狐人と物狂いの帝 ~二人で一人の安倍晴明、仇を探す旅路にて空海と出会い、暴悪無双の上皇と相対する事~ 作:木下望太郎
さながら石造りの墳墓の如く
「さて、わけの分からぬ者は消えた。続きといこうじゃないか」
忠行も白羽草薙剣を構えるが、頬がわずかに引きつる。足は地を擦り、半歩下がっていた。
その腰を後ろから、ぐい、と押し、よろめく忠行を前に突き出し。清明自身は、大きく三歩下がっていた。
「おい……!」
忠行の非難がましい目を無視し、図々しく言い放つ。
「悪いが、じじい。しばらく二人分の相手しよってくれ。弟の分も」
「何……!?」
その声にも耳を貸さず、清明は練り上げた
これでしばらくはできるはずだ。時間稼ぎが、というよりも、目隠しが。
「木・
声と共に、種を模して練り上げられた
「……ぐ、おお、お……」
「よくぞ……助け、た。誉め……て、取らそう……」
手前勝手な礼を述べ、再び突っ伏そうとする
思い切り、殴った。
「寝ぼけんな糞根性無し。お前の仕事はこれからじゃ阿呆」
「が……な……ぁ?」
殴られた方に顔を傾けたまま、目を見開いて固まる
「ええか。草薙剣を持っとった奴、ありゃァあんたの遠い子孫じゃ」
忠行に聞いた限りでは、系図上は血がつながっているらしかった。
「そいつがやろうとしとる事はな。草薙剣の力を大物主神に捧げて、国津神と
「何と……!」
目をさらに見開いた、
「すれば、また
ぶん殴った。
倒れて頬を押さえる
「糞阿呆。すりゃあ奴らは、何より軽んじ
「何……?」
「あんた様が帝の
「何……だとぉ……!」
「思い出すわ……ここ
雨でも浴びるかのように天を仰ぎ、両腕を広げた。拳を握る。
「我が
「待て」
手を上げてさえぎり、再び顔を寄せた。
「そりゃァ昔の名ァじゃ。今のあんた様は、帝よりお偉い神様じゃろうが」
「む……それは、そのとおり」
「そうして、わしと忠行の力で
本来
鬼名を知る――そのように護符へ記して行なう術があることを忠行から聞いている。妖物の真の名を知り、それを告げることによってその者を制することができる、と。
この場合は逆に、真の名をこちらから定めることによって式神として制する――そうできることを期待して呼んだのだった。
考えるように天を仰いだ後、
「剛式神・
清明は頭を下げた。
「
そうしたとき、重い音と共に土の岩の木の鉄の破片が飛び散り。砕かれた壁や吹き飛ばされた式神どもと共に、忠行が倒れ込んできた――清明の造り出したものへさらに壁を足し、式神を展開して護っていてくれたようだ――。
光るもやと化して消えゆく壁の破片を踏み越え、光を帯びた剣を提げる貞明が歩みくる。
同じく歩みながら、黒いもやをまとった爪を伸ばす晴明が口を開く。
「どうシた、清明……兄様よ。勇まシいのは口だケか。人任せで壁に隠レて、ずいぶん臆病になっタじゃなイか」
清明は弟を見、顔をしかめたが。
「我が、剣……」
貞明の下げた草薙剣。惹かれるようにそれを見ていた。
忠行を助け起こしつつ、清明はそれを見ていたが。笑った。
「宮様、いやさ我らが剛式神、
忠行の手から取り、
「
明神が手にした剣から白いもやが、微細な
舞い上がるもやはやがて集まり、純白の羽毛の姿を取り。辺りに舞い、散った。それでもなお、もやは立ち昇り白羽は舞い散る。
「これは……」
身を起こした忠行がつぶやき。
「これじゃ」
清明はうなずく。
白羽草薙剣を使うに当たって清明は賭けた。自分の才覚よりも忠行の知恵と経験に。
その忠行の思惑をも越えて、
ならばそこに賭けるしかない。正しいか間違っているかなどとは問題ではない――要は、そこ以外に賭けるものが無い。
だからそうした。それはおそらく、当たった。
清明も忠行も引き出せなかった、白羽草薙剣真の力――それがどうやら、この形。
「ほう、なかなか気の利いた剣よ。まるで我が手に吸いつくようぞ! 覚悟せよ、錆び剣ぶら下げたそこな愚物ども――この明神が利剣に裂かれることを差し許そうぞ」
唇をなめた