狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
貞明は円く口を開けていた。それから肩を震わせ、息を吹き出し。背を折り曲げ、震えながら笑っていた。
「ふふ、はは、そうだ、それだ! いや実に頼もしいな君は、五行の力を使いながら五行の
両手の指を震わせ、折り曲げ。握り潰すように拳を作る。払うようにそれを振り回し、唾を飛ばして言葉を並べた。
「なぁぁにが陰と陽だ五行だ! 二だの五だのとそんな数字でこの世を測ったつもりか分かったつもりか自分のものとしたつもりか! 実に
童子丸は、尾花丸も、目を瞬かせて無言でいた。
いったい。どうしたというのだ、突然。だいたいお宝は手に入れたのだ、すぐにでもここを離れるべきではないのか。
いや、そもそも。この人は、いったい何者――
そのとき。部屋の奥から何か引きずるような音がした。
見れば、焦げた紙と裂かれた紙とが――童子丸たちが倒したはずの式神が――寄り集まり、震えながら立ち上がり。焦げた腕を掲げると、貞明へと黒い爪を振り下ろした。
「! 危な――」
童子丸たちが動くよりも早く、貞明は机の上の木箱を手にし。その
光が洩れた。目を射るような光が。
思わず目をつむり、手を目の前に掲げた童子丸だったが。薄目を開けてみて分かった、光などではなかった。
光を帯びた、無数のモノ。火の水の木の土の金の、色とりどりの気を帯びたモノらが箱の内から、辺りを埋め尽くすように立ち昇っていた。
無数のモノらの向こう、箱の中身がわずかにのぞき見えた。それは剣。
全長三尺――90センチ――にも満たない、両刃造りの小振りな直剣。全体がざらざらとした
その刀身自体はごく当たり前の形ではあったが。
果たしてこれは打ち鍛えられた剣なのか。山から削り出した
――何だ、これは。
その剣を見たのは一瞬のことだった、それでも目が離せなかった。
こんなものは見たことがなかった――まるで宙を遊ぶモノらが凝縮され硬く打ち鍛えられ、鋼へ変じたかのような姿。実体を伴った、巨大なモノ。
体の芯が呼ばれるようにうずいた。ことに、母を討った炎を浴びた腕が焼けつくように痛み、思わず腕を握った。なぜか、母の断末魔の声を耳の奥で聞いた。
隣では尾花丸も、かつて火の粉を浴びた肩を押さえていた。
「我が剣よ。打ち
貞明の声と同時に、金の気を帯びたモノが宙に集う。それらは両刃剣の、ちょうど箱の中身を模した、ただし真新しい剣の形を成していた。
剣は音もなく宙を
真新しい剣が再び金気となってほころび、姿をかき消す中。貞明が愛おしげに箱をなでる。
「我が剣よ、ようやく還ってきてくれたね。もっとも、私も見るのは初めてだが。『古事記』いうところの神宝『
草那芸之大刀《くさなぎのたち》。その名は童子丸にも、聞き覚えがないではなかった。つまり――
尾花丸は震える指で貞明と剣を交互に指す。
「そっ、そんナもの盗っテ大丈夫、いヤ、といウか、貞じい、あんた、いったイ……」
「言ったはずだよ。五十二年前までこれは、私のものだったと」
貞明は二人へと向き直る。その背筋は天と糸で繋がっているかのように真っ直ぐに伸びていた。その声は天から降るように重く、穏やかに響いた。
「
「私を知る者は陰でこう呼ぶよ。『