狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~   作:木下望太郎

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三十話  魔性者どもの道にて

 

 何らかの(あやかし)が、あるいは常とは(あだ)しき(モノ)どもが、集ってくる場所がある。

京に『あわわの辻』があり、百の鬼がそこを行く。そのことはもう語られた。

 同じく四国各地には『マショウモンミチ』『縄目筋』と呼ばれる場所がある。

 その場所では、あるいは妖異らが夜を練り歩き、あるいはその地に住む人間に不幸が続き、家が絶えるなどという。

 そのマショウモンミチの一つが、讃岐(さぬき)のその地にもあった。

 

 

 墨を塗りたくったような、(こご)った闇を手でつかめそうな、黒い夜であった。

 その夜の中を迷いもせずに、ひょこひょこひょこと鬼が歩く。雨もないのに(みの)笠をまとった、小柄な鬼であった。

(なん)がでっきょんな」

 

 蓑笠の鬼に声をかけられた、たむろする鬼どもの一体が振り向く。

「おう、小蓑(こみの)の。なんや今日は、騒いどる場合とは(ちゃ)うんやないかと、あんたもそう(そなん)思わんか」

 

 他の鬼どものうち、(ふと)った体にはち切れそうな直垂(ひたたれ)をまとった、赤い鬼が口を開く。

「何や、近頃はえらい物騒での。鬼でも狗神(いぬ)でも天狗でも、殺して回る奴がおるらしい(げな)

 

「ほうなぁ……そらまた大変な(えらい)ことや」

 

 坊主のつもりか()袈裟(げさ)をまとった、黒い禿頭の鬼がぶるぶると首を横に振る。

「それどころか見てみろ(見てんまい)、森本の杉太郎(すぎたろ)さんまで殺されたらしい(げな)

 

 小蓑の鬼が身を震わす。

「何とな! 木ぃの神さんまで討たれたとな……驚いた(おっげた)わい、(おと)ろっしゃ~……やったんはいったい何者(なにもん)じゃ、(みやこ)から陰陽師でも来たんかいのう」

 

 下帯一丁の黄鬼が顔をしかめる。

「そなに結構(けっこ)げなもんでもないわい。確かに火だの水だの放たれたっちゅう跡もあるげなが。どうも皆、咬み殺され、喰い殺されたげな」

 

「そしたらまさか鬼、妖が……わしらの誰ぞがやったっちゅうんか!」

 

 鬼どもがそれぞれにうなずく。

だから(やからこし)、騒いどる場合とも(ちゃ)うんちゃうか、っちゅう話でよ――」

 

「いや、騒ごうやないか」

 低い声を響かせたのは、鬼どもよりも頭二つ大きな緑の鬼。角の突き出た頭には、烏帽子代わりのように釜を載せていた。

「そななときだから(やけん)騒いで葬送(おく)ったろうやないかい」

 

 鬼どもは顔を見合わせたが、中にはうなずく者もぽつぽつとあった。

 

 烏天狗の中に咳払いをし、胸を張る者がいた。

「では卒爾(そつじ)ながら。つい先日、身共(みども)が京へ上りし折、向こうで流行っておった(うた)がござってな。それを一つ試してみぬかの」

 

 しばらくの手ほどきの後、鬼どもが不揃いながらも唄い出す。

 ――お(いっち)()ィの 三四五(さいよいど)ォ お(いっち)()ィの 三四五(さいよいど)ォ――

 

 鬼どもが列をなしてゆく中、道から外れた木立の下で。落ち葉の山が音を立てた。その下の地面が身を震わせたかのように。

 

 ――()いど()いどと わしゃ言うちょらァよ ここが地獄ぞ 俺等(おいら)にゃ極楽――

 

 鬼どもの身振りが唄が、だんだんと揃いゆく中。落ち葉の山がまた震えた。

 

 ――(ひゃく)の鬼らが 唄える道行き 早く早くと足踏み()き行き

 (もも)の鬼らが 躍れる道行き もうもう立つ砂 轟く地響き――

 

 鬼どもが上手く拍子をつかみ、見交わす顔に笑みが浮かび出した頃。

「……やめろ」

 落ち葉の山が立ち上がった。いや、落ち葉の下にいたもの、それを夜具代わりにかぶっていた者が立ち上がった。頭も髪も隠れるほどに、狩衣も半ば隠れるほどに落ち葉がまとわりついたまま。

「……やめろ。その(うた)を、やめろ」

 狐火のように光る青い目、その軌跡を揺らしながら。童子丸が、狐火のようにふらふらと、(もも)の鬼へと歩き出す。

 

 

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