狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
断たれ、裂かれてただの紙に戻り、風に吹かれて力なく宙を舞い、あるいは地を這う式神青龍、式神朱雀の欠片。模造草薙剣の力で造り出された模造玄武も元の水気を帯びたモノへと散り、消えゆこうとしている。
「な……」
清明はそれらを、口を開けて見ていた。
かつて母を殺した力が、それを為した男が模造草薙剣の力を得て放った式神どもが、
横を見れば、声こそ洩らしていないが忠行も、同じ顔で吹かれゆく紙片の群れを見ていた。
こんなときに考えるようなことではなかったが。二人して同じ顔で同じものを見ている。忠行との協力を決めてから幾日か経つが、初めてのことに違いない。母を殺された男と殺した男が、同じ思いを抱いているなどと。
そう考えるとなんだか、笑いそうになった。こんなときに。
「ハッハァーッ!
未だ光を吹き上げる拳に目を落とし、震えるほどに握り締める。
清明は思わずつぶやく。
「生ける神器、言うてもお前――」
忠行も横でつぶやいていた。
「とうの昔に
言った後で互いに目が合い。
ふ、と苦く笑い合った。
その間にも
「さぁてさてさて、さらなる光栄に打ち震えることを許そうぞ……次は
天へと向けた
「げ」
反射的といえる動きで清明は伏せ、忠行は横へ跳んだ。清明の後ろ髪と尾っぽの先の毛がさらわれ、忠行のかちりと固い
「今のをかわすとは上出来。
さらに光を溢れさせた腕を掲げ、縦横無尽に振るう。その手から剣ほどもある光の刃が無数に放たれ、こちらへと飛ぶ。
「げ……ええぇ!?」
清明は顔を引きつらせる。
忠行も同様に表情を固くしていたが。それと同時といえる早さで、刀印を結んだ手を地面へ向けていた。二人の目の前の地面でモノどもが寄り集まり、土塊となって盛り上がる。
清明も慌てて刀印を土壁へ向ける。金の気を帯びたモノどもが鉄の板と化して地面からせり上がり、土壁を前から補強した。
飛び来る光の刃が連続で壁へと打ち当たる。
「ふう……」
耳を押さえていた――鼓膜へとつながっていない狐耳ではなく、元からあった方の耳を――手を離し、清明は壁の横から顔を出す。
と、同時。
「今のを
向こう側から同じく、
刃の群れが騒々しく壁に打ち当たる間に、ここまで駆けてきたというのか――清明がそう考える間に、
「ぬぅ……!?」
忠行が刀印を突き出すより早く、刃は振るい落とされ。
それよりも早く、清明は思い切り跳んでいた。
忠行へと、背中から体ごとぶつけるように跳んでいた。
「な……!?」
後方へと打ち飛ばされ、地に転んだ忠行は刃から逃れ。
清明の体を刃が走り。その後を追うように、遅れて肌に、肉に熱さが走り。また遅れて、血が吹き上がるのが見えた。
まるで尾花丸に斬られたときのようだったが。今度の方が傷は深く、熱く、溢れる血が多い。真っ二つにならなかったことだけが
「な……な……?」
尻を地べたへつけたまま目を瞬かす忠行へと顔を向ける。うつ伏せになり、体の重みをかけて傷口を押さえながら。その動きだけでどうにも、傷口に再び熱が走っていたが。
「早よ……下が、れや……阿呆」
言われてようやく気づいたように、慌ただしく忠行が立ち上がる。だが、半歩下がったところで脚を止めた。
「……なぜ、助けた」
顔をもたげて清明は怒鳴る。
「とっとと下がれや糞阿呆ァ! 間合い取らなんだらまたあの糞皇子が来るやろうがわしの怪我ァ無駄にする気が糞爺ィ!」
腹から上げた声がびりびりと傷に響き、清明はたまらず身を丸めた。脂汗のにじむ額を地に押し当て、歯を食いしばる。
「なに……何のこたァない。できるかなァ……そう
できるのか、そう思っていた。母の仇と共に戦うなどと、できるのか、と。
許したとは言った。母はそもそもろくでもなかった。それでも、本当にできるのか。本当に許したのか――それが、ずっと引っかかっていた。
だから、やってみせる必要があった。共に戦えるのだと、許したのだと、示す必要があった――忠行にではない、自分自身に。
「できる、もんやな……」
ほう、と息をつき、取り落としていた模造草薙剣を手にして抱え込む。
この剣に神霊・
「ハ! 仲の良いことだ、案ずるな。どうかばい合おうともどちらも殺し、仲良く骸を並べてやろうほどに。それが済めば次は貴様だ、糞坊主」
座ったまま、指を指されて空海は笑う。ぺちぺちとうなじを叩いてみせた。
「はは、そのときにはこの空海、喜んで
「清明。清明よ」
忠行の声に、清明は脂汗の垂れた顔を上げる。
忠行は清明の目を見ていた。瞳の奥にまで視線を通そうとするかのように、真っ直ぐ見ていた。
「礼は言わぬ。
傍らに置いていた唐錦の袋を取る。模造草薙剣と共に抱えてきていた包みの残り二つ。
その内から出てきたのは、
「『第四神器・
鞘を砂の上へと抜き捨て。賀茂忠行は