狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
弟、尾花丸の体が自分とは違うと――狐そのものであると、そうして余人の目には見えていないと――気づいた頃。とっくりと、改めて弟を眺めてみた。
「そっクりダな、おれタちは」
二人、手を合わせたまま。狐の長い口を開け、狐の長い舌で尾花丸はそう言った。
童子丸も大きくうなずく。
「当たり前じゃ。双子ぞ、
宙を遊ぶモノを、目で追うのが好きだった。童子丸も尾花丸も。
朝の光を浴びてたゆたう
それらの横では虫が舞っていた。緑の羽根、樫の固い葉に似た分厚い羽根を震わせる
そこから離れて群れる小虫どもは、火の渦を巻いていた。
足下では鈍く光る
余人には、これらのモノが見えないらしかった。兄弟と母以外の人間の目には。
兄弟は、これらのモノを捕まえては母に見せるのが好きだった。たいてい、見せる前に手の中で消えてしまうのだが。
夕方、暮れゆく日の下で、燃えるような光を浴びて舞うそれらを見るのが好きだった。母と兄弟、三人肩を並べて、宙を遊ぶモノを指差し数えた。
尾花丸は稲穂色の毛に覆われた手を伸ばし、それらをつかもうとし。逃げられては、ふさふさとした尾を振り立てて追う。
童子丸は弟を追って走る。頭の後ろで高く結わえた黒髪、枯れ草にも似て荒れたそれを、尾のように揺らして。
やがて尾花丸が転んで泥にまみれ、童子丸がその手を引いて母の下に帰る。
母は、そんな子らを何も言わず
父は、何も言わなかった。ただ眉根を寄せて、離れたところで三人を――いや、母と童子丸を――見ていた。口はいつも、ほんのわずか開かれていた。何か言いたげに、あるいは何を言うべきか測りかねているように。
父、
尾花丸の声は父に届かなかった。妻と童子丸の声に呼ばれ、父が傍に来るとき。その足は体は、尾花丸の体をすり抜けた。そこに何もないかのように、尾花丸が座っているそこに、重なるように父も腰を下ろしていた。
童子丸は父に非難の声を上げる。尾花丸が父へ甘えるようにすり寄り、ふさふさとした尾を、なでるようにすりつける。
そんなときだけ、父はびくり、と身を震わせる。辺りを見回しながら身を引き、尾花丸になでられた箇所を、寒気でもしたように手でこする。父はいつもそうだった。
母はいつもそんな父子を、目を細めて眺めていた。狐のように目を細めて。