ごめんね長くって……
でもみんなの感想が嬉しくて……すぐ書いたよ……!
地上では雨が降っていた。
個性を発動させて無理矢理走るというのは難しいもので、崩落した地下水路からの脱出ともなるとさらに堪えた。
そして地上は、俺が破壊した地下に引けを取らないほど倒壊していた。
雨粒の先に巨漢が立ち尽くしていた。
「あァ……!? 新手……でもガキか……」
血狂いマスキュラーだ。
左目から夥しい血を流し、それだけでなく鋭利な刃物で裂かれたように至る所から出血して肩で息をしている。
オレほどでないにしろ、重傷だ。
「チッ……遊びてぇ、が、サツも来る……じゃあな、いつか会えるといいな」
マスキュラーは個性の筋肉増強すら使わず、走って雑踏の中へ消えていく。
雨が証拠を洗い流してしまう。
個性を発動させ、捕縛しようとしたが、吐血で中断させられ、下半身から力が抜けて崩れ落ちた。
戦闘の高揚で忘れていただけで、体はボロボロだ。
隅々まで分析しても複数の内臓損傷、脊髄完全断裂、右大腿骨骨幹部骨折、左腓骨解放骨折、肋骨が複数本折れて肺に刺さって外傷性気胸を起こしている。左肩甲上腕関節の脱臼にその他複数の筋肉や靭帯の損傷……むしろこれを個性を操作したうえでよく無理矢理動いたものだ。
「ゲホッ……がは……流汰、さん」
もう一度個性を操作して歩き出す。
戦闘時の精密な動きはできず、初めて漕いだ自転車でふらつきながら進むような感覚だ。
「流汰……さん……」
マスキュラーが立っていた場所に行く途中で、瓦礫から人の下半身が生えていた。
飛び散った肉片と血液に染まったその人は、コスチュームから、水面さんだと気づいてしまった。
「あ、ああ……!」
転がりながら瓦礫を這い上がり、マスキュラーが立っていた場所に近づくと、全身の骨格を有り得ない方向にひしゃげさせた流汰さんが、雨音に負けてしまうほどの呼吸を辛うじて重ねていた。
「流汰さん!」
震える手で彼に触れ、個性を発動させる。
個性因子がすり減っているのを感じても無視して、血液を操作し、足りない血液を補填し、循環させる。
だがあまりにも心臓の鼓動が弱い。
オレが個性を使うのをやめたら、すぐに死んでしまう。遠くから救急車やパトカーのサイレンが響いてくる。
「流汰さん、聞こえますか……」
「あ――ぁ……海原くん……か……?」
喘ぐような呼吸を重ね、血を吐きながら意識をわずかに取り戻した流汰さん。
「……水面、は」
彼女を押しつぶす瓦礫を見た。
なんて言おうか、口を少し開いては、止まって、歯を食いしばった。
「――無事、です。大怪我は……していますが……今、救急隊が……搬送して、います」
「よかったァ……洸汰が、独りに……なる……ところ――……だった……」
「何を、言ってるんですか……みんなで、洸汰も一緒に、飯を食べに行く約束でしょうが」
視界がぐらついている。
血を失ったせいか、体が限界なせいか――流汰さんが助からない、とわかってしまうせいか。
関西弁を取り繕うとか、そういうことにも気が回らない。
ただ必死に彼に個性を発動し、それが僅かな延命にしかならないことを理解しながら、この世に繋ぎ止めるのに必死だった。
「あと、海原くん、は……怪我、していないかい……?」
「……無傷です」
「安心した……キミが――……大怪我、したら……死んでも死にきれなかったよ」
「……マスキュラーは、今、ほかのヒーローが……追っています」
「……ああ、そう、だった……市民、は?」
「大丈夫、です」
全部嘘だった。
願わくば嘘だと元気になった後、彼にバレて、怒られる。
そうあってほしい。
吐きそうになる血を飲み下す。
意識がもうろうとして、倒れそうだ。
流汰さんは力なく笑った。
「俺は、だめな、ヒーロー……だ……家族を、先に気にして……次に、自分の学生で、ようやく……ヴィランと市民……失格、だ……ヒーロー……」
「……そんなこと、ないですよ」
「……海原くん、泣いてる?」
「雨が、降っているので」
「その、せい、かぁ……キミは強い、もん、なぁ……ゲホッ、がふっ……ふぅ……! でも……まだ、学生、だから……我慢は……しなくて、いいんだよ……」
血まみれの手が、オレの頭に乗る。
力なく撫でられ、それはまるで、父が子供にするような手つきだった。
転生したことを踏まえたら、オレの方が、歳上のはずなのに。
笑って言おうとして、彼の手が、滑り落ちた。
必死に個性で血液を循環させていても、心臓が停止していくのがわかり、そして個性の発動をやめた。
ふらりと、立ち上がった時、周囲に何人もの市民がいたことに気が付いた。
「……なに、しとるん。キミら」
避難したはずじゃないのか、という疑問に応えるように、涙を堪えた青年が前に出た。
「ウォーターホースがヴィランから守ってくれたんだ! ……素晴らしいヒーローだった」
「そうだ! 彼らは、英雄だ……立派なヒーローだ!」
「とても強かった。あと少しで倒せるところだったのに……」
「許せねえよ、あのヴィラン!」
市民がウォーターホース夫妻を賞賛し、偲ぶ。
ああ、そうだろうとも……と少しだけ嬉しく思ってから、覚えた、違和感。
倒壊した建物や破壊された道路や車両を見るに、戦闘は決して短時間ではなかったことがわかる。
そして救急隊や警察がようやく到着し、負傷者の救助に当たり始めた。
それは、わかる。警察は装備を整えてきたし、救急隊も戦闘が繰り広げられているうちは近づけないから、今来たのも、わかる。
「……なんで、キミらはここにおるん……? なんで避難しとらんの……?」
「そりゃ……ヒーローがヴィランと戦っているんだから、応援してやらないと」
「――は?」
「そうよそうよ! 応援して声を届けないと! 一人じゃないって!」
「よく言うじゃない。ヒーローは助けを求める声があると、強くなるとか……」
「ちゃんと動画も撮ったんだぜ!? ウォーターホースの勇姿を!」
動画の中では、流汰さんがマスキュラーの攻撃を誘導し、水面さんが撮影者や周囲の市民へ避難を呼びかけている。
早く非難してくれという焦りが画面越しにもわかるのに、動画に映る市民はヴィランを倒せ、だの、負けるな、だの、格闘技を見ているかのような暢気さで声を上げていた。
「なん、だ、これ……なに、これ」
背筋が粟立つ。
急に、目の前の奴らの言葉が、聞き取れなくなる。
「くにほすらほききすなみみしちすら!?」
「彼ot@頑張zwe.to我々m戦zqyq@」
「■■■■■■!!」
「何を言ってるんだ、お前らは……お前らが、はやく、避難しないから……流汰さんは、水面さんは……!」
呼吸が浅く、速くなる。
目の前の市民は気づけば黒い人影のようにしか見えなくなっていた。
きいきいとわけのわからない音をかき鳴らす化け物の類だ。
「何がヒーローだ……何が英雄だ……お前らが、さっさと逃げていれば、なにも問題なかったんだろうが……」
視界が赤く染まりぐちゃぐちゃに歪んでいく。
過呼吸で手足がしびれる。
賞賛の声、自分を正当化する声、ヒーローの理想像を語る声。
どれも耳から入る虫のように気色悪く吐き気すら覚える。
――この雑音を、止めなくては。
あの二人が、こんな、こんなものを守るために、命を落としたなんて、考えたくない。
虫共の喚く声が大きくなった。
もう、命を奪うことに欠片も躊躇を感じないまま、右手を翳したそのとき。
「だめだよ!」
背後から、柔らかく、しかし強く、抱きしめられた。
「
後ろから抱きしめたその人が、波動と気づいてようやくオレは限界を迎えて、意識を失った。
☆☆☆
病室で包帯ぐるぐる巻きで、点滴や酸素チューブ、その他バイタルチェックの機器に繋がれてスパゲッティみたいになったオレの前に現れたのは、二人の公安職員だった。
あれこれいきさつを話してくれたが、要約すると
『裏世界を牛耳るボスの手先や手がかりとぶつかった。それを公表するとヤバいから、今回はマスキュラーに大怪我を負わされたということで振る舞ってくれ』
『世間にはマスキュラーによってウォーターホース夫妻が死亡、インターン生の存在は伏せられていて特に触れさせない』
ということを頼まれた。
最早色々とどうでもいいので頷いた。
ついでに、
『もしも怪我が治るようなら公安がヒーローになるため、そしてなったあともバックアップをする』
と言われた。
金銭的なサポートなど、そういうレベルの低い話ではなく、オールマイトという平和の象徴の後を継ぐ存在を作る必要があるということで、マスメディアや世論を誘導してオレを新たな象徴に仕立て上げるという。
そこについては個性訓練をしないと復帰もできないので保留しておいた。
本当はこんな世界を守るなんて気はさらさらないが断ると面倒なことになりそうだった。
公安警察はあれこれ聴取するために何度かやってきた。
入院中は相澤先生もリカバリーガールも来てくれた。
そして最終的に半月ほどで退院した。
まだ包帯で志々雄真実ばりにぐるぐる巻きかつ下半身不随なので車いすだが、大病院は忙しい。容体が安定したということで退院させられたのだった。
退院して最初は洸汰に会いに行こうとしたが、当然ながら、もう親戚に引き取られて会えなかった。
謝ることもできずに会う手段を失った。
――帰り道。
街中をひとり、車いすを漕ぐ。
周囲の人々は邪魔そうに、または気の毒そうに見下ろしてくる。
包帯だらけの見た目も目を引いていた。
「チッ……邪魔だな」
「可哀想に、若いのに……」
「あれ、どっかで見たことあるような……まあいいか」
すれ違う声。向けられる視線。
全てが醜悪だった。
(……なんで、流汰さんたちはこんな奴らを守ろうとしてたんだ)
車いすの車輪を回す手に、無意識に力が入る。
前世の記憶でも、この世界でも、大衆というものは変わらない。
安全な場所から野次馬根性でスマホを向け、誰かが傷つくのをエンターテインメントとして消費する。
ヒーローが戦っている姿もただのショーのようにしか見えおらず、その暢気さが彼らの命を奪ったと思うとはらわたが煮えくり返る。
流汰さんや水面さんが命を懸けて守ったのは、こんな、醜悪で、無責任で、醜い肉の塊たちだ。
(吐き気がする)
胃の奥から込み上げてくる黒い感情が、オレの全身を冷たく侵食していく。
地下水路でマキアや脳無たちを圧倒したあの全能感が、今は恐ろしいほど静かにオレの内に息づいている。
今のオレなら、できる。
この交差点を行き交う数百人、数千人を一瞬で殺し尽くすことは息をするより簡単だ。
いや、それだけじゃない。
この国の全ての水源を支配し、海を隆起させ、日本という島国を丸ごと深海に沈めることすら、今のオレには不可能じゃない。
(……やってしまおうか)
このまま世界を壊してしまえばいい。
全力で暴れ回り、狂い、破壊の限りを尽くせば、オールマイトがオレを殺しに来てくれるかもしれない。
あるいは、オール・フォー・ワンのような巨悪が焦ってオレを殺しに来るかもしれない。
どっちでもいい。もう、疲れた。ヒーローごっこも、モブのフリも。
「……ぜんぶ、水に流してやる」
そう呟き、個性を発動しようと指先に意識を向けた、その瞬間。
――ガタンッ。
考え事に気を取られていたせいで、車いすの小さな前輪が、歩道のわずかな段差に深く引っかかった。
重心が前のめりに崩れる。
今のオレは、まだ偽の神経ネットワークを構築しきれていない、ただの重傷者だ。
咄嗟に受け身を取ることもできず、オレは無様に車いすからアスファルトの上へと投げ出された。
「……ッ」
包帯の下の傷口が擦れ、鈍い痛みが走る。
周囲の歩行者たちは、一瞬足を止めたものの、「関わりたくない」とでも言うように目を逸らし、足早にオレを避けて通り過ぎていく。
(……そら、そうだ。こんなのが転がっていても、誰も、わざわざ助けない)
地面に這いつくばったまま、オレは自嘲気味に笑った。
世界を滅ぼそうとした男が、段差一つで転んで、誰にも助けられない。
滑稽すぎる。
もういい。ここで、この冷たいアスファルトの上で、全てを終わりにしよう。
オレが再び絶望と破壊の衝動に身を任せようとした、その時だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
視界に、使い古された赤いスニーカーが飛び込んできた。
そして、まだ細く、傷だらけの小さな手が、オレの肩に触れた。
「あ……」
顔を上げる。
そこには、中学生の学ランを着た、もじゃもじゃ頭の少年がいた。
怯えたような、おどおどとした顔。だが、その目は真っ直ぐにオレに向けられていた。
「あの、立てますか? 怪我、してないですか……?」
緑谷出久。
まだOFAを受け継ぐ前の、ただの――いや、既に継承しているかもしれないが――「無個性」の少年。
彼とはこれが初対面だ。オレが今年雄英に入学したばかりで、彼はまだ中学3年生。接点なんてあるはずがない。
オレは、予想外の闖入者に、思わず間抜けな声を出してしまった。
「……なぜ」
なぜ、お前がここにいる。
なぜ、誰も見向きもしないオレに声をかけた。
オレの言葉の真意を「なぜ助けたのか」と勘違いしたのか、緑谷はビクッと肩を揺らし、目を泳がせた。
「えっ、あ、その……」
彼は慌ててオレの車いすを起こし、オレの脇に手を入れて引き上げようとしながら、蚊の鳴くような声で言った。
「き、君が……助けを求める顔を、していたから……!」
――君が、助けを求める顔をしていたから。
その言葉は、まるで呪いのようにオレの脳髄を貫き、そして、氷のように冷え切っていた心を、一瞬にして溶かした。
(……助けを求める、顔?)
世界を滅ぼそうとしている、こんな醜悪な化け物が?
オレは、緑谷の細い腕に支えられながら、車いすに戻った。
彼の手は、小刻みに震えていた。怖いのだろう。怪しい包帯男に関わるのは。
それでも、彼は見捨てなかった。
「……ふっ、くくくっ……」
思わず、笑いが込み上げてきた。
笑いが止まらなかった。
「あ、あの……!?」
「いや……なんでもない。ただの、独り言や」
さすが、主人公だ。
こんな絶望の底にいるモブの心すら、たった一言で救い上げてしまうのか。
オレは、車いすに座り直すと、改めて緑谷の手を見た。
震えて、不器用で、何の力もない無個性の手。
だが、その手は、流汰さんと水面さんがオレの頭を撫でてくれた手と同じくらい、暖かかった。
「……おおきに。助かったわ」
「い、いえ! 僕なんか、ただちょっと手伝っただけで……!」
「名前、なんて言うん?」
「えっ? み、緑谷……緑谷出久、です……」
「緑谷クンか。ええ名前や。オレは……いや、また会うこともあるかもしれんな」
「……?」
オレがお礼を伝えると、緑谷はペコペコとお辞儀をして、逃げるように去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、オレは先ほどまで抱いていたどす黒い衝動が、嘘のように消え去っていることに気づいた。
(……そうか。こういう奴が、まだいるんやな)
醜悪な大衆は確かにいる。
だが、見返りも求めず、ただ「助けを求めている」という理由だけで手を差し伸べる、本物のヒーローの卵も、確かにこの世界には存在している。
流汰さんも、水面さんも、きっとこういう「誰か」を守るために戦ったのだ。
「……しゃあないな」
オレは、車いすのグリップをしっかりと握り直した。
ヒーローごっこはもう終わりだ。
モブとしての傍観者気取りも、やめだ。
(緑谷出久……キミが最高のヒーローになるんやったら、オレが全力でその道、整えたるわ)
そのためなら、泥を被ろうが、悪役(ヴィラン)に身を落とそうが、神様(AFO)を出し抜こうが、なんだってやってやる。
それが、オレをこの絶望から救い出してくれた、彼への――そして、二人の恩人への、最高の弔いになるはずだ。
「……見とけよ。オレのやり方で、この世界、守ったるから」
雨上がりの空に、うっすらと光が差し始めていた。
☆☆☆
波動ねじれが、その感情が恐怖と呼ばれるものだと気が付いたのは、海原大海と再会したときのことだった。
インターンで重傷を負った彼を受け止めたあのあと、すぐに救急搬送され、退院するまで会えずじまいだった。
ねじれの怪我は数日も休めばインターンや授業に参加できる程度のものだったが、1年A組の教室を尋ねたことで、海原の怪我が想像以上のものであることを知った。
「う、海原くん」
「なんや?」
ねじれは彼の車いすを押しながら、なんて言おうか悩んだ。
不思議。
いつも、知りたいことがどんどん出てくるのに、今は言葉にできない。
見下ろした先の海原は車いすに背を預けている。
彼は退院こそしたものの、通院してリハビリをしている最中だという。
お見舞いと、そしてリハビリからの帰り道にこうして車いすを押している。
「……足の調子は、どう?」
「痛くあらへんよ」
「……う、動く?」
「……動かすために特訓中」
「っ……」
インターンの、黒い化け物のようなヴィランが現れたときに、自分がもっと強ければ、きっと彼はこんなふうにはならなかっただろうな、と涙がまたじわりと溢れた。
強いと、優秀だと、かっこいいと言ってくれた後輩の男の子。
先輩なんだから、守ってあげないとと思っていたのに、結局守られて、彼はヒーローを続けることすらできなくなっている。
「海原くんは、強いね」
「褒めても何もでえへんよ。どしたん急に」
「……私ね、すごく、不思議だなって思うの。……私は何もできなくて、ウォーターホースさんたちが亡くなって、キミが大怪我をして……すっごく、痛いの。
体は治っているのに、とっくに治っているのに……胸が痛くて、たまらないの」
「……別に波動チャンのせいちゃうよ」
「不思議……私ですら、そう、なのに。海原くんは……本当は……私よりもっと苦しくて、たまらないんじゃないの……?」
ねじれが足を止めると、車いすも止まる。
鼻水を啜り、涙をぬぐいながら、海原の正面に向き合った。
「あのとき、海原くんは――すごく、悲しい声だった」
膝を震わせ、血を吐くように何かを叫ぼうとしながらも、雨に打たれて、立ち尽くしていた彼の姿を見たとき、ねじれは駆けだしていた。
右手を上げた瞬間、きっと彼はどこか遠くへ行ってしまう――あるいは、違う何かに成り果ててしまうと感じて、咄嗟に抱きしめた。
自分をかっこいいヒーローだと言ってくれた男の子に、そんなふうになってほしくなかったから。
「不思議なの……今は、悲しそうな声じゃない。でも、とっても寂しそう」
リハビリ中の彼の目には光が灯っていて、何かを成し遂げようとする意志があった。
でもそれは、ヒーローになるという不屈の夢でも、ヴィランに復讐するというどす黒い熱でもない、底知れぬ海のようにほの暗い目だった。
怪我を治して、きっとヒーローになれると、今度は自分が応援するつもりだったのに、その姿に、焦りすら覚えた。
浮世離れした波動の直感が告げるのは、彼がなんなく怪我を克服してしまうであろうこと。
その先に、何か途轍もないものになりかけていること。
――そのことを、とても寂しく思っていること。
「海原くん。泣いていい、なんて言わない」
男の子には涙を見せちゃいけないときがあるって話は聞いたことがあるから。
「立ち止まっていいとも、言わない」
立ち止まったら、彼はもう前に進めないかもしれないから。
「だから――だから……」
車いすの彼を、波動は抱きしめた。
慰めているつもりなのに、自分のほうがたくさん泣いている。
「――独りに、ならないで。私も一緒に、いさせて」
まるで愛の告白のようだけれど、彼を繋ぎとめられるならそれでいい。
インターンのほんの一日一緒にいただけの彼だけど、私が、ヒーローを目指せる自信をくれた人で、心にすっかり大きくなって入ってくれた人だから。
どこにも行かないで欲しい。
波動はたったそれだけの思いで、海原をきつく抱きしめた。
「んん……波動チャン、少し苦しいわ」
「えっ、あっ、ごめっ、ごめんね!? 痛かったよね!?」
「少し、心が……うん。せやね……本当は、めちゃくちゃしんどいわ。尊敬していた、二人が、亡くなったんわ」
長い溜息がこぼれた。
「ああ――ようやく、言えたわ。ボクずっと、苦しかったんやな」
「苦しくて、当然だもん。大丈夫だよ。きっとそれは、おかしいことなんかじゃないから」
寂しそうに、柔らかに笑う彼の頬を、ねじれはそっと撫でた。
きっと彼を繋ぎ止めたいから。
「ありがとう波動チャン。ボク、もう少し頑張るわ」
「うん……よかった。でもね、不思議なの。どうして海原くんは関西弁なの?」
「……ん、そうだな……必要ないな、波動の前では」
「……いっぱい、隠してることがある?」
「あぁ、あったけど……もう、ねじれの前では隠さないよ。恋人になってくれるんだろ?」
ねじれは顔をぽっと赤くしてから、こくり、と頷いた。
「……うん。ねじれって、呼んで、いいよ。私も……ヒロミ? ヒロ……ヒロくん。うん、ヒロくん、って呼ぶ」
「そうか……じゃあ、ねじれ。早速だけどウチまで送ってくれるかな」
「うん……うん! あのね、あのね、実は聞きたいこといっぱいあってね、えっとねえっとね!」
波動は海原の車いすを押しながら、賑やかに歩みを進めた。
☆☆☆
「と、いうわけだ。ボクのその腹心は半身が吹き飛び、プロト・ハイエンドの脳無たちはすべて潰された。とはいえ、素晴らしい研究結果も残してくれたからね。彼にやられた部下や、より良いハイエンドたちを生み出すために頑張っているよ」
「公安が介入して先生の痕跡は隠したわけだ。逃げ腰だな。けど先生、それなら雄英襲撃のときに言ってくれてもよかったじゃないか」
「こちらとしても彼が一年生のままとは思わなくてね。ただ、きっと彼は、こちらになびく素養はおおいにあるさ。弔、失敗しても構わない。彼をこちらに引き入れるように説得するんだ。
彼が悪に堕ちれば……この国は、最早堕ちたといっても過言ではないのだから」
「……チートキャラかよ、つまらねえな」
「ふふふ、そこには僕も同意するよ」
・オリ主の個性はいわゆる灰廻航一の個性覚醒とほぼ一緒。AFO、チャート変更により激怒
・マキアは超重傷。なお次の試合には間に合う模様
オリ主覚醒回アンドヒロインの一人はねじれちゃん。ねじれちゃんマジ天使。なおここまでやっておきながら彼女の出番はまたお預けの模様。