狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
背を低めて
「住吉大社を管理するのは
小さくかぶりを振って続けた。
「だが、
馬の背に揺られながら童子丸は笑う。
「その隙にお宝をいただこうっちゅうんじゃから、さても
貞明は風の中、口笛のように細く息をついた。
「……いやしかしいい気分だ、若い頃を思い出すね。君たちぐらいの頃にはよく屋敷の庭で馬を駆けさせたものさ、こうして風を切ってね。無論、大人どもにはいい顔をされなかったがね。――さて、ここだ」
尾花丸がのぞき込むように身を乗り出す。
「……こんナ物置みたイな所にあルのか? あノ大きな倉とか、
下馬した後、近くの松へと馬を引いて繋ぎながら貞明が言う。
「そもそもここに在るはずのない、在ってはならない代物なのでね。堂々と奉るわけにも、宝として収めるわけにもいくわけがない。あるとすればそう、忘れられたような小さな倉。それでいて湿気から保護するため、地面から離れた高床の造り。ここだ」
「そりゃええとしても、そんな大事なもんなら錠前か何ぞが――」
童子丸は倉の扉に目をやったが。そこに錠の類はなかった。ただ両の扉に細く、日に焼けていない部分が――錠前がかかっていたであろう跡が――見えるだけだった。
歩みながら貞明が笑う。
「なに、私もこれで顔が広い方でね。ここの者の一人に言って、こっそり外してもらっている。相応の銭を握らせてね」
後をついて歩みながら童子丸は言う。
「そんなら、中のもんもそいつに盗ませちゃあ……ああ、そこまで背負わすには責任がでか過ぎる、ッちゅうわけですか」
貞明は振り向かず、倉の階段を上がる。
「その事もあるがね。おそらくそれは不可能なのだよ、そもそも。……さ、開けるぞ」
貞明が扉の片方に手をかける。童子丸も反対の扉に手をかけ、尾花丸も手を添えた。
「一、二ノ、三!」
尾花丸のかけ声に合わせ、扉を引き開ける。
がらん、とした部屋であった。物置のような外見に反して――ただしよく見れば板壁も床も分厚く、針を差し込む隙間もないほどきちりと造られている――、何もない部屋であった。
ただ、その真ん中に。机のような台が置かれていた。その上には古びた木箱が載せられており、木箱の両脇には供え物でもするかのように
木箱は細長いものだった。横幅は大人が片腕を伸ばしたよりまだ少し長い。高さと奥行きはいずれも、大人の手首から指先ほどの長さ。何にせよ、決して大きなものではない。漆が塗られるでも黄金細工に飾り立てられるでもない、板肌が古びて灰色にくすんだ木箱だった。
これが本当にお宝なのか、中に何が入っているというのか。童子丸はそう思ったが。
「おお……!」
そのとき、尾花丸が匂いをかぐように鼻を鳴らす。とたん、鼻柱に歪んだしわを寄せ、うるるる、と怒ったように喉を震わす。
「危ナい!」
毛むくじゃらの手を伸ばし、貞明の衣を引っつかんだ。
貞明の歩もうとした先では。かたかたと音を立て、二つの
それが何なのか気づき、童子丸の頬が引きつる。
「こいつは……!」
うるる、と変わらず
「奴ノ、忠行ノ、式神……!」
貞明は苦く笑っていた。
「いやすまない、待ち望んだ宝をいざ目の前にすると、思わず夢中にね。ただ、こうなることは予想していた。住吉大社で執り行なわれる
そう喋る間にも式神は震え、
角張った紙の
童子丸はいつの間にか、自分の腕を押さえていた。母が殺されたとき、式神の火の粉を浴びた箇所が、焼けつくように痛んでいた。尾花丸も同様に、自身の肩を押さえていた。
貞明は式神の胸元に目をやる。紙の内に書かれてでもいたのか、それらの名前らしきものがあった。
「『
納得したように貞明がうなずく中、童子丸はすでに身構えていた。
「ンなこと
牙を剥いた尾花丸がうなずく。
「おウ、童子! 奴ノ式神、母さまノ仇!