狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
生前の
大猪が、
後ずさり、閉じ込められた結界の壁に尻を押しつけていた
「ふ」
一つ息をつく。栓が抜けたように、腹を震わせ肩を揺らして笑い出した。
「ふふっ、ハーッハッハ! 面白い、面白いわ! もはや
「受けよ! 【
自身の身長を越える、柱のような光の剣が振り下ろされ、真っ向から大猪とかち合う。
かと思うと、氷の猪の鼻面にたちまちひびが走り。そこからみりみりと断ち裂かれ。
氷塊は真っ二つに斬って捨てられ、ひびが走り無数の氷片へと割れ落ち。さらに砕けた氷が雪のように辺りへ舞い上がった。
腕を振り切った
ややあって息をこぼした。
「ふ。……ふはは、ハーッハッハ! 何だ、あっけない! あっけないわこんなものか! えぇ? こんなものか
未だ雪のもうもうと昇る中、背をのけ反らせて笑う。
その足が忠行の引いた結界の線を踏み越え、断たれた護身剣、破敵剣を蹴り退ける。
「どころか、見よ老人!
吹き上がっていた気流が落ち着き、ゆっくりと降り始めた雪の向こうで、砂地に伏したままの忠行が言う。
「ときに、
「……何?」
教え子にものを説くような顔で忠行は続ける。
「難しく考えることも御座いますまい。刀身を拭い、鞘に納める……それだけに御座います。使い終えたものは納める、それだけに。我が結界も、そうしたまで」
「何だと……?」
言いながら、
「何のことは御座いませぬ。足止めの用も終え、もはやあの者の邪魔になろう故、結界を納めたまで」
忠行が言っている間に。
「むぶっ!?」
顔を震わせ、上体を起こす。そのとき見えただろう、舞い落ちる雪の向こうから、自分の脚に絡んだと同じものが、いくつも向かってくるのが。
長くしなやかなそれは蛇、薄茶けた体を持つ大蛇。いや――
清明は雪の向こうから、
「賀茂忠行直伝。大式神、『
漂っていた雪があらかた降り尽くし、その姿が
八つの頭を持つ異形の大蛇、いや、それを模したもの。
砂地の上をしなやかに動く腹は、掘り起こされて湿った砂土。背を覆う鱗は、
「何ぃぃ!?」
目を剥く
残る三つの頭が鎌首もたげて、宙高くから
――我々の知る歴史において。
また、古来より草薙剣を奉る熱田神宮においても和銅元年、西暦にして708年より、草薙剣にちなんだ新造の宝剣が八剣神として奉られているという。
清明が忠行から学んだ術により
剣を担いで清明は歯を剥く。
「はっはぁー! って、あんたさんなら笑うんやろな。こんなときにゃ、相手を見下ろすときにゃあよ」
「なっ、馬鹿な、
突きつけるように、切先を
「聞いとらなんだか、化かし騙しが狐の本領よ。猪に似せたもんでも軽ぅに放っときゃ、あんたが勝手に本気出して、そっちへ空振りかましてくれる
口を開けたままの
「お前の本気は無駄に終わった、わしの本気はこっからよ。受けよや、【
「ぐ、ぬううううぅ!?」
歯を食いしばる
「――
模造草薙剣から吹き上がる光が刃を成し。