狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
逃げていた、逃げていた。百の鬼が夜の道を。彼らの正に縄張りであろうマショウモンミチを、互いを押し退け我先に。
赤鬼は青ざめ青鬼は赤く血を流し、駆けながら振り向いた黄鬼が頭を割られた。
ひいいい、いいぃ、と鬼どもから、喉笛を枯らすような悲鳴が上がる。
その響きの中、鬼どもの行く流れの中を踏みとどまり、問いを発する鬼がいた。
「待て……待て、何やお前は! 何故わしらを襲うとんのや! もしや近頃、
襲ってきた男、頭から落ち葉にまみれた男が手をかざした先、金の気を帯びたモノが寄り集まる。一つに溶け合い輪郭を歪め、別の姿を取る。男の背丈と同じ、鋼の体毛を具えた狐の姿。
狐が腕を振り上げ、大鎌のような爪を振るう。問いを発した鬼は胸から上下へ両断され、最後まで言い切ることはできなかった。
うつむく男は――童子丸は――頭も髪も覆い隠すほどに、未だ落ち葉にまみれたままつぶやいた。
「やめろ。その
遠巻きに、足を止めた鬼どもが目を瞬かせる。
「
「
足を引きずるように、あるいは何かに引きずられるように、童子丸は歩き出す。それに添うように、鋼の狐も歩き出す。
「やめろ」
後ずさりつつも鬼どもは
「
そう言った、
「やめろ」
言ったときにはもう、式神の爪が山犬の耳を――狐のそれにも似て三角形をした耳を――裂いていた。
「やめろ。その耳をやめろ。弟に、似とる」
毛に覆われた耳が、ふさ、と地に落ち。山犬の頭、切られた傷から血が吹き上げ。悲鳴を上げる山犬が、傷を押さえてへたり込む。
表情を強ばらせた黒い鬼が、
「おんどれっ、何してくれよんじゃ! もう
うつむくままの童子丸には表情もない。
「やめろ。その目をやめろ。弟に、似とる」
言うなり、鋼の狐が身を揺する。その背から伸びた針の体毛が、鬼の両目を貫いた。
鬼が悲鳴を上げて目を押さえ、のたうち回る間にも。他の鬼、
その背を追い、童子丸が跳ぶ。
「やめろ。その声をやめろ。弟に、似とる」
鋼の狐が大口を開け、狩衣を着た猿の頭をかじり取る。
「やめろ。その背丈をやめろ。弟に、似とる」
狐は口から血を垂らしたまま、逃げる鬼を背から裂く。
「やめろ。その手をやめろ」
鉄棒を振り上げた鬼の手を裂き、首を裂く。
「その表情をやめろ」
式神狐を避けて童子丸へと躍りかかった猿と山犬が、童子丸の手から昇った青い狐火に巻かれ、たちまち顔を消し炭のように焦がされた。
「やめろ。やめろ。やめろ。やめろ……っ」
悲鳴を上げる
「やめろ、そんな顔、するな……
つぶやく間にもまた一体、鬼の頭が