とラぶラックキャット   作:那覇ダイア

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ちょっとリハビリなので短め…


#32.寂しい宇宙猫

 

 

 

 

 

「トレインくん、超緊急事態! 緊急事態っスよ~!」

 

 帰宅早々にサヤがそんなことを言い出した。

 アパートの入り口で面食らう俺に、両手をぶんぶん振り回して駆け寄ってくるサヤ。

 いつも通りに距離感が近く、一年はまだ経っちゃいねーが多少付き合いが長くなってきたものの顔のかわいらしさとか目のきらきらさに、少し体が暑くなる。

 

 それはそうと何かと聞いてみれば、情報端末のホログラフィックを片手に大慌てで説明を始めるサヤ。

 

「これこれ、サキ星系! なんか航空関係の料金が爆上がりというか、本数めちゃくちゃ減ってるんスよ~! お陰でこの貫頭巫女(カントウミコ)装束とかも素材が全然入らなかったらしくって、全然修理できてなかったんスよ、大問題!」

「お、おぅ……?」

「あー! もう何が大問題かわかんないって顔してるじゃないっスか~! どっかのタイミングで旅行行こうって思ってたのに~!」

 

 あー! と叫んで端末をその辺の机に置いて、両手で頭を抱えて唸ったり地団駄踏んだりするサヤ。動きに合わせて胸元が揺れる揺れる。

 修理が終わったはずの民族衣装は見た目相変わらずな格好だが……、いやちょっと待て何でさらし巻いてないんだよ!?

 お前それ、けっこう動くと見えちゃうだろうが! 丸見えだろうが具体的にナニがとかは言わないが! えっちなラブコメ漫画じゃないんだからお前さぁ!

 いやこの世界ってえっちなラブコメ漫画かもしれねぇけど、というツッコミだけは内心にしまっておいて。俺の絶叫に、サヤはどういう意図かぴらっと布地をちらりと開いたりして俺に見えるようにして戻したり。

 

「えぇ~? でも、これだってトレイン君()()()()()()()()()()()()()、もったいないっていうか……。どうせダイブされるなら面倒かな~って」

「お前、そこはかなぐり捨てちゃいけねー所だろうが…………」

 

 正直そういう誘惑めいた抗議は止めてもらいてェんだけどなぁ……。

 いくら何で、という俺のツッコミだったが、サヤは「そういうのは色々コントロールできるようになってから物申してもらいたいっス!」と少々お怒りだ。

 ごもっとも、と何も言えない俺のコートを「慣れた手つきで」脱がせると、これまた慣れた手つきで鎖骨を指先で「つぅ」と撫でてから2回首肯。

 何を納得したのかってハナシだが、これくらいは平常運転だった。

 

「で、どうしてお疲れな感じなんスか? 子どものお世話でもしてきたとか」

「近いっちゃ近いな」

 

 まさかいきなり支配国家の王女サマと遭遇するとか予想してなかったし。

 妙に天才的なのと、同時にギドっぽさもあったりと、子供への苦手意識に拍車がかかる。

 イヴは大人しくってだいぶ楽だったなあと半年前を懐かしむが、ま、そこは今更どうしようもない。

 

 そしてどちらかっつーと、今疲れてるのは別件だ。

 

「んぐ……、いや、ちょっと依頼が入ってな。

 …………ンだよ、その顔」

「いやだって、トレイン君の依頼って……」

 

 洗面所で手洗いうがいと洗顔したら、何故か甲斐甲斐しくタオルで俺の顔を拭いたりするサヤ。あからさまに鎖骨タッチ狙いなのはわかるから苦笑いして話を続けりゃ、表情が一気に曇るときたもんだ。

 そう心配すんなよ、と。イヴ相手だったらからかいも込めて頭を撫でたりもできるだろうが、サヤ相手にはそれはしない。

 デリカシーっつーかパーソナルスペース? っつーか、どっちかというと例のハレンチ体質を警戒してだが。

 

 間違いなく今の段階だと衣装の横の隙間に手を突っ込んだりといったオチになりそうな予感しかねぇ……。

 

「ク……、ザスティン覚えてるだろ? アイツからの依頼だよ。メインは殺しじゃねぇっつーか…………あー、何て言ったらいいか」

「どういうこと?」

()()()調()()、とか言ってたな。あとはアイツ個人の趣味だ」

 

 デビルークのララ姫────この世界がブラックキャットっつーよりとらぶる世界なんじゃねーかという確信を抱くに至ったあのお姫様のお目付け役として、ザスティンがちゃんと仕事をした後。

 ファミレスから撤収するのをララ姫はだいぶ渋ったっつーか癇癪起こしたが、母親の名前をだされたら大人しくなってたあたり、まあ家庭内でもセフィリア(セフィ・ミカエラ)は怖ェ感じらしい。

 暗殺者的な怖さなのか肝っ玉母ちゃん的怖さなのかは野暮だから考えないでおくが、ま、家庭内が上手く回ってるなら勝手にやっといてくれって話だ。

 継承権とかで争い起ったりしなけりゃ良いよ、ホント。

 

 話は戻るが。迎えに来た後のザスティンから「詫びの品だ」と渡されたミルク瓶。帰り道で飲み干した後にその底面に()()()()()()書かれていた住所と暗証番号。

 とりあえず住所の先にいってみれば、いわゆる貸倉庫。がらんどうのコンテナの中には、小さい金庫が入っていた。

 

 てっきりどっかのバーにでも案内されるもんだと思っていた分拍子抜けだったが、それだけあのお姫様の警護をしてると時間がないっつーことかねぇ。

 ま、そのビデオに関しちゃ再生デッキもついていたので、倉庫の扉を閉めた上で音量を小さくして、再生。

 

 映像に映っていたのは、ザスティン(クリード)

 

『本当なら私が直に君に話を通すべきだったんだが、まあ、色々多忙でね……。ただ今回は、組織(クロロス)からのオーダーじゃない。私個人……、()の個人的な依頼さトレイン』

 

 一人称が「私」から「僕」に切り替わった瞬間に声音が一瞬、目がイっちまってた頃のアイツのそれになって寒気を覚えたが、そいつはおいておいて。

 

『組織が管理していない某所美術館から盗まれた()()()()()()、その回収を頼みたい。──────仕立て人の名は、ギャンザ・レジック。過日、アストラルベイル収容所から脱獄した脱走犯の一人だ』

 

 クリードからその名前を聞いた瞬間、脳裏にはアフロに彫が深すぎる顔の巨漢の映像が過った。ブラックキャット的には割と序盤の敵で、確かイヴの掃除屋としてのお仕事経験値と、スヴェンの予見眼(ヴィジョン・アイ)お披露目回だったと思うんだが……。

 虎徹シリーズ、つまりは日本刀を手に持ってるギャンザってフレーズから「読み切り版かよ」と思わず肩をすくめた。連載前の読み切り版において、クリードが出てこない代わりに敵として出てくるのが刀を使うギャンザだ。

 ま、こっちだとクリードが革命志したりって流れになってないから、アレも()()()は有してないんだろうし、武器を別途持っていても不思議ではないかもしれない。

 

「虎徹シリーズ?」

 

 ペットボトルから水をコップに入れて、俺と自分の前に置いたサヤは、不思議そうに聞き返す。……水ついでにポテトチップス的な変な魚みてーな風味のある安い駄菓子の小袋も開封して俺と自分の前に置くあたりは、なんだかんだ手慣れてる。

 せっかくだしとつまみながら、俺はクリードからの依頼について少しだけ教えた。これに関しちゃ口止めされていないし、そもそも虎徹シリーズに関しちゃアイツ個人の趣味みたいなもんだからな。

 

「っつーかお前、知らないのか。えーっと、何だったっけ? 大体百うん十年前くらいにサキ星系から持ち込まれたっつー虎徹(コテツ)って刀をオリジナルにした模造品だ。

 模造品っつってもちゃんと作ったやつはその虎徹のオリジナルを作った奴に弟子入りしてたやつで、出来栄えはともかく性能はとんでもない」

「へぇ~」

 

 他人事みたいな反応だが、まあ実際サヤからすりゃ他人事だろう。

 サキ星系(地球のある星系)だから少しは知ってるかと思ったが、よくよく考えりゃサヤのルーツ自体にはあんま関係なさそーな話だし。

 

「ザスティンは昔、その虎徹シリーズを武器として愛用しててな。今はメインウェポンとして使っちゃいねーが、収集は趣味で続けてるんだよ」

「収集…………、まあらしいっちゃらしいんスかねぇ?」

 

 騎士団とかの親衛隊さんもちゃんとヒトらしいっスね~、と詳細を知らないからこそやっぱり他人事の域を出ない感想なサヤ。

 

 俺としては全然他人事じゃないから、あんまり笑えない。

 実際昔、クリードが()()()俺に斬りかかってきたときにも使っていたのは虎徹シリーズだったし、ハーディスを入手する前だったが()()()()結構苦労した記憶はある。

 ……というか、そういえばアイツが虎徹を集め出したのって俺がアイツの初代虎徹を叩き折ってからだったか。「君がいつ僕と愛し(殺し)あいたくなっても応えられるように準備は怠らないさ、トレイン」とか濁った眼でニコニコ微笑んでたあたり、前世的なモンに目覚める前でも正気かよと引いていた覚えがある。

 基本、相棒と言いたくはないが一緒の任務に配属される回数も、サポートにアイツが回る回数も多かった関係で、顔つき合わせればイライラしていた覚えがあるし。

 クリードが今のザスティンになってからはそうでもないが、あの当時のアイツは「何でも大丈夫だよ♡」みてーな俺に対する意味不明さが強く……、やっぱブラックキャット原作のノリで、色々終わっていた。

 

 で、話を戻して。

 

「その虎徹シリーズを強盗したやつの目撃証言がサキ星系のルートにあって、網張ってたんだが間に合わなかったってことらしい」

「あー、ナルホド。だから航空便とか本数減ったり高くなったりしてるってことっスか。危ないから」

「そーゆーことだろ、たぶん。国も表向き発表しちゃいねーだろうが、そこはまァ、な」

 

 情報を探るのも、蛇の道は蛇ということだ。

 大戦終結してから復興速度は尋常じゃねーが、まだまだそれこそ二十年も経っちゃいねーわけだし、まだまだ社会の闇は深い。

 

「で、ザスティンが掲げたお題目が『現地に向かうギャンザ狙いの賞金稼ぎのための難易度調整』っつーことらしい」

「難易度調整? えっと、どのあたりが?

 ギャンザについては私、ちょっと調べたことあるっスけど、そんな特殊なタイプの宇宙人じゃなかったし。めちゃくちゃ凶悪犯っスけど」

「まあ、しいて言えば虎徹シリーズだな」

 

 虎徹シリーズは、刀とかも普通に存在するこの銀河連邦国家な宇宙において伊達や酔狂で名前が通っちゃいない。

 

「オリジナルの虎徹はともかく、虎徹シリーズ自体は性能はとんでもないってさっき言ったろ? つまりそういうことだ」

 

 もったいぶらないで欲しいっスけど、と不満そうな顔でサヤが俺の頬をつつきまくる。

 ……ふにふにと柔軟に変形する俺のほっぺが楽しいのかすぐ白熱し始められても、例の体質警戒して身動きできないだけなので、いやちょっとマジ止めて欲しい。

 そういう謎に可愛いの本当、好きになっちゃう……、いやもう好きなことにかわりは無ぇんだが。

 とりあえずは振り払わずに、話だけ続けた。

 

「どういうカラクリかはさっぱりわからねェが、虎徹シリーズは何でも斬れる。

 使い手の力量が伴ってれば、オリハルコン(宇宙最高の金属)でさえも斬れるらしい」

「…………えっ、マジっすか?」

「マジマジ」

 

 オリハルコンがどれくらいの強度なのか正確にはわかっていないだろうサヤでも、半年くらい前にジェノスがオリハルコンの極細ワイヤーで森をずたずたに引き裂いた結果は直に見ている。

 だから、それだけ尋常じゃない物体すら斬りかねないのって何だという話なのは間違いない。

 オリハルコンみてーな精神エネルギー(サイオン)吸収能力みてーなのはそなわっちゃいないらしいから、多分純粋な金属としてのオリハルコンだけをさしているんだろうが、それにしたってっつー話だな。

 

 だから、そんな意味不明な武器を凶悪犯が持ってるっつー状況自体が大変よろしくない。

 

()()()()()()()()()()()()、わざわざ暗殺っつー任務自体は入らない。というわけで、しばらくサキ星系に行くから留守番────」

「────いや、私も行くっスよそれ」

 

 俺の言葉を聞いて、サヤは立ち上がる。

 両手をぐっと握ってやる気満々っつー感じだ。

 

「……いや待てよ、武器の持ち込み制限とか忘れちゃいねーだろ、お前? 旅行じゃねぇんだぞ」

「そこはまあ、新調するとして……。いくら何でもご先祖の母星だし、キョーコちゃんたちもいるっスよ? あの地球とかだと!

 あのあたり他に高い生活水準でいられる惑星とか地球以外ないから、絶対地球行ってるじゃないっスか! 由々しき事態っスよ!」

 

 だから私も行くのだと、サヤは両手を腰に当てて胸を張る。

 ……いや、「聞いてるっスか~?」とのぞき込んでくるの止めろお前、顔近いわ匂いただよるわさらし巻いてないから胸元ヤベェことになってるわで色々ヤバイんだっていってンだろうがお前!

 捲れてる捲れてるッ!!

 見えてるから、見えてる見えてる……!!!

 

 思わず後退しながら絶叫すると、サヤは「あぁ~」と上体を起こして、ぎゅっと自分の身体を抱きしめて。

 

 

 

「……自分で言うのもアレっスけど、そろそろちょっとくらい良いかな~って。見えちゃうとか、覗きとか、そのくらいなら?」

「何で良いんだよ!?」

 

 

 

 声音に色恋の香りが欠片も無いくせにそんなアレなことを言い出すサヤに、恋する側としてはお前本当にどうしたと絶叫する他ない。

 何だ性欲か? 性欲なのか? 俺の鎖骨「おいしそう」とか色々言ってたけど、いよいよお前もお前で何かこらえきれなくなってきたのか!?

 逆に恐怖心みてーなのを感じて椅子から立ち後ずさる俺。ドン引きぶりに気づいたのか「ち、違うっスよ~」と苦笑いしながら、サヤは話す。

 

「ちゃんと()()()ともうまくやってくれてるみたいだし、まあ、うん、その、私のこと好きだーって言ってくれたのもちゃんと本当みたいだし? うん。何で良いのかやっぱり自信はないっスけど。

 でも、トレイン君があえて私を好きだって言ったうえで自制するのを頑張ってるのはわかってはいるし…………、最近ちょっとエスカレート激しいけど」

「それはマジでごめん……」

「うん、気にして?

 でもそれはそうとして────もう本当に一人で生活するのって、ムズカシイんスよね、たぶん。

 ちょっと前に二週間くらい任務でいなかったじゃないっスか、トレイン君。そのとき私、ここがぽっかり穴開いたみたいになっちゃって、やる気おきなくて」

「…………」

「我ながら虫の良いこと言ってるなーっていうか。きみの気持ちに全然応えられそうな心とかでもないくせに、寂しいだなんて」

 

 だからちょっとくらいならサービスしても良いかなーって、と。

 寂し気に微笑んで言われた言葉に、無理ならやらなくて良いぞとは言ったものの。

 

「私が納得しないんスよ。何よりこう、フェアじゃない気がするんス! 前にも言ったけど!」

「フェアねぇ……」

「うん、だって…………、私だってあれだけど、トレイン君なんて昔とか相当、悲しかったじゃないっスか。そんなきみに一方的に私の好きなように寄りかかりたいっていうのは、ちょっと気が引けるっスもん。

 ヒトは寄り合って、支えあってこそじゃないっスか? うん、我ながら正解!」

 

 そう言って改めて胸を張って、目を見開いてにっこりと微笑むサヤ。

 その姿はやっぱり眩しくて……、なんとなく胸がざわめいて、俺は目をそらした。

 

 

 

 ……まあその数秒後。サヤが恥ずかしくなったのか慌てたようにキッチンに行こうとしてそのまま足滑らせて、咄嗟に手を伸ばした結果胸元の隙間に入り込んで、そのままゴロゴロと回転したり両手がいつのまにかがっつりナニをとは言わないがホールドしたりといったことはあったんだが。

 いつもの台無しっぷりに、案の定平手が飛んだわけで。

 

 いい加減どうにかならないもんかこれ……。

 ますますえっちなラブコメ漫画の世界にいるみたいで、腫れる頬を抑えながらちょっと憂鬱だった。

 というか、案の定のオチになってもそれはそれでさらしを巻くの面倒がるサヤもお前一体どういう感情なんだよ、オイ。

 

 

 

 

 

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