドさん! 体は大丈夫なの?」

「はい、手と足が不自由になっただけです。お嬢様はどこもお怪我をしていませんか?」

「うん、メイドさんが守ってくれたから!」

 

 怖い状況だというのを我慢して元気に返事をしてくれた少女の頭へと手を伸ばし、髪についた砂粒を取る。

 自身の口から出た声は高音で澄んでいる音が出た。それと混乱している自分の心とは違って、ずいぶんと冷静に喋っている。

 心は自分、体は他人という分離した感覚を味わっている。こんな口調を俺は言わないだろう。

 人格と記憶をデータ化したものをメンタルモデルというが、そのメンタルモデルが俺の精神と混ざっているせいに違いない。

 

 だが記憶は別々に配置されている。俺は前世では36歳で死んだらしい日本人男性だが、このメイドの記憶を同時に持っているみたいだ。

 冷静に自身のことを考えながらも思考は素早くやっている。王女殿下をお嬢様と呼ぶのは間違っているかもしれないが、このほうが呼びやすいからこう呼んでいこう。

 

 そんな王族への知識がない俺の目の前で泣きそうになっている小さい女の子は、データベースによると五歳で身長は107センチ。

 直接見た髪は茶褐色の色をし、両方の馬っぽい耳には赤いクローバーの髪飾りをつけている。

 最初に見たときから驚いているが、人にはない特徴的な馬の耳! 変異したものと思っていたがドールズフロントラインのゲームで見た、コーラップス放射能による体が変質した感染者とはどうも違う気がする。

 疑問に思っていると、自身に備わっているデータベースから自動で情報が出てくる。

 変わった耳を持つ姿はこの世界ではウマ娘というもので人とは違う種族。人より身体能力が高く、食事量が多くて走るのが早いというものだそうだ。

 そのウマ娘の種族である目の前にいる子はアイルランド王家の第2王女で、名前はファインモーション。

 

 ……この子、王族だ!? 早く安全な場所へ行かないと! 王族じゃなくても子供が困っていたら助けるのは当たり前だけどな! でも王族が狙われているんだから、そこらに逃がして終わりじゃない。

 女性の体になったっていうのに困惑も楽しむ時間もねぇ! ぼぅっとしていると生まれ変わったっていうのにすぐに死んでしまいそうだ。目の前にいる王女さまと一緒にな!

 焦りながら首を動かして周囲を見渡す。

 逃げようとした民間人と銃で撃たれた警官や護衛たちの死体に、壊されたメイド人形が転がっている。

 それと爆弾での攻撃で横転や破壊されている車。それらの車を盾にし、様々な方位からやってくる30人以上はいる敵を相手にスーツを来た護衛や警官たちが7人でサブマシンガンやハンドガンで応戦している。

 顔が違う俺と同型のメイド人形たち五体はハンドガンで。

 相手は私服でアイルランド王家に対する罵倒や北アイルランドはイギリスにいたほうがいい、とそんなことを叫んで主張をしている。

 武器はアサルトライフルのAK47や色々な種類のハンドガンに、お手製の爆弾だ。

 このままだと押し切られて全員が殺されるに違いない。こちら側の情報は混乱しており、通信を受信しているが具体的な集団行動はできていない。

 

 私の最優先目標は目の前の女の子を守ることだ。

 近くにいる警官やスーツ姿の護衛たちの人数は7人。メイド人形たちは五体。彼ら彼女たちに助けてもらうほかはない。

 現在の居場所は道路のまんなかだ。今は車が遮蔽物となっているが、もう少し時間が経てば包囲されるだろう。

 今のところ、味方が来る気配はないし。自分とここにいる人たちで行動しないといけない。

 

「お嬢様、ここから移動したいと思いますが抱き上げて構いませんか?」

「大丈夫だよ!」

「それはよかったです。お嬢様はお強いのですね」

 

 こんな小さな子供が大きな混乱もせずに話ができることに驚き、小さくても胆力があるのは王族だからなのかと納得。

 私は小さく笑みを浮かべたあとに、体を起こしてから通信機能で同型人形たちに通信をする。

 

 "私から半径二十メートル以内にいるメイド人形たちへ。現在、私はファインモーション王女と共にいる。車のそばにいるが爆発炎上の可能性があるため、移動に支援を求む"

 "あなたの損壊状況は認識している。状況打開まで移動は少し待て"

 

 よし、無事に近くにいるピンク髪ポニーテールの子と通信ができた。でも状況が今より良くなるとは思えないから早く対処をしたい。

 なので、さきほどのお嬢様に意見を了承してもらった提案を説明する。

 

 "王女殿下を私が右腕で抱きしめて移動する。この提案にはすでに了承をもらっている。予定移動地点は道路から引っ込むようにある喫茶店のシャッター前。そこの周囲から見えづらい位置に移動後、防御に入る"

 "その提案での行動は殿下が目立つことになる"

 "味方の増援予定はなく、現状を変える必要があると思いますが"

 "少し待て。人間に説明する"

 

 七メートルほど離れたところにいる、がれきを敵へと投げつけていたメイド人形の一体がすぐそばにいたスーツを着ている護衛の黒髪ショートヘアなウマ娘と話をしはじめるのが見えた。

 その間に太もも上部に身に着けている、アイルランド陸軍で採用されたUSPというハンドガンを手に持つ。

 片手しか使えないため、靴に銃を引っ掛けてはスライドを引き、弾を装填してホルスターへと戻す。

 護衛のウマ娘はうなずいて車を軽々と持ち上げては横倒しにして、敵が見える範囲を狭める。

 

 "提案が認められた。我々が突撃したあとに移動を開始しろ"

 "了解です。少し待ってください"

 

 私はお嬢様の様子をうかがうが、あたりを見回していておびえていた。

 死体がそこらに転がり、銃撃や爆発音が響き渡るなかでそうなるのは当然だ。時々、銃弾が近くに飛んできて道路のアスファルトが飛び散る音も聞こえるのに。

 むしろ泣きわめかないだけでもすごいと褒められる。

 

「お嬢様、いけますか」

「あ、うん。いけるよ?」

 

 そう言ったお嬢様のウマ耳は左右ばらばらに動き、視線が定まらずにあちこちへと飛ばしている。

 このままじゃいけないと思い、ちょっと考えてから言葉を出す。

 

「大丈夫です。お嬢様には怪我ひとつさせません。私はハイエンドの自律人形ですから、とても強いんですよ」

「ほんと?」

「はい。お嬢様のためならメイドたる私は世界で1番強くなれるんです。それでは移動のため抱きしめまさせていただきます」

 

 俺が言った言葉でちょっとだけ安心した様子のお嬢様を右手で抱きかかえ、移動準備を終える。 

 

 "準備ができました。それと予備マガジンはいりますか? 私は移動中、撃てませんので"

 "ありがたくマガジンをもらおう"

 

 私は服に手を入れると、予備マガジンを取り出して会話をしているピンク髪ポニーテールの子へと投げつける。

 射撃中だったその子は、車体に身を隠して受け取った。

 

 "感謝する。陽動は安心して任せてくれ。それでは秒読みを始める"

 

 そう通信があると、今まで投擲や射撃をしたメイドたちが陽動準備のために攻撃をやめ、こっちをわずかな時間だけ見て状態を確認してくる。

 メイド人形の彼女たちは無表情ではあるが、どことなくやる気を感じられる。それはお嬢様、第2王女を逃がすために働くことができるということだからだろうか。

 ドールズフロントラインをやっていたときは美少女人形たちが壊れる姿はあまり悲しくは思わなかったが、それが現実になると死ににいくとなれば思いは変わる。

 

 "……3、2、1、今"

 

 メイド人形、全5体たちが遮蔽物として使っていた車から勢いよく飛び出し、メイド服をはためかせながら敵へと突っ込んでいく。

 走りながらハンドガンで銃撃、車の部品で殴り掛かるなど、それぞれが工夫して目立つように。

 今まで防御一方だったこちら側が突っ込んできたのに驚いたのか、相手は慌ててメイドたちに集中する。

 

「行きますよ、お嬢様。私がいいと言うまで目をつむってください」

 

 立ち上がった私は痛む足を使い、左足をひきずりながら早足で歩いていく。

 私の体にぎゅっと手を回し、力を入れてくるお嬢様の姿はかわいい。普段からこういうのを近くで見ているメイド人形なら、たとえAIの心であろうとも忠誠心は出てきそうだ。

 メイド人形たちや護衛の人たちの活躍ぶりを見ながら、私は目標の移動先へとまっすぐ歩いていく。

 敵の誰もが私たちを気にしていない。

 歩くとスカートのひらひら感が以前は男だったためか気になりながらも、このまま安全に行けるだろうと思ったときだ。

 路地からアサルトライフルを持ったひとりの20代くらいな男が飛び出してくる。はじめのうちは派手に動く陽動のほうに気を取られていたが、ふと足を止めて私たちを見てくる。

 

 "進路上に敵。助けを求めます。"

 "了解。すぐに行く。"

 

 俺はすぐに通信を入れ、自分ではどうにもできないことに助けを求める。

 男は驚いて私たちをちょっとの間は見ていたけど、慌ててアサルトライフルを構えて照準を合わせてくる。

 この体の防弾性能は高くなく、ハンドガンの弾に少し耐えられるのがせいぜい。

 損傷した体では急な動きはできず、男へと背を向けて防御姿勢になろうとしたときだ。

 

 ピンク髪ポニーテールのメイド人形が、男へ向かって勢いよく走っていく。

 弾を使いきったのか手にはナイフだけを持っている。でもその鬼気迫る姿に恐怖を感じた男はとっさに走ってきたメイド人形へ向けてアサルトライフルを向け発射。

 3発ほど当たったところでメイド人形は男へとたどりつき、四発目の銃弾を受けながらナイフで首を力強く突き刺した。

 そして、両者とも同時に道路へと倒れ伏して動かない。

 

 俺は少し安心しながらも歩みを止めず、助けてくれたメイドに感謝の念を向ける。

 壊されたメイド人形だけども、データを保存する部分が壊れていなければ復活はすぐにできる。壊れていてもバックアップされたメンタルモデルを使えば元通りだ。

 当然ながらバックアップのものは、この戦いの記憶はないが。

 機械だから人と違って復活はできるとわかっていても、短い時間とはいえ一緒に戦った仲だから寂しさを感じる。

 

 でもその寂しさを感じるのはわずかな間だけで気持ちを切り替え、戦場の状況に集中していく。

 目的の場所である、喫茶店シャッター前にたどり着いた頃にはこちら側にとって良い情報がテキストメッセージで流れてくる。

 王と王妃、第1王女の退避が完了したとのことだ。いましばらく持ちこたえていれば助かる。

 今の時点で私以外のメイド人形は全部破壊され、少数生き残った護衛の人たちはここから場所を移動しながら戦い続けている。

 早く助けがこないと第2王女が殺されてしまうんだが。

 銃撃や怒号が移動前より離れた距離にちょっと安心しながら、私は周囲に敵がいないことを確認する。

 

「お嬢様、目を開けていいですよ」

 

 私の声で目を開けたお嬢様をそっと優しく降ろし、足のダメージから立つのも苦労する私は地面へとぎこちなく座る。

 この姿を見て、心配そうな顔を向けるのを見て優しい子だなと思う。

 人間のような外見とはいえ中身は機械だ。機械に対して。友好な感情は持ちづらいものだろう

 今の体はみにくい状態となっている今だし。

 それなのに、腕がなくなった先からケーブルやフレームが見えているのに嫌な顔ひとつしないのはすごい。

 もし漫画やギャルゲーだったらヒロイン間違いなしだ。または物語の主人公になっていてもいいぐらいに。

 そんな彼女に、最初の義務感じみた守るという感情から親しみが出てくる。

 

「さぁ座ってください。そして私を盾にするようにしてくっついてください」

「それだとメイドさんが危ないんじゃ?」

「お嬢様を守るのがメイドのつとめです」

 

 お嬢様が座ったのに合わせ、彼女の体をかばうように体でおおい、俺の服をぎゅっと握る姿がかわいいなと思いながら背中を道路側へと向ける。

 次に太ももにあるハンドガンを引き抜き、いつでも撃てるようにあたりを注意深く見回す。

 弾は15発。これで助けが来るまで守らなきゃいけない。破損した左足は今すぐにでも機能停止をしそうで、もう歩いて移動は無理だろう。

 この位置は周囲に破損した車や看板があるから、見つけづらい位置だ。

 うまくいけば敵に会わないままで終わるかもしれない。

 こんなことを思った7秒後には、40メートル離れた路地からハンドガンを持った40代の男と女性が1人ずつ出てくる。

 俺はそのふたりに銃を向け、先頭を歩く男の胸元へ狙いをつける。頭を狙うとはずれるかもしれないし、なによりもグロテスクなことになってしまう。そんな光景をお嬢様に見せるわけにはいかない。

 

 敵か味方かわからない2人は静かになっている周囲をにらみつけるように見渡す。

 そしてあたりを見ていた男は私と目が合う。

 こっちを見て恨みがこもった声で「メイド人形がいたぞ!」と叫びながら銃を構えてくる。

 撃つことに一瞬だけためらいながらも男の心臓へと2連射。初めて銃を撃ち、右手にかかる反動にわずかな恐怖を感じる。

 男の叫び声で気づいたもう1人にも同じく2連射をして2人を殺した。

 これが前世から生きてきた俺にとって初めての殺人となるが、銃を撃てたことに安心する。

 殺したことに罪悪感はなく、不思議な感じだ。

 もう自分は前世で生きた自分とは違うんだなと実感し、新しくメイド人形として生きるという覚悟ができてしまった。

 

 あたりを警戒して、誰もいないとわかり銃を降ろす。

 お嬢様は悲鳴ひとつあげなかったけど大丈夫かなと顔を向けると、恐怖でおびえている表情になっている。

 

「どうか私に抱き着いてください。機械の体でも胸はやわらかいんですよ」

 

 メイド人形のターゲット層は主に富裕層だ。データベースによると、人形なら裏切らず安心できるから身近に置いておけるという理由で。

 私の胸には男のあこがれとロマン、防弾ジェルが詰まっている。とっさに抱きしめて守るには多くの意味で喜ばれるだろう。

 そういう胸にお嬢様はそっと顔をうずめ、安心した様子で体の緊張を減らす。

 これでお嬢様がちょっとは安心してくれると嬉しい。ただ問題としては機械の体は体臭がしないから、匂いで安心するという要素はないけれど。

 

 私はそういう状態になってもあたりへの注意はやめず、次に5メートルほどの高度を低速でやってきたプロペラが4つあるカメラ付きドローンを警戒する。

 60メートルは先にいるドローンは、人と違って何発で壊れるかがわからない。壊したところで操縦者には気づかれる。

 かといって、姿を見られる前に壊さなければならない。

 お嬢様は第2王女であり、その姿を見られたら敵が大挙してやってくると思う。でも見られなければ、敵はここらへんにいるんだなぐらいで済む。

 緩急の動きがつけられているドローンに狙いをつけようとするも不規則に動くのは予測しづらい。

 まるで初心者が操っているかのようだ。あれではカメラ越しに見るのも苦労しそうだ。いくらこっちが機械で予測しているとはいえ、距離が遠いと非常に難しい。

 こっちは片手持ちであり、足が損傷しているため踏ん張りが効かないから。

 

 どうにかスルーして遠くに行ってほしいかなという願いも届かず、こっちへと近づいてきてしまう。

 カメラがこっち側に向いていないのを狙い、35メートルの距離で撃つ。

 1発目と2発目は外れ、3発目が胴体部分に当たって回転しながら落ちていく。

 地上に落ちてもカメラがまだ動いていそうなので続けて2発を撃ち込む。

 残弾は6発。

 近くに操縦者がいると思うから、警戒しつつやってくるだろう。

 お嬢様の様子をうかがいながら待つこと2分。

 10代の少年が2人やってきた。片方は拳銃を持ち、もう片方は何も持っていない。道路の角で止まるとあたりを軽く警戒し、道路のまんなかに落ちたドローンへと歩いていく。

 年若い子や武器を持たない子であろうとも敵だ。前世の感覚なら撃たないが、今の俺には守るべき人がいる。

 最初の殺人とは違い、ためらいを持たずに合計4発を使って殺した。

 

 残る残弾は2発。俺がこの世界で意識を持ったときと違い、今の状況はよくなっている。

 もう少しすれば助けが来るとのことだ。

 あとは静かに待つだけでいい。

 お嬢様の様子を見ると安定している。

 

「あと少しで助けが来ます。もうちょっとだけ耐えてください」

「うん、わかった」

 

 そう心温まる会話をしているときに、耳へと足音が入る。

 振り向いて音源へ銃を向けると、そこには白髪頭でリボルバーの銃を構えてジャケットを来た60代の男がいた。

 相手は俺とお嬢様がいたことに驚いて目を見開いて動きが硬直した 。その隙に銃弾を2発叩きこむ。

 弾を使い果たした銃のスライドは後ろに下がりきり、あとは男が死んで倒れる姿を眺めるだけだ。

 が、男はよろけるだけで殺意が強くこもった目を向けてきた。

 くっそ! 相手は防弾ベストを着けているのかよ!! あぁ、こっからどうすればいい!?

 ひとまず弾が切れた銃を思い切り投げつけ、肩へと当たるがそれだけだ。

 何の抵抗にもならず、男は両手で銃を構えなおす。

 

「お嬢様、じっとしていてください!」

 

 体が損傷している今、これ以上の抵抗はできず最優先でお嬢様を抱きしめて守る。

 すぐにやってくる弾の衝撃。左右の足に1発ずつ。

 壊れていた左足は完全に動かなくなり、右足は動かすのがやっと。

 胴体に4発。

 バッテリーに損傷が発生し、稼働時間が激減。足を動かすモーターが損傷。冷却性能が低下。

 問題があるところは稼働停止し、被害の拡大を止める。

 

「メイドさん!? 大丈夫なの!?」

 

 駆動モジュールと冷却モジュールがダメになり、今の俺が生きていられるのもわずかな時間になりそうだ。

 でもその前に、この男だけはなんとしても殺さなければ!

 俺の胸の中で叫んで心配してくれる彼女を生かすためにも。

 そのための手段は限られており、動くのは右腕しかない。武器も服の中に隠したナイフが1本。

 

 だから俺は考え、最適だと思う考えを実行する。

 聴覚機能と感触機能だけを残し、停止。

 

「目が止まった? ねぇ、メイドさん、しっかりして!」

 

 レンズの動きが止まり、体の稼働音が止まり機能停止したとお嬢様が誤解してくれる。

 私の服を掴み、泣きそうになりながら呼ぶ声は罪悪感を覚えるがこれしかないんだ。

 こうしないと相手が寄ってこないから。あとは相手が油断をしてくれればいい。

 

 音で男の様子をうかがうと、撃ちきったリボルバーの弾を捨ててリロードをする音が聞こえる。

 それが終わるとこちらへと近づいてきて、お嬢様の息をのむ悲鳴が聞こえてくるが我慢だ。

 お嬢様は俺の体にしっかりと隠れている。確実に当てるには俺の体をどかすしかない。

 

 ただその時を待ち、男が俺の肩にふれる。

 その瞬間に止めていた機能を回復させ、エラーを無視して体を全力で動かす!

 お嬢様が俺の服を掴んでいるのを手荒だがはずし、そして俺の肩をつかんでいた男の手を引っ張り体を引き寄せて相手の頭へと頭突きだ!

 驚いている男の顔を見ると実に気分すっきりだ! うちのお嬢様を泣かせてんじゃねーよ!!

 次に服の中からナイフを取り出し、相手の喉元へと突き刺す! しっかりと手首をひねり、90度を回すことも忘れずに。

 ナイフを回したときに血が顔や服にかかるが、それを気にせずにナイフを突き刺したままで動く右足で思い切り腹を蹴っ飛ばす。

 男は地面に倒れ、痙攣していたが20秒ほど待つとしっかり死んだことを確認した。

 

 一安心し、周囲の状況や通信ログを確認していると襲撃してきた敵、テロリストたちは制圧しつつあるみたいだ。

 遠くにはうるさいぐらいに警察のサイレン音も聞こえる。

 あとは待つだけで事態は解決だ。

 

「今、連絡が来て事態は収まりつつあるようです。すぐに助けが来るので安心してください」

「メイドさんは大丈夫なの?」

「はい。故障した部分は稼働停止させました。お嬢様はお怪我はありませんか?」

「ないよ。メイドさんのおかげで」

「それはよかったです」

 

 にこりと笑みを向け、なんとか命を守れそうで安心した。

 ひとまずは落ち着ける時間を得られそうで、この間に自分のことを考える。

 まずは自分はどういう人かを思い出そうとするも名前だけが出てこない。好きな食べ物やゲーム、仕事で苦労した記憶はあるというのに。

 そもそもとして、俺は人だったのになんでドールズフロントラインの人形に意識が変わっているんだ。

 考えられることとしては、なんらかの病気で意識を失って人格をコピーされたのだろうか。または人類が生活しているすべてはシミュレーション上であり、上位存在者が好きなように設定を変えているというのかもしれない。

 

 自身について悩んでいると、メイド服をつんと引っ張られたのでお嬢様の顔を見るとなにやら不安だ。

 自分のことばかり考えてしまっていた。子供が怖がっているのなら、その怖さをなんとかするのが大人というものだろう。子供はすべからく守るべき存在だと思うから。

 どうにか話をして怖さをまぎわらせようと思うも、5歳の女の子と合う話題が思いつかない。

 と、なれば食べ物だ。話題に困ったときは食べ物の話をしていればどうにかなる。前世でもあまり付き合いのない職場の人と食べ物の話で盛り上がったことがあるから大丈夫なはずだ。

 

「お嬢様はラーメンという食べ物をご存じですか?」

「ラーメン? ううん、知らないよ」

「食事にパスタやマカロニを使った料理が出ますが、あれらの遠い親戚です。同じ小麦で作られていて私の大好物です」

 

 この体では食べたことがないものの、前世ではすごく好きだった。

 カップラーメン、袋ラーメン、駄菓子のラーメン、お店で食べるラーメン。そのすべてを。

 

「ラーメンは日本という国において非常に愛されている料理のひとつです。ラーメンひとつで主食にスープ、野菜を取れる完璧なものであり忙しい現代人はそれだけを食べて生きていけると私は思っています」

「まるで魔法の食べ物みたい!」

「そう言っても過言ではありません。安い材料でおいしい料理ですから。今度、日本食を扱っている店で材料を買って作りましょう」

「約束だからね!」

 

 俺の話を聞き、嬉しそうにうなずくから次々と話をしていく。ラーメンの種類、味、具材なんかを。

 お嬢様は、メイドさんがこんなにも話ができるなんて思わなかった、と言ってくれたけど、それは俺が特別だからだと思う。

 他のメイド人形たちは仕事に必要ない知識はインストールされていなく、会話も事務的で淡々としたものがほとんどだ。

 人とメイド人形の人格が混ざったからこそ楽しい話ができただけ。

 ラーメンについて語っているとテキストメッセージでの通信が入り、応援がすぐ近くまでやってきているのがわかる。

 王女が無事だと返信をしてから話を中断し、指示された方向を見ているとスーツを来た護衛の人や警官たちがやってくるのが見えた。

 その中には俺と一緒に戦場を共にした黒髪ショートヘアをしたウマ娘の護衛がいた。

 俺の胸の中にいるお嬢様の肩を軽く叩き、護衛の人たちへと指を向ける。

 

「これでもう大丈夫なんだね」

「はい。危ない目に合わせてすみませんでした」

「ううん。すごく助かった」

 

 私たちの目の前に黒髪ショートヘアのウマ娘がやってきたので、軽く手をあげて来たことに感謝すると向こうも気軽に手をあげて返事をしてくれた。

 このやりとりで仕事をやりきった感が出て嬉しい。それから私はお嬢様を抱きしめた手を放し、ウマ娘の人に預けようとする。

 ウマ娘の人はお嬢様を抱き上げようとするが、手を差し出したところで困った表情をした。

 その視線の先は私のそばにいるお嬢様で、メイド服を両手で力いっぱい掴んで不満そうな表情をしている。

 

「あの、お嬢様?」

「嫌。行くのならメイドさんと一緒がいい!」

「私は歩けることができないので、一緒に行くことができないのですが」

 

 庇護欲を煽る、かわいい顔のお嬢様をどうすればいいか困っているとウマ娘の人が「失礼します」と言って私とお嬢様を両手で一緒に抱き上げた。

 一緒に運ばれていくことにお嬢様は嬉しそうだが、メイドとしての私は困惑する。こう、立場というか、人とメイド人形の扱いを一緒にするのが珍しいなぁっていう感じで。

 人に似ていても機械は機械であり、雑に扱い見下す人も多い。なのに、運ばれていく私を見て他の護衛たちや警官は誰も嫌そうな顔をしていない。

 それどころか尊敬の感情を向けてきているような。……この世界は優しい人が多いのか?

 ドールズフロントラインの世界だとこんなのはありえない。考えると、前世にウマ娘という種族が増えて優しい心を持つ人が増えた世界かもしれない。

 もしそうなら、私が楽しく生きていく希望が持てそうだ。

 性別も違い、人の体じゃなくなった俺でも。


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