狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
伝説に
一人は双子の兄、童子丸。後に
もう一人は双子の弟、尾花丸。後に
二人は特別な子供だった、余人の目には見えないモノが見えた。火や水、木や土の気を帯びた微細な存在、物か生命あるものかも定かならぬ
そうして、弟・尾花丸自身もまた、余人の目には見えなかった。全身を覆う稲穂色の体毛、ふさふさと揺れる尾。ぴん、と立った耳と長い口を
兄と母の目にしか映らない、父の目にすら見えない、二足歩行する狐の
兄弟がそのように生まれついたのには理由があった。
母は人間ではなかった、人間の女性に化けて男と交わり、兄弟を産んだ化け狐であった。
そしてよりによって、化けた相手は
娘が嫁ぐはずの男が狐に化かされ、子まで
兄、童子丸はとっさに忠行の技を真似て、火の気を帯びた
兄弟はさすらううち、出会った二人の人物と友となる。
一人は貞明と名乗る老人。兄弟と同様に
そしてその供、後に海賊を率いて乱を起こすことになる豪傑、藤原純友。
兄弟は彼らと行動を共にし、とある
そして、それを所有していたという貞明は。かつて『物狂いの帝』と呼ばれ、皇位を追われた陽成天皇。今の陽成上皇であった。
一方、兄弟は母の死霊と出会い「草薙剣の力があれば、母は蘇ることができる」と聞かされる。
二人は貞明からひそかに剣を盗み出し、母親の蘇生に成功した。――かに見えたが。
妖狐たる母は、蘇ったばかりで不完全な肉体を、息子たちを喰らうことで補おうとした。むしろ、喰らうために育てていた、と。
弟を護ろうとした童子丸は、成り行きで母を刺し殺してしまう。手にしていた草薙剣で。
母はそのまま、剣に吸い込まれるようにして消えていった。
そこへ現れた貞明は剣を取り返し、兄弟の事情を知った上で、自身の目的を明かす。
――草薙剣に秘められた力を使い、日の本を古代のように神や妖異、
それが成就された暁には、貞明や清明のように誰もが
そうして彼らは孤独ではなくなる。さらには他の神宝も力を取り戻し、それらの中には兄弟の母を蘇らせる力を秘めたものもあるだろう。
ただし。封印を解かれた荒ぶる神や
尾花丸は母を蘇らせるため、貞明と純友に協力することを決意。
だが、兄たる童子丸は。母がもしも蘇ったなら、また弟を喰らおうとすると危惧。弟を護るため、貞明らに反発する。
母を目の前で殺された衝撃冷めやらぬ弟は激昂し、兄を攻撃。
童子丸は、共に乗っていた船から落ちるも陸地へと流れ着いたが。弟が自分を殺そうとした、その事実に耐え切れず虚脱し、やがて狂乱する。
貞明らと共に目指す地、四国は讃岐国に着いた弟、尾花丸は、伝説にある妖異を二人と共に狩り、草薙剣に力を蓄えていく。
一方、兄たる童子丸は狂乱したままに、目にした
だがある夜、空海――とうに死んだはずの弘法大師――と名乗る僧に出会い、力ずくに止められ弟子入りさせられる。
空海との修行の中、狂乱から覚めた童子丸は『清明』と改めて名乗り、弟を護る決意を新たにする。
やがて彼らの下へ現れたのは母の仇と狙っていた陰陽師、賀茂忠行。
貞明が草薙剣を持ち出したことを知り、止めるために空海の力を借りに来たという。
童子丸改め清明は弟や貞明を止めるため、あえて忠行との共闘を決意。
清明と忠行は空海の提案により、讃岐国は
忠行の持参した『模造草薙剣』に、かつて本物の草薙剣を振るった英雄、
苦戦の末、
そして賀茂忠行は物狂いの帝、貞明との因縁を語る。
かつて少年時代に出会った二人。幼くして位を譲られた、何の権力もない少年天皇、貞明。陰陽師見習いの忠行。
貞明は何の修行も経ずして
忠行は違った、未だ
なのに貞明は、自分と同じく
――それが、忠行には許せなかった。
命を削るような修行を経てもその差は埋まることなく。嫉妬に狂った忠行は、ある策を弄してしまった。
貞明が余人の目に映らぬものを見ている、それが真実か否か神に問う儀。それを百官の居並ぶ前で、元服寸前の貞明に執り行なった。
忠行の告げた答えは、偽。
元々疑わしげな目で見られていた貴族らから信用を完全に失い『物狂いの帝』と称される貞明。
貞明は友に裏切られた絶望の中、中傷してきた
忠行の語った過去を清明は聞き、決意を新たにし。
貞明も同じく語った因縁を、弟たる尾花丸改め『晴明』は噛み締めた。そして、讃岐国の伝説にある大悪魚を喰らい、毒を受けつつもその力を取り込む。
弟、尾花丸改め安倍晴明は母の復活と、自らを誰にでも認識されるようにするため。友たる貞明らを助け、目的を果たさせるため。
貞明は草薙剣の力を用いて荒ぶる神を目覚めさせ、
友たる藤原純友や部下らと共に、大いなる神の眠る地を目指す。
兄、童子丸改め清明は弟を護るため、母の復活を止めるため。そして弟らが、凶行による犠牲を生むことを防ぐため――貞明の目的が達成されれば、国は乱れ多くの者が死ぬだろう。自分たちのように、母を亡くす子もあるだろう――。
賀茂忠行はかつての自らの非を悔い、命を捨ててでも貞明の凶行を止めるため。
師を名乗る空海に導かれ、讃岐国、いや日本有数のとある神域を目指す。
双方が共に目指す目的地は。
讃岐国は